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『降り積もる思い⑩=裏陶(うらすえ)と桔梗=』最終回萌え作品⑤

あれは予知夢だったんだろうか。
四魂の欠片捜しの旅を始めてから、大分経った頃の事だった。
最初の顔触れは、かごめとノミ妖怪の冥加じじいだけだったのに、何時の間にか、子狐妖怪の七宝が一行に加わっていた。
おかげで、道中が、随分、賑やかになっていたな。
初めて、俺が、かごめに会った時、季節は春だった。
蜘蛛頭(くもがしら)を倒したのが夏。
それからも、妖怪を倒して四魂の欠片は増えていた。
あの頃は、もう夏が終わり秋に入ってたよな。
俺は昔の夢を見た。
封印が解かれてから初めて見た夢。
嫌な夢だった。
何しろ、俺が、御神木に封印された時の夢だからな。
俺を封印したのは忘れもしない巫女の桔梗。
その桔梗の生まれ変わりが、かごめだってんだからな。
思わず寝てるかごめの側に寄ってマジマジと顔を眺めちまったぜ。
そしたら、かごめの奴、寝ぼけ眼(まなこ)で、イキナリ人の顔を引っ叩(ぱた)きやがった。
パ———ン!
畜生、こんな乱暴な女の何処が、桔梗に似てるってんだ!
似てねえ、断じて!
その時、妙な物音がした。
シャ———カタカタ・・・カタカタ・・・
宵闇の中、不気味な風体(ふうてい)をした妖怪婆(ばばあ)が中空を飛んでいく。
背に葛籠(つづら)を背負い、肩には大鎌を担いでたな。
さしずめ、見た目から判断して鬼婆って処か。
アイツから強く匂ってきた血の匂い。
何っ、この匂いは・・・・。
夜が明けると楓ばばあの村へ急行した。
良かった、生きてたか、楓ばばあ。
怪我はしてるものの、命に別状は無さそうだ。
とりあえず、楓ばばあの姿を確認して内心ホッとしたぜ。
楓ばばあに怪我を負った経緯(いきさつ)を聞いてみると、これが穏やかじゃねえ。
ヤッパリ、昨夜(ゆうべ)見た鬼婆に襲われたんだそうだ。
鬼婆の名は鬼女(きじょ)、裏陶(うらすえ)。
祠(ほこら)が暴(あば)かれ、周囲の土が掘り返されてた。
然も、その祠は桔梗の墓だって云うじゃねえか。
正直、思い出したくねえ名前だったぜ。
楓ばばあの奴、怪我した身で桔梗の骨を取り戻しに行く積りらしい。
冥加じじいに、その裏陶(うらすえ)とやらについて聞いてみたんだが、口を濁して、ハッキリ答えねえ。
その反応から判断すると、かなり、やばい相手みたいだな。
どうも気になる事が有ったんだ。
あの鬼婆の葛籠(つづら)から、骨と一緒に湿った土の匂いがプンプンしてた。
そんな物を、一体、何に使う気だ?
考え込む俺の許に、かごめが来て云ったんだっけな。
楓ばばあと一緒に行こうって。
かごめは、桔梗の事を、ズッと昔に死んだ女(ひと)だと云う。
だが、俺に取っちゃ、昔なんかじゃねえ。
封印されてた俺には、もう五十年も経ってるなんて実感は、正直な話、全然ねえんだ。
つい、さっき起きたばかりの生々しい出来事なんだよ。
桔梗とソックリなかごめを見たら、嫌でも思い出しちまう。
だから、顔を見ないようにしてたのに、かごめの奴、妙に勘が鋭いんだ。
強引に、俺の髪を掴んで顔を覗き込んできやがった。
そうこうしてる内に楓ばばあが出発したんで、仕方なく一緒に付いてく事にした。
楓ばばあ一人じゃ、到底、あの鬼婆に敵(かな)わねえだろうしな。
鬼婆の臭いを追って行けば、ドンドン、山の中へ入り込んでくじゃねえか。
途中、崖から崖に渡された一本の長い吊り橋に出た。
周囲には靄(もや)が立ち込め視界が悪い。
吊り橋の向こう側から何か来る。
何だ、ありゃ?!
一見、人間みたいだが、それにしちゃ、妙な動きだな。
まるで人形みたいだ。
散魂鉄爪で奴らを倒してみれば、アイツら、体の半分は土人形だ。
まだまだ、ドンドン出て来る。
クソッ、雨後の筍みたいに出てきやがって。
俺が土人形もどきに梃子摺(てこず)ってる時だった。
鬼婆が、急に目の前に現れてな。
吊り橋を大鎌で分断しやがった。
俺は、アイツみたいに飛べないから、当然、落ちるしかない。
谷間に落ちた俺が、かごめ達は、どうなっただろうかと心配してたら・・・。
ゴ————
頭上から大きな木の葉が落ちて来るじゃねえか。
楓ばばあと七宝だ。
ドス! そのまま、俺の上に落ちてきやがった。
重いじゃねえか、馬鹿野郎!
何だとっ!かごめが鬼婆に攫われただと!
かごめを助けに向かおうとする俺に、楓ばばあが、桔梗と俺の間に、以前、何が有ったのかと訊いて来た。
ケッ、人の古傷に触れるような事を。
話したがらない俺に楓ばばあがトンデモナイ推測を聞かせてくれた。
間もなく桔梗に会う事になるだろうってな。
驚いたぜ、正直、そんな展開になるとは想像もしてなかったからな。
楓ばばあを背負って山を登る道々、思い出すのは昔の出来事。
俺と桔梗は好き合ってた筈・・・だった。
なのに桔梗は・・・俺を裏切ったんだ
俺は、本当の妖怪になる為に、四魂の玉が欲しかった。
その四魂の玉を守ってた桔梗。
俺は、何度も四魂の玉を狙ったが、その度に失敗した。
桔梗は、怖ろしく勘が鋭かったからな。
その癖、俺を殺さないんだ。
アイツが、その気になりさえすれば直ぐにも殺せただろうに。
だから、何故だろうって思ってた。
或る日、桔梗が、俺に声を掛けてきた。
あんなに近くで話をするのは初めてだったな。
何時も近寄りがたい程、綺麗で強い桔梗が、初めて見せた寂しそうな顔。
それからの俺は、桔梗の事ばかり考えるようになって・・・・。
桔梗と一緒に生きていく為に人間になろうとまで思ったんだ。
でも、結果は、ご覧の通り。
桔梗に裏切られた俺は、村を襲い、四魂の玉を奪って逃げようとした矢先に、破魔の矢で御神木に封印されたって訳だ。
漸く、鬼婆の住処(すみか)に辿り着いてみれば、かごめが、デッカイ盥(たらい)の中に入れられ水漬けにされてるじゃねえか。
この妙な匂いは薬草か。
何かの術を掛けられてるようだ。
それだけじゃない。
桔梗!
目の前に最後に見た姿のままの桔梗が居る!
信じられない思いで、思わず名前を呼んじまった。

「桔梗・・・・」

その時だ、かごめを取り巻いていた結界が弾け飛んだ。
パシッ! ゴォ~~~~~
かごめの中から何か出て来た。
俺は、今迄、魂なんて見た事が無かったからな。
デカイ! 魂ってのは、あんなにもデカイ物なのか?
ドオォォォ・・・・ン
そのまま桔梗の中に魂が吸い込まれた。
イヤ、あの場合、寧ろ、ぶつかったとでも云った方が正しいだろう。
シュウゥゥゥゥゥゥゥ・・・・
鬼婆の裏陶が云うにゃ、かごめの魂が桔梗の中に沁み込んでいってるんだと。
クソ婆、鬼術を用いて桔梗の霊骨から肉体を蘇らせたんだ。
信じられないが現に目の前で起きてるんだ。
更に、裏陶のクソ婆、得意気に桔梗が自分の意のままに動く僕(しもべ)だなんぞと抜かしやがった。
桔梗の持つ並外れた霊力を利用しようってんだ。
だが、裏陶は、自分が蘇らせた桔梗に、その霊力で滅ぼされる羽目になった。
身勝手な裏陶の欲望の為に、無理矢理、蘇らせられた桔梗の魂。
桔梗自身は、二度と目覚める気は無かったと云う。
桔梗・・・・嘗て、俺が恋した女。
そして、俺を裏切り、御神木に封印した女。
怨んでも良い筈なのに、この込み上げる気持ちは何なんだろう。
懐かしさ? 憧憬?
まだ、魂が沁み込んだばかりのせいで身体が上手く動かせないのだろうか。
ヨロ・・・・心許ない足取り。
近付いて来た桔梗が、イキナリ感情を爆発させた。

「なぜ、裏切った———」

なっ、何なんだ、そいつは俺の台詞じゃねえか。
俺を裏切ったのは、桔梗、お前の方だろう。
火鼠の衣さえ破いちまう強烈な霊力の発露。
余りにも激しい殺意の籠もった攻撃。
離れないと本気で殺されかねない。
後ろに飛び退き距離を保つ。
だが、何かが可笑しい。
桔梗と俺、それぞれの話が喰い違ってるじゃねえか。
俺は、桔梗を引き裂いた覚えは無いし、欺(あざむ)いて四魂の玉を奪ってもいない。
だが、説得しようにも桔梗は、全く聞く耳を持たねえ。
今の桔梗は俺への憎しみ、怨念で凝り固まってる。
楓ばばあが、桔梗を、土と骨で作られた体を壊し、魂を出せと叫んでる。
そんな事が出来る筈がねえ!
桔梗、俺が愛した・・・・
その時、魂が抜け、唯の器でしかない筈のかごめが、大きく鼓動をしたかと思うと、カッと目を見開いたんだ。
同時に、桔梗の中に納まっていた魂が、かごめの方に引き摺られ抜け出ようとする。
ドオオオオォォン・・・・シュ———
魂が、かごめの中に戻った?
だが、桔梗は、まだ動いている。
何故だ? 魂が残っているのか!?
訝(いぶか)しむ俺達に、首だけになった裏陶が教えた。
今の桔梗を動かしているのは怨念だと。
大部分の魂は、かごめの中に戻ったが、陰の気の怨念だけは、裏陶の鬼術で作った骨と土の体に馴染んで残ったのだと。
勝手な事をほざくだけほざいて裏陶は消えていった。
クッ、何故だ!
どうして、こんな事になっちまったんだ!
桔梗を追いかけて行けば、覚束ない足許のせいで、よろけたんだろう。
崖から落ちる寸前の処を腕を掴んで引き留めた。
一面に立ち込めた靄で良く見えないが、下は千尋の谷だ。
落ちれば木っ端微塵だろう。
このままじゃいけない。
そう思って桔梗にかごめの中に戻れと諭(さと)せば・・・・。
云う事を聞くどころか、掴んでいる俺の腕を霊力で攻撃してくる。
バババ・・・ビシビシ・・・
馬鹿! やめろ!
そんな事をすれば、お前も俺も落ちちまう!
周囲の岩までも砕いちまう強力な霊力に、遂に岩場が崩れた。
カッ・・・ガラガラ・・・ドガガ・・・ガッ!
掴んでいた桔梗の手が擦り抜けていく。
桔梗が落ちていく!

