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『降り積もる思い④=鉄砕牙=』最終回萌え作品⑤

殺生丸、俺の兄。
兄とは云っても、血は、半分しか繋がってねえ。
親父が一緒なだけだ。
第一、俺みたいに半妖じゃねえしな。
アイツは、親父と同じ純粋な犬妖怪だ。
人間を母に持つ俺と違って、アイツは、母親も純血の犬妖怪だからな。
ケッ、そのせいか、随分と半妖の俺を馬鹿にしてくれたぜ。
そんなアイツが、欲しがった親父の形見、鉄砕牙。
何でも、アイツ、この刀を、二百年も探し回ってたらしい。
全く、呆れるくらいの執念だぜ。
まさか、俺の右目に封じられた黒真珠に、親父の墓が隠されてるなんて思いもしなかっただろうな。
俺自身、そんな事は、全く知らされてなかったしな。
多分、親父の下僕だったノミ妖怪の冥加じじいなら、知ってたんだろうが。
逆髪(さかさがみ)の結羅(ゆら)を、やっつけてホッとしてたら、今度は、腹違いの兄貴の来襲だ。
本当に、息つく暇もありゃしないぜ。
まず、久し振りに、ノミ妖怪の冥加じじいが、やって来た。
何の用かと思えば、親父の墓が荒らされたってえ禄でもない知らせだ。
けったくそ悪いと思ってたら、その晩、アイツが、殺生丸が来たんだ。
ご丁寧に、無女を使って偽のお袋まで仕立ててな。
無女は、飢えや戦で子を失った母達の無念の魂が寄り集まって出来た妖怪だ。
人の心の奥深く侵入して、秘密を探り出す事が出来る。
俺も、危うく、無女に吸い込まれる処だったぜ。
かごめが、起こしてくれなかったらな。
とにかく、殺生丸は、親父の墓の在り処を探り出した。
俺の右目から抉(えぐ)り出した黒真珠。
その中に親父の墓は隠されていたんだ。
そんな事の為だけに、ワザワザ、こんな手の込んだ芝居を仕組んだってのか!?
怒りに駆られた俺の爪を軽々と躱(かわ)す殺生丸。
アイツは、純粋な妖怪だけあって、半妖の俺よりも、数段、速いからな。
畜生、殺(や)られる!
そう思った俺を、無女が、身を以って殺生丸の爪から庇(かば)ってくれた。
死んだお袋の優しさを思いださせてくれた無女。
そんな無女を、殺生丸の奴、足蹴にして無造作に息の根を止めやがった。
今、思い返してみても、あの頃の殺生丸の冷酷非情さは、冗談抜きに半端じゃなかったぜ。
黒真珠を人頭杖で打てば、杖の上の翁の顔が不気味な笑い声を上げた。
カカカカカ・・・・墓が開く証拠だ。
現れた黒い光の中に殺生丸と下僕の邪見は消えた。
勿論、俺とかごめも後を追ったさ。
やられっ放しで置いとく訳がないだろう。
殺生丸の奴を、一発、ブン殴ってやらなけりゃ、気が済まない。
黒い光の入り口を通り抜ければ、急に広い場所に出た。
アソコは異世界の入り口、あの世とこの世の境だ。
俺とかごめは、必要に迫られて、もう一度、あの場所に赴く事になる。
弥勒や珊瑚、七宝、キララも一緒にな。
そして、殺生丸と邪見もだ。
とにかく、アソコじゃ、現実世界では有り得ない骨だけの鳥が飛んでた。
鎧を纏った巨大な骸(むくろ)が見えた。
・・・・親父だ。
変化を解いた本性のままの犬の姿。
辿り着いた巨大な親父の骸の中、台座に、一本の刀が突き刺さっている。
それが、鉄砕牙だった。
殺生丸が、ズッと探し続けていた宝刀。
一振りで百の妖怪を薙ぎ倒すという。
早速、殺生丸が、台座から、鉄砕牙を引き抜こうとしたんだが、生憎、結界に阻まれやがった。
へッ、いい気味だぜ。
それにしても、ボロッちい刀だったな。
柄はボサボサだし、刀身はボロボロで刃こぼれだらけ。
本当に、こんなオンボロ刀が、親父の形見だってのか。
俺は、そんな刀より、散々、人をコケにしてくれた殺生丸に仕返ししたかったんだ。
頭に血が上(のぼ)ったまま、殺生丸を狙ったんだが、あの野郎、フワフワ逃げやがって。
それを見ていた、かごめが、俺に云ったんだ。
鉄砕牙を抜けってな。
殺生丸が抜けなかった刀を、俺が抜けば、格好の意趣返しになるだろうとさ。
云われてみれば、確かに、そうだよな。
あんな手の込んだ猿芝居までして手に入れたがった刀だ。
それを、俺が、抜けば、野郎、どんなに悔しがる事か。
最高の嫌がらせだぜ。
だから、ボロ刀をひっ掴んで力任せに引き抜こうとしたんだが・・・・。
・・・・抜けねえ。 何でだよ???
気を抜いてたら、殺生丸が、爪で攻撃してきた。
アイツは、俺と違って、毒華爪(どっかそう)って云う猛毒の爪を持ってるんだ。
狙いを外した爪の毒が、アッと云う間に周囲の骨まで溶かしていく。
アレを喰らったら、俺でも唯じゃ済まねえ。
クッ、追い詰められた。
毒華爪が迫って来る!
そうしたら、何と、かごめが、鉄砕牙を抜いちまったんだ!
もう、殺生丸の関心は俺に無い。
かごめに移っている。
俺の必死の制止も聞かず、殺生丸の奴、かごめに毒華爪を浴びせたんだ。
ジュッ、ジュ———
毒で骸(むくろ)の骨がドロドロに溶かされて崩れ落ちて行く。
残骸に手を突っ込んでみたが、熱い!
あんな高温じゃ、絶対、助かりっこない。
畜生、よくも、かごめを・・・・。
俺は、完全に頭に来た。
腹の底から湧いてくる怒りに任せ、我を忘れて爪を振るった。
それは、殺生丸の胸元に当たり、妖鎧を打ち砕いた。
次は、腹わたを引きずり出して、のた打ち回らせてやる。
そう思ってたら・・・・・。
かごめの奴、死んでなかった!
ピンピンしてやがるんだ。
一体、どうなってるんだ?!?
どうやら、刀の結界に守られたらしい。
そんでもって、かごめの奴、威勢よく殺生丸に啖呵を切って、鉄砕牙を俺に手渡しくてれたんだ。
前にも思ったけど、本当、アイツって度胸が良いよな。
それを見てた殺生丸の奴、遂に、真剣に頭に来たらしいや。
目の前で本性の犬の姿に変化しやがった。
親父の巨大さには比ぶべくもないが、デカイ!
とはいえ、コッチには鉄砕牙が有るんだ。
刀の錆びにしてやる積りで、鉄砕牙を振るったんだが、殺生丸の野郎、全然、堪えてねえ!
それどころか、コッチの方が、ドンドン、追い詰められてくぜ。
冥加に聞いてみても、サッパリ、当てにならねえし。
それだけじゃねえ、あん畜生、形勢悪しと見て、サッサと俺を見捨てて逃げやがった!
クソ———ッ、どうすりゃいいんだ!?
そんな状況の中、かごめはかごめで、能天気に、俺を応援しやがるし。
んなもんで、少しは俺の苦労も判りやがれとチョコッと意地悪な気分になって云ったんだ。

