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そういや、珊瑚が仲間に加わってからというもの一段と野宿が減ってたよな。
何しろ、アイツは妖怪退治の専門家だからな。
あの日も化けネズミを退治してたっけ。
滅茶苦茶、臭い煙で獲物を燻(いぶ)しだし飛来骨で一撃。
ホイ、退治完了てなもんだ。
俺は臭いがキツイのに弱いんだ。
思い出すだに、気分が悪いぃぃぃ。
ンッ?弥勒が居ねえ。
何処、行ったんだ?と思ってたら・・・・。
七宝が教えてくれたんだが、ノコノコ女についてったらしい。
それも美人と聞けば、もう間違いねえ。
爺さんが美女に化けた奈落から風穴の呪いを受けたってのに。
チットモ懲りねえ一族だぜ。
あの野郎の女好きも筋金入りってか。
そんな訳で宿に戻ってきた弥勒に対する女どもの態度は冷たかった。
まあ、自業自得だな。
次の朝、弥勒の床は蛻(もぬけ)の殻。
何処へ行ったか見当もつかなかった。
おまけに奈落が俺達を見張ってたんだ。
追い詰めて倒したが、それは傀儡(くぐつ)だった。
・・・・・おかしい。
まるで、俺達を誘い出す、イヤ、何かから遠ざけるような妙な動きじゃねえか。
嫌な予感は当たるもんだな。
冥加じいが、昨夜の弥勒の様子を教えてくれた。
アイツ、風穴をジッと見つめて何か深刻そうにしてたらしいんだ。
だが、捜そうにも手がかり一つ残ってねえ。
どうすりゃいいんだ!
イライラする俺の前に現われたのは弥勒の子分のタヌキ、阿波の八衛門だ。
変化して空を飛んでる処を最猛勝(さいみょうしょう)に襲われて逃げてきた。
毒虫どもめ、俺を見た途端、サッサと退散していきやがった。
八衛門に詳しい事情を聞けば、弥勒の奴、ヤッパリ危ない目に遭ってやがる。
ザッと掻い摘んで話せばだな。
美人に釣られて付いて行ったは良いが、ソイツは大蟷螂(おおかまきり)が化けてたんだとよ。
チィッ、爺さんと同じ手に引っかかりやがって。
風穴でソイツを吸い込んだは良いが、前脚の鎌で風穴を切られちまった。
そんでもって怪我を治す為に育ての親の寺に戻った。
だが、寺の和尚(おしょう)は何者かに操られ、弥勒を殺そうとしてるってんだ。
普段の奴なら心配ないが、風穴を切られてる上に薬で身体の自由が利かないらしい。
クソッ、死ぬなよ、弥勒。
変化したヒョウタン型の八衛門に乗って、大急ぎで現場に掛け付けて見れば。
無数の妖怪どもが寺を取り囲んでるじゃねえか。
雑魚は珊瑚に任せて弥勒を探す。
大蟷螂(おおかまきり)やら有象無象の妖怪どもが飛び掛かる寸前じゃねえか。
危ない処だったぜ、全く!
鉄砕牙で奴らを斬り倒したはいいが、厄介な相手が登場してきた。
夢心、あの寺の住職で弥勒の育ての親だ。
あの老いぼれ、蟲壺虫(ここちゅう)なんぞに操られやがって。
チイッ、弥勒を育てただけあって相当な法力の持ち主だったぜ。
クソ坊主め、大数珠で俺を縛りやがった。
弥勒に頼まれたから殺す訳にもいかねえ。
鉄砕牙は老いぼれの法力で変化が解かれちまってるし。
そうこうする内にも妖怪どもは容赦なく襲い掛かってくる。
仕方ねえから散魂鉄爪で凌いでたんだが。
段々、体力の限界に来た。
何せ、大数珠が、俺の妖力を吸い取ってるんだ。
クソッ、何時まで持つか。
老いぼれめ、弱ってきた俺を見て好い気になりやがって。
首をねじ切るだと。
調子に乗ってんじゃねえ!
力を振り絞ってクソ坊主の首ねっこを捉まえた。
こっちこそ、手前の首をねじ切ってやる!
そう思ったんだが・・・・。
この夢心て坊主を殺しちまったら弥勒の風穴の傷を治せる者が居なくなるって云うじゃねえか。
そう聞いちまったら思わず手の力が緩んじまった。
老いぼれめ、そこを空(す)かさず一気に法力を強めやがった。
バチバチッ・・・・シュ~~
力が・・・抜けていく。
弥勒は風穴に傷を負い、俺は妖力を吸い取られ、にっちもさっちもいかねえ。
その上、妖怪どもの大軍団が襲い掛かってきたんだ。
絶対絶命の状況ってのは、あの事だよな。
弥勒の野郎、碌に身体の自由も利かねえ癖に、風穴を開きやがって。
見ろ、踏ん張りが利かないせいで体勢が崩れてるじゃねえか!
老いぼれなんぞに構ってる場合じゃねえ。
バキ! 一発、喰らわせて坊主を気絶させ弥勒の許へ急ぐ。
ジャッ・・・数珠で風穴を封印した。
妖怪どもめ、風穴が閉じたのを見て勢い込んで襲ってきやがった。
「てめえら、こっから先・・・一歩も通さねえ!!」
渾身の力を振り絞って鉄砕牙を振った。
ゴッ・・・・グワッ!
そしたら、アッという間に妖怪どもが消し飛んだんだ。
あん時は驚いたぜ。
以前、殺生丸が鉄砕牙の真の力を見せた時と同じだ。
『一振りで百匹の妖怪をなぎ倒す』
初めて鉄砕牙の本当の力を引き出せたんだ。
形勢悪しと見て逃げようとした壺使いは珊瑚が始末した。
壺使いが持ってた壺に和尚を操ってた蟲壺虫(ここちゅう)を吸い込んだ。
これで、もう大丈夫のはず。
ン~~ッ、老いぼれ坊主め、起きやがらねえ。
どうした?と思ったらグースカ寝てやがる。
クソッ、好い気なもんだぜ。
散々、手間掛けやがって。
弥勒の手当てが終わった。
坊主が俺を呼ぶんで付いてった。
そしたら、こう云ったんだ。
一刻も早く奈落を倒せってな。
風穴は以前よりも拡がってたらしい。
つまり、それだけ寿命が縮まったってこった。
弥勒の風穴は奈落の呪いで穿たれた。
だから、奈落さえ倒せば呪いは解ける。
神妙な気持ちで話を聞き終わった俺の目に飛び込んできたのは・・・・。
こんな時でさえ、珊瑚の尻を撫で回すのを忘れねえ弥勒の姿だった。
呆れた助兵衛根性だぜ。
当分、死にそうもねえと俺が思っても無理ねえだろう?
五十年前に俺と桔梗を罠に掛けた奴がいる。
それも互いが互いに裏切られたと思い込ませる二重の罠だ。
怖ろしく手が込んでやがる。
一体、何の為に俺達を罠に嵌めたんだ?
どんな顔をしているのか?
今、何処に居るのか?
判らねえ。
謎だらけだ。
判っているのは、唯、奈落と云う名前と、それに妖怪だって事だけだ。
尤も、それだって弥勒から聞いて初めて判ったくらいだ。
弥勒にしたって、実際、奈落を見た訳じゃねえ。
奈落と闘ったのは弥勒の父親の父親、つまり弥勒の爺さんだからな。
その爺さんの話を弥勒の父親が聞き、その父親から弥勒は聞かされたって寸法だ。
又聞きの又聞きだな。
何しろ、五十年も前の話だ。
だが、俺は封印されてたせいかな。
何もかもが、つい、今し方、起きたばっかりのように生々しく感じるぜ。
そんでだな、とにかく、その奈落って奴が、殺生丸の裏で糸を引いてたそうなんだ。
俺が気が付いたら弥勒が教えてくれたぜ。
弥勒にタコ殴りされた邪見が嫌々吐いた事実によるとこうだ。
まず、四魂の欠片を仕込んだ人間の左腕。
あれは奈落が殺生丸に渡したんだとよ。
奈落の奴、それを殺生丸に渡して俺を襲うように仕向けたんだ。
それに毒虫、最猛勝(さいみょうしょう)の巣。
あれだってそうだ。
まるで弥勒の風穴を封じる為にあつらえたような代物だよな。
何故だ?
何故、そうまでして俺を陥れようとするんだ?
イヤ、俺だけじゃねえな、弥勒もだ。
判らねえ。
皆目、見当もつかねえぜ。
それでも、奈落が、始終、俺達を窺(うかが)ってるのは間違いねえ。
恐らく、今、この瞬間にもな。
物影にジッと身を潜めてるんだろうぜ。
ひっそりと気配を殺してな。
不気味だぜ。
正体が掴めない分、余計にな。
今回は奈落の差し金で襲ってきた殺生丸を何とか退ける事が出来た。
だが、次はどうだろう・・・・。
奈落のこった、どんな卑怯な手を使ってくるか。
俺は、かごめを守りきる事が出来るんだろうか。
今度だって凄く危ない目に遭わせちまった。
俺や四魂の玉と関わったばっかりに・・・・
もし、かごめが死んだら・・・・
駄目だ! 駄目だ!
そんな事になったら俺は自分を許せねえ!
だから、四魂の欠片を取り上げ、かごめをアッチの世界に帰した。
これで良いんだ。
かごめは、元々、アッチの人間なんだから。
アッチに戻れば命を狙われるような危ない目に遭わずに済む。
例え、もう二度と会えないとしても・・・・。
未練を振り払う為、井戸に木を突っ込んで出口を塞いどいた。
直ぐにも奈落を捜し出してブッ殺してやりたい!
やたら気が逸(はや)るぜ。
カッカする俺に対し、弥勒が冷静に今までの事情と経過を繋ぎ合わせ推測した。
俺と奈落は逢った事が有るはずだと。
確かにな、だが、逢ったとは云っても、それは奈落が桔梗に化けた姿だ。
丸っきり正体は判らない。
俺の、そんな言葉に対し弥勒が指摘する。
それが可笑しいと。
奈落を知らない俺が、何故、恨まれるのだと。
其処から弥勒が導き出した推論に驚かされた。
それは、俺が思いもしない考えだった。
奈落は桔梗と関わりが有ったのかも知れないという。
だとしたら・・・・。
とにかく、事情を楓ばばあに話して確かめるしかねえ。
何てったって楓ばばあは桔梗の妹だからな。
一番、桔梗の身近に居た。
アイツなら何か知ってるかも知れねえ。
楓ばばあに、これまでの経過を詳しく話して何か思い当たる事はねえか?と訊ねた。
その結果、驚くような事を楓ばばあが教えてくれたぜ。
桔梗が、野盗を匿(かくま)っていたとは・・・・。
野盗の名は鬼蜘蛛。
散々、隣国で悪事を働き逃れてきたらしい。
何故、そんな悪党を桔梗が匿ったのか?
