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『降り積もる思い⑨=朔(さく)=』最終回萌え作品⑤

朔(さく)、月(陰暦)の第一日目。
月が、全く顔を見せない日の事だ。
半妖の俺に取っちゃ、忌々しい事この上ない日だぜ。
何しろ、朔の晩だけは、妖力を丸っきり失っちまうんだ。
その証拠に、親父譲りの白銀の髪は、お袋ソックリの黒髪に取って変わり、犬耳だって丸っこい人間の耳に変わるんだ。
夜目の利く金色の獣眼だってそうだ。
かごめと同じ黒い目に変わっちまう。
勿論、聴力や視力は格段に落ちるし、鼻も利かなくなる。
おまけに身を守る為の鋭い爪や牙も無くなっちまうんだ。
つまり、完全に、か弱い普通の人間になっちまうんだよ。
そんな時に、敵に襲われてみろ。
一発で殺(や)られちまう!
だから、俺は、この秘密を、それ迄、誰にも教えなかった。
そう、かごめに出会うまではな。
出会ってからだって、そうだ。
かごめに教える気は、全然、無かった。
隠せるだけ隠し通す積りだったんだ。
それが、蜘頭(くもがしら)との戦闘で、否(いや)も応もなくバレちまった。
フッ、蜘蛛頭か、思い出すな。
アイツ、なずなは、どうしてるかな?
なずなは、蜘蛛頭に父親を殺された山里の娘だ。
そのせいで妖怪を毛嫌いしてたっけ。
俺とかごめが、四魂の欠片を集めている事は、もう、アチコチの妖怪どもに知れ渡ってたらしい。
蜘蛛頭の野郎、俺たちの噂を聞き付けて罠に掛ける為に、なずなを利用したんだ。
その為だけに、なずなの父親を殺し、親切ごかしに坊主に化けやがって。
人の弱みに付け込む実に胸糞(むなくそ)悪い野郎だったぜ。
奈落みてえな奴だったな。
あれは船を使って川を下ってる最中だった。
ワザワザ、徒歩で山越えするより、船で川を下る方が遥かに安全だし時間が稼げるからな。
季節は夏、まだまだ暑さが止まない頃だったよな。
緑豊かな渓谷に涼しい川風、かごめは、甚(いた)くご満悦だった。
物見遊山気分で、かごめは、船旅を楽しんでたが、七宝は、船に酔って目を回してやがった。
ヘッ、妖怪の癖に、だらしがねえ。
そん時だったな。
崖の上から、なずなが落ちて来たんだ。
それも、自分から落ちたんじゃねえ。
落とされたんだ。
蜘蛛頭って云う死体の頭に巣食う蜘蛛妖怪にな。
チッ、目の前で船の上に落ちてこられたんじゃ、助けない訳にいかねえ。
落下するのを受け止めてやったのに、あの女、俺を引っ叩(ぱた)きやがった。
お陰で水の中に落ちて全身ずぶ濡れだ。
ついでに引っ叩いた本人もな。
クソッ、恩知らずめ。
助けてやるんじゃなかったぜ。
俺は、日が暮れる前に、何としても、あの山を抜けたかった。
だから、なずなと拘る気は、これっぽっちも無かったんだ。
なのに、なずなって奴、気が強い割にドジでな。
今度は俺達の見てる前で崖に登ろうとして足を挫きやがった。
そのせいで、仕方なく、なずなが住んでる山寺に送ってく事になっちまった。
おまけに、どういう因果か、その晩は、その寺に泊まる羽目に。
今、思えば、それも蜘蛛頭の計略の内だったんだが。
唯でさえ俺は不安を抱えてる状態だ。
何も起きなけりゃ良いと思ってたんだが、そういう時に限って事は起きるんだよな。
その晩、蜘蛛頭どもが襲ってきた。
チッ、選(よ)りによって、こんなときに!
鉄砕牙を抜いたが、案の定だ。
変化しねえ!
クソッ、もう変化が始まってやがる。
無数の蜘蛛頭に襲われて、アッと云う間に蜘蛛の糸に包まれちまった。
七宝の狐火のおかげもあって、一度は、逃げ出せたんだが。
俺の秘密もバレちまった。
一旦、変化が始まっちまえば、隠しようがないからな。
俺の朔の姿が珍しいのか。
かごめも七宝もジロジロ眺めやがって。
冥加は、ともかく、かごめの奴、何故、教えなかったと煩(うるさ)かったな。