「桔梗——————!」

この高さから落ちたんじゃ助かりっこない。
谷底から登って来た俺は、周囲の山々が、どれ程、高いか身を以って知っている。
ズタボロの状態で楓ばばあ達の許に戻れば、まだ、かごめの意識は戻ってなかった。
酷くうなされてる。
元のかごめに戻るんだろうか。
もし、桔梗の意識が残っていたら?
固唾(かたず)を飲んで見守る俺達の前で、かごめが目を覚ました。
夢を見ていたそうだ。
それも、かごめが良く口走る数学やら英語のテストの夢らしい。
ホッ、元のかごめだ。
良かった———。
かごめ自身は、さっきまでの修羅場を、全然、覚えていなかった。
村へ戻る道すがら思い出すのは、桔梗の事。
五十年前、俺と桔梗に、突然、降り掛かった悲劇。
その原因の一端が繙(ひもと)けた。
何者かが、俺と桔梗を罠に掛けたんだ。
それも、互いが互いに裏切られたと思い込ませる二重に仕組まれた巧妙な罠だ。
一体、誰が? 何の為に?
その謎は、いずれ解ける事になる。
不良の助兵衛法師、弥勒との出会いによって。


 

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『降り積もる思い⑨=朔(さく)=』最終回萌え作品⑤

朔(さく)、月(陰暦)の第一日目。
月が、全く顔を見せない日の事だ。
半妖の俺に取っちゃ、忌々しい事この上ない日だぜ。
何しろ、朔の晩だけは、妖力を丸っきり失っちまうんだ。
その証拠に、親父譲りの白銀の髪は、お袋ソックリの黒髪に取って変わり、犬耳だって丸っこい人間の耳に変わるんだ。
夜目の利く金色の獣眼だってそうだ。
かごめと同じ黒い目に変わっちまう。
勿論、聴力や視力は格段に落ちるし、鼻も利かなくなる。
おまけに身を守る為の鋭い爪や牙も無くなっちまうんだ。
つまり、完全に、か弱い普通の人間になっちまうんだよ。
そんな時に、敵に襲われてみろ。
一発で殺(や)られちまう!
だから、俺は、この秘密を、それ迄、誰にも教えなかった。
そう、かごめに出会うまではな。
出会ってからだって、そうだ。
かごめに教える気は、全然、無かった。
隠せるだけ隠し通す積りだったんだ。
それが、蜘頭(くもがしら)との戦闘で、否(いや)も応もなくバレちまった。
フッ、蜘蛛頭か、思い出すな。
アイツ、なずなは、どうしてるかな?
なずなは、蜘蛛頭に父親を殺された山里の娘だ。
そのせいで妖怪を毛嫌いしてたっけ。
俺とかごめが、四魂の欠片を集めている事は、もう、アチコチの妖怪どもに知れ渡ってたらしい。
蜘蛛頭の野郎、俺たちの噂を聞き付けて罠に掛ける為に、なずなを利用したんだ。
その為だけに、なずなの父親を殺し、親切ごかしに坊主に化けやがって。
人の弱みに付け込む実に胸糞(むなくそ)悪い野郎だったぜ。
奈落みてえな奴だったな。
あれは船を使って川を下ってる最中だった。
ワザワザ、徒歩で山越えするより、船で川を下る方が遥かに安全だし時間が稼げるからな。
季節は夏、まだまだ暑さが止まない頃だったよな。
緑豊かな渓谷に涼しい川風、かごめは、甚(いた)くご満悦だった。
物見遊山気分で、かごめは、船旅を楽しんでたが、七宝は、船に酔って目を回してやがった。
ヘッ、妖怪の癖に、だらしがねえ。
そん時だったな。
崖の上から、なずなが落ちて来たんだ。
それも、自分から落ちたんじゃねえ。
落とされたんだ。
蜘蛛頭って云う死体の頭に巣食う蜘蛛妖怪にな。
チッ、目の前で船の上に落ちてこられたんじゃ、助けない訳にいかねえ。
落下するのを受け止めてやったのに、あの女、俺を引っ叩(ぱた)きやがった。
お陰で水の中に落ちて全身ずぶ濡れだ。
ついでに引っ叩いた本人もな。
クソッ、恩知らずめ。
助けてやるんじゃなかったぜ。
俺は、日が暮れる前に、何としても、あの山を抜けたかった。
だから、なずなと拘る気は、これっぽっちも無かったんだ。
なのに、なずなって奴、気が強い割にドジでな。
今度は俺達の見てる前で崖に登ろうとして足を挫きやがった。
そのせいで、仕方なく、なずなが住んでる山寺に送ってく事になっちまった。
おまけに、どういう因果か、その晩は、その寺に泊まる羽目に。
今、思えば、それも蜘蛛頭の計略の内だったんだが。
唯でさえ俺は不安を抱えてる状態だ。
何も起きなけりゃ良いと思ってたんだが、そういう時に限って事は起きるんだよな。
その晩、蜘蛛頭どもが襲ってきた。
チッ、選(よ)りによって、こんなときに!
鉄砕牙を抜いたが、案の定だ。
変化しねえ!
クソッ、もう変化が始まってやがる。
無数の蜘蛛頭に襲われて、アッと云う間に蜘蛛の糸に包まれちまった。
七宝の狐火のおかげもあって、一度は、逃げ出せたんだが。
俺の秘密もバレちまった。
一旦、変化が始まっちまえば、隠しようがないからな。
俺の朔の姿が珍しいのか。
かごめも七宝もジロジロ眺めやがって。
冥加は、ともかく、かごめの奴、何故、教えなかったと煩(うるさ)かったな。

「俺は、誰も信用しねえ!」

そう強く云ったら、一旦は黙ったが、その後は馬鹿呼ばわりされたんだっけ。
チョッとしおらしい処を見せたかと思ったら、直ぐ、反撃してくるんだもんな。
全くめげない性格してたぜ、かごめは。
その口論の真っ最中に、なずなが逃げて来たんだった。
蜘蛛頭に襲われた坊主を助けてくれってな。
ハッ、妖怪を毛嫌いしてる癖に、こんな時だけ調子良く助けてくれだと!?
ヘン、ご免だね。
唯でさえ、今、俺は、妖力を失ってるんだ。
こんな物騒な山、トットとおさらばだ。
その積りだったんだが・・・・。
かごめの阿呆!
肝心要の四魂の欠片を寺に忘れてきやがって。
仕方ねえ、取りに戻るしかねえ。
墓から卒塔婆を、しこたま引っこ抜いて来た。
これと云った武器が他に無いからな。
何しろ、今の俺には爪も牙も無いんだ。
鉄砕牙は、かごめに預けた。
変化しなくても蜘蛛頭をぶっ叩くくらいは出来るだろう。
覚悟を決めて七宝と二人、寺に乗り込んで見れば・・・・。
蜘蛛頭の奴ら、かごめのリュックを運んでる。
つまり、はなっから、奴らの狙いは、俺達じゃなく、四魂の欠片だったんだ。
誰が渡すか! 返しやがれ!
七宝の狐火で卒塔婆を燃やし、襲ってくる蜘蛛頭どもをやっつける。
本堂に乗り込めば、中央で坊主が蜘蛛の巣にとっ捕まってるじゃねえか。
くたばってるのかと思えば、まだ生きてるらしいや。
仕方ねえ、助けてやるか。
そう思って手を貸してやれば、クソッ、騙された!
坊主こそが、蜘蛛頭の親玉だったんだ。
体と思ってた部分は蜘蛛の巣で、本体は頭の部分って訳だ。
口から吐き出す蜘蛛の糸を七宝の狐火で焼かせたら、蜘蛛頭め、七宝が邪魔と見て、変幻自在の蜘蛛の巣の腕で床に叩き付けやがった。
俺自身は、蜘蛛の糸で身動きできねえ。
あの頭だけの本体は、蜘蛛の巣の上を自在に移動できるのか。
ズッと滑るように移動して俺の喉元に噛み付きやがった。
畜生、毒が廻る。
クッ・・クソッ・・何時もの俺なら・・・こんな・・・毒・・・如き・・・屁でも・・・ない・・のに・・・
俺の窮地に、七宝がドングリで、かごめに助けを呼んだんだ。
かごめの奴、危険も顧みず、ズカズカ本堂に踏み込んで来たっけ。
蜘蛛頭が糸を吐き、かごめを捕獲しようとしたが、鉄砕牙の結界が働いたんだろう。
ジュッ・・・シュウゥ・・・・
蜘蛛の糸が消滅した。
かごめの奴、襲ってくる蜘蛛頭は、鉄砕牙でブッ叩いてたな。
クッ・・非力な人間の俺じゃ、助けてやる事も出来やしねえ。
蜘蛛頭の奴、かごめまで毒牙に掛けようとしやがったんだが、間一髪、それは免れた。
だが、その分、蜘蛛の糸が緩んだのか、かごめと一緒に床に叩き付けられちまった。
グッ、半妖の俺なら、この程度、どうってことないんだが・・・。
朔で、然も傷付いた状態で、かごめの体重まで加わってるとあっちゃな。
流石に堪(こた)えるぜ。
その後は、気を失っちまったらしい。
気が付けば、かごめが泣いてる。
あん時は、何故、かごめが泣くのか判らなかった。
まさか、俺の事を心配して泣いてるなんて思いもしなかったからな。
それまで、俺の為に泣いてくれたのは、お袋しか居なかったから。
その後、また、気を失っちまった。
冥加が毒を吸い出すと同時に血も大量に吸い出したせいだろう。
次に気が付いたのは、額の汗を拭う誰かの優しい手の感触。
・・・誰だ・・・お袋?
目を開ければ、かごめが俺を心配そうに覗き込んでる。
朦朧とした意識の中、ズッとかごめの涙が気に掛かってた。
だから理由を訊いてみた、かごめに。

「あんたが死んじゃうかと思ったから・・・」

返って来た言葉がジンワリと暖かく心に沁みこんで行く。
お袋みたいな優しさと良い匂いのするかごめ。
だから、少し甘えたい気持ちになってたんだろうか。
かごめの膝を借りて、もう一度、眠っちまった。
次に気が付いたのは、耳障りな物音のせいだった。
 ドカッ! バキバキッ!
蜘蛛頭が小部屋に入って来てる。
なずなが鉄砕牙を抜いて結界を解いちまったせいだ。
蜘蛛頭の野郎、又しても、甘言で、なずなを騙しやがったんだ。
何処までも汚い奴だぜ。
その上、四魂の欠片まで奪って体内に取り込んじまった。
途端に変化し始める蜘蛛頭。
伸縮自在な蜘蛛の巣の手で俺を壁に押さえ付けやがって。
だが、もう、てめえの思うようには行かせねえ。
朔は終わった!
妖力が戻って来る。
よくも、気色悪い手で俺を押さえ付けてくれたな。
お返しだ!
力任せに奴の腕を引き裂き、更に、散魂鉄爪のお見舞いだ。
頭を潰したんだが、奴は、四魂の欠片を取り込んでる。
別の箇所に新しい頭が浮かんできた。
なっ、何?!
一つだけじゃねえ。
アッチにもコッチにも幾つも頭が浮かび出てきた。
次から次へと潰すんだが、切り口から、また新しい頭が生えてくる。
これじゃ、何時まで経っても埒(らち)があかねえ。
そしたら、かごめが教えてくれたんだ。
坊主の衣の横の頭部に四魂の欠片が有るってな。
蜘蛛頭め、それを聞いて、一層、エグイ感じに変化した腕で、かごめを狙いやがって。
かごめは、上手い事、逃げたんだが、なずなが捕まっちまった。
チッ、そう云えば、アイツ、足を挫いてたんだっけ。
それだけじゃねえ。
蜘蛛頭の奴、なずなを自分の盾に使いやがって。
一気に四魂の欠片を抉(えぐ)り出そうとした俺だが、手を止めるしかねえ。
なずなを引き裂く訳にはいかねえからな。
クッ、俺が怯(ひる)んだ隙に、アチコチに散らばった頭が吐き出す蜘蛛の糸に取り巻かれちまった。
こんな蜘蛛の糸如き、別段、どうって事ないが、チョイと静かにして蜘蛛頭の真意を、なずなに聞かせてやるとするか。
アイツ、まだ、坊主に化けた蜘蛛頭の親玉を信じてるみたいだったからな。
案の定、親玉の奴、好い気になって本音をベラベラと喋ってくれたぜ。
これで、なずなも、完全に目が覚めただろうぜ。
そんじゃ、ここらで一丁、本気出して親玉を仕留めてやるとすっか。
そしたら、かごめが急に叫んだんだ。
四魂の欠片が蜘蛛頭の体内に溶け込んでるって。
次の瞬間、変化して膨れ上がった蜘蛛の巣が、俺となずなを肉圧で潰そうとしたんだ。
俺は、この程度、何て事ないが、なずなの奴は、死にそうな声を出してたな。
人間ってのは、本当にしょうがねえな。
蜘蛛頭め、このまま、なずなごと俺と一緒に押し潰す積りらしい。
なずなの奴、此処まで来て、ようやく目が覚めたらしいや。
俺に父親の仇を取ってくれだとよ。
全く、コロコロ、気の変わる奴だぜ。
とにかく、鉄砕牙を取り戻さなきゃ、どうしようもない。
散魂鉄爪で蜘蛛頭の体を引き裂き、もう少しで、鉄砕牙に手が届くって処で、又しても、蜘蛛の糸のせいで足止めを喰らった。
グッ、膨らんだ足で挟み撃ちにされた。
畜生、もう少しだってのに。
俺の方に注意が行ってたせいか、なずなの締め付けが緩んだ。
それで、なずなが、鉄砕牙を渡してくれたんだ。
鉄砕牙さえ戻ってくれば、コッチのもんだ。
変化した鉄砕牙で、膨れ上がった蜘蛛頭の腕を一気に切り裂き、四魂の欠片を狙う。