そいつ、鬼蜘蛛は、全く動けなかったってんだ。
全身に火傷を負い、両足の骨は砕けてたらしい。
並みの人間なら、そのまま死んじまっても可笑しくない状態だぜ。
だが、奴は、それでも生きていたってんだ。
驚くような生命力だな。
然も、その野郎、桔梗に浅ましい思いを抱いてたらしい。
でも、だからって、そんな奴が、一体、奈落とどう結びつくんだ。
鬼蜘蛛は人間なんだろう。
奈落は妖怪だぜ。
桔梗が死んだ後、数日して子供だった楓が鬼蜘蛛の様子を見に行ったそうだ。
そしたら洞穴は完全に焼け落ちて何も残っていなかったらしい。
日も射さない薄暗い洞穴の中。
明かり取りの火は欠かせない。
その火が何かの拍子に燃えて動けない鬼蜘蛛は、そのまま火に巻かれたのだろう。
そして骨も残さず焼け死んだに違いないと当時の楓は思ったそうだ。
だが、それが真相ではないとしたら?
それを確かめる為、俺と弥勒、楓ばばあは、以前、鬼蜘蛛が匿われていたという洞穴に向かった。
洞穴の中に残っていたのは・・・・。
ボウボウの草むらの中、やけに目立つ草も苔も生えていない部分。
ソコは、嘗て、鬼蜘蛛が横たわっていた部分だと楓ばばあが云う。
それを聞いた弥勒が、法師として蓄えた知識の一環を披露してくれた。
妖怪が強烈な邪気を発した跡には、その後、何十年も草木一本とて生えぬのだと。
と云う事は、鬼蜘蛛は妖怪に取り憑かれたのか?
ンッ、何だ、急に匂いが。
俺の鼻が妙に甘ったるい香みてえな匂いを感知した。
薄暗い洞穴の中、ボウッと浮かび上がってきたのは・・・・桔梗!
血に塗れた無残な姿。
裏陶(うらすえ)によって蘇った時の姿のままだ。
俺への怨みに満ちた・・・・。
ドカッ!
弥勒が錫杖で何かを突いた。
それと同時にフッ・・・と桔梗の姿が消え失せた。
幻術!
錫杖に貫かれたものを見れば、それは腹に幻術の香を仕込んだ蜥蜴。
畜生、奈落の野郎!
俺達が、ここに来る事を見越してやがった。
居るんだ!
必ず近くに身を潜めてやがる!
もう間違いない。
鬼蜘蛛の邪悪な心と妖怪が・・・奈落が結びついたんだ。
そして、四魂の玉を手に入れる為に桔梗を死なせた。
やっと、奈落と鬼蜘蛛の結びつきに辿り着いた。
敵の正体が見え始めたと思った途端、何者かが襲ってきた。
狼? それも額に第三の目がある!
何なんだ! こいつら?
七宝を追ってきやがった。
散魂鉄爪で狼どもを引き裂いたは良いが・・・・。
クッ、殺生丸にやられた腹の傷が開いちまった!
狼どもの親玉らしき野郎が出張ってきやがった。
やたら頭がデッカイ奴だったぜ。
地獄の狼、狼野干(ろうやかん)とか名乗ってたな。
顔がデカイ分、口も大きい。
そのデカイ口から狼どもを吐き出すんだ。
一頭や二頭じゃねえ。
最初に闘った時は六頭も出してきやがった。
野郎、俺が手負いだって知ってやがった。
「止(とど)めを刺しにきた!」
クソッ、あのデカ顔狼め、ふざけた台詞を吐きやがって。
だが、その言葉でハッキリした。
狼野干は奈落の手先だ。
奈落め、又だ。
又しても、自分では手を下さない積りだ。
弥勒が風穴を開いて狼どもを粗方(あらかた)始末した。
風穴の威力を見せつけ誰の差し金か吐かせようとしたんだが、生憎、まだ二頭、狼が残ってやがった。
散魂鉄爪で、そいつらを片付けた時、もう、奴の姿は見えなかった。
クソッ、逃げ足の速い野郎だ。
俺は直ぐにも奈落を捜しだす積りだったが、弥勒達に止められちまった。
殺生丸にやられた傷が開いてジワジワ出血してやがる。
そんな俺を、弥勒と楓ばばあが物置小屋に閉じ込めやがった。
ご丁寧に封印まで張ってな。
こん畜生! 出せ! 出しやがれ!
焦る俺を懇々と説得する弥勒。
云う事は判るが、こんな処でジッとしてられねえんだ。
一刻も早く奈落を捜し出してブッ殺してやりたい!
俺が、あんまり頑固なせいだろう。
弥勒の奴、遂に切れやがった。
いつもの丁寧な言葉使いじゃねえ。
不良の本性丸出しだ。
そんで俺をドカドカ容赦なく蹴りつけやがったんだ。
やめろ~~俺は怪我人なんだぞ。
怪我の手当てをすると弥勒と楓ばばあは出て行った。
仕方なく寝てたんだが、急に咳き込んだ。
ゴホ、ゴホ、ゲホッ!
血だ!
クソッ、殺生丸の爪の毒が、まだ腹の中に残ってやがる。
道理で怪我の治りも遅い訳だぜ。
あのまま済むとは思ってなかったが、狼野干め、やっぱり襲ってきたか。
弥勒と楓ばばあが小屋の前に結界を張ってるが、どれくらい持つか。
何だ?狼野干の野郎、前と全然、様子が違うぞ!
