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『降り積もる思い⑩=裏陶(うらすえ)と桔梗=』最終回萌え作品⑤

あれは予知夢だったんだろうか。
四魂の欠片捜しの旅を始めてから、大分経った頃の事だった。
最初の顔触れは、かごめとノミ妖怪の冥加じじいだけだったのに、何時の間にか、子狐妖怪の七宝が一行に加わっていた。
おかげで、道中が、随分、賑やかになっていたな。
初めて、俺が、かごめに会った時、季節は春だった。
蜘蛛頭(くもがしら)を倒したのが夏。
それからも、妖怪を倒して四魂の欠片は増えていた。
あの頃は、もう夏が終わり秋に入ってたよな。
俺は昔の夢を見た。
封印が解かれてから初めて見た夢。
嫌な夢だった。
何しろ、俺が、御神木に封印された時の夢だからな。
俺を封印したのは忘れもしない巫女の桔梗。
その桔梗の生まれ変わりが、かごめだってんだからな。
思わず寝てるかごめの側に寄ってマジマジと顔を眺めちまったぜ。
そしたら、かごめの奴、寝ぼけ眼(まなこ)で、イキナリ人の顔を引っ叩(ぱた)きやがった。
パ———ン!
畜生、こんな乱暴な女の何処が、桔梗に似てるってんだ!
似てねえ、断じて!
その時、妙な物音がした。
シャ———カタカタ・・・カタカタ・・・
宵闇の中、不気味な風体(ふうてい)をした妖怪婆(ばばあ)が中空を飛んでいく。
背に葛籠(つづら)を背負い、肩には大鎌を担いでたな。
さしずめ、見た目から判断して鬼婆って処か。
アイツから強く匂ってきた血の匂い。
何っ、この匂いは・・・・。
夜が明けると楓ばばあの村へ急行した。
良かった、生きてたか、楓ばばあ。
怪我はしてるものの、命に別状は無さそうだ。
とりあえず、楓ばばあの姿を確認して内心ホッとしたぜ。
楓ばばあに怪我を負った経緯(いきさつ)を聞いてみると、これが穏やかじゃねえ。
ヤッパリ、昨夜(ゆうべ)見た鬼婆に襲われたんだそうだ。
鬼婆の名は鬼女(きじょ)、裏陶(うらすえ)。
祠(ほこら)が暴(あば)かれ、周囲の土が掘り返されてた。
然も、その祠は桔梗の墓だって云うじゃねえか。
正直、思い出したくねえ名前だったぜ。
楓ばばあの奴、怪我した身で桔梗の骨を取り戻しに行く積りらしい。
冥加じじいに、その裏陶(うらすえ)とやらについて聞いてみたんだが、口を濁して、ハッキリ答えねえ。
その反応から判断すると、かなり、やばい相手みたいだな。
どうも気になる事が有ったんだ。
あの鬼婆の葛籠(つづら)から、骨と一緒に湿った土の匂いがプンプンしてた。
そんな物を、一体、何に使う気だ?
考え込む俺の許に、かごめが来て云ったんだっけな。
楓ばばあと一緒に行こうって。
かごめは、桔梗の事を、ズッと昔に死んだ女(ひと)だと云う。
だが、俺に取っちゃ、昔なんかじゃねえ。
封印されてた俺には、もう五十年も経ってるなんて実感は、正直な話、全然ねえんだ。
つい、さっき起きたばかりの生々しい出来事なんだよ。
桔梗とソックリなかごめを見たら、嫌でも思い出しちまう。
だから、顔を見ないようにしてたのに、かごめの奴、妙に勘が鋭いんだ。
強引に、俺の髪を掴んで顔を覗き込んできやがった。
そうこうしてる内に楓ばばあが出発したんで、仕方なく一緒に付いてく事にした。
楓ばばあ一人じゃ、到底、あの鬼婆に敵(かな)わねえだろうしな。
鬼婆の臭いを追って行けば、ドンドン、山の中へ入り込んでくじゃねえか。
途中、崖から崖に渡された一本の長い吊り橋に出た。
周囲には靄(もや)が立ち込め視界が悪い。
吊り橋の向こう側から何か来る。
何だ、ありゃ?!
一見、人間みたいだが、それにしちゃ、妙な動きだな。
まるで人形みたいだ。
散魂鉄爪で奴らを倒してみれば、アイツら、体の半分は土人形だ。
まだまだ、ドンドン出て来る。
クソッ、雨後の筍みたいに出てきやがって。
俺が土人形もどきに梃子摺(てこず)ってる時だった。
鬼婆が、急に目の前に現れてな。
吊り橋を大鎌で分断しやがった。
俺は、アイツみたいに飛べないから、当然、落ちるしかない。
谷間に落ちた俺が、かごめ達は、どうなっただろうかと心配してたら・・・。
ゴ————
頭上から大きな木の葉が落ちて来るじゃねえか。
楓ばばあと七宝だ。
ドス! そのまま、俺の上に落ちてきやがった。
重いじゃねえか、馬鹿野郎!
何だとっ!かごめが鬼婆に攫われただと!
かごめを助けに向かおうとする俺に、楓ばばあが、桔梗と俺の間に、以前、何が有ったのかと訊いて来た。
ケッ、人の古傷に触れるような事を。
話したがらない俺に楓ばばあがトンデモナイ推測を聞かせてくれた。
間もなく桔梗に会う事になるだろうってな。
驚いたぜ、正直、そんな展開になるとは想像もしてなかったからな。
楓ばばあを背負って山を登る道々、思い出すのは昔の出来事。
俺と桔梗は好き合ってた筈・・・だった。
なのに桔梗は・・・俺を裏切ったんだ
俺は、本当の妖怪になる為に、四魂の玉が欲しかった。
その四魂の玉を守ってた桔梗。
俺は、何度も四魂の玉を狙ったが、その度に失敗した。
桔梗は、怖ろしく勘が鋭かったからな。
その癖、俺を殺さないんだ。
アイツが、その気になりさえすれば直ぐにも殺せただろうに。
だから、何故だろうって思ってた。
或る日、桔梗が、俺に声を掛けてきた。
あんなに近くで話をするのは初めてだったな。
何時も近寄りがたい程、綺麗で強い桔梗が、初めて見せた寂しそうな顔。
それからの俺は、桔梗の事ばかり考えるようになって・・・・。
桔梗と一緒に生きていく為に人間になろうとまで思ったんだ。
でも、結果は、ご覧の通り。
桔梗に裏切られた俺は、村を襲い、四魂の玉を奪って逃げようとした矢先に、破魔の矢で御神木に封印されたって訳だ。
漸く、鬼婆の住処(すみか)に辿り着いてみれば、かごめが、デッカイ盥(たらい)の中に入れられ水漬けにされてるじゃねえか。
この妙な匂いは薬草か。
何かの術を掛けられてるようだ。
それだけじゃない。
桔梗!
目の前に最後に見た姿のままの桔梗が居る!
信じられない思いで、思わず名前を呼んじまった。

