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あれは予知夢だったんだろうか。
四魂の欠片捜しの旅を始めてから、大分経った頃の事だった。
最初の顔触れは、かごめとノミ妖怪の冥加じじいだけだったのに、何時の間にか、子狐妖怪の七宝が一行に加わっていた。
おかげで、道中が、随分、賑やかになっていたな。
初めて、俺が、かごめに会った時、季節は春だった。
蜘蛛頭(くもがしら)を倒したのが夏。
それからも、妖怪を倒して四魂の欠片は増えていた。
あの頃は、もう夏が終わり秋に入ってたよな。
俺は昔の夢を見た。
封印が解かれてから初めて見た夢。
嫌な夢だった。
何しろ、俺が、御神木に封印された時の夢だからな。
俺を封印したのは忘れもしない巫女の桔梗。
その桔梗の生まれ変わりが、かごめだってんだからな。
思わず寝てるかごめの側に寄ってマジマジと顔を眺めちまったぜ。
そしたら、かごめの奴、寝ぼけ眼(まなこ)で、イキナリ人の顔を引っ叩(ぱた)きやがった。
パ———ン!
畜生、こんな乱暴な女の何処が、桔梗に似てるってんだ!
似てねえ、断じて!
その時、妙な物音がした。
シャ———カタカタ・・・カタカタ・・・
宵闇の中、不気味な風体(ふうてい)をした妖怪婆(ばばあ)が中空を飛んでいく。
背に葛籠(つづら)を背負い、肩には大鎌を担いでたな。
さしずめ、見た目から判断して鬼婆って処か。
アイツから強く匂ってきた血の匂い。
何っ、この匂いは・・・・。
夜が明けると楓ばばあの村へ急行した。
良かった、生きてたか、楓ばばあ。
怪我はしてるものの、命に別状は無さそうだ。
とりあえず、楓ばばあの姿を確認して内心ホッとしたぜ。
楓ばばあに怪我を負った経緯(いきさつ)を聞いてみると、これが穏やかじゃねえ。
ヤッパリ、昨夜(ゆうべ)見た鬼婆に襲われたんだそうだ。
鬼婆の名は鬼女(きじょ)、裏陶(うらすえ)。
祠(ほこら)が暴(あば)かれ、周囲の土が掘り返されてた。
然も、その祠は桔梗の墓だって云うじゃねえか。
正直、思い出したくねえ名前だったぜ。
楓ばばあの奴、怪我した身で桔梗の骨を取り戻しに行く積りらしい。
冥加じじいに、その裏陶(うらすえ)とやらについて聞いてみたんだが、口を濁して、ハッキリ答えねえ。
その反応から判断すると、かなり、やばい相手みたいだな。
どうも気になる事が有ったんだ。
あの鬼婆の葛籠(つづら)から、骨と一緒に湿った土の匂いがプンプンしてた。
そんな物を、一体、何に使う気だ?
考え込む俺の許に、かごめが来て云ったんだっけな。
楓ばばあと一緒に行こうって。
かごめは、桔梗の事を、ズッと昔に死んだ女(ひと)だと云う。
だが、俺に取っちゃ、昔なんかじゃねえ。
封印されてた俺には、もう五十年も経ってるなんて実感は、正直な話、全然ねえんだ。
つい、さっき起きたばかりの生々しい出来事なんだよ。
桔梗とソックリなかごめを見たら、嫌でも思い出しちまう。
だから、顔を見ないようにしてたのに、かごめの奴、妙に勘が鋭いんだ。
強引に、俺の髪を掴んで顔を覗き込んできやがった。
そうこうしてる内に楓ばばあが出発したんで、仕方なく一緒に付いてく事にした。
楓ばばあ一人じゃ、到底、あの鬼婆に敵(かな)わねえだろうしな。
鬼婆の臭いを追って行けば、ドンドン、山の中へ入り込んでくじゃねえか。
途中、崖から崖に渡された一本の長い吊り橋に出た。
周囲には靄(もや)が立ち込め視界が悪い。
吊り橋の向こう側から何か来る。
何だ、ありゃ?!