「なずな、そこから動くな!!」

蜘蛛頭の本体、頭部がボコッと浮き上がり、俺に斬らせまいと、なずなに迫って行く。
ヨシッ、斬った!
ボロボロと消え失せていく蜘蛛頭の体。
最後に残った本体の頭を、もう一度、鉄砕牙で突いて止(とど)めを刺す。
シュウゥゥ・・・・完全に消えた。
キィ———ン
後に残ったのは四魂の欠片の塊り。
欠片が妖怪の体内で固まったらしいや。
それにしても、たった、これっぽっちかよ。
あんなに苦労して集めたってのに。
なずなとは、人里の近くで別れた。
俺に礼を云ってたが、アイツ、妙に思い込みが激しい奴だったからな。
上手く村に溶け込めたかどうか。
マア、いいや、それは置いといて。
とにかく、あの一件で、俺の半妖としての弱味、イヤ、秘密は、かごめに七宝、冥加の知る処となったんだ。


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『降り積もる思い⑧=タタリモッケ=』最終回萌え作品⑤

イライラ・・・イライラ・・・・
アアッ、もう、じれってえな。
まだ掛かるのかよ。
雷獣兄弟の兄、飛天の雷撃刃を受け、折れかけた鉄砕牙の鞘。
その折れた部分を補強する為に、鋼蜂(はがねばち)の蜜蝋(みつろう)で固めさせてる。
ワ———ン、ブブブ・・・・
何千匹もの蜂どもが、鉄砕牙に集(たか)って修理の真っ最中だ。
イライラしてる俺の気持ちを逆撫でするように子狐妖怪の七宝がチョッカイ出してきやがるし。
アア、もう、やかましい!
かごめ、かごめと煩(うる)せえぞ。
ン? 何だ、ありゃ?
夜の小川の上にフワフワと浮かび上がる影は・・・蛍?
イヤ、蛍だけじゃねえ。
人魂? 子供達みてえだ。
それにデッカイ鞠(まり)か鈴みてえな・・・・。
ありゃ、妖怪か?
目は殆ど閉じているな。
子供の人魂が遊ぶのに合わせて笛を吹いてる。
ホウー・・・  ホウー・・・・  ホウー・・・・
物識りの冥加が云うには、あれは、タタリモッケとか云うらしい。
幼子の魂から生じた妖怪なんだってよ。
ああやって死んだ子供の霊が成仏するまで、一緒に遊んでやるんだそうだ。
まさか、雷獣の次は、悪霊と拘(かかわ)る事になろうとはな。
かごめのお節介め。
あいつは、妙に正義感が強いからな。
コッチに来たかと思えば、俺を無視して、イキナリ、冥加と話を始めて。
何を聞くのかと思いきや、つい、此間(こないだ)見たタタリモッケの事だ。
アッチの世界でも、かごめの奴、タタリモッケを見たらしい。
厄介な事に、かごめの奴、アッチの世界で悪霊になりかかってる子供の幽霊と関わり合いになっちまったんだ。
何でも、かごめの弟の草太、奴の友達の姉ってのが、そうらしい。
幽霊ってのは、妖怪と違って、たたっ斬れば良いってもんじゃねえ。
下手に触ると怪我どころじゃ済まないんだ。
そのまま放って置けばいいものを。
アイツの性分なんだろうな。
何とか助けてやろうとして、却って自分が危ない目に遭ってるんだ。
チッ、しょうがねえな。
四魂の欠片を捜すのに、アイツの目は欠かせないし。
助けに行くとするか。
アッチの世界に行ってみれば、案の定だ。
相手の幽霊は、殆ど、悪霊になりかかって凶暴化してる。
怨みの念が膨れ上がって暴走してるんだ。
あの幽霊、もう少しで自分の弟を殺しちまう処だったぞ。
あんなんを、一体、どうやって救うってんだ。
完全に悪霊になっちまったら、普段は閉じてるタタリモッケの目が開く。
そしたら、霊を地獄に連れて行くんだ。
不味いぞ、かごめ。
タタリモッケの目が開ききっちまった。
このままじゃ、あの子供の幽霊、地獄に連れてかれちまうぞ。
後を追って駆けつけてみれば、部屋の中は炎の海だった。
あの子供、真由(まゆ)って餓鬼(がき)は、自分の家で火に焼かれて死んだみてえだな。
タタリモッケは、霊を死んだ時の状態に戻して、ソコから地獄に連れて行くそうだから。
これも、冥加の受け売りだけどな。
何っ!?
タタリモッケ、何をする気だ?
かごめが連れていかれた・・・・
消えた・・・・?
餓鬼が死ぬ寸前の状況に、無理矢理、巻き込まれたかごめ。
炎に巻かれ一人焼け死んだ子供。
母親に助けて貰いたかったのに気付いて貰えなかった。
その思いが怨みに変わり悪霊化してたんだな。
かごめの説得も、中々、聞こうとしなかった。
遂に地獄の扉が開き、落ちて行こうとする餓鬼。
それでも必死に餓鬼を引き留めようとした、かごめの命掛けの説得。
もう少しで地獄に落ちる文字通りの崖っぷちで、やっと相手を納得させたぜ。
フゥ~~~何て危なっかしいんだ!
もう少しで、かごめまで地獄に引き摺り込まれる処だったじゃねえか。
それにしても、あん時は驚いたな。
かごめの奴、本当に霊を鎮(しず)めちまったぜ。
大したもんだぜ、巫女ってのは。



 