特に眉間の辺りから生い茂ってる蔦。
目は血走り口許からはダラダラと涎(よだれ)を流してる。
殆ど正気が無くなってるみたいだ。
狼どもは結界に阻まれて、それ以上、中に入ってこれない。
睨み合いの状態は一本の槍で破られた!
槍は楓ばばあを狙っている。
堪らず弥勒が動き槍を防いだ。
だが、それによって結界は破られた。
狼野干が物置小屋に突進してきた。
強力な両の拳で一気に小屋を破壊しやがった。
ヘッ、有難うよ、狼野干、お陰で外に出られたぜ。
礼の代わりに奴の鼻面に鉄砕牙をお見舞いしてやったぜ。
だが、俺の体は、やっぱり完全に回復してなかった。
クソッ、野郎の一撃を喰らって吹っ飛んじまった。
それと同時に懐に入れといた四魂の欠片が!
外に飛び出しちまった!
狼野干が四魂の欠片を奪おうとする。
其処に空(す)かさず走りこんだ七宝が四魂の欠片を拾い上げて逃げる。
四魂の欠片を掴んで逃げる七宝を狼どもが追い掛ける。
弥勒が風穴を開いて狼どもを吸い込もうとしたんだが。
ワ~~~ン・・・ザザザ・・・・
奈落の毒虫が大量に現れた。
クッ、弥勒の風穴が封じられた。
どうにもこうにも不味い展開だぜ。
狼野干め、引き裂いても引き裂いても狼どもを吐き出してきやがる。
キリが無いぜ、全く!
弥勒が云うには、野郎、四魂の欠片を使ってるらしい。
それで、その四魂の欠片を使ってる場所を正確に突けば倒せるそうだ。
だが、弥勒の眼力じゃ判らないんだとよ。
チッ、それじゃ、どうもならねえ。
かごめでなければ見えないだと!?
泣きごと云ってんじゃねえ!
アイツは、かごめは、もう居ねえんだ!
その時、匂ってきたんだ。
かごめの匂いが。
間違いない!
鉄砕牙を抜き放って邪魔な狼野干に一撃喰らわした。
その衝撃で、野郎、倒れやがった。
今は、お前何ぞに構ってる暇は無いんだ。
骨喰いの井戸へひた走る。
かごめ、何で戻ってきたんだ!?
井戸を塞いだ木に狼どもが集(たか)って中に入ろうとしてやがる。
その木を勢い良く引き抜きざま、襲い掛かってきた狼野干のデカ口に突っ込む。
ズズ~~~ン!
ヨシッ、今度こそ気を失って倒れやがったぜ。
井戸の中から、かごめが出てきた。
俺に走り寄り抱き付いてきたかごめ。
馬鹿野郎、何で戻ってきたんだ。
かごめに無事でいて欲しい。
そう思うからこそ、アッチの世界に帰したのに。
そんな俺にかごめは云う。
俺に会いたかったのだと。
・・・・そんな事を云ってくれた奴は、今迄、誰も居なかった。
嬉しかった。
俺とかごめが押し問答をしている間、楓ばばあが妙な事に気付いた。
毒虫が何時の間にか居なくなってたんだ。
あんなに煩いくらい群れていたのに。
かごめが怪しい気配に勘付いた!
「誰かいる!四魂の欠片を持ってる。」
気配を覚られた何者かが動いた。
正体不明の影。
奴だ! 奈落!
瞬時の跳躍。
逃げようとした奴の前に先回りして道を塞ぐ。
背後は弥勒が固めてる。
こいつ、不気味な狒々の被り物で全身を覆ってやがる。
此処で見つけたが百年目。
逃がしゃしねえぜ。
息の根を止める前に洗いざらい喋ってもらう。
何故、俺と桔梗を罠に掛けたのかをな。
詰め寄る俺達に奈落が明かした驚くべき事実。
奴は、奈落は、鬼蜘蛛の魂と身体を依り代に数多の妖怪が融合して生まれたのだと。
信じ合う者を、俺と桔梗を互いに憎しみ合わせ殺し合わせる。
そうする事によって四魂の玉に怨みの血を吸わせる為に。
奴の計画じゃ、俺を封印した桔梗が、自分だけは生きながらえたいと願を掛ける筈だった。
だが、桔梗は四魂の玉を抱えて死んだ。
俺の後を追って死んだんだ。
桔梗! 桔梗! 桔梗!
その為に・・・そんな事の為に・・・俺と桔梗を罠に掛けたってのか!
許さねえっ!
腹の底から湧き上がってくる激しい怒り。
八つ裂きにしてやる積りで爪を振るったが・・・。
躱(かわ)された!
チッ、何て身の軽い!
弥勒が錫杖を投げる。
バシッ! 弾かれた!
袂(たもと)で半ば顔を覆い隠しているが、奈落が若い男である事は見て取れる。
ゴボッ・・・・
奈落の奴、身体全体から何かを吐き出した。
瘴気だっ! それも大量の!
何て瘴気の強さだ。
ジュ———バキバキ・・・
地面が、木が、アッと云う間に溶けてる。
だからって奴を逃すもんか。
クソッ、火鼠の衣でさえ溶け出した。
怖ろしく強い毒だ。
鉄砕牙を抜き放ち厚い瘴気を斬る!