一見、人間みたいだが、それにしちゃ、妙な動きだな。
まるで人形みたいだ。
散魂鉄爪で奴らを倒してみれば、アイツら、体の半分は土人形だ。
まだまだ、ドンドン出て来る。
クソッ、雨後の筍みたいに出てきやがって。
俺が土人形もどきに梃子摺(てこず)ってる時だった。
鬼婆が、急に目の前に現れてな。
吊り橋を大鎌で分断しやがった。
俺は、アイツみたいに飛べないから、当然、落ちるしかない。
谷間に落ちた俺が、かごめ達は、どうなっただろうかと心配してたら・・・。
ゴ————
頭上から大きな木の葉が落ちて来るじゃねえか。
楓ばばあと七宝だ。
ドス! そのまま、俺の上に落ちてきやがった。
重いじゃねえか、馬鹿野郎!
何だとっ!かごめが鬼婆に攫われただと!
かごめを助けに向かおうとする俺に、楓ばばあが、桔梗と俺の間に、以前、何が有ったのかと訊いて来た。
ケッ、人の古傷に触れるような事を。
話したがらない俺に楓ばばあがトンデモナイ推測を聞かせてくれた。
間もなく桔梗に会う事になるだろうってな。
驚いたぜ、正直、そんな展開になるとは想像もしてなかったからな。
楓ばばあを背負って山を登る道々、思い出すのは昔の出来事。
俺と桔梗は好き合ってた筈・・・だった。
なのに桔梗は・・・俺を裏切ったんだ
俺は、本当の妖怪になる為に、四魂の玉が欲しかった。
その四魂の玉を守ってた桔梗。
俺は、何度も四魂の玉を狙ったが、その度に失敗した。
桔梗は、怖ろしく勘が鋭かったからな。
その癖、俺を殺さないんだ。
アイツが、その気になりさえすれば直ぐにも殺せただろうに。
だから、何故だろうって思ってた。
或る日、桔梗が、俺に声を掛けてきた。
あんなに近くで話をするのは初めてだったな。
何時も近寄りがたい程、綺麗で強い桔梗が、初めて見せた寂しそうな顔。
それからの俺は、桔梗の事ばかり考えるようになって・・・・。
桔梗と一緒に生きていく為に人間になろうとまで思ったんだ。
でも、結果は、ご覧の通り。
桔梗に裏切られた俺は、村を襲い、四魂の玉を奪って逃げようとした矢先に、破魔の矢で御神木に封印されたって訳だ。
漸く、鬼婆の住処(すみか)に辿り着いてみれば、かごめが、デッカイ盥(たらい)の中に入れられ水漬けにされてるじゃねえか。
この妙な匂いは薬草か。
何かの術を掛けられてるようだ。
それだけじゃない。
桔梗!
目の前に最後に見た姿のままの桔梗が居る!
信じられない思いで、思わず名前を呼んじまった。
「桔梗・・・・」
その時だ、かごめを取り巻いていた結界が弾け飛んだ。
パシッ! ゴォ~~~~~
かごめの中から何か出て来た。
俺は、今迄、魂なんて見た事が無かったからな。
デカイ! 魂ってのは、あんなにもデカイ物なのか?
ドオォォォ・・・・ン
そのまま桔梗の中に魂が吸い込まれた。
イヤ、あの場合、寧ろ、ぶつかったとでも云った方が正しいだろう。
シュウゥゥゥゥゥゥゥ・・・・
鬼婆の裏陶が云うにゃ、かごめの魂が桔梗の中に沁み込んでいってるんだと。
クソ婆、鬼術を用いて桔梗の霊骨から肉体を蘇らせたんだ。
信じられないが現に目の前で起きてるんだ。
更に、裏陶のクソ婆、得意気に桔梗が自分の意のままに動く僕(しもべ)だなんぞと抜かしやがった。
桔梗の持つ並外れた霊力を利用しようってんだ。
だが、裏陶は、自分が蘇らせた桔梗に、その霊力で滅ぼされる羽目になった。
身勝手な裏陶の欲望の為に、無理矢理、蘇らせられた桔梗の魂。
桔梗自身は、二度と目覚める気は無かったと云う。
桔梗・・・・嘗て、俺が恋した女。
そして、俺を裏切り、御神木に封印した女。
怨んでも良い筈なのに、この込み上げる気持ちは何なんだろう。
懐かしさ? 憧憬?