「桔梗・・・・」

その時だ、かごめを取り巻いていた結界が弾け飛んだ。
パシッ! ゴォ~~~~~
かごめの中から何か出て来た。
俺は、今迄、魂なんて見た事が無かったからな。
デカイ! 魂ってのは、あんなにもデカイ物なのか?
ドオォォォ・・・・ン
そのまま桔梗の中に魂が吸い込まれた。
イヤ、あの場合、寧ろ、ぶつかったとでも云った方が正しいだろう。
シュウゥゥゥゥゥゥゥ・・・・
鬼婆の裏陶が云うにゃ、かごめの魂が桔梗の中に沁み込んでいってるんだと。
クソ婆、鬼術を用いて桔梗の霊骨から肉体を蘇らせたんだ。
信じられないが現に目の前で起きてるんだ。
更に、裏陶のクソ婆、得意気に桔梗が自分の意のままに動く僕(しもべ)だなんぞと抜かしやがった。
桔梗の持つ並外れた霊力を利用しようってんだ。
だが、裏陶は、自分が蘇らせた桔梗に、その霊力で滅ぼされる羽目になった。
身勝手な裏陶の欲望の為に、無理矢理、蘇らせられた桔梗の魂。
桔梗自身は、二度と目覚める気は無かったと云う。
桔梗・・・・嘗て、俺が恋した女。
そして、俺を裏切り、御神木に封印した女。
怨んでも良い筈なのに、この込み上げる気持ちは何なんだろう。
懐かしさ? 憧憬?
まだ、魂が沁み込んだばかりのせいで身体が上手く動かせないのだろうか。
ヨロ・・・・心許ない足取り。
近付いて来た桔梗が、イキナリ感情を爆発させた。