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『降り積もる思い⑦=七宝=』最終回萌え作品⑤

肉の塊りみてえな能面の化け物を退治して、四魂の欠片は三つになった。
テストとかが終わったかごめが、コッチに戻ってきたんで、早速、四魂の欠片捜しの旅に出たんだったっけ。
確か、あん時だよな。
七宝に初めて会ったのは。
ズッと歩き詰めだったんで、腹が減ってきた。
んじゃ、食い物を捜してくるか。
そう思ってたら、かごめが、リュックとか云う布袋から、妙な物を取り出した。
カップラーメンとか云うアッチの世界の食い物なんだと。
そして、お湯を沸かして、その器に注いで待つ事、三分。
三分???
三分て、どんくらい待つんだ?
この三分とかいう時間の計り方も、俺には良く判らねえ。
だが、とにかく、かごめがアッチから持ってきたキッチンスケールとかいう訳の判んねえ代物がピピピピ・・・と鳴って知らせるんだ。
蓋を開けてみたら、オオッ、何か美味そうな匂いがするぞ。
渡された箸を二つに割って、食ってみたら、これが美味いんだ!
俺がセッセと食ってるのに、かごめは食おうとしない。
何でだ?
訊いてみたら、こんな処で食べる気がしねえとよ。
こんな処って戦場跡って事か。
そういや、アチコチ、野ざらしになった骸骨どもが、ゴロゴロしてるな。
こういう場所には、お決まりの死骸を漁るカラスどももギャアギャア喚いてやがる。
今は、戦乱の世だからな、こんなの、チットモ珍しくねえぞ。
そん時だったよな。
急に辺りが暗くなって。
チロチロした火が、次第に大きくなってった。
それを見て、冥加じじいが、狐火だって教えてくれたんだが。
最初のおどろおどろしい雰囲気から、どんな妖怪が、現れるのかと思えば・・・。
間抜けな顔の大玉が空中に浮かんでんだ。
アレで、どう驚けってんだ。
虚仮脅(こけおど)しも良いところだぜ。
そんな間抜けな分際で四魂の欠片を寄越せだぁ!
横っ面を思いっきり引っ叩(ぱた)いてやったぜ。
そしたら、プシュ~~~と萎(しぼ)んで本性を現しやがった。
それが、七宝だった。
見るからにコロッとして狐と云うよりはタヌキに見えたっけ。
今でも、形(なり)は小せえが、あの頃は、妖術もヘボかったな。
この頃じゃ、妖術の腕の方は上がってるようだが。
女ってのは、何で、ああも『可愛い』に弱いんだよ。
かごめの奴、七宝のコロコロした感じに騙されやがって。
四魂の欠片を持ってトンズラしようとしたんだが、あの化け方の拙(まず)さ。
誰が見たってバレバレだぜ。
髑髏に化けて逃げようとした七宝に、今度は、拳固(げんこ)をお見舞いだ。
でっかいタンコブをこしらえた七宝に、とにかく、事情を聞いてみた。
アイツ、親父の仇を討ちたかったらしい。
七宝の親父は、四魂の欠片を持ってたんだが、雷獣兄弟に倒され、欠片を奪われたんだそうだ。
何でも、そいつら、欠片を持ってる妖怪を倒して回ってるんだとさ。
冥加じじいも小耳に挟んだ事があるらしい。
飛天・満天とか云うしょうもない乱暴者なんだとよ。
つまり、そいつらを倒せば、一気に四魂の欠片が何個も取れるって訳だぜ。
俄然、俺は、やる気になったぜ。
そしたら、七宝の奴、半妖の俺が、雷獣兄弟に敵うはずが無いと抜かしやがってな。
ホホォ~~良い根性してるじゃねえか。
この俺に、面と向かって半妖と云って無事に済んだ奴は居ないんだぜ。
バキ!バキバキバキ!
今度は、拳固を四連発、お見舞いしてやったぜ。
ケッ、てんで弱い癖にデカイ口きいてんじゃねえ!
痛い目を見て、ようやく口の利き方が判ったらしい。
ペコペコ謝るから許してやったら・・・・。
あん畜生、札を使った地蔵縛りの術で、俺を動けなくしやがった。
その上、かごめから四魂の欠片を奪って逃げやがって。
冥加じじいじゃ体が小さ過ぎて札が剥がせねえ。
俺達が四苦八苦してる処に七宝が戻って来た。
ンッ? かごめは、どうした?
確か、おめえを追ってった筈だが。
七宝の奴、えらくデカイ態度で助けてやっても良いが、殴るなだとよ。
どうでも良いから、早く札を剥がしやがれ。
ヨシッ、自由になった。
まずは、思う存分、七宝を殴って、それから、四魂の欠片はっと。
七宝を逆さにしてブンブン振ったら、出てきた、出てきた。
良かった、無事だ。
そしたら、七宝の奴、かごめが、雷獣兄弟に攫(さら)われたと抜かしやがるじゃねえか。
どうやら、かごめを置いて、てめえだけ逃げてきたらしい。
ソコんところを突っ込んでやったら、あんにゃろう、逆切れしやがって・・・。
【おまえの女】なんだからサッサと助けに行け!なんぞと。
マア、あの頃は、まだ、かごめの事を、そんな風に自覚してなかったからな。
今だったら、何をさて置いても駆けつけるだろうがな。
素直に云う事を聞いてやるのも癪だから、チッと意地悪してやったのさ。
七宝に土下座しろってな。
真剣にかごめを助けたいのなら、それ位、出来るだろう。
フ~~ン、本気のようだ。
それから、かごめの自転車とかいうケッタイな代物を担ぎ、七宝を道案内に、雷獣兄弟の住む山に向かったんだよな。
道々、七宝から、雷獣兄弟の事を聞いてたんだが。
冥加じじいが、気になる事を云い出しやがった。
雷獣兄弟は、良い女を攫ったら、即刻、喰っちまうってな。
始めの内は、大丈夫だろうと思ってたんだが・・・・。
冥加じじいと七宝が揃って心配するもんだから、コッチまで、ドンドン不安になってきちまって・・・・。
俺が癇癪起こした時だぜ。
次の瞬間、雷撃が襲ってきた。
見上げれば、頭上に、雷獣兄弟の兄の方、飛天が、ふんぞり返ってやがる。
フ・・・ン、まず防具は、胸当てに肩当て、籠手(こて)、両脚に飛炎の滑車。
武器はアレか、稲妻の形の刃が付いた槍。
雷撃刃とか云ってたな。
やけにデコの広い奴だったぜ。
額に、四魂の欠片を三つも仕込んでやがる。
長髪を三つ編みにして垂らしてやがったな。
かごめは何処だ???
アア、居た、居た。
ヨシッ、とりあえず無事だな。
弟の満天の操る黒雲に乗ってた。
満天の方は、四魂の欠片を二つ、額に仕込んでる。
それにしても、雷獣兄弟って聞いたんだが、満天は、全然、兄貴の飛天と似てないじゃねえか。
えらく不細工だな。
本当に兄弟か?
見た処、かごめが無事なのは良かったんだが・・・・。
兄貴の飛天が吐いた次の台詞に、俺は、頭に来たぜ。
惚れた女を助けたかったら四魂の欠片を渡せだぁ?
フッ、あの頃は俺も、まだ青かった。
かごめに惚れてるなんて死んでも認めなかっただろうな。
とにかく、ソコん処は置いといて。
それからは、飛天と俺の一騎打ちになったんだ。
雷撃刃と鉄砕牙の真っ向勝負。
飛天と俺の力は、ほぼ互角だが、アイツは飛べるんだよな。
その点が、若干、俺には不利だったぜ。
それに、かごめが、満天に摑まってるしな。
ゲエッ、かごめ、何してるんだ!?
口から雷撃を吐こうとした満天を黒雲から落としたのは良いんだが・・・・。
黒雲自体、満天の妖術で作り出された物だからな。
満天が居なくなりゃ。当然、掻き消えちまう。
助けに行こうにも、コッチは、一瞬も気が抜けない飛天が相手だ。
暫く、自力で頑張れ!
幸い、かごめの奴、自分が落っことした満天の上に落ちた。
満天はデブだし妖怪だからな。
あの程度で死ぬ訳がねえ。
怒り心頭の満天、かごめに襲い掛かったんだが、七宝の狐妖術、つぶし独楽(ごま)に助けられた。
それは、良かったんだが・・・・。
あれで、満天の最後の前髪が無くなっちまったんだ。
あのデブ妖怪、前髪を物凄~~く大事にしてたんだよな。
これで、アイツは、デブの上にハゲになっちまった訳だ。
もう完全に頭に来た満天の奴。
所構わず、雷撃を吐きまくって危ないの何の。
それでも、かごめと七宝は、アイツらなりに知恵を絞って、満天を、やっつけようとしたんだが。
元々の力に差が有りすぎる。
遂に、かごめが、満天に摑まっちまった。
あのハゲ、かごめの首を絞めて縊(くび)り殺す積りだ。
クッ、かごめの事が気になって、俺も、飛天の一撃を貰っちまった。
その上、雷撃刃のショックで鉄砕牙を手離しちまったんだ。
七宝も、必死に、かごめを助けようとするんだが、如何せん、どうにも非力だ。
それでも、七宝なりに、満天の喉元に喰らいついてたぜ。
満天に頭を鷲摑みにされ、頭の骨を砕かれそうになりながらもな。
気絶してまでも離さなかったんだ。
大した根性だぜ、七宝。
こうなりゃ、かごめ達を助ける方が先だ!
飛刃血爪で、飛天の気を散らし、鉄砕牙を掴むや否や、目的の方向に思いっきり投げつけた。
俺の狙いは、はなっから、飛天じゃねえ!
ハゲデブの満天だ!
狙い過(あやま)たず、鉄砕牙は、満天の胸元に突き刺さった。
ヨシッ、仕留めた。
かごめと七宝も、何とか無事のようだ。
飛天の奴、流石に弟の満天を殺されたのは堪えたらしい。
だが、その後の行動がエグイ!
エグ過ぎるぜ!
死んだ弟の心臓を引きずり出して喰っちまったんだ!
冥加じじいが云うにゃ、妖力を喰ってるんだそうだ。
しかし、それにしたって、見てて気持ち良いとはお世辞にも云えねえ。
ハッ、気を取られてる場合じゃねえ。
飛天が雷撃刃を撃ってきた。
雷撃刃の威力が、さっきまでとは格段に違う。
弟の妖力を取り込んだってのは本当らしいな。
かごめに七宝を連れて出切るだけ遠くへ逃げるように指示したのは良いんだが・・・。
来る! もう一度、雷撃刃が! 
クソッ、鉄砕牙が無い。
避(よ)けきれねえ!
そん時、冥加が、教えてくれたんだ。
鉄砕牙の鞘を使えって。
他に手もねえ。
仕方ねえ、試すっきゃねえぜ。
オオッ、威力の増した雷撃刃を受けてるのに、何ともねえ。
こいつは使えるぜ!
鞘で雷撃刃を防ぎつつ、飛天の懐に飛び込めば、奴をブッ倒せる!
そう思ったんだが、クソッ、アイツは飛べるんだった。
躱(かわ)された上に、背後から、一撃、貰っちまった。
畜生、こいつが、チョロチョロ、飛び回るのを止められれば。
グッ、またも一撃、喰らっちまった。
追い込まれた!
そう思った時、かごめが、破魔の矢で、飛天の左脚の飛炎の滑車を破壊してくれたんだ。
体勢を崩した飛天の雷撃刃を左手で掴み、地上に引き摺り下ろす。
雷撃が来るが、構っちゃいられねえ。
エエイ、鞘を持ってると肝心の右手が使えねえ。
邪魔だ!
渾身の一撃を飛天に喰らわす。
思い知ったか、このデコ助が!
片方の滑車を壊した以上、もう、思うようには飛べない。
面(つら)を殴られて頭に来たのか、飛天の奴、白く見える程、発熱し始めた。
一層、迫力の増した雷撃刃を、鞘で受け止めるが。
ゲッ、鞘に皹(ひび)が!
こもままじゃ、やられる!
何とか、鉄砕牙を・・・・。
状況を見て取った七宝が、鉄砕牙を取りに走る。
かごめも、七宝の後を追う。
それを見ていた飛天。
不味い! 飛天の奴、口から雷撃を吐こうとしてやがる!
満天の妖力を取り込んだせいで、弟の技まで物にしてやがる。
俺が叫んだと同時に、雷撃が、七宝とかごめを襲う。
カッ・・・ボンッ ジュッ、ゴォ~~~~
炎に呑まれる七宝とかごめ。
よくも、よくも、かごめを・・・・七宝を・・・・
許さねえっ!!!
今にも鞘が割れそうだ。
だが、そんな事より、コイツをやっつける方が先だ。
この性悪の雷獣を仕留める方がな。
再度、雷撃刃が襲ってきた。
グッ、鞘が、折れる!
その時、確かに鞘の鼓動を感じた。
ドクン! ゴッ・・・ギャン
鉄砕牙が飛んで来た!
鞘が呼んだんだ。
バシッ、右手に掴んだ鉄砕牙を、そのまま、飛天に向かい振り下ろした。
雷撃刃の柄ごと、四魂の欠片が埋め込まれた飛天の頭部を袈裟懸けにした。
やった・・・・。
でも、かごめと七宝は・・・・。
声が・・・・。
振り返って見れば、炎の中にかごめと七宝が。
冥加が云うには、二人の魂だとさ。
最後の別れを云う為に出てきたんだと。
あん時は、かごめを引き留めたい一心で止めたんだけどな。
何が、魂だ! 最後の別れだ! 
冥加の阿呆! デタラメ云いやがって!
実際には、ありゃ、七宝の親父の狐火だったんだぜ。
かごめも七宝も、狐火に守られて無事だった。
畜生、心配して損したぜ。


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『降り積もる思い⑥=妖面=』

九十九(つくも)の蝦蟇(がま)をやっつけて四魂の玉の欠片は二つになった。
ヨッシャ! この調子でバンバン集めっぞ!
と意気込んでたら、かごめの奴、アッチの世界に戻るなんて言い出しやがった。
テストだの高校受験だの、こちとらにはサッパリ訳の判んねえ言葉をベラベラまくし立ててよ。
てめえの事情なんぞ知るか! 
こうなったら、勝手にアッチの世界に戻れないように、骨喰いの井戸を、ぶっつぶしてやるぜ。
そう考えて、大岩を骨喰いの井戸にぶつけようとしたら・・・・。
フッ、また、喰らっちまったぜ、『おすわり』。
それも、一回じゃねえ、今度は八連発だ。
畜生、おかげで、暫く、腰が痛かったぜ。
あん時は、よっぽど怒ってたんだな、かごめ。
マッ、今、思い返すと無理もないぜ。
かごめの家族も、友達も、みんな、アッチの世界に居るんだもんな。
そんな事にさえ思い至らなかった当時の自分の未熟さ、馬鹿さ加減が、身に沁みて良~~く判るぜ。
こんな馬鹿な俺を、何時だって、かごめは、思いやってくれたのに・・・な。
アア、済まねえ、話が湿っぽくなっちまったな。
先を続けよう。
とにかく、俺は、仕方なく三日後を待つ事にした。
また、『おすわり』を喰らわさちゃ堪らないからな。
ジリジリ待った挙句、約束の三日後、迎えに行けば、今度は、更に三日待てだと!
またしても、勉強だ、数学だ、追試だのと、俺にはチンプンカンプンな事を喚(わめ)いてよ。
『おすわり』の連発を喰らった恨みも手伝って、ケンもホロロに突っぱねてやったら・・・・。
かごめの奴、ブチ切れやがった!
涙を浮かべながら、キッと俺を睨んでよ。
内心、ドキドキしちまったぜ。
俺は、かごめの涙には、特に弱いんだ。
チッとは悪かったかなと思って、俯(うつむ)いてるかごめをソッと覗きこめば。
あの野郎、俺を、骨喰いの井戸の中に蹴り飛ばしやがった!
畜生、俺が、何をしたってんだ!
かごめの馬鹿野郎~~~~
コッチに戻った俺は、流石に拗ねた。
もう、頼まれたって迎えになんか行かねえっ!
そう思ってたんだが・・・・。
骨喰いの井戸から、かごめの匂いがするじゃねえか。
それも、血の匂いだ!
何か有ったな。
急いで骨喰いの井戸に飛び込んでみれば、かごめの弟の草太が、泣きながら井戸の土を掘ってるじゃねえか。
ヨシッ、飛ばすぞ、草太!
かごめの血の匂いを頼りに居所を嗅ぎ付ける。
居たぞ! 
随分、高い処に登ってるじゃねえか、かごめ。
後で草太に聞いたら工事現場とか云う場所だったらしい。
尤も、俺に取っちゃ、あの程度、ひとッ飛びの高さだがな。
何だ、敵は、随分、気味の悪い肉の塊(かたま)りみてえな奴だな。
かごめに襲い掛かろうとしてやがる。
そうはいくか!