まだ、魂が沁み込んだばかりのせいで身体が上手く動かせないのだろうか。
ヨロ・・・・心許ない足取り。
近付いて来た桔梗が、イキナリ感情を爆発させた。
「なぜ、裏切った———」
なっ、何なんだ、そいつは俺の台詞じゃねえか。
俺を裏切ったのは、桔梗、お前の方だろう。
火鼠の衣さえ破いちまう強烈な霊力の発露。
余りにも激しい殺意の籠もった攻撃。
離れないと本気で殺されかねない。
後ろに飛び退き距離を保つ。
だが、何かが可笑しい。
桔梗と俺、それぞれの話が喰い違ってるじゃねえか。
俺は、桔梗を引き裂いた覚えは無いし、欺(あざむ)いて四魂の玉を奪ってもいない。
だが、説得しようにも桔梗は、全く聞く耳を持たねえ。
今の桔梗は俺への憎しみ、怨念で凝り固まってる。
楓ばばあが、桔梗を、土と骨で作られた体を壊し、魂を出せと叫んでる。
そんな事が出来る筈がねえ!
桔梗、俺が愛した・・・・
その時、魂が抜け、唯の器でしかない筈のかごめが、大きく鼓動をしたかと思うと、カッと目を見開いたんだ。
同時に、桔梗の中に納まっていた魂が、かごめの方に引き摺られ抜け出ようとする。
ドオオオオォォン・・・・シュ———
魂が、かごめの中に戻った?
だが、桔梗は、まだ動いている。
何故だ? 魂が残っているのか!?
訝(いぶか)しむ俺達に、首だけになった裏陶が教えた。
今の桔梗を動かしているのは怨念だと。
大部分の魂は、かごめの中に戻ったが、陰の気の怨念だけは、裏陶の鬼術で作った骨と土の体に馴染んで残ったのだと。
勝手な事をほざくだけほざいて裏陶は消えていった。
クッ、何故だ!
どうして、こんな事になっちまったんだ!
桔梗を追いかけて行けば、覚束ない足許のせいで、よろけたんだろう。
崖から落ちる寸前の処を腕を掴んで引き留めた。
一面に立ち込めた靄で良く見えないが、下は千尋の谷だ。
落ちれば木っ端微塵だろう。
このままじゃいけない。
そう思って桔梗にかごめの中に戻れと諭(さと)せば・・・・。
云う事を聞くどころか、掴んでいる俺の腕を霊力で攻撃してくる。
バババ・・・ビシビシ・・・
馬鹿! やめろ!
そんな事をすれば、お前も俺も落ちちまう!
周囲の岩までも砕いちまう強力な霊力に、遂に岩場が崩れた。
カッ・・・ガラガラ・・・ドガガ・・・ガッ!
掴んでいた桔梗の手が擦り抜けていく。
桔梗が落ちていく!
「桔梗——————!」
この高さから落ちたんじゃ助かりっこない。
谷底から登って来た俺は、周囲の山々が、どれ程、高いか身を以って知っている。
ズタボロの状態で楓ばばあ達の許に戻れば、まだ、かごめの意識は戻ってなかった。
酷くうなされてる。
元のかごめに戻るんだろうか。
もし、桔梗の意識が残っていたら?
固唾(かたず)を飲んで見守る俺達の前で、かごめが目を覚ました。
夢を見ていたそうだ。
それも、かごめが良く口走る数学やら英語のテストの夢らしい。
ホッ、元のかごめだ。
良かった———。
かごめ自身は、さっきまでの修羅場を、全然、覚えていなかった。
村へ戻る道すがら思い出すのは、桔梗の事。
五十年前、俺と桔梗に、突然、降り掛かった悲劇。
その原因の一端が繙(ひもと)けた。
何者かが、俺と桔梗を罠に掛けたんだ。
それも、互いが互いに裏切られたと思い込ませる二重に仕組まれた巧妙な罠だ。
一体、誰が? 何の為に?
その謎は、いずれ解ける事になる。
不良の助兵衛法師、弥勒との出会いによって。
イライラ・・・イライラ・・・・
アアッ、もう、じれってえな。
まだ掛かるのかよ。
雷獣兄弟の兄、飛天の雷撃刃を受け、折れかけた鉄砕牙の鞘。
その折れた部分を補強する為に、鋼蜂(はがねばち)の蜜蝋(みつろう)で固めさせてる。
ワ———ン、ブブブ・・・・
何千匹もの蜂どもが、鉄砕牙に集(たか)って修理の真っ最中だ。
イライラしてる俺の気持ちを逆撫でするように子狐妖怪の七宝がチョッカイ出してきやがるし。
アア、もう、やかましい!