「俺は、誰も信用しねえ!」

そう強く云ったら、一旦は黙ったが、その後は馬鹿呼ばわりされたんだっけ。
チョッとしおらしい処を見せたかと思ったら、直ぐ、反撃してくるんだもんな。
全くめげない性格してたぜ、かごめは。
その口論の真っ最中に、なずなが逃げて来たんだった。
蜘蛛頭に襲われた坊主を助けてくれってな。
ハッ、妖怪を毛嫌いしてる癖に、こんな時だけ調子良く助けてくれだと!?
ヘン、ご免だね。
唯でさえ、今、俺は、妖力を失ってるんだ。
こんな物騒な山、トットとおさらばだ。
その積りだったんだが・・・・。
かごめの阿呆!
肝心要の四魂の欠片を寺に忘れてきやがって。
仕方ねえ、取りに戻るしかねえ。
墓から卒塔婆を、しこたま引っこ抜いて来た。
これと云った武器が他に無いからな。
何しろ、今の俺には爪も牙も無いんだ。
鉄砕牙は、かごめに預けた。
変化しなくても蜘蛛頭をぶっ叩くくらいは出来るだろう。
覚悟を決めて七宝と二人、寺に乗り込んで見れば・・・・。
蜘蛛頭の奴ら、かごめのリュックを運んでる。
つまり、はなっから、奴らの狙いは、俺達じゃなく、四魂の欠片だったんだ。
誰が渡すか! 返しやがれ!
七宝の狐火で卒塔婆を燃やし、襲ってくる蜘蛛頭どもをやっつける。
本堂に乗り込めば、中央で坊主が蜘蛛の巣にとっ捕まってるじゃねえか。
くたばってるのかと思えば、まだ生きてるらしいや。
仕方ねえ、助けてやるか。
そう思って手を貸してやれば、クソッ、騙された!
坊主こそが、蜘蛛頭の親玉だったんだ。
体と思ってた部分は蜘蛛の巣で、本体は頭の部分って訳だ。
口から吐き出す蜘蛛の糸を七宝の狐火で焼かせたら、蜘蛛頭め、七宝が邪魔と見て、変幻自在の蜘蛛の巣の腕で床に叩き付けやがった。
俺自身は、蜘蛛の糸で身動きできねえ。
あの頭だけの本体は、蜘蛛の巣の上を自在に移動できるのか。
ズッと滑るように移動して俺の喉元に噛み付きやがった。
畜生、毒が廻る。
クッ・・クソッ・・何時もの俺なら・・・こんな・・・毒・・・如き・・・屁でも・・・ない・・のに・・・
俺の窮地に、七宝がドングリで、かごめに助けを呼んだんだ。
かごめの奴、危険も顧みず、ズカズカ本堂に踏み込んで来たっけ。
蜘蛛頭が糸を吐き、かごめを捕獲しようとしたが、鉄砕牙の結界が働いたんだろう。
ジュッ・・・シュウゥ・・・・
蜘蛛の糸が消滅した。
かごめの奴、襲ってくる蜘蛛頭は、鉄砕牙でブッ叩いてたな。
クッ・・非力な人間の俺じゃ、助けてやる事も出来やしねえ。
蜘蛛頭の奴、かごめまで毒牙に掛けようとしやがったんだが、間一髪、それは免れた。
だが、その分、蜘蛛の糸が緩んだのか、かごめと一緒に床に叩き付けられちまった。
グッ、半妖の俺なら、この程度、どうってことないんだが・・・。
朔で、然も傷付いた状態で、かごめの体重まで加わってるとあっちゃな。
流石に堪(こた)えるぜ。
その後は、気を失っちまったらしい。
気が付けば、かごめが泣いてる。
あん時は、何故、かごめが泣くのか判らなかった。
まさか、俺の事を心配して泣いてるなんて思いもしなかったからな。
それまで、俺の為に泣いてくれたのは、お袋しか居なかったから。
その後、また、気を失っちまった。
冥加が毒を吸い出すと同時に血も大量に吸い出したせいだろう。
次に気が付いたのは、額の汗を拭う誰かの優しい手の感触。
・・・誰だ・・・お袋?
目を開ければ、かごめが俺を心配そうに覗き込んでる。
朦朧とした意識の中、ズッとかごめの涙が気に掛かってた。
だから理由を訊いてみた、かごめに。