「散魂鉄爪!」

ヘッ、化け物め、腕の部分を引き裂いてやったぜ。
まだ、息の根は止まってないみてえだな。
オット、その前に、かごめに云わせなくちゃな。
こないだの事について詫びを入れてもらわねえと。
俺が、先日の事を追及すれば、かごめの野郎、綺麗サッパリ忘れてやがったんだ。
やけにアッサリ謝りやがって。
ちっとも誠意が感じられねえ!
俺は、あんなに気にしてたのに。
チッ、とりあえず、その事は後回しだ。
まずは、この気色悪い化け物を片付けないとな。
かごめが云うには、こいつの本体は能面らしい。
そんでもって額に四魂の欠片が入ってるんだと。
能面の化け物が語る処によると、こいつは、『肉づきの面』と云って、数百年の昔、四魂の欠片を受けた大桂の木から彫り出されたんだとよ。
それ以来、体が欲しくて、人を喰らい続けてきたそうだが、人の体は、簡単に壊れちまうらしいや。
だから、もっと強い体を創る為に、かごめの持ってる四魂の玉を狙ってたんだとさ。
何人、喰ったか知らねえが、ブクブク太りやがって。
今後は、二度と太れないようにしてやるぜ。
能面が、二つに割れた。
ヘッ、それで人を喰らってきたのかよ。
そんなんで、俺が、やられるかよ。
散魂鉄爪で真っ二つに分断してやったぜ。
これで終わりかと思いきや、あの化け物め、二つに別れた体を合わせて、俺の右腕を挟み込みやがった。
その上、喰い殺した人間の腕を使って、俺を掴みやがって。
気持ち悪い手で、ベタベタ、触るんじゃねえっ!
俺の右腕を挟み込んでる体ごと、ぶん回して鉄の塊り(クレーンとか云う物らしい)にぶつけてやった。
体は、完全に潰れ、使い物にならないようにしてやったんだが、あん畜生、本体の能面の片面だけで向かってきやがった。
右手を引き抜きざま、その片面を掴み、砕いてやったぜ。
バキッ! 
ヘッ、ざまあ見やがれ。
かごめが叫んでる。
四魂の欠片を持った、もう一方の片面から、欠片を取れってな。
何と、その残りの片面が、かごめ達の背後に回り込んでやがった。
そのまま、かごめの顔に張り付きやがって。
かごめ、待ってろ! 今、行く!
鉄砕牙を抜き放ち、かごめに張り付いた片面の額の部分を斬り落とした。
四魂の欠片が入ってる部分だ。
キ———ン
四魂の欠片を残し、残った片面も消滅した。
ヨシッ、かごめも無事だ。
フッ、これで貸しが一つ出来たな。
これからは、もう、好き勝手させねえ。
そう考えてた俺なんだが・・・・。
かごめの奴、大慌てで帰っちまいやがって。
俺は、草太と二人、ポツンと置き去りにされたんだ。
肩透かしってのは、あの事を云うんだよな。
ウ~~~命を救ってやったのに・・・・。
この扱いは何なんだ???
もっと感激してくれたっていいじゃねえかよ。
草太が、慰めてくれたが、どうも納得がいかねえ。
とにかく、かごめと出会って以来、俺の調子は、狂いっぱなしだぜ。



 

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『降り積もる思い⑤=旅の始まり=』最終回萌え作品⑤

何時までも楓ばばあの村でグズグズしてたって、四魂の玉の欠片が見つかる筈がねえ。
こうなったら、コッチから捜しに行くしかねえよな。
幸い、親父の形見、鉄砕牙も手に入ったし、かごめと二人、欠片捜しの旅に出る事にした。
旅に出て三日後、妙な奴と出会ったんだ。
すっげえお人好しで馬鹿な信長ってえ何処ぞの若侍。
身なりからして、割と良い処のお坊ちゃんて感じだったっけ。
そういや、武田の者とか云ってたよな。
奴と出合ったのが、この旅の最初の思い出になった。
とにかく、アイツ、人一倍どんくさいもんだから、供の者と逸(はぐ)れて迷子になってたんだよな。
腹を空かせて、子飼いの猿、日吉丸に食い物を調達させる積りが、かごめの着物を盗みやがった。
あの馬鹿、ブラジャーとか云う、かごめの乳当てを、手に、マジマジと眺めてやがったんだぜ。
事情を聞いてスッカリ同情したかごめが、メシを喰わせてやったんだが・・・。
その上、奴の目的地まで付き添ってやれってよ。
マア、あのドジぶりじゃな、心配にもなるか。
仕方ねえから、アイツの目的地まで付き合ってやったんだが、これが、大当たり。
その国の殿様が、物の怪に取り憑かれてるって云う専(もっぱ)らの噂でな。
こりゃ、四魂の欠片と関係が有るに違いない。
早速、その夜、城に忍び込もうとしたら、アイツ、自分まで行くって云い出して。
チャッカリ、俺の背中に乗っかりやがったんだ。
クソッ、かごめならイザ知らず、何で野郎なんか背に乗せにゃならんのだ。
城の中に忍び込んでみれば、結構、デカイ城なのに、誰も見張りがいねえ。
成る程、冥加じじいの指摘も、尤もだな。
確かに可笑しい。
見れば、見張りは居るが、眠ってるじゃねえか。
冥加が云うには、妖術で眠らされてるんだとさ。
信長の奴、調子こいて大声で自分の探してる姫さまの名前を連呼しやがって。
スッカリ、囚われの姫を救う正義の味方気取りだぜ。
マア、城の者は、全員、妖術で寝てるから良いけど。
アイツ、隠密には、絶対、向いてねえな。
そうやって、アチコチ捜し回ってる内に、姫の部屋に辿り着いたんだっけ。
あの馬鹿、姫付きの老女を、姫と勘違いしやがって。
本当に、何処までもトンマな奴だぜ。
露姫ってえ姫さまの話じゃ、この城の殿さま、ヤッパリ、物の怪に乗っ取られてるようだった。
そうこうする内に、御大(おんたい)のご登場だ。
ヘッ、身体中、包帯でグルグル巻きにしやがって。
如何にも胡散臭い奴だぜ。
どう出てくるかと思ってたら、イキナリ、口から何か飛び出して来た。
飛びのきざま、顔を覆ってる包帯を引き裂いてやったら・・・・。
現れたのは、ゲッ、巨大な蛙じゃねえか。
文字通りの殿さま蛙ってか。
かごめが、クソ蛙の野郎、右肩の下辺りに四魂の欠片を仕込んでるって教えてくれたぜ。
俺から見れば、大して強そうにも思えないんだが、冥加じじいが、忠告してきた。
何でも、アイツ、九十九(つくも)の蝦蟇(がま)とか云う齢(よわい)三百年の妖怪らしい。
一筋縄じゃいかねえとさ。
ケッ、一発で引き裂いてやるぜ!
そうしたら、あのクソ蛙、瘴気を吹きかけてきやがった。
ガハッ、油断した。
まともに吸い込んじまったぜ。
俺が倒れてる間に、クソ蛙め、飛び道具のような舌で、信長をやっつけ、露姫を攫っていきやがった。
もう、許さねえ、あのクソ蛙。
ギッタギッタにやっつけてやる!
城の奥まった部屋に辿り着いてみれば、何だ、これは?!
デッカイ蛙の卵に娘達が封じられてるじゃねえか。
露姫まで卵の中に入れられちまってるぜ。
冥加によると、あのクソ蛙は、こうやって娘達の魂を熟成させて喰らうんだとよ。
ハン、見た目と同じで、けったくそ悪い趣味してやがるぜ。
ブホ!さっきのようにクソ蛙め、口から瘴気を吐き出しやがった。
二度も同じ手に引っ掛かるか!
鉄砕牙を抜き放ち、瘴気ごと袈裟懸(けさが)けに斬り付けてやったぜ。
このまま、一気に、腹かっさばいて四魂の玉を取り出してやる。
そしたら、あの野郎、部屋中に溢れてる蛙の卵に閉じ込めた娘達の魂を四つも呑み込みやがった。
なっ、何だ、傷が消えたぞ。
どうやら、娘達の魂を呑み込むたびに奴の寿命は延びるらしい。
俺とクソ蛙が闘ってる間に、信長が、露姫を、卵から救出した。
アイツ、ああいう処だけは、チャッカリしてるんだよな。
露姫が、助けてくれた信長に取り縋ったを幸い、抱きしめて悦に入ってやがる。
てめえ、今、どういう状況か判ってんのか!?
それを見た殿さま蛙め、「姫に何をする~~~」だぜ。
姫を喰らおうとしたてめえが、云う事か。
鉄砕牙で、一発、頭を叩(はた)いてやったらヘナヘナと座り込んみやがってよ。
ンンッ、どうも様子が変だ。
かごめが話をしてみると、どうも、殿さまは、まだクソ蛙の中で生きてるようだ。
今迄は、クソ蛙に意識を乗っ取られてたんだな。
部屋中に溢れてる蛙の卵の中の娘達を見て、愕然としてたぜ。
まあ、無理もないけどな。
驚いた事に、殿さま、自分を斬れっつうんだ。
自分に取り憑いてる物の怪ごと斬ってくれってんだぜ。
フ~~ン、流石に一国の殿さまやってるだけはあるな。
良い覚悟じゃねえか。
んじゃ、遠慮なく、と思ったら。
かごめが血相変えて止めやがるわ、おまけに信長もだ。
クッソ~~斬っちまえば事は簡単なのによ。
鉄砕牙を振り下ろしたものの、仕方なく的を外したぜ。
クッ、下手に同情なんぞするもんじゃねえぜ。
あのクソ蛙、途端に飛び道具みてえな舌で、俺の右の脇腹を突き刺しやがった。
今度は、かごめを狙ってやがる。
冥加じじいが、かごめに、クソ蛙を倒す秘策を授けたは良いが・・・。
大量の湯を浴びせろだとぉ!
馬鹿野郎、ここが、何処か判ってんのか?!
火の気も禄にない城のど真ん中だぞ。
厨(くりや)じゃねえんだ。
そうこうしてる内に、クソ蛙が、かごめを、長い舌で捕まえに掛かった。
それを見た信長、傷を負わされた身で、果敢にも殿さま蛙を羽交い絞めに。
そこまでは良かったんだが、アイツは、やっぱり抜けてるぜ。

「湯を沸かせ————っ!」

とにもう、黙って聞いてりゃ、何、悠長な事云ってやがるんだ。
こうなったら、もう、情けは無用だ。
クソ蛙をたたっ斬ってやる。
鉄砕牙を振りかざそうとする俺を、それでも必死に止めようとする信長。
人が死ぬのは嫌なんだとよ。
この戦乱の世に怖ろしく甘っちょろい事をほざきやがって。
チッ、判ったよ。
だが、そこまで云うんなら、俺は手を出さない。
自分達だけで何とかしな。
仕方ねえから鉄砕牙を鞘に収めてやったぜ。
そんな信長の命乞いが終わるや否や、クソ蛙め、恩を仇で返しやがった。
信長を力で振り切って床に叩き付けやがって。
それでも、まだ、取り縋って止めようとする信長を、クソ蛙め、右胸の脇を飛び道具の舌で串刺しだ。
二度までも、クソ蛙の串刺しを受けた信長、
今度こそ、目が覚めたかと思いきや、まだ、苦しい息の下でほざくんだ。

「殺してはならん。」

大した頑固者だぜ。
ドレ、かごめ達は、どうなったか、見てくるか。
死なせる訳にゃいかねえからな。
チッ、案の定、追い詰められてるじゃねえか。
もう、これ以上、甘い顔は出来ねえな。
一気に散魂鉄爪で片を付けてやる!
そしたら、クソ蛙に向かって行く俺に、かごめの奴、「おすわり」を喰らわせやがった。
言霊の呪文で否応なく床に叩き伏せられる俺。
そんな俺を、尻目に、かごめが、ヘアスプレーとか云うアッチの世界の道具を手に日吉丸から貰った小さな種火を一瞬で猛火に変えたんだ。
炎に苦しがって殿さまの身体から出てきた九十九の蝦蟇。
この機を逃すか!
「散魂鉄爪!」
最初から狙ってた通りにクソ蛙を引き裂いてやったぜ。
キイィィィ・・・・ン
後に残ったのは四魂の欠片。
ヨシッ、これで首尾よく二つ目の欠片を入手だ。
どうやら、殿さまも無事みたいだし、囚われていた娘達の大半も助かったな。
生憎、信長の恋は成就しなかったがな。
自分まで殺されそうになりながら、必死に恋仇の命乞いしやがって。
全く馬鹿な野郎だ。
お人好しにも程があるぜ。
だが、アイツの愚直なまでの信念には、チョッピリ感動したぜ。
あの後、別れたんだが、アイツ、郷里(くに)にチャンと帰り着けたんだろうか。
最後の最後までドジだったからな。



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『降り積もる思い④=鉄砕牙=』最終回萌え作品⑤

殺生丸、俺の兄。
兄とは云っても、血は、半分しか繋がってねえ。
親父が一緒なだけだ。
第一、俺みたいに半妖じゃねえしな。
アイツは、親父と同じ純粋な犬妖怪だ。
人間を母に持つ俺と違って、アイツは、母親も純血の犬妖怪だからな。
ケッ、そのせいか、随分と半妖の俺を馬鹿にしてくれたぜ。
そんなアイツが、欲しがった親父の形見、鉄砕牙。
何でも、アイツ、この刀を、二百年も探し回ってたらしい。
全く、呆れるくらいの執念だぜ。
まさか、俺の右目に封じられた黒真珠に、親父の墓が隠されてるなんて思いもしなかっただろうな。
俺自身、そんな事は、全く知らされてなかったしな。
多分、親父の下僕だったノミ妖怪の冥加じじいなら、知ってたんだろうが。
逆髪(さかさがみ)の結羅(ゆら)を、やっつけてホッとしてたら、今度は、腹違いの兄貴の来襲だ。
本当に、息つく暇もありゃしないぜ。
まず、久し振りに、ノミ妖怪の冥加じじいが、やって来た。
何の用かと思えば、親父の墓が荒らされたってえ禄でもない知らせだ。
けったくそ悪いと思ってたら、その晩、アイツが、殺生丸が来たんだ。
ご丁寧に、無女を使って偽のお袋まで仕立ててな。
無女は、飢えや戦で子を失った母達の無念の魂が寄り集まって出来た妖怪だ。
人の心の奥深く侵入して、秘密を探り出す事が出来る。
俺も、危うく、無女に吸い込まれる処だったぜ。
かごめが、起こしてくれなかったらな。
とにかく、殺生丸は、親父の墓の在り処を探り出した。
俺の右目から抉(えぐ)り出した黒真珠。
その中に親父の墓は隠されていたんだ。
そんな事の為だけに、ワザワザ、こんな手の込んだ芝居を仕組んだってのか!?
怒りに駆られた俺の爪を軽々と躱(かわ)す殺生丸。
アイツは、純粋な妖怪だけあって、半妖の俺よりも、数段、速いからな。
畜生、殺(や)られる!
そう思った俺を、無女が、身を以って殺生丸の爪から庇(かば)ってくれた。
死んだお袋の優しさを思いださせてくれた無女。
そんな無女を、殺生丸の奴、足蹴にして無造作に息の根を止めやがった。
今、思い返してみても、あの頃の殺生丸の冷酷非情さは、冗談抜きに半端じゃなかったぜ。
黒真珠を人頭杖で打てば、杖の上の翁の顔が不気味な笑い声を上げた。
カカカカカ・・・・墓が開く証拠だ。
現れた黒い光の中に殺生丸と下僕の邪見は消えた。
勿論、俺とかごめも後を追ったさ。
やられっ放しで置いとく訳がないだろう。
殺生丸の奴を、一発、ブン殴ってやらなけりゃ、気が済まない。
黒い光の入り口を通り抜ければ、急に広い場所に出た。
アソコは異世界の入り口、あの世とこの世の境だ。
俺とかごめは、必要に迫られて、もう一度、あの場所に赴く事になる。
弥勒や珊瑚、七宝、キララも一緒にな。
そして、殺生丸と邪見もだ。
とにかく、アソコじゃ、現実世界では有り得ない骨だけの鳥が飛んでた。
鎧を纏った巨大な骸(むくろ)が見えた。
・・・・親父だ。
変化を解いた本性のままの犬の姿。
辿り着いた巨大な親父の骸の中、台座に、一本の刀が突き刺さっている。
それが、鉄砕牙だった。
殺生丸が、ズッと探し続けていた宝刀。
一振りで百の妖怪を薙ぎ倒すという。
早速、殺生丸が、台座から、鉄砕牙を引き抜こうとしたんだが、生憎、結界に阻まれやがった。
へッ、いい気味だぜ。
それにしても、ボロッちい刀だったな。
柄はボサボサだし、刀身はボロボロで刃こぼれだらけ。
本当に、こんなオンボロ刀が、親父の形見だってのか。
俺は、そんな刀より、散々、人をコケにしてくれた殺生丸に仕返ししたかったんだ。
頭に血が上(のぼ)ったまま、殺生丸を狙ったんだが、あの野郎、フワフワ逃げやがって。
それを見ていた、かごめが、俺に云ったんだ。
鉄砕牙を抜けってな。
殺生丸が抜けなかった刀を、俺が抜けば、格好の意趣返しになるだろうとさ。
云われてみれば、確かに、そうだよな。
あんな手の込んだ猿芝居までして手に入れたがった刀だ。
それを、俺が、抜けば、野郎、どんなに悔しがる事か。
最高の嫌がらせだぜ。
だから、ボロ刀をひっ掴んで力任せに引き抜こうとしたんだが・・・・。
・・・・抜けねえ。 何でだよ???
気を抜いてたら、殺生丸が、爪で攻撃してきた。
アイツは、俺と違って、毒華爪(どっかそう)って云う猛毒の爪を持ってるんだ。
狙いを外した爪の毒が、アッと云う間に周囲の骨まで溶かしていく。
アレを喰らったら、俺でも唯じゃ済まねえ。
クッ、追い詰められた。
毒華爪が迫って来る!
そうしたら、何と、かごめが、鉄砕牙を抜いちまったんだ!
もう、殺生丸の関心は俺に無い。
かごめに移っている。
俺の必死の制止も聞かず、殺生丸の奴、かごめに毒華爪を浴びせたんだ。
ジュッ、ジュ———
毒で骸(むくろ)の骨がドロドロに溶かされて崩れ落ちて行く。
残骸に手を突っ込んでみたが、熱い!
あんな高温じゃ、絶対、助かりっこない。
畜生、よくも、かごめを・・・・。
俺は、完全に頭に来た。
腹の底から湧いてくる怒りに任せ、我を忘れて爪を振るった。
それは、殺生丸の胸元に当たり、妖鎧を打ち砕いた。
次は、腹わたを引きずり出して、のた打ち回らせてやる。
そう思ってたら・・・・・。
かごめの奴、死んでなかった!
ピンピンしてやがるんだ。
一体、どうなってるんだ?!?
どうやら、刀の結界に守られたらしい。
そんでもって、かごめの奴、威勢よく殺生丸に啖呵を切って、鉄砕牙を俺に手渡しくてれたんだ。
前にも思ったけど、本当、アイツって度胸が良いよな。
それを見てた殺生丸の奴、遂に、真剣に頭に来たらしいや。
目の前で本性の犬の姿に変化しやがった。
親父の巨大さには比ぶべくもないが、デカイ!
とはいえ、コッチには鉄砕牙が有るんだ。
刀の錆びにしてやる積りで、鉄砕牙を振るったんだが、殺生丸の野郎、全然、堪えてねえ!
それどころか、コッチの方が、ドンドン、追い詰められてくぜ。
冥加に聞いてみても、サッパリ、当てにならねえし。
それだけじゃねえ、あん畜生、形勢悪しと見て、サッサと俺を見捨てて逃げやがった!
クソ———ッ、どうすりゃいいんだ!?
そんな状況の中、かごめはかごめで、能天気に、俺を応援しやがるし。
んなもんで、少しは俺の苦労も判りやがれとチョコッと意地悪な気分になって云ったんだ。

「俺は頑丈だからいいけどよ、このままじゃ、おめえは死ぬかもな。」

そしたら、かごめの奴、ポロッと涙を流しやがったんだ。
あっ、焦ったぜ、目の前で女に泣かれちゃな。
だから、こう云ったんだ。

「俺が、おまえを守る。」

こうなったら、もう、破れかぶれだ。
やるだけやってやるぜ。
そう覚悟を決めたら、鉄砕牙の反応が違うんだ。
ドクン、ドクン、脈打ってる!
手に鉄砕牙の鼓動が伝わって来る。
まるで生きてるみたいだ。
(いける!)
そう感じたままに、俺を捕まえようとした殺生丸の左前脚を斬ったんだ。
やった! 
地響きを立てて崩れ落ちる殺生丸の左前脚。
キイィィィン・・・・鉄砕牙の刀身が、変化してる。
さっきまでの刃こぼれだらけの刀身じゃねえ。
ズシリと重い牙の大刀。
そうか、これが、鉄砕牙の真の姿。
前脚を斬られながらも、尚も、向かってくる殺生丸。
とどめとばかりに、胸元に、もう一撃、食らわしてやったぜ。
さしもの殺生丸も、あそこまで、良いように、やられちゃな。
そのまま、何処かへ姿を消したぜ。
アン、腰巾着(こしぎんちゃく)の邪見か?
アイツは、涙ながらに、必死こいて主人の後を追ってったぜ。
冥加の野郎は、コッチが、殺生丸に勝った途端に、調子よく戻ってきやがった。
鞘の在り処を教えてくれたから、今回、逃げたのは、帳消しにしてやるか。
とまあ、以上のように、辛くも、殺生丸に勝ちを収めた俺は、鉄砕牙を持って、冥加やかごめと一緒に、楓ばばあの村に戻ったんだ。
だけど、村へ戻った途端に、鉄砕牙は、元のボロ刀に戻っちまった。
振っても突いても何の変化もねえ。
何だよ、これ、訳、判んねえぜ。
俺が、そうやって、首を傾げてたら、かごめの奴が、エラク得意そうに声を掛けて来たんだ。
鉄砕牙の使い方を教えてやるってな。
そんでもって、アイツを、一生、守れなんて、ふざけた事を抜かしやがった。
あん時は、まだ、かごめを、そんな存在だなんて考えてなかったからな。
思ったまんま、俺が言い返したら・・・・。
フッ・・・・かごめの奴、思いっきり、『おすわり』を喰らわしてくれたぜ。