かごめ、かごめと煩(うる)せえぞ。
ン? 何だ、ありゃ?
夜の小川の上にフワフワと浮かび上がる影は・・・蛍?
イヤ、蛍だけじゃねえ。
人魂? 子供達みてえだ。
それにデッカイ鞠(まり)か鈴みてえな・・・・。
ありゃ、妖怪か?
目は殆ど閉じているな。
子供の人魂が遊ぶのに合わせて笛を吹いてる。
ホウー・・・ ホウー・・・・ ホウー・・・・
物識りの冥加が云うには、あれは、タタリモッケとか云うらしい。
幼子の魂から生じた妖怪なんだってよ。
ああやって死んだ子供の霊が成仏するまで、一緒に遊んでやるんだそうだ。
まさか、雷獣の次は、悪霊と拘(かかわ)る事になろうとはな。
かごめのお節介め。
あいつは、妙に正義感が強いからな。
コッチに来たかと思えば、俺を無視して、イキナリ、冥加と話を始めて。
何を聞くのかと思いきや、つい、此間(こないだ)見たタタリモッケの事だ。
アッチの世界でも、かごめの奴、タタリモッケを見たらしい。
厄介な事に、かごめの奴、アッチの世界で悪霊になりかかってる子供の幽霊と関わり合いになっちまったんだ。
何でも、かごめの弟の草太、奴の友達の姉ってのが、そうらしい。
幽霊ってのは、妖怪と違って、たたっ斬れば良いってもんじゃねえ。
下手に触ると怪我どころじゃ済まないんだ。
そのまま放って置けばいいものを。
アイツの性分なんだろうな。
何とか助けてやろうとして、却って自分が危ない目に遭ってるんだ。
チッ、しょうがねえな。
四魂の欠片を捜すのに、アイツの目は欠かせないし。
助けに行くとするか。
アッチの世界に行ってみれば、案の定だ。
相手の幽霊は、殆ど、悪霊になりかかって凶暴化してる。
怨みの念が膨れ上がって暴走してるんだ。
あの幽霊、もう少しで自分の弟を殺しちまう処だったぞ。
あんなんを、一体、どうやって救うってんだ。
完全に悪霊になっちまったら、普段は閉じてるタタリモッケの目が開く。
そしたら、霊を地獄に連れて行くんだ。
不味いぞ、かごめ。
タタリモッケの目が開ききっちまった。
このままじゃ、あの子供の幽霊、地獄に連れてかれちまうぞ。
後を追って駆けつけてみれば、部屋の中は炎の海だった。
あの子供、真由(まゆ)って餓鬼(がき)は、自分の家で火に焼かれて死んだみてえだな。
タタリモッケは、霊を死んだ時の状態に戻して、ソコから地獄に連れて行くそうだから。
これも、冥加の受け売りだけどな。
何っ!?
タタリモッケ、何をする気だ?
かごめが連れていかれた・・・・
消えた・・・・?
餓鬼が死ぬ寸前の状況に、無理矢理、巻き込まれたかごめ。
炎に巻かれ一人焼け死んだ子供。
母親に助けて貰いたかったのに気付いて貰えなかった。
その思いが怨みに変わり悪霊化してたんだな。
かごめの説得も、中々、聞こうとしなかった。
遂に地獄の扉が開き、落ちて行こうとする餓鬼。
それでも必死に餓鬼を引き留めようとした、かごめの命掛けの説得。
もう少しで地獄に落ちる文字通りの崖っぷちで、やっと相手を納得させたぜ。
フゥ~~~何て危なっかしいんだ!
もう少しで、かごめまで地獄に引き摺り込まれる処だったじゃねえか。
それにしても、あん時は驚いたな。
かごめの奴、本当に霊を鎮(しず)めちまったぜ。
大したもんだぜ、巫女ってのは。
九十九(つくも)の蝦蟇(がま)をやっつけて四魂の玉の欠片は二つになった。
ヨッシャ! この調子でバンバン集めっぞ!
