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入道雲



とてとて・・ちょこちょこ・・

とてとて・・ちょこちょこ・・

可愛らしい幼女が畦道(あぜみち)を歩く。
はずむような足取りは見るからに楽しそうだ。
鮮やかな紅白の市松模様の小袖を緑の帯で留めている。
幼女の名は『りん』。
つい最近、村を守る巫女の楓に預けられた養い仔である。


傍らにいるのは小妖怪の邪見だ。
小柄な『りん』より更に小さい。
矮小な緑色の身体に雀色の水干、頭には烏帽子をかぶっている。
そんな邪見の三本指が手にしているのは人頭杖(にんとうじょう)。
翁(おきな=爺)と若い女の二つの頭部がついた不気味な杖である。
実際には超強力な火炎放射器だが、村人には単なる虚仮威(こけおど)しの道具と思われている。


楓の村の者にとって【幼女と小妖怪】は見慣れた光景だ。
というのも邪見が、りんを楓に預けた殺生丸の従者だからである。
殺生丸は村に住み着いた半妖、犬夜叉の異母兄である。
父親は同じだが母親が違うのだ。
だからだろう。
同じ白銀の髪と金色の瞳だが半妖の犬夜叉は頭からピョコンと犬耳が飛び出している。
対して純血妖怪の殺生丸は完璧な人型である。
妖力の違いともいえる。


夏の空にもくもくと湧きあがる白い雲。
田植えの終わった田はたっぷり水をたたえている。
吹きすぎる風に苗がゆれる。
清々しい風景である。
空を見上げながら幼女は傍らの珍妙な存在に話しかける。


(りん):「ねえ、見て、見て、邪見さま。すっごい大きな雲」

(邪見):「ああ、あの入道雲か」

(りん):「ふ~~ん、ねえ、邪見さま、どうして入道雲っていうの?」
 
(邪見):「それはな、あの雲をよく見てみい。大入道のように見えるじゃろうが。だからじゃ」

(りん):「そっか、そういえばそうだね。でも、邪見さま、あの雲、殺生丸さまのモコモコにみえない?」

(邪見):「はあっ? ん~~そういわれれば確かにそう見えんこともないが」

(りん):「でしょ!   でしょっ! だから、あたし、あの雲が大好きなの」

(邪見):「・・・すっかり夏じゃのう」

(りん):「うん、そうだね」

(邪見):「りん、人里の暮らしにはもう慣れたか?誰ぞに虐め(いじめ)られたなんてことはあるまいな」

(りん):「うん、最初は寂しかったけど。三日おきに殺生丸さまが逢いにきてくださるし村の人達も優しくしてくれるから」

(邪見):「うむ、そうかそうか」

(りん):「それにね、楓さまって凄く優しいの。ほんとのお婆ちゃんみたい」
 
(邪見):「あの老いぼれ巫女がか?」

(りん):「楓さまは老いぼれなんかじゃないよ。そういう邪見さまこそ老いぼれのくせに」

(邪見):「なっ、なにをいうか、わしゃ、まだ若いぞ(嘘)」

(りん):「え~~だって邪見さま、楓さまより年寄りでしょ?」

(邪見):「うぐっ、むむむ・・・」


一人と一匹がたわいのない言い合いの最中、空から美貌の大妖が下(お)りてきた。
夏の陽射しを弾く白銀の髪、髪と同色の毛皮が風にたなびく。
左肩を防御する妖鎧、流水文様の飾り帯、腰には二本の長刀、凛々しくも優美な若武者姿。
こんな片田舎には不似合いなほど煌々(きらきら)しき存在である。

(りん):「殺生丸さま!」

幼女が大好きな人(?)に駆け寄る。
楓に引き取られ人里で暮らすようになっても彼女の一番は変わらない。
これからもりんの『一番大好き』はずっと殺生丸であり続けることだろう。






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