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『降り積もる思い③=逆髪の結羅=』最終回萌え作品⑤

屍舞烏(しぶがらす)を片付けたと思ったら、肝心の四魂の玉は、かごめの放った破魔の矢によって粉々に砕けちまった。
それだけじゃねえ!
砕けた欠片は、アチコチ、四方八方に飛び散ってしまったんだ。
・・・・・何てこった。
四魂の玉を頂戴して、こんな処とは、サッサとおさらばする積りだったのに。
欠片を、全部、集めるだけで、どんだけ時間が掛かると思ってんだよ。
全く、トンデモナイ疫病神だと思ったもんだぜ。
誰をって・・・・かごめの事だよ!
あいつと拘ってから、コッチ、碌な目に遭うわねえってな。
言霊の念珠で縛られるわ、四魂の玉は砕いちまうわ。
そりゃ、封印を解いてくれた事だけは感謝したけどな。
あの頃は、真剣に、そう思ってたな。
おまけに、息吐く暇もなく、新手の妖怪が、四魂の玉の欠片を狙ってきやがった。
今度の相手は、今迄みたいな雑魚じゃねえ。
逆髪(さかさがみ)の結羅(ゆら)って云って、鬼の仲間だ。
手強かったぜ、アイツは。
何しろ斬っても突いても死なないんだからな。
怖ろしく厄介な敵だった。
結羅の攻撃方法だが、髪を操って攻撃してくるんだ。
その髪が、コッチには見えないんだ。
かごめや楓ばばあと違って、俺に、霊力は無いからな。
おまけに、髪を使って、生きてる人間まで操れる。
まず、楓ばばあが、結羅に操られた村の娘に襲われ、大怪我を負わされた。
反撃したくても、操られてるのは村の人間だから、コッチャ、下手に手出しできねえと来てる。
その癖、操られてる方は、全く手加減なしで襲ってくるんだ。
ここは、一旦、逃げるしか無いだろう。
その上、結羅の操る髪を見破る事の出来るかごめは、トットと自分の世界に帰っちまうし。
だから、かごめの匂いを追って、骨喰いの井戸に入ったんだ。
思えば、あの時が、初めてだったな。
かごめの世界へ行ったのは。
あの頃は、行こうと思えば、何時だって、骨喰いの井戸が、コッチとアッチ、二つの世界を繋いでくれた。
かごめの云う処によると、アッチは五百年後の世界だそうだが。
奇妙な世界だったな。
何度か行き来する内に慣れたけど。
辿り着いてみれば、あいつ、悠長に家族と一緒に晩飯なんぞ食ってたっけ。
オデンとか云う食い物だったよな。
あれも、結構、上手いんだよな。
俺は、あの食い物、エッと、何て云ったっけ?
そうそう、カップラーメンが、一番、好きだけどな。
アァ、話が途中だったな。
早速、かごめを連れて戻ろうとしたら、かごめのお袋が引き止めるんだ。
何か文句でも?と思ったら、俺の犬耳をクイクイ引っ張って本物かどうか確かめやがる。
かごめの弟の草太まで同じ事をしようと順番待ってるんだ。
あいつら、紛れもなく親子だぜ。
俺の着物に結羅の髪が引っ付いていたらしくてな。
かごめが、血相変えて、骨喰いの井戸へ確かめに行ったんだ。
俺には、見えないが、かごめには見えるらしいや。
かごめが云うには、井戸を通り抜けて、髪の毛がウジャウジャ這い回ってたらしい。
事実、俺には見えないが、髪の束が絡み付いてくる感触は判った。
防ごうにも見えなくちゃ、どうしようもない。
そうしたら、かごめが、結羅が操ってる本線を見つけ出し、その髪を掴んで自分の血が伝うようにしたんだ。
それを切った途端に髪の攻撃が収まった。
かごめの奴、このまま、アッチの世界に居たら、自分の家族まで危ない目に遭うと悟ったらしい。
やけに素直に戻る気になったんだ。
良く見りゃ、頬に怪我してるみてえだし、これ以上、怪我させるのも悪いから俺の火鼠(ひねずみ)の衣を貸してやったんだった。
一応、あいつの目が無けりゃ、どうにもならないからな。
向こうへ戻った途端、目にしたのが首を狩られた落ち武者どもの一行だ。
生きてた時は侍として威張ってたんだろうが、無残なもんだぜ、ああなると。
落ち武者どもの骸(むくろ)を見て、かごめ、へたり込んでるかと思えば、置き去りにされてた弓矢を拾い上げて使おうとしてたっけ。
今、思い出しても、かごめは、最初から、度胸が、据わってたよな。
かごめの指示通りに進めば、現れてきたぜ。
髪を操る御本尊が!
見た目は十七・八かそこらの娘みたいだが、油断は出来ない。
あれだけの妖術を使いこなす奴だからな。
そう思ってたら、結羅の奴、髪で、俺の動きを封じておいて刀で斬り付けてきやがった。
そんな俺を見て助太刀する積りだったのか、かごめが、ヘナチョコの腕で弓を撃ってきたんだ。
かごめが、巫女だってのは、本当だった。
ヘナチョコな矢が当たる度に、結羅の張り巡らした髪がパシパシ消える音がしたからな。
そして、次の当たり損ねの矢が、結羅の髪の巣に当たったんだ。
ゲッ、髪の巣が崩れて、中から、さっきの落ち武者どもの生首が出てきた。
それだけじゃねえ、骨だけになった髑髏(しゃれこうべ)がウジャウジャ出て来たんだ。
結羅の奴、そうやって人間どもの首を狩り、髪を操ってきたんだな。
ふざけた事に、俺の頭も、その中に入れてくれるとさ。
ケッ、白銀の髪が、珍しいんだとよ。
俺の方に注意を惹きつけている積りだったのに、結羅の奴、イキナリ、かごめに、髪を通して火を放ちやがった。
“鬼火櫛(おにびぐし)”って云うらしい。
結羅の妖術の一つだ。
かごめをやっつけ、次は、俺を殺(や)る積りだったんだろう。
さっき、俺を斬り付けた鬼の宝刀、“紅霞(べにかすみ)”を振り回してきた。
こうなったら、俺の血に妖力を込めたあの技を使うしかねえ。

「喰らえっ、飛刃血爪(ひじんけっそう)!!」

狙い過(あやま)たず、血の刃は、結羅の右手を斬り落とした。
なのに、あの女は、痛そうな素振りもしやがらねえ。
それどころか、巣に蓄えこんだ髑髏どもを使って攻撃を仕掛けて来たんだ。
髑髏に気を取られてたら、その隙を衝いて、斬り落とされた右腕の刀で、二の太刀を喰らわしてきやがった。
再度、飛刃血爪で防ごうとしたら、チッ、髑髏どもに邪魔された。
グッ・・・しまった。
三の太刀を貰っちまった。
背後から刀が迫ってたのに気付かなかった。
イヤ、気付いてはいたが、髪で、動きが邪魔された。
ククッ・・・流石の俺も、これだけ血を流しちゃ満足な動きが出来ねえ。
大分、弱った俺を押さえ付けて首を刎ねようとする結羅。
首を刎ねて髪を操ろうって魂胆だ。
誰が、ムザムザそんな事させるかよ!
アイツが、刀を振り切る前に、渾身の力で、胸元を右手で抉(えぐ)ってやったんだ。
これで、息の根が止まるだろうと思ったのに。
結羅の奴、平気の平左だ。
一体、どうなってるんだ?
こいつの急所は、何処に有るんだ!?!
俺と結羅が、死闘を繰り広げてる間に、かごめが、髪の巣に登っていた。
何かを目指してるようだった。
それを見た途端、結羅が。急に慌て出した。
何か、よっぽど見つけられちゃ不味い物があるらしい。
そうしたら、かごめが教えてくれたぜ。
ある髑髏を指差して、こう云ったんだ。

「犬夜叉、あの髑髏に何か・・・何かある!」

かごめの指摘が図星だったんだろう。
結羅め、さっきまで闘ってた俺を放って、かごめを狙い出した。
左手で髪の束を操って髪(くし)の檻(おり)を作り出し、かごめに斬り付けたんだが。
かごめは、俺が貸した火鼠の衣を纏っている。
だから、さっきの鬼火櫛による炎攻撃にも火傷ひとつ負ってないし、腕も傷ついてない。
業を煮やした結羅は、かごめの首に髪を巻き付け、首を落とそうとした。
が、そうは問屋がおろさない!
飛刃血爪で結羅の左腕を斬り落とした。
これで、両腕は使えない。
もう、髪を操る事は出来ないだろう。
そう思ったのに、四の太刀を貰っちまった。
刀を握ったまま斬り落とした右腕を操ってる。
何故、両腕のない状態で、まだ、髪を操れるんだ?
五の太刀が来る!斬り落とした右腕が!
ギュン!ピシッ!
何だ・・・急に動きが止まった。
かごめが、何か有ると云ってた髑髏を破魔の弓で突いてる。
ビシビシッ・・・髑髏に罅(ひび)が走る。
怒り心頭に発した結羅が、かごめに、刀を向ける。
危ない! 髪一重の差で、かごめが、髑髏を完全に破壊した。
パシッ・・・髑髏の中に隠されていた櫛が割れた。
と同時に結羅が消滅した。
文字通り、塵も残さずに。
後に残ったのは結羅の愛刀、紅霞と鞘。
そして、パタパタと風に煽(あお)られる結羅が纏っていた衣装だけ。
あいつは、結羅は、櫛に魂移(たまうつ)ししてやがったんだ。
道理で、斬っても、突いても、平気だった訳だぜ。
随分、ひでえ目に遭ったが、とにかく四魂の欠片は取り戻せた。

「行くぞ、かごめ。」

声を掛けたら、かごめの奴、驚いてたな。
初めて名前を呼んだって。
そう云われれば、そうだった。
桔梗の生まれ変わりって事に拘(こだわ)って、それまで名前で呼んでなかったからな。
あの頃は、まだ鉄砕牙も現れてなかったよな。
肌身離さず身に付けている腰の大刀に目を遣る。
鉄砕牙、大妖怪の親父の牙から打ち出された刀。
謂わば、親父の形見。
この刀を巡って、何度、腹違いの兄、殺生丸と闘った事か。
そもそも、殺生丸が、この刀を欲しがらなかったら、鉄砕牙は、この世に出現さえしなかっただろう。
イヤ、下手すると、俺の右目の黒真珠に永遠に封じられたままだったかもな。
そう考えると、全てが成るべくして成った、そんな気がするぜ。


 