と意気込んでたら、かごめの奴、アッチの世界に戻るなんて言い出しやがった。
テストだの高校受験だの、こちとらにはサッパリ訳の判んねえ言葉をベラベラまくし立ててよ。
てめえの事情なんぞ知るか!
こうなったら、勝手にアッチの世界に戻れないように、骨喰いの井戸を、ぶっつぶしてやるぜ。
そう考えて、大岩を骨喰いの井戸にぶつけようとしたら・・・・。
フッ、また、喰らっちまったぜ、『おすわり』。
それも、一回じゃねえ、今度は八連発だ。
畜生、おかげで、暫く、腰が痛かったぜ。
あん時は、よっぽど怒ってたんだな、かごめ。
マッ、今、思い返すと無理もないぜ。
かごめの家族も、友達も、みんな、アッチの世界に居るんだもんな。
そんな事にさえ思い至らなかった当時の自分の未熟さ、馬鹿さ加減が、身に沁みて良~~く判るぜ。
こんな馬鹿な俺を、何時だって、かごめは、思いやってくれたのに・・・な。
アア、済まねえ、話が湿っぽくなっちまったな。
先を続けよう。
とにかく、俺は、仕方なく三日後を待つ事にした。
また、『おすわり』を喰らわさちゃ堪らないからな。
ジリジリ待った挙句、約束の三日後、迎えに行けば、今度は、更に三日待てだと!
またしても、勉強だ、数学だ、追試だのと、俺にはチンプンカンプンな事を喚(わめ)いてよ。
『おすわり』の連発を喰らった恨みも手伝って、ケンもホロロに突っぱねてやったら・・・・。
かごめの奴、ブチ切れやがった!
涙を浮かべながら、キッと俺を睨んでよ。
内心、ドキドキしちまったぜ。
俺は、かごめの涙には、特に弱いんだ。
チッとは悪かったかなと思って、俯(うつむ)いてるかごめをソッと覗きこめば。
あの野郎、俺を、骨喰いの井戸の中に蹴り飛ばしやがった!
畜生、俺が、何をしたってんだ!
かごめの馬鹿野郎~~~~
コッチに戻った俺は、流石に拗ねた。
もう、頼まれたって迎えになんか行かねえっ!
そう思ってたんだが・・・・。
骨喰いの井戸から、かごめの匂いがするじゃねえか。
それも、血の匂いだ!
何か有ったな。
急いで骨喰いの井戸に飛び込んでみれば、かごめの弟の草太が、泣きながら井戸の土を掘ってるじゃねえか。
ヨシッ、飛ばすぞ、草太!
かごめの血の匂いを頼りに居所を嗅ぎ付ける。
居たぞ!
随分、高い処に登ってるじゃねえか、かごめ。
後で草太に聞いたら工事現場とか云う場所だったらしい。
尤も、俺に取っちゃ、あの程度、ひとッ飛びの高さだがな。
何だ、敵は、随分、気味の悪い肉の塊(かたま)りみてえな奴だな。
かごめに襲い掛かろうとしてやがる。
そうはいくか!
「散魂鉄爪!」
ヘッ、化け物め、腕の部分を引き裂いてやったぜ。
まだ、息の根は止まってないみてえだな。
オット、その前に、かごめに云わせなくちゃな。
こないだの事について詫びを入れてもらわねえと。
俺が、先日の事を追及すれば、かごめの野郎、綺麗サッパリ忘れてやがったんだ。
やけにアッサリ謝りやがって。
ちっとも誠意が感じられねえ!
俺は、あんなに気にしてたのに。
チッ、とりあえず、その事は後回しだ。
まずは、この気色悪い化け物を片付けないとな。
かごめが云うには、こいつの本体は能面らしい。
そんでもって額に四魂の欠片が入ってるんだと。
能面の化け物が語る処によると、こいつは、『肉づきの面』と云って、数百年の昔、四魂の欠片を受けた大桂の木から彫り出されたんだとよ。
それ以来、体が欲しくて、人を喰らい続けてきたそうだが、人の体は、簡単に壊れちまうらしいや。
だから、もっと強い体を創る為に、かごめの持ってる四魂の玉を狙ってたんだとさ。
何人、喰ったか知らねえが、ブクブク太りやがって。
今後は、二度と太れないようにしてやるぜ。
能面が、二つに割れた。
ヘッ、それで人を喰らってきたのかよ。
そんなんで、俺が、やられるかよ。
散魂鉄爪で真っ二つに分断してやったぜ。
これで終わりかと思いきや、あの化け物め、二つに別れた体を合わせて、俺の右腕を挟み込みやがった。
その上、喰い殺した人間の腕を使って、俺を掴みやがって。
気持ち悪い手で、ベタベタ、触るんじゃねえっ!