ゴオ~~~~~~
驚いて逃げようとする奴の背中に鉄砕牙を!
ズドッ!
仕留めた!?
イヤ、違う、背中をかすっただけだ。
だが、奴の、奈落の背中に浮かび上がって見えたのは・・・・蜘蛛!
ザザザ・・・・シュ~~~~
そのまま瘴気に包まれ奈落は消えた。
野盗の鬼蜘蛛は全身に大火傷を負っていたと云う。
恐らく・・・あれは鬼蜘蛛の名残。
弥勒達の許に戻ってみれば狼野干の野郎が暴れだした。
頭を抱えて苦しんでやがる。
額に仕込まれた四魂の欠片が蔓をはびこらせてるんだ。
凶暴化してる狼野干に、かごめの奴、平気で近付きやがって。
馬鹿! 死にてえのかっ!
そんな俺にお構いなしに、かごめは狼野干の額に手を突っ込んだ。
そんでもって、何の造作もなく四魂の欠片を取り出しちまったんだ。
キ~~~~ン
拍子抜けするくらいアッサリとな。
おっ、俺達、何の為に、ああも必死に闘ってたんだ???
狼野干は能天気に挨拶なんぞして逃げていきやがった。
それにしても、やっと明らかになった五十年前の真相。
奈落、必ず追い詰めて桔梗の敵(かたき)を取ってやる!
もう、俺が、桔梗にしてやれる事は、それしかねえ・・・・
かごめが井戸に入っていく。
アッチに戻るのか。
桔梗の事は絶対に忘れちゃいけねえ。
でも・・・・・
「やっぱり・・・かごめに側にいて欲しい・・・・」
自分でも驚くほど素直に本当の気持ちが云えた。
弥勒が旅の一行に加わってから野宿が減った。
塒(ねぐら)を探す段になると、いっつも都合良く辺りで一番立派な屋敷の上空に不吉の雲が垂れ込めるんだ。
そして、弥勒の野郎が、何だかんだ上手い事、屋敷の者を言いくるめて、その日の宿を確保する。
今日も今日とて、その算段で今夜の宿にありついた。
どう考えても胡散臭い!
思い切って弥勒に問い質してみれば、野郎、シレッとした顔で「嘘も方便」とか抜かしやがった。
あっ、呆れたぜ。
こいつは、何時も、こんな事をしてきたのか。
・・・・ヤッパリ不良だ、こいつ。
改めて、そう思った時、かごめの奴が四魂の欠片の気配がすると云い出したんだ。
急いで外に飛び出せば、巨大な鬼が、コッチに向かってくるじゃねえか。
そして、鬼の右肩には殺生丸が!
(生きていたのか!)
喜べば良いのか、悲しめば良いのか、正直、複雑な心境だったぜ。
従者の邪見も傍に居る。
鬼の肩からフワッと跳び下りる殺生丸。
次の瞬間には、もう眼前に居た。
クッ、瞬時に間合いを詰めてきやがる。
畜生、相変わらず油断も隙もねえ。
性懲りもなく、また鉄砕牙を狙ってきやがった。
鉄砕牙を抜き放って、一撃、お見舞いしてやったんだが・・・・。
軽々と躱(かわ)されちまった。
それだけじゃねえ!
片手で大きく振りかぶった俺は右腕を掴まれちまった。
殺生丸の爪から毒が放出される。
ジュ———ッ
猛毒で腕が溶かされいく。
アイツは、それで俺が鉄砕牙を手離すと思ってたんだろうが。
ケッ、誰が手離すかよ!
左腕を添えて逆に奴を真っ二つにしてやる積りで押し返した。
一旦、後ろに飛び退(の)いた殺生丸。
今度は右肩から掛けている毛皮を伸ばしてきやがった。
毒でやられている俺の右腕は握りが甘くなってる。
バシッ!
クッ、鉄砕牙を弾かれちまった。
慌てて取りに走れば、殺生丸の奴、左手で鉄砕牙を掴みやがった!
どっ、どうして持てるんだ?!
結界に拒まれるんじゃなかったのかよ!
驚く俺やかごめを尻目に、殺生丸の奴、鉄砕牙の真の威力を見せてやるとか云って、邪見に命じて鬼に山から妖怪どもを追い出させたんだ。
現れた夥(おびただ)しい数の妖怪。
そいつらを鉄砕牙の一撃で薙ぎ倒しちまった。
唯の一撃でだぞ!
おまけに山まで消し飛んじまった。
信じられないような鉄砕牙の力を見せ付けてくれたぜ。
そんな中、かごめが、俺達の間に割って入った。
普通の人間なら女が割って入れば事が収まりやすいんだがな。
生憎、殺生丸は人間じゃないし、女を殺す事さえ屁とも思わない輩なんだ。
下手に割って入ると怪我どころか殺されるぞ。
「どいてろ、かごめ」
そう云って、かごめを庇って前に出れば、弥勒の奴が出しゃばってきやがった。
「犬夜叉一人では無理です」とか、何とか抜かしてな。
ダア~~~ッ! うるせえ!
俺の前に出るんじゃねえっ!