「俺は頑丈だからいいけどよ、このままじゃ、おめえは死ぬかもな。」

そしたら、かごめの奴、ポロッと涙を流しやがったんだ。
あっ、焦ったぜ、目の前で女に泣かれちゃな。
だから、こう云ったんだ。

「俺が、おまえを守る。」

こうなったら、もう、破れかぶれだ。
やるだけやってやるぜ。
そう覚悟を決めたら、鉄砕牙の反応が違うんだ。
ドクン、ドクン、脈打ってる!
手に鉄砕牙の鼓動が伝わって来る。
まるで生きてるみたいだ。
(いける!)
そう感じたままに、俺を捕まえようとした殺生丸の左前脚を斬ったんだ。
やった! 
地響きを立てて崩れ落ちる殺生丸の左前脚。
キイィィィン・・・・鉄砕牙の刀身が、変化してる。
さっきまでの刃こぼれだらけの刀身じゃねえ。
ズシリと重い牙の大刀。
そうか、これが、鉄砕牙の真の姿。
前脚を斬られながらも、尚も、向かってくる殺生丸。
とどめとばかりに、胸元に、もう一撃、食らわしてやったぜ。
さしもの殺生丸も、あそこまで、良いように、やられちゃな。
そのまま、何処かへ姿を消したぜ。
アン、腰巾着(こしぎんちゃく)の邪見か?
アイツは、涙ながらに、必死こいて主人の後を追ってったぜ。
冥加の野郎は、コッチが、殺生丸に勝った途端に、調子よく戻ってきやがった。
鞘の在り処を教えてくれたから、今回、逃げたのは、帳消しにしてやるか。
とまあ、以上のように、辛くも、殺生丸に勝ちを収めた俺は、鉄砕牙を持って、冥加やかごめと一緒に、楓ばばあの村に戻ったんだ。
だけど、村へ戻った途端に、鉄砕牙は、元のボロ刀に戻っちまった。
振っても突いても何の変化もねえ。
何だよ、これ、訳、判んねえぜ。
俺が、そうやって、首を傾げてたら、かごめの奴が、エラク得意そうに声を掛けて来たんだ。
鉄砕牙の使い方を教えてやるってな。
そんでもって、アイツを、一生、守れなんて、ふざけた事を抜かしやがった。
あん時は、まだ、かごめを、そんな存在だなんて考えてなかったからな。
思ったまんま、俺が言い返したら・・・・。
フッ・・・・かごめの奴、思いっきり、『おすわり』を喰らわしてくれたぜ。


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