俺の右腕を挟み込んでる体ごと、ぶん回して鉄の塊り(クレーンとか云う物らしい)にぶつけてやった。
体は、完全に潰れ、使い物にならないようにしてやったんだが、あん畜生、本体の能面の片面だけで向かってきやがった。
右手を引き抜きざま、その片面を掴み、砕いてやったぜ。
バキッ!
ヘッ、ざまあ見やがれ。
かごめが叫んでる。
四魂の欠片を持った、もう一方の片面から、欠片を取れってな。
何と、その残りの片面が、かごめ達の背後に回り込んでやがった。
そのまま、かごめの顔に張り付きやがって。
かごめ、待ってろ! 今、行く!
鉄砕牙を抜き放ち、かごめに張り付いた片面の額の部分を斬り落とした。
四魂の欠片が入ってる部分だ。
キ———ン
四魂の欠片を残し、残った片面も消滅した。
ヨシッ、かごめも無事だ。
フッ、これで貸しが一つ出来たな。
これからは、もう、好き勝手させねえ。
そう考えてた俺なんだが・・・・。
かごめの奴、大慌てで帰っちまいやがって。
俺は、草太と二人、ポツンと置き去りにされたんだ。
肩透かしってのは、あの事を云うんだよな。
ウ~~~命を救ってやったのに・・・・。
この扱いは何なんだ???
もっと感激してくれたっていいじゃねえかよ。
草太が、慰めてくれたが、どうも納得がいかねえ。
とにかく、かごめと出会って以来、俺の調子は、狂いっぱなしだぜ。
屍舞烏(しぶがらす)を片付けたと思ったら、肝心の四魂の玉は、かごめの放った破魔の矢によって粉々に砕けちまった。
それだけじゃねえ!
砕けた欠片は、アチコチ、四方八方に飛び散ってしまったんだ。
・・・・・何てこった。
四魂の玉を頂戴して、こんな処とは、サッサとおさらばする積りだったのに。
欠片を、全部、集めるだけで、どんだけ時間が掛かると思ってんだよ。
全く、トンデモナイ疫病神だと思ったもんだぜ。
誰をって・・・・かごめの事だよ!
あいつと拘ってから、コッチ、碌な目に遭うわねえってな。
言霊の念珠で縛られるわ、四魂の玉は砕いちまうわ。
そりゃ、封印を解いてくれた事だけは感謝したけどな。
あの頃は、真剣に、そう思ってたな。
おまけに、息吐く暇もなく、新手の妖怪が、四魂の玉の欠片を狙ってきやがった。
今度の相手は、今迄みたいな雑魚じゃねえ。
逆髪(さかさがみ)の結羅(ゆら)って云って、鬼の仲間だ。
手強かったぜ、アイツは。
何しろ斬っても突いても死なないんだからな。
怖ろしく厄介な敵だった。
結羅の攻撃方法だが、髪を操って攻撃してくるんだ。
その髪が、コッチには見えないんだ。
かごめや楓ばばあと違って、俺に、霊力は無いからな。
おまけに、髪を使って、生きてる人間まで操れる。
まず、楓ばばあが、結羅に操られた村の娘に襲われ、大怪我を負わされた。
反撃したくても、操られてるのは村の人間だから、コッチャ、下手に手出しできねえと来てる。
その癖、操られてる方は、全く手加減なしで襲ってくるんだ。
ここは、一旦、逃げるしか無いだろう。
その上、結羅の操る髪を見破る事の出来るかごめは、トットと自分の世界に帰っちまうし。
だから、かごめの匂いを追って、骨喰いの井戸に入ったんだ。
思えば、あの時が、初めてだったな。
かごめの世界へ行ったのは。
あの頃は、行こうと思えば、何時だって、骨喰いの井戸が、コッチとアッチ、二つの世界を繋いでくれた。
かごめの云う処によると、アッチは五百年後の世界だそうだが。
奇妙な世界だったな。
何度か行き来する内に慣れたけど。
辿り着いてみれば、あいつ、悠長に家族と一緒に晩飯なんぞ食ってたっけ。
オデンとか云う食い物だったよな。
あれも、結構、上手いんだよな。
俺は、あの食い物、エッと、何て云ったっけ?
