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『降り積もる思い⑥=妖面=』

九十九(つくも)の蝦蟇(がま)をやっつけて四魂の玉の欠片は二つになった。
ヨッシャ! この調子でバンバン集めっぞ!
と意気込んでたら、かごめの奴、アッチの世界に戻るなんて言い出しやがった。
テストだの高校受験だの、こちとらにはサッパリ訳の判んねえ言葉をベラベラまくし立ててよ。
てめえの事情なんぞ知るか! 
こうなったら、勝手にアッチの世界に戻れないように、骨喰いの井戸を、ぶっつぶしてやるぜ。
そう考えて、大岩を骨喰いの井戸にぶつけようとしたら・・・・。
フッ、また、喰らっちまったぜ、『おすわり』。
それも、一回じゃねえ、今度は八連発だ。
畜生、おかげで、暫く、腰が痛かったぜ。
あん時は、よっぽど怒ってたんだな、かごめ。
マッ、今、思い返すと無理もないぜ。
かごめの家族も、友達も、みんな、アッチの世界に居るんだもんな。
そんな事にさえ思い至らなかった当時の自分の未熟さ、馬鹿さ加減が、身に沁みて良~~く判るぜ。
こんな馬鹿な俺を、何時だって、かごめは、思いやってくれたのに・・・な。
アア、済まねえ、話が湿っぽくなっちまったな。
先を続けよう。
とにかく、俺は、仕方なく三日後を待つ事にした。
また、『おすわり』を喰らわさちゃ堪らないからな。
ジリジリ待った挙句、約束の三日後、迎えに行けば、今度は、更に三日待てだと!
またしても、勉強だ、数学だ、追試だのと、俺にはチンプンカンプンな事を喚(わめ)いてよ。
『おすわり』の連発を喰らった恨みも手伝って、ケンもホロロに突っぱねてやったら・・・・。
かごめの奴、ブチ切れやがった!
涙を浮かべながら、キッと俺を睨んでよ。
内心、ドキドキしちまったぜ。
俺は、かごめの涙には、特に弱いんだ。
チッとは悪かったかなと思って、俯(うつむ)いてるかごめをソッと覗きこめば。
あの野郎、俺を、骨喰いの井戸の中に蹴り飛ばしやがった!
畜生、俺が、何をしたってんだ!
かごめの馬鹿野郎~~~~
コッチに戻った俺は、流石に拗ねた。
もう、頼まれたって迎えになんか行かねえっ!
そう思ってたんだが・・・・。
骨喰いの井戸から、かごめの匂いがするじゃねえか。
それも、血の匂いだ!
何か有ったな。
急いで骨喰いの井戸に飛び込んでみれば、かごめの弟の草太が、泣きながら井戸の土を掘ってるじゃねえか。
ヨシッ、飛ばすぞ、草太!
かごめの血の匂いを頼りに居所を嗅ぎ付ける。
居たぞ! 
随分、高い処に登ってるじゃねえか、かごめ。
後で草太に聞いたら工事現場とか云う場所だったらしい。
尤も、俺に取っちゃ、あの程度、ひとッ飛びの高さだがな。
何だ、敵は、随分、気味の悪い肉の塊(かたま)りみてえな奴だな。
かごめに襲い掛かろうとしてやがる。
そうはいくか!

「散魂鉄爪!」

ヘッ、化け物め、腕の部分を引き裂いてやったぜ。
まだ、息の根は止まってないみてえだな。
オット、その前に、かごめに云わせなくちゃな。
こないだの事について詫びを入れてもらわねえと。
俺が、先日の事を追及すれば、かごめの野郎、綺麗サッパリ忘れてやがったんだ。
やけにアッサリ謝りやがって。
ちっとも誠意が感じられねえ!
俺は、あんなに気にしてたのに。
チッ、とりあえず、その事は後回しだ。
まずは、この気色悪い化け物を片付けないとな。
かごめが云うには、こいつの本体は能面らしい。
そんでもって額に四魂の欠片が入ってるんだと。
能面の化け物が語る処によると、こいつは、『肉づきの面』と云って、数百年の昔、四魂の欠片を受けた大桂の木から彫り出されたんだとよ。
それ以来、体が欲しくて、人を喰らい続けてきたそうだが、人の体は、簡単に壊れちまうらしいや。
だから、もっと強い体を創る為に、かごめの持ってる四魂の玉を狙ってたんだとさ。
何人、喰ったか知らねえが、ブクブク太りやがって。
今後は、二度と太れないようにしてやるぜ。
能面が、二つに割れた。
ヘッ、それで人を喰らってきたのかよ。
そんなんで、俺が、やられるかよ。
散魂鉄爪で真っ二つに分断してやったぜ。
これで終わりかと思いきや、あの化け物め、二つに別れた体を合わせて、俺の右腕を挟み込みやがった。
その上、喰い殺した人間の腕を使って、俺を掴みやがって。
気持ち悪い手で、ベタベタ、触るんじゃねえっ!
俺の右腕を挟み込んでる体ごと、ぶん回して鉄の塊り(クレーンとか云う物らしい)にぶつけてやった。
体は、完全に潰れ、使い物にならないようにしてやったんだが、あん畜生、本体の能面の片面だけで向かってきやがった。
右手を引き抜きざま、その片面を掴み、砕いてやったぜ。
バキッ! 
ヘッ、ざまあ見やがれ。
かごめが叫んでる。
四魂の欠片を持った、もう一方の片面から、欠片を取れってな。
何と、その残りの片面が、かごめ達の背後に回り込んでやがった。
そのまま、かごめの顔に張り付きやがって。
かごめ、待ってろ! 今、行く!
鉄砕牙を抜き放ち、かごめに張り付いた片面の額の部分を斬り落とした。
四魂の欠片が入ってる部分だ。
キ———ン
四魂の欠片を残し、残った片面も消滅した。
ヨシッ、かごめも無事だ。
フッ、これで貸しが一つ出来たな。
これからは、もう、好き勝手させねえ。
そう考えてた俺なんだが・・・・。
かごめの奴、大慌てで帰っちまいやがって。
俺は、草太と二人、ポツンと置き去りにされたんだ。
肩透かしってのは、あの事を云うんだよな。
ウ~~~命を救ってやったのに・・・・。
この扱いは何なんだ???
もっと感激してくれたっていいじゃねえかよ。
草太が、慰めてくれたが、どうも納得がいかねえ。
とにかく、かごめと出会って以来、俺の調子は、狂いっぱなしだぜ。



 

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