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『降り積もる思い②=邂逅=』最終回萌え作品⑤

この三年間、俺なりにズッと考え続けてきた。
繰り返し繰り返し何度もな。
時間だけは、ウンザリするほど有ったからな。
そうやって真剣に考えてるとな。
かごめに出会ってからの事が、走馬灯みたいに次から次へと思い出されてくるんだ。
本当に目まぐるしいくらい、色々、有ったからな。
どうして骨喰いの井戸が繋がらなくなったのか。
そもそも、何故、俺とかごめは出会ったんだ。
五十年前、俺は桔梗に封印された。
破魔の矢によって御神木に釘付けにされたんだ。
その誰にも破れないはずの封印を、五十年ぶりに破ったのが、かごめだ。
何でも、かごめは、百足上臈(むかでじょうろう)に、無理矢理、骨喰いの井戸に引きずり込まれ、その結果、この時代に引き寄せられたらしい。
あの年増妖怪は、かごめの体内に在った四魂の玉が欲しかったんだろうな。
だが、それにしたって、話が出来すぎてる。
何故、かごめが十五歳の誕生日を迎えた日に、それが起きたんだ。
それまでも、かごめの体内に四魂の玉は有ったんだ。
何も、ワザワザ、十五歳になるまで待つ必要は無かったんじゃねえのか。
その点についても、散々、考えたんが・・・・。
俺には、どう考えても、コレだって答えが思いつかなかった。
だから、こう考える事にした。
きっと、俺には判らない何らかの理由が有って、その日まで、かごめは、守られてきたんだろうってな。
もしかすると、十五歳って年回りが答えなのかも知れねえ。
かごめの時代じゃ、どうか知らねえが、この時代、女の十五歳って云えば、もう子供じゃねえ、立派な大人だ。
大体、男が、十五歳くらいまでに元服するんだ。
女の場合は、もっと早いだろう。
以前、冥加じじいに聞いた話じゃ、都では、貴族の姫は、十二・三歳で裳着(もぎ)とかいう成人の儀式をするんだってよ。
お袋も、それを、やったそうだ。
そして、それが済んだら、即、結婚する場合が多いらしい。
つまり、かごめの場合、大人になったから、今までの守護が解けて、この時代に引き寄せられたって事かもな。
そして、御神木に封印されてた俺を見たんだ。
かごめの奴、俺を見て、まず最初に何をしたと思う?
俺の耳に触って、本物か、どうか確かめたんだとよ。
フン、確かに、この犬耳は、目立つからな。
隠そうったって隠せやしねえ。
そうやって、かごめが、俺の耳を弄(いじ)って遊んでたら、不審人物だって、村人に、とっ捕まったらしいや。
俺が封印されてた森は、禁域になってたそうだからな。
そこで、初めて、かごめは、楓ばばあに会ったんだ。
楓ばばあは、かごめを一目見て、気付いたそうだ。
五十年前に亡くなった姉の桔梗に似てるって。
確かに、かごめは、桔梗と生き写しだからな。
俺も、最初は、間違えた。
尤も、雰囲気は、まるで違うけどな。
その晩、村は、百足上臈に襲われた。
奴の目的は、勿論、かごめの体内に有った四魂の玉だ。
そして、俺も、永遠に解けない筈の封印から目覚めた。
まるで、かごめの出現に呼応するみてえに。
尤も、封印の矢が刺さったままだから、動く事も、ままならない状態だったけどな。
そして、かごめが、百足上臈に追われて逃げて来たんだ。
あの年増妖怪、かごめの横腹を喰い破って、四魂の玉を出しやがった。
あれには、俺も、驚いたぜ。
何故、かごめが、四魂の玉を体内に持ってたのか。
その理由は、後で判ったけどな。
とにかく、百足上臈の奴、四魂の玉を呑み込んで、変化しやがった。
そして、かごめごと俺を絞め殺そうとしたんだ。
助かるには、俺の封印を解くしかねえ。
だから、かごめに、俺を封印してる破魔の矢を抜かせたんだ。
封印さえ解ければ、コッチのもんだからな。
百足上臈ごとき雑魚妖怪、何て事はねえ。
一気に、俺の爪、散魂鉄爪で引き裂いてやったぜ。
ついでに、そのまま、四魂の玉を手に入れようとしたんだ・・・・が。
楓ばばあの奴、余計な事しやがって。
言霊の念珠を俺の首に掛けやがったんだ!
おかげで、それ以来、俺は、何度、かごめの「おすわり」を喰らわされた事か。
かごめの居ない、この三年間は、喰らってないけどな。
畜生、今じゃ、それさえも懐かしいぜ。
百足上臈を、やっつけた後、楓ばばあの家で聞かされた驚くべき事実。
かごめが、桔梗の生まれ変わり?
最初は、信じたくなかったが、信じざるを得なかった。
桔梗と生き写しの容貌、神通力、そして、何より、体内に四魂の玉を持っていた事。
その頃、俺は、まだ、桔梗に裏切られたと思い込んでたからな。
だから、桔梗の生まれ変わりのかごめも信用する気になれなかった。
そう思ってたんだが、四魂の玉を狙う性質(たち)の悪い妖怪が、早速、現われやがった。
屍舞烏(しぶがらす)っつってな、三つ目の烏(からす)妖怪だ。
形(なり)が小さいから、人間を襲い、心の臓を喰らう。
そして、胸に巣食って、死体を操って戦うんだ。
そいつが、玉の匂いを嗅ぎつけやがった。
屍舞烏は、早速、野盗の頭目を殺し、そいつに成りすまして、かごめを攫(さら)わせたんだ。
四魂の玉を手に入れる為にな。
かごめは、幸い、無事だったんだが、屍舞烏は、四魂の玉を呑み込んじまった。
その途端、変化して図体が前よりデカクなりやがって、子供を攫(さら)いやがった。
子供は、どうなったかって?
勿論、助かったさ。
かごめが、意地でも助けようとしたからな。
一度は、俺が散魂鉄爪で引き裂いてやったんだが、奴は、四魂の玉を呑み込んでる。
アッという間に、再生し始めちまった。
生憎、俺は飛べないからな。
奴が、飛び去るのを指を咥(くわ)えて見てるしかねえ。
そしたら、飛び去ろうとする屍舞烏を、かごめが、破魔の矢で撃ち抜いたんだ。
それも、屍舞烏だけじゃねえ。
四魂の玉まで撃ち抜きやがって!
おかげで、玉は粉々に打ち砕かれ、欠片は、四方八方に飛び散ってしまった。
それが、四魂の玉の欠片捜しの旅の始まりって訳だ。


拍手[3回]

『降り積もる思い①=三年後=』最終回萌え作品⑤

天空に掛かる細い月。
朔(さく)から回復したばかりのせいだろう。
皓皓と輝く望(ぼう)、満月に比べ、見る影もなく痩せ衰え、何とも心許(こころもと)ない。
発する光も、極々、弱い。
目を凝らさなければ見逃してしまいそうな程に。
月の光が細く頼りない代わりに、全天に散りばめられた星々が宝石のように瞬(またた)く。
人も獣も、皆、寝静まる時刻、村を見下ろす高台に、独り立ち尽くす少年がいる。
イヤ、少年と呼ぶよりは、寧ろ、青年と云うべきだろうか。
身に纏う雰囲気に少年特有の柔らかさは感じられない。
真紅の童水干、身なりから云えば良家の子弟と思われる。
夜風にはためく長い白銀の髪。
闇の中にあってさえ輝きを失わない金色の獣眼。
夜目の利かない人間には、殆ど黒一色にしか見えない風景も、彼には昼間と大差なく見えている。
少年の域を脱したばかりの青年は、一見、毛色の変わった人間のように見えるが、一つだけ目に見えて大きな違いが有る。
白銀の髪からニョキッと突き出している彼の耳。
それは、明らかに人間の物ではない。
その形状と云い、高い位置と云い、紛れもなく犬の耳である。
青年は、人間と犬妖怪の間に生まれた混血、所謂(いわゆる)、『半妖』である。
人間ではないが、妖怪でもない。
と同時に人間であり、妖怪でも有る。
大妖怪の父親から与えられた名も、その出自に相応しく「犬夜叉」と云う。
凍て付く冬の寒気が緩み、早春の息吹きが野山を覆い始めている。
微(かす)かな草木の萌え出る気配が、犬夜叉の鋭敏な嗅覚を刺激する。

「春か・・・・。かごめが居ない三度目の春だな。」

「かごめ、今、どうしてる? 元気か?」

犬夜叉の脳裏に浮かぶのは、懐かしい恋人の姿。
風変わりな格好をした異国の少女だった。
そして、犬夜叉の嘗ての想い人、巫女、桔梗の生まれ変わりでもあった。
三年前、宿敵の奈落を討ち果たし、全ての元凶、四魂の玉をも滅した犬夜叉とかごめ。
奈落の謀略により、一度は、この世から消失した骨喰いの井戸は、四魂の玉が消滅すると同時に再び出現した。
其処から、かごめを元の世界、現代へ送り届けた直後に、犬夜叉は、自分の世界、戦国時代に引き戻された。
恰(あたか)も目に見えない大きな力に、有無を言わせず摑まれたかのように。
その時以来、骨喰いの井戸は、以前のような二つの世界を繋ぐ能力を失い、沈黙を続けている。
犬夜叉が、何度、試そうが、結果は同じだった。
井戸の向こう、かごめの世界へは行けない。
それでも諦めきれず、犬夜叉は、試し続けた。
この三年間、三日に一度は、骨喰いの井戸に入り続けてきた。
つい、先程も試したばかりだ。
結果は、勿論、云うまでもないだろう。
このまま、もう、二度と、かごめに逢えないのだろうか・・・・
そんな思いが頭に浮かぶ度に、犬夜叉は打ち消し続けてきた。
諦めたら、本当に、逢えなくなってしまう。
そんな気がしてならなかった。
かごめの居ない三年の間、様々な変化が、皆に等しく訪れていた。
奈落が滅され、右手の風穴が消えた弥勒は、珊瑚と村で所帯を持った。
犬夜叉は弥勒と珊瑚の夫婦に思いを馳せた。
弥勒は念願の子作りに専念した。
努力の甲斐あって、今じゃ、何と三人の子持ちだ。
計算が合わない?
そりゃそうだろう、最初は、イキナリ女の双子だったからな。
あれには驚いた。
そして、つい先頃、三人目が生まれた。
今度は男だ。
あの調子だと、これからも、まだまだ増えそうだぜ。
弥勒は何人も自分の子供を持つのが長年の夢だったからな。
生計は、どうしてるかって?
ハッ、決まってるだろう。
俺と組んで妖怪退治を専門に請け負ってる。
奈落が居なくなったからって、妖怪が、完全に消えた訳じゃねえからな。
相変わらず口先三寸で、金持ちどもから、ぼったくってるぜ。
此間(こないだ)なんか、御札一枚につき米が一俵だぜ。
おまけに三枚も貼ったもんだから、米三俵だ。
とんでもねえ暴利だよな。
風に乗って、犬夜叉の鼻腔に、ある人物の残り香が漂ってきた。
以前だったら、この匂いを嗅いだだけで一気に緊張感が高まった物だった。
今では、当たり前過ぎて驚きもしない。
犬夜叉の異母兄、完全なる妖怪、殺生丸の残り香である。
何故かって?
あいつは、三日と空けずに村にやって来るんだよ。
りんに逢う為にな。
そんなのを、一々、気にしてられるかってんだ。
かごめの事に気を取られて・・・・最初の内は気が付かなかったけどよ。
奈落を滅した後、殺生丸の奴、りんを、楓ばばあに預けたんだ。
何でかって・・・・楓ばばあが云うには、人里に戻す訓練なんだとさ。
つまり、いずれ、りんが成長して、どっちを選んだとしても困らないようにってな。
どっちかって、決まってんだろう!
殺生丸か、人間の男かって事だよ。
ケッ、そんな事云いながら、あいつは三日と空けずに村に通ってくるんだ。
りんが喜びそうな土産を携えてな。
それも三年間、ズッとだぜ。
あいつの行動を見てると、人間の男なんぞに、りんを渡す気は、これっぽっちも無さそうだぜ。
よっぽど、りんが、大事なんだろうよ。
かごめが、俺に取って、掛け替えの無い存在であるようにな。
それにしても・・・変われば変わるもんだぜ。
あれだけ人間を嫌ってたのにな。
イヤ、殺生丸の場合、今でも人間を好いてるって事はないだろう。
りんが、特別なんだ。
りんの為に、仕方なく他の人間どもをを我慢してるってのが本音だろうな。
だが、それでも大した変わり様だ。
以前の奴なら、人間なんぞ、問答無用で抹殺だったもんな。
俺は勿論だが、かごめだって危うく殺されかけた事が二回もあるくらいだからな。
昔は、人間の血が混じってるからって、半妖の俺を『一族の恥』とまで言い切ってくれたのによ。
それが、今じゃ、親父と同じ事してやがる。
結局、殺生丸も親父の血を引いてるって事か。
不思議だな、今夜は、妙に、心が素直になってるようだ。
明日にでも、楓ばばあに、あの時の事を詳しく話してやるとするか。
何故、俺だけが、一人、戻って来たのかを。
ズッと、どういう事情か、知りたがってたみてえだからな。
つまり、やっと、俺も、三年前の事を普通に話せる心境になったってえ事か。


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