俺と弥勒が押し問答していると邪見がしゃしゃり出てきやがった。
この場は自分に任せてくれとかゴチャゴチャとな。
殺生丸は様子見をする積りらしい。
邪見が鬼を嗾(けしか)けてきた。
チッ、ここは、やる気満々の弥勒に任せるか。
弥勒が封印の数珠を解いた。
ゴオ~~~~~~~ッ
風穴が猛烈な風切り音を発し周囲の物を何もかも呑み込もうとする。
鬼の右腕も見る間に呑み込まれていく。
だが、弥勒が否(いや)でも風穴を閉じざるを得ない代物を殺生丸が投げた。
地獄の毒虫、最猛勝(さいみょうしょう)の巣。
ブワッと湧いて出てきた虫どもが先を争って風穴に入り込む。
吸い込んだ虫の毒にやられたのか。
弥勒が風穴を閉じて蹲(うずくま)っちまった。
毒虫どもが襲ってくる。
チッ、こんな虫ども、散魂鉄爪で引き裂いてやるぜ。
一応、鬼は倒したが、肝心の殺生丸は、どうもなってない。
鉄砕牙も奪われたままだ。
不味い!
殺生丸が鉄砕牙を振るう気だ。
ここは何としても止めないと!
毒でやられた傷口に爪を立て血を滲ませる。
飛刃血爪で殺生丸の気を逸らす。
その隙にへたり込んだ弥勒を抱えて倒れた鬼の体の陰に隠れる。
そこに居た七宝に弥勒の介抱を任せた。
殺生丸が鉄砕牙を振るった。
鬼の体が千切れて吹き飛ばされる。
その残骸に紛れて飛び出し殺生丸の前に躍り出る。
鉄砕牙は鞘で受け止めた。
ググッ・・・・力と力の押し合いだ。
殺生丸が鉄砕牙を引いて振りかぶろうとした。
ゴッ、風が、さっきのトンデモナイ一撃を見舞おうとする殺生丸。
俺に襲い掛かろうとする鉄砕牙に何かが当たった!
カッ! ガガガッ・・・
変化が、鉄砕牙の変化が解けた!
矢だ! かごめの破魔の矢が鉄砕牙の変化を解いたんだ!
かごめが矢を番(つが)えて殺生丸に狙いを定めている。
「殺生丸! 次は左腕をぶち抜くわよ!」
左腕? 何の事だ?
かごめが次の矢を放った。
躱(かわ)された!
三の矢を放とうとする。
駄目だ! かごめ逃げろ!
かごめに襲い掛かろうとする殺生丸を必死に止める。
俺の一撃は奴の顔を掠(かす)め傷を一本付けた。
「速いな・・・その女のことになると・・・」
この時、殺生丸が吐いた台詞。
確かにな、否定はしない。
俺は、かごめが絡んでくると反応速度が格段に上がるようだ。
とにかく、かごめを避難させないと。
こんな危ない場所に置いとけるか。
それに、かごめのおかげで、何故、殺生丸が鉄砕牙を持てるのか判ったぜ。
妖怪の殺生丸は、本来、鉄砕牙を持てない筈なんだ。
なのに、持ってるってえ事は、その左腕は奴の腕じゃねえ。
アイツの左腕は俺が斬り落としたからな。
間違いねえ、今、鉄砕牙を掴んでいる左腕は人間の腕だ。
それを四魂の欠片で繋いでるんだ。
つまり、その腕をぶん取っちまえば奴はもう鉄砕牙に触ることも出来ない。
おまけに四魂の欠片まで付いてくるってえこった。
一石二鳥だぜ!
そう思って左腕を狙ったんだが・・・・。
フッ・・・俺の爪を躱(かわ)す殺生丸。
ドガッ!それどころか、俺は右顔面に一撃もらっちまった。
畜生、奴の毒で右頬が爛(ただ)れてるぜ。
何とかして奴の左腕をもぎ取ろうとするんだが。
クソッ、殺生丸の奴、チョコマカ逃げやがって。
俺を嬲(なぶ)ってるのか!
クッ、今度は左肩に毒華爪を喰らっちまった。
シュッ・・・見るに見かねたかごめが破魔の矢を!
バコッ! 殺生丸の妖鎧を砕いた!
殺生丸の気が削がれた。
ドガッ! 奴の一瞬の隙を突いて、どてっ腹に一発、お見舞いだ。
だが、次の瞬間、殺生丸の奴、俺の首を掴んで、かごめに向かって放り投げたんだ。
ドカッ! ズザザザ——ッ
起き上がって見れば、何てこった!
かごめを下敷きにしてるじゃねえか!
かごめ、しっかりしろ!
よくも、よくも、かごめまで。
許さねえぞ、てめえ!
毒にやられ苦しい息の中、弥勒までが乗り出してきた。
女にさえ情け容赦しない殺生丸のやり口に我慢できなくなったらしい。
風穴を開こうとするんだが止めさせた。
あの毒虫の巣が、まだ近くに有るんだ。
かごめを弥勒と七宝に任せ殺生丸と対峙する。
鉄砕牙を振らせたら最後だ。
その前に、奴が完全に振り切る前に止めるんだ。
ビシビシと当たる風に耐えつつ間合いを詰める。
アイツの懐に飛び込むんだ。
ゴオッ!凄まじい風が発生する。
完全に振り切ってないってのに、この威力だ。
もし、そうなったら全員が皆殺しだ。
捕らえた!
鉄砕牙を持つ左腕を掴んだぞ!
渾身の力で鉄砕牙を振ろうとする殺生丸を押し止(とど)めた。
ギリギリ・・・ギリギリ・・・ズ・・ズズッ・・・
弥勒、七宝、何、ボサッと見てるんだ!
早く逃げろ!