そうそう、カップラーメンが、一番、好きだけどな。
アァ、話が途中だったな。
早速、かごめを連れて戻ろうとしたら、かごめのお袋が引き止めるんだ。
何か文句でも?と思ったら、俺の犬耳をクイクイ引っ張って本物かどうか確かめやがる。
かごめの弟の草太まで同じ事をしようと順番待ってるんだ。
あいつら、紛れもなく親子だぜ。
俺の着物に結羅の髪が引っ付いていたらしくてな。
かごめが、血相変えて、骨喰いの井戸へ確かめに行ったんだ。
俺には、見えないが、かごめには見えるらしいや。
かごめが云うには、井戸を通り抜けて、髪の毛がウジャウジャ這い回ってたらしい。
事実、俺には見えないが、髪の束が絡み付いてくる感触は判った。
防ごうにも見えなくちゃ、どうしようもない。
そうしたら、かごめが、結羅が操ってる本線を見つけ出し、その髪を掴んで自分の血が伝うようにしたんだ。
それを切った途端に髪の攻撃が収まった。
かごめの奴、このまま、アッチの世界に居たら、自分の家族まで危ない目に遭うと悟ったらしい。
やけに素直に戻る気になったんだ。
良く見りゃ、頬に怪我してるみてえだし、これ以上、怪我させるのも悪いから俺の火鼠(ひねずみ)の衣を貸してやったんだった。
一応、あいつの目が無けりゃ、どうにもならないからな。
向こうへ戻った途端、目にしたのが首を狩られた落ち武者どもの一行だ。
生きてた時は侍として威張ってたんだろうが、無残なもんだぜ、ああなると。
落ち武者どもの骸(むくろ)を見て、かごめ、へたり込んでるかと思えば、置き去りにされてた弓矢を拾い上げて使おうとしてたっけ。
今、思い出しても、かごめは、最初から、度胸が、据わってたよな。
かごめの指示通りに進めば、現れてきたぜ。
髪を操る御本尊が!
見た目は十七・八かそこらの娘みたいだが、油断は出来ない。
あれだけの妖術を使いこなす奴だからな。
そう思ってたら、結羅の奴、髪で、俺の動きを封じておいて刀で斬り付けてきやがった。
そんな俺を見て助太刀する積りだったのか、かごめが、ヘナチョコの腕で弓を撃ってきたんだ。
かごめが、巫女だってのは、本当だった。
ヘナチョコな矢が当たる度に、結羅の張り巡らした髪がパシパシ消える音がしたからな。
そして、次の当たり損ねの矢が、結羅の髪の巣に当たったんだ。
ゲッ、髪の巣が崩れて、中から、さっきの落ち武者どもの生首が出てきた。
それだけじゃねえ、骨だけになった髑髏(しゃれこうべ)がウジャウジャ出て来たんだ。
結羅の奴、そうやって人間どもの首を狩り、髪を操ってきたんだな。
ふざけた事に、俺の頭も、その中に入れてくれるとさ。
ケッ、白銀の髪が、珍しいんだとよ。
俺の方に注意を惹きつけている積りだったのに、結羅の奴、イキナリ、かごめに、髪を通して火を放ちやがった。
“鬼火櫛(おにびぐし)”って云うらしい。
結羅の妖術の一つだ。
かごめをやっつけ、次は、俺を殺(や)る積りだったんだろう。
さっき、俺を斬り付けた鬼の宝刀、“紅霞(べにかすみ)”を振り回してきた。
こうなったら、俺の血に妖力を込めたあの技を使うしかねえ。
「喰らえっ、飛刃血爪(ひじんけっそう)!!」
狙い過(あやま)たず、血の刃は、結羅の右手を斬り落とした。
なのに、あの女は、痛そうな素振りもしやがらねえ。
それどころか、巣に蓄えこんだ髑髏どもを使って攻撃を仕掛けて来たんだ。
髑髏に気を取られてたら、その隙を衝いて、斬り落とされた右腕の刀で、二の太刀を喰らわしてきやがった。
再度、飛刃血爪で防ごうとしたら、チッ、髑髏どもに邪魔された。
グッ・・・しまった。
三の太刀を貰っちまった。
背後から刀が迫ってたのに気付かなかった。
イヤ、気付いてはいたが、髪で、動きが邪魔された。
ククッ・・・流石の俺も、これだけ血を流しちゃ満足な動きが出来ねえ。
大分、弱った俺を押さえ付けて首を刎ねようとする結羅。
首を刎ねて髪を操ろうって魂胆だ。
誰が、ムザムザそんな事させるかよ!