「なぜ、裏切った———」

なっ、何なんだ、そいつは俺の台詞じゃねえか。
俺を裏切ったのは、桔梗、お前の方だろう。
火鼠の衣さえ破いちまう強烈な霊力の発露。
余りにも激しい殺意の籠もった攻撃。
離れないと本気で殺されかねない。
後ろに飛び退き距離を保つ。
だが、何かが可笑しい。
桔梗と俺、それぞれの話が喰い違ってるじゃねえか。
俺は、桔梗を引き裂いた覚えは無いし、欺(あざむ)いて四魂の玉を奪ってもいない。
だが、説得しようにも桔梗は、全く聞く耳を持たねえ。
今の桔梗は俺への憎しみ、怨念で凝り固まってる。
楓ばばあが、桔梗を、土と骨で作られた体を壊し、魂を出せと叫んでる。
そんな事が出来る筈がねえ!
桔梗、俺が愛した・・・・
その時、魂が抜け、唯の器でしかない筈のかごめが、大きく鼓動をしたかと思うと、カッと目を見開いたんだ。
同時に、桔梗の中に納まっていた魂が、かごめの方に引き摺られ抜け出ようとする。
ドオオオオォォン・・・・シュ———
魂が、かごめの中に戻った?
だが、桔梗は、まだ動いている。
何故だ? 魂が残っているのか!?
訝(いぶか)しむ俺達に、首だけになった裏陶が教えた。
今の桔梗を動かしているのは怨念だと。
大部分の魂は、かごめの中に戻ったが、陰の気の怨念だけは、裏陶の鬼術で作った骨と土の体に馴染んで残ったのだと。
勝手な事をほざくだけほざいて裏陶は消えていった。
クッ、何故だ!
どうして、こんな事になっちまったんだ!
桔梗を追いかけて行けば、覚束ない足許のせいで、よろけたんだろう。
崖から落ちる寸前の処を腕を掴んで引き留めた。
一面に立ち込めた靄で良く見えないが、下は千尋の谷だ。
落ちれば木っ端微塵だろう。
このままじゃいけない。
そう思って桔梗にかごめの中に戻れと諭(さと)せば・・・・。
云う事を聞くどころか、掴んでいる俺の腕を霊力で攻撃してくる。
バババ・・・ビシビシ・・・
馬鹿! やめろ!
そんな事をすれば、お前も俺も落ちちまう!
周囲の岩までも砕いちまう強力な霊力に、遂に岩場が崩れた。
カッ・・・ガラガラ・・・ドガガ・・・ガッ!
掴んでいた桔梗の手が擦り抜けていく。
桔梗が落ちていく!

「桔梗——————!」

この高さから落ちたんじゃ助かりっこない。
谷底から登って来た俺は、周囲の山々が、どれ程、高いか身を以って知っている。
ズタボロの状態で楓ばばあ達の許に戻れば、まだ、かごめの意識は戻ってなかった。
酷くうなされてる。
元のかごめに戻るんだろうか。
もし、桔梗の意識が残っていたら?
固唾(かたず)を飲んで見守る俺達の前で、かごめが目を覚ました。
夢を見ていたそうだ。
それも、かごめが良く口走る数学やら英語のテストの夢らしい。
ホッ、元のかごめだ。
良かった———。
かごめ自身は、さっきまでの修羅場を、全然、覚えていなかった。
村へ戻る道すがら思い出すのは、桔梗の事。
五十年前、俺と桔梗に、突然、降り掛かった悲劇。
その原因の一端が繙(ひもと)けた。
何者かが、俺と桔梗を罠に掛けたんだ。
それも、互いが互いに裏切られたと思い込ませる二重に仕組まれた巧妙な罠だ。
一体、誰が? 何の為に?
その謎は、いずれ解ける事になる。
不良の助兵衛法師、弥勒との出会いによって。


 


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