「走れ———っ!」
殺生丸の左腕は封じたが右手はガラ空きだ。
「敵に背中をさらすとは!」
ドスッ! ズッ・・・
野郎、毒を持つ右手で俺の土手っ腹に風穴を開けやがった。
凄まじい苦痛が俺を襲う。
だが、そんな事に構っちゃいられない。
力任せに奴の左腕をもぎ取って鉄砕牙を取り戻す。
ヨシッ、これで、もう殺生丸は鉄砕牙に触る事すら出来ない。
ガクッ、膝が落ちる。
クソッ、力が抜ける。
立っている事さえ出来ないとは・・・
目が・・・霞む。
畜生・・・気が・・遠くなって・・・きやがった。
死んでも・・鉄砕牙は・・・渡さ・・ね・・え・・・
「犬夜叉———っ!」
かごめが俺を呼ぶ声が聞こえる。
無事・・・なんだ・・な・・・良かっ・・・た・・・
そのまま俺は鉄砕牙を構えたまま気を失ったらしい。
気が付けば俺は弥勒の子分、阿波の八衛門狸の背に乗ってた。
「私の子を産んでくだされ」
このふざけた台詞が弥勒の決まり文句だ。
アイツは、この台詞を、チョッと美人と見れば誰彼構わず見境なく掛けまくる男だった。
一応、坊主の癖にな。
(・・・流石に男には云わなかったけどな)
如何にも女好きの助兵衛法師だって判るだろう。
思い出すだに頭に来るぜ。
弥勒の野郎が、俺達に初めて粉かけてきた日の事を。
何処で嗅ぎ付けたんだか知らないが、かごめの持ってる四魂の欠片を狙いやがって。
(実際は、偶然、山中の温泉でかごめの四魂の欠片を見たせいである。しかし、これは死ぬまで黙っていた方が良い秘密だろう。犬夜叉やかごめは勿論、もし、珊瑚にバレでもしたら・・・)
狸妖怪を使って俺達を襲わせた、イヤ、俺をだな。
その隙に、かごめを攫おうとしたんだ。
と云うより四魂の欠片を奪って逃げやがった。
盗られた四魂の欠片を追って町へ出かければ・・・・。
あの野郎、のん気に遊郭なんぞに上がり込んで女遊びしてやがった。
その上、乗り込んで行った俺を無視して、かごめにチョッカイ掛けやがって!
何処までもふざけた奴だったぜ。
唯、アイツは並みの人間じゃなかった。
この俺の太刀筋を全て受け流すなんざ、只者とは思えない。
それだけじゃない。
弥勒の野郎は、トンデモナイ武器を右手に隠し持っていた。
風穴、弥勒の右手にはポッカリ穴が開いてたんだ。
その穴は、何でも吸い込んじまうんだ。
馬だろうが、人だろうが、妖怪だろうが、お構いなしにな。
弥勒の話を聞けば、四魂の欠片を集めるのは、ある妖怪を捜し出し滅する為だと云う。
風穴は、その奈落とか云う妖怪の呪いで穿たれたんだそうだ。
それも弥勒本人じゃなく、父親の父親、つまり祖父に掛けられた呪いのせいだってんだ。
話は五十年ほど昔に遡(さかのぼ)る。
弥勒の祖父は、その奈落って妖怪と闘ったらしい。
聞けば、その奈落、人の姿を借りるってんだ。
出逢うたびに違う人間の姿だったとはな。
驚くぜ、そりゃ、生半可な相手じゃねえ。
弥勒の祖父と奈落の最後の闘いじゃ、奈落の奴、見目麗しい女性(にょしょう)の姿で現れたそうだ。
この弥勒の祖父だ。
さぞかし筋金入りの女好きだったろうぜ。
結果、封印の札ごと右手に風穴を穿たれたって訳だ。
その時に掛けられた呪いが未だに効力を放っている。
弥勒の右手の風穴が、その証拠だ。
風穴は、年々、大きくなり吸い込む力も強くなっているそうだ。
そして、いずれは、弥勒自身も風穴に呑まれるのだと云う。
良く、そんな事を平気な顔でサラッと話せるもんだぜ。
そう思って話を聞いている内に驚くような事実が明らかになった。
五十年前、奈落は、四魂の玉を手に入れかけたってんだ。
四魂の玉を守っていた巫女を殺して!
巫女! 桔梗に間違いない!
そいつだ!
そいつが桔梗と俺を罠に掛けたんだ!
鬼女、裏陶(うらすえ)によって無理矢理この世に蘇らせられた桔梗の魂。
互いが互いに裏切られたと思い込んでいた五十年前の悲劇。
その事実の一端が明らかになった。
俺達に二重の罠を仕掛けた張本人の名が判明したんだ。
必ず捜し出して落とし前を付けてやる!