アイツが、刀を振り切る前に、渾身の力で、胸元を右手で抉(えぐ)ってやったんだ。
これで、息の根が止まるだろうと思ったのに。
結羅の奴、平気の平左だ。
一体、どうなってるんだ?
こいつの急所は、何処に有るんだ!?!
俺と結羅が、死闘を繰り広げてる間に、かごめが、髪の巣に登っていた。
何かを目指してるようだった。
それを見た途端、結羅が。急に慌て出した。
何か、よっぽど見つけられちゃ不味い物があるらしい。
そうしたら、かごめが教えてくれたぜ。
ある髑髏を指差して、こう云ったんだ。
「犬夜叉、あの髑髏に何か・・・何かある!」
かごめの指摘が図星だったんだろう。
結羅め、さっきまで闘ってた俺を放って、かごめを狙い出した。
左手で髪の束を操って髪(くし)の檻(おり)を作り出し、かごめに斬り付けたんだが。
かごめは、俺が貸した火鼠の衣を纏っている。
だから、さっきの鬼火櫛による炎攻撃にも火傷ひとつ負ってないし、腕も傷ついてない。
業を煮やした結羅は、かごめの首に髪を巻き付け、首を落とそうとした。
が、そうは問屋がおろさない!
飛刃血爪で結羅の左腕を斬り落とした。
これで、両腕は使えない。
もう、髪を操る事は出来ないだろう。
そう思ったのに、四の太刀を貰っちまった。
刀を握ったまま斬り落とした右腕を操ってる。
何故、両腕のない状態で、まだ、髪を操れるんだ?
五の太刀が来る!斬り落とした右腕が!
ギュン!ピシッ!
何だ・・・急に動きが止まった。
かごめが、何か有ると云ってた髑髏を破魔の弓で突いてる。
ビシビシッ・・・髑髏に罅(ひび)が走る。
怒り心頭に発した結羅が、かごめに、刀を向ける。
危ない! 髪一重の差で、かごめが、髑髏を完全に破壊した。
パシッ・・・髑髏の中に隠されていた櫛が割れた。
と同時に結羅が消滅した。
文字通り、塵も残さずに。
後に残ったのは結羅の愛刀、紅霞と鞘。
そして、パタパタと風に煽(あお)られる結羅が纏っていた衣装だけ。
あいつは、結羅は、櫛に魂移(たまうつ)ししてやがったんだ。
道理で、斬っても、突いても、平気だった訳だぜ。
随分、ひでえ目に遭ったが、とにかく四魂の欠片は取り戻せた。
「行くぞ、かごめ。」
声を掛けたら、かごめの奴、驚いてたな。
初めて名前を呼んだって。
そう云われれば、そうだった。
桔梗の生まれ変わりって事に拘(こだわ)って、それまで名前で呼んでなかったからな。
あの頃は、まだ鉄砕牙も現れてなかったよな。
肌身離さず身に付けている腰の大刀に目を遣る。
鉄砕牙、大妖怪の親父の牙から打ち出された刀。
謂わば、親父の形見。
この刀を巡って、何度、腹違いの兄、殺生丸と闘った事か。
そもそも、殺生丸が、この刀を欲しがらなかったら、鉄砕牙は、この世に出現さえしなかっただろう。
イヤ、下手すると、俺の右目の黒真珠に永遠に封じられたままだったかもな。
そう考えると、全てが成るべくして成った、そんな気がするぜ。