「あんたが死んじゃうかと思ったから・・・」

返って来た言葉がジンワリと暖かく心に沁みこんで行く。
お袋みたいな優しさと良い匂いのするかごめ。
だから、少し甘えたい気持ちになってたんだろうか。
かごめの膝を借りて、もう一度、眠っちまった。
次に気が付いたのは、耳障りな物音のせいだった。
 ドカッ! バキバキッ!
蜘蛛頭が小部屋に入って来てる。
なずなが鉄砕牙を抜いて結界を解いちまったせいだ。
蜘蛛頭の野郎、又しても、甘言で、なずなを騙しやがったんだ。
何処までも汚い奴だぜ。
その上、四魂の欠片まで奪って体内に取り込んじまった。
途端に変化し始める蜘蛛頭。
伸縮自在な蜘蛛の巣の手で俺を壁に押さえ付けやがって。
だが、もう、てめえの思うようには行かせねえ。
朔は終わった!
妖力が戻って来る。
よくも、気色悪い手で俺を押さえ付けてくれたな。
お返しだ!
力任せに奴の腕を引き裂き、更に、散魂鉄爪のお見舞いだ。
頭を潰したんだが、奴は、四魂の欠片を取り込んでる。
別の箇所に新しい頭が浮かんできた。
なっ、何?!
一つだけじゃねえ。
アッチにもコッチにも幾つも頭が浮かび出てきた。
次から次へと潰すんだが、切り口から、また新しい頭が生えてくる。
これじゃ、何時まで経っても埒(らち)があかねえ。
そしたら、かごめが教えてくれたんだ。
坊主の衣の横の頭部に四魂の欠片が有るってな。
蜘蛛頭め、それを聞いて、一層、エグイ感じに変化した腕で、かごめを狙いやがって。
かごめは、上手い事、逃げたんだが、なずなが捕まっちまった。
チッ、そう云えば、アイツ、足を挫いてたんだっけ。
それだけじゃねえ。
蜘蛛頭の奴、なずなを自分の盾に使いやがって。
一気に四魂の欠片を抉(えぐ)り出そうとした俺だが、手を止めるしかねえ。
なずなを引き裂く訳にはいかねえからな。
クッ、俺が怯(ひる)んだ隙に、アチコチに散らばった頭が吐き出す蜘蛛の糸に取り巻かれちまった。
こんな蜘蛛の糸如き、別段、どうって事ないが、チョイと静かにして蜘蛛頭の真意を、なずなに聞かせてやるとするか。
アイツ、まだ、坊主に化けた蜘蛛頭の親玉を信じてるみたいだったからな。
案の定、親玉の奴、好い気になって本音をベラベラと喋ってくれたぜ。
これで、なずなも、完全に目が覚めただろうぜ。
そんじゃ、ここらで一丁、本気出して親玉を仕留めてやるとすっか。
そしたら、かごめが急に叫んだんだ。
四魂の欠片が蜘蛛頭の体内に溶け込んでるって。
次の瞬間、変化して膨れ上がった蜘蛛の巣が、俺となずなを肉圧で潰そうとしたんだ。
俺は、この程度、何て事ないが、なずなの奴は、死にそうな声を出してたな。
人間ってのは、本当にしょうがねえな。
蜘蛛頭め、このまま、なずなごと俺と一緒に押し潰す積りらしい。
なずなの奴、此処まで来て、ようやく目が覚めたらしいや。
俺に父親の仇を取ってくれだとよ。
全く、コロコロ、気の変わる奴だぜ。
とにかく、鉄砕牙を取り戻さなきゃ、どうしようもない。
散魂鉄爪で蜘蛛頭の体を引き裂き、もう少しで、鉄砕牙に手が届くって処で、又しても、蜘蛛の糸のせいで足止めを喰らった。
グッ、膨らんだ足で挟み撃ちにされた。
畜生、もう少しだってのに。
俺の方に注意が行ってたせいか、なずなの締め付けが緩んだ。
それで、なずなが、鉄砕牙を渡してくれたんだ。
鉄砕牙さえ戻ってくれば、コッチのもんだ。
変化した鉄砕牙で、膨れ上がった蜘蛛頭の腕を一気に切り裂き、四魂の欠片を狙う。

「なずな、そこから動くな!!」

蜘蛛頭の本体、頭部がボコッと浮き上がり、俺に斬らせまいと、なずなに迫って行く。
ヨシッ、斬った!
ボロボロと消え失せていく蜘蛛頭の体。
最後に残った本体の頭を、もう一度、鉄砕牙で突いて止(とど)めを刺す。
シュウゥゥ・・・・完全に消えた。
キィ———ン
後に残ったのは四魂の欠片の塊り。
欠片が妖怪の体内で固まったらしいや。
それにしても、たった、これっぽっちかよ。
あんなに苦労して集めたってのに。
なずなとは、人里の近くで別れた。
俺に礼を云ってたが、アイツ、妙に思い込みが激しい奴だったからな。
上手く村に溶け込めたかどうか。
マア、いいや、それは置いといて。
とにかく、あの一件で、俺の半妖としての弱味、イヤ、秘密は、かごめに七宝、冥加の知る処となったんだ。


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