話の成り行き上、一緒に旅をしようとかごめが云い出しやがった。
だが、俺は、こんな奴とつるむ気は毛頭ないぜ。
俺の目の前で平然とかごめを口説くような生臭坊主とはな。
その積りだったんだが、何故か、力を合わさざるを得ない事件に出遭った。
侍どもが軒並みやられてる場所に出喰わしたんだ。
それも一人残さず肝を取られてる。
これは、どう見ても尋常な戦の跡じゃねえ。
間違いなく妖怪の仕業だ。
それも雑魚妖怪じゃねえ。
恐らく四魂の欠片の力を使ってるに違いねえ。
俺は四魂の欠片を弥勒に渡す気持ちなんぞ全く無かったからな。
その場所で弥勒と別れたんだが・・・・。
後で、また、ヒョッコリ出逢う羽目になるんだな。
戦場跡、累々たる屍が転がる血生臭い臭気と腐敗臭の漂う無残な場所。
そんな場所で血溜まりの中に輝く四魂の欠片を手に入れた地獄絵師、紅達。
奴は、四魂の欠片を持ち帰り墨に溶かし絵を描いたんだ。
血と人間の肝を混ぜてな。
そしたら紙に描いた妖怪が命を得た。
紙から抜け出し実体を持って動き出したんだ。
それに味を占めた紅達の奴、片っ端から人を殺して肝を取るようになったらしい。
鼻の利く俺は臭いで紅達を捕まえたんだが・・・・。
アイツ、自分が描いた鬼を懐から出して逃げやがった。
鉄砕牙で鬼を斬ったのは良いんだが・・・・。
墨と血と肝の凄まじい臭気に当てられて俺は気絶しちまった。
クソッ、俺は鼻が利く分、酷い臭気に弱いんだ。
それで、かごめの奴、勝手に弥勒を捜し出して協力を頼んだんだ。
弥勒の野郎、早速、金持ちの家に入り込んでやがった。
例によって口から出まかせの説法でも使ったんだろうぜ。
アイツは口から先に生まれたんじゃないかって思うくらい口が上手いからな。
其処んちのお大尽の姫さまが、どうやら妖怪に憑かれてるらしい。
何でも夜な夜な怖ろしい夢を見るんだそうな。
妖怪が現れ見知らぬ屋敷に連れていかれ、一人ポツンと部屋に置いていかれるんだとか。
其処で誰かがジッと自分を見つめている視線を感じるらしい。
どうやら弥勒が依頼を受けた件と俺達の追ってる妖しい絵師とは繋がりが有るようだ。
その夜、待ち構えていたら、案の定、来やがった。
妖怪どもに轢(ひ)かせた妖しい牛車が!
血と肝と墨の臭い、あの絵師と同じ臭いがする。
妖しい牛車が何処へ行くのか。
突き止める為に七宝が姫に化けて乗り込んでいる。
辿り着いたのは一軒の粗末な家。
俺達の事に勘付いたんだろう。
絵師の野郎、絵から夥(おびただ)しい数の妖怪どもを実体化させ俺達を襲わせたんだ。
ケッ、全部、たたっ斬ってやるぜ!
そう思ってたんだが・・・・。
クソッ、鬼の血の臭気に又も当てられ俺は腰砕けになっちまった。
そんな時、弥勒に助けられたんだ。
一気に何十何百もの妖怪を風穴に吸い込んで始末しやがった。
畜生、こんな奴に助けられるなんて!
自分の不甲斐なさに歯軋りしたくなったぜ。
そんな矢先、絵師の奴、弥勒の風穴を見て流石にヤバイと思ったんだろうな。
空を飛ぶ蛇のような妖怪に乗って逃げようとしたんだ。
跳び付いて絵師から四魂の欠片を取り上げる!
野郎、また絵から妖怪を出してきやがった。
だが、そうも何度も同じ手を喰うか!
斬るのが駄目なら殴る!
バキ!バキ!バキ!
片っ端から殴って邪魔者を片付ける。
最初っから、こうしてりゃ良かったぜ。
残るは絵師だけだ。
大人しく四魂の欠片を渡すかと思いきや・・・・。
あん畜生、まだ抵抗しやがった!
自分が乗ってる蛇妖怪の口を俺に向けさせ、火焔を吐き出させたんだ。
燃え盛る紅蓮の炎、並みの人間なら骨も残さず焼き尽くされただろう。
だが、俺は人間じゃない! 半妖だ!
それに俺の着ている火鼠の衣は少々の炎なんぞ屁とも思わない代物だ。
炎に巻かれても死なない俺を見て恐れを為したんだろうか。
絵師の奴、四魂の欠片が入った竹筒を差し出そうとした。
だが、奴の性根は何処までも腐っていたようだ。
まだ悪足掻きしやがった。
蛇妖怪の頭は三又に分かれている。
その内、自分が乗ってる頭以外の二つの頭を使って俺に噛み付かせたんだ。
グッ! もう許さねえ!
力任せに殴って蛇妖怪をやっつける。
もう飛ぶ力が残っていない蛇妖怪から跳び降りて、まだ逃げようとする絵師。
怖ろしい執念だぜ。
背負っていた葛籠(つづら)は壊れちまった。
中から奴が描いた絵がアチコチ散らばってる。
それでも、まだ逃げようとする絵師。
四魂の欠片が入った竹筒を持って。
だが、遂に命運の尽きる時が来た。
奴は跳び下りた際、額を負傷して血を流していた。
その血の臭いが竹筒の中の墨に潜む魔性を呼び起こしたんだ。
竹筒から溢れ出した墨。
血と肝の混じり合った墨が絵師を襲う。
ザン! 竹筒を握っていた左腕が!
魔性の墨に切り落とされた!
シュ———ブクブク・・・・
見る間に墨に喰われていく絵師。
最後に残ったのは俺が掴んだ右腕のみ。
・・・馬鹿野郎、だから、早く手離せと云ったのに。
足元に転がった巻物の中に姫の絵姿が有った。
あの絵師は、姫に懸想してたんだな。
こうして地獄絵師の一件は終わりを告げた。
そして、何故か弥勒の奴は、俺達と行動を共にするようになったんだ。