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『四方山話=炉端談義=⑩』

「りんちゃん、夜も大分、更けてきたわ。そろそろ、寝る用意をした方が良いんじゃない?」

 
  タップリ、美味しい情報を聞かせてもらった、かごめが、モゴモゴと抵抗する邪見の口を塞いだまま、りんに眠るように促した。同時に、必死に、珊瑚に、目配せをする。

 
「そっ、そうだね・・・りっ、りんも七宝も、今日は、色々とあったから疲れただろう。子供は、もう寝る時間だよ。」

 
かごめの意図する処を察した珊瑚が、少し、棒読み口調で、同調する。

 
「おら、まだ、眠くないぞ。」

 
余計な事を云う七宝を、かごめが、ピシャリと黙らせる。

 
「七宝ちゃん、早く寝ないと、お土産のお菓子は“無し”よ。」

 
「そっ、それは、嫌じゃ~~。 寝るっ、おら、直ぐ寝るからっ!」

 
楓も、かごめの援護射撃に廻る。

 
「さあさあ、掛け布を出してやるから、皆、お休み。」

 
「楓婆ちゃん、あたし、今からアッチへ帰るわ。犬夜叉、井戸まで送ってくれない?」

 
かごめが、明日の予定を繰り上げて、今晩の内に、アチラへ帰る意向を伝える。

 
「オッ、オウ!」

 
「今からかい? かごめ、明日、帰る予定じゃなかったのか?」

 
「ウン、本当は、明日にしようかと思ってたんだけど、今は、少しでも早く帰って受験勉強しておかなくっちゃ。」

 
「そうか、学問も大事だが、身体にも気を付けてな。」

 
「ウン、楓婆ちゃんも風邪ひかないようにね。」

 
 楓の家から少し歩いた場所にある骨喰いの井戸の前で、かごめが立ち止まり、犬夜叉に話し掛ける。今宵は、半月、上弦の月が、空に掛かっている。満月ほどの明るさはないが、それでも、相手の顔を見分けるには充分な光力だった。

 
「ネエ、犬夜叉、さっきの話を聞いて、どう思った?」

 
「アン? 邪見が、殺生丸に折檻されまくった話か。」

 
「それもそうだけど、殺生丸が、りんちゃんを、どう思ってるかって事。」

 
「どうって、そりゃ、まあ、結構、大事にしてるんだなって思ったが。」

 
「結構なんて、そんな生やさしい物じゃないわよ。とっても、とっても大事にしてるわ。邪見の話を聞いて判ったでしょ。もし、りんちゃんに何かあったら、本当に、それこそ、唯じゃ済まないわよ。冗談抜きに殺生丸に殺されるわ。」

 
「邪見が、云った事を本気にしてんのかよ。いつもの冗談だろ。あいつの話は大げさだから。」

 
「冗談で、あんな話が出来ると思う? 冥界での事と云い、白霊山での事と云い、ウウン、最初の奈落の城ででも、そうだった。殺生丸は、何時も、必ず、りんちゃんを助けに来た。前は、あんなに人間を嫌ってた筈の殺生丸が、りんちゃんだけは、絶対に守ろうとしてるのよ。犬夜叉、あんただって覚えてるでしょ。殺生丸が、以前、二度も、あたしを殺そうとした時の事を。もし、最初の時、鉄砕牙を持ってなかったら、間違いなく、あたしは死んでた。
二度目の時だってそう。相手が女だろうが、一切、お構いなし。それ程、徹底した人間嫌いだったのよ。そんな殺生丸が、人間の女の子を、りんちゃんを守ってる、これって、凄い事なんじゃない?」

 
「マア、確かに、あの話を聞いた時は、俺も、内心、吃驚したけどな。まさか、ずっと連れ歩いてたなんてな。あいつの事だから、どうせ、直ぐに適当な人里にでも、りんを捨てたんだろうと、思ってたぜ。」

 
「あの二人は、この先、どうなると思う?」

 
「どうなるって、何がだよ。」

 
「あのね、りんちゃんに対する殺生丸の気持ちは、今の処、保護者としての意識が大部分を占めてるだろうと思うの。でも、その中には、確実に、異性に対する気持ちが、僅かながら混じってると思えるのよ。今は、まだ、りんちゃんが幼いから、直ぐに、どうこうするって事はないだろうけど、もう数年もしたら、りんちゃんだって、お年頃になるわ。そしたら、あの二人は、きっとカップルになる。アッ、犬夜叉には、カップルって言葉、判んないか。エ~~と、そうね、犬流に、うんと判りやすく云うと番(つがい)になるって事よ。」

 
「なっ、何だとっ! りんと殺生丸が、引っ付くってのかよ!?!」

 
「マア、ぶっちゃけて云うと、そうなるわね。(・・・相変わらず鈍い)」

 
「りんは、人間なんだぞっ!」

 
「そうよ、それが、どうかしたの?」

 
「どうかって・・・あいつは、殺生丸は、トンデモナイ人間嫌いで。」

 
「確かに、前は、そうだったわね。でも、今は、前ほど、人間を嫌ってないみたいじゃない。」

 
「だからって、殺生丸が、りんを、人間を相手になんぞする訳が・・・無いんだっ!それに、もし、もしもだぞ、仮に、そうなったとしても、生れて来る子は、半妖なんだぞっ! それだけじゃないっ! りんは、人間だ。妖怪に比べれば、怖ろしく寿命が短い。一緒になったって幸せになんか・・・絶対、なれっこないんだっ!」

 
自分の母親の事を思い出したのだろう。犬夜叉が、激昂して吐き出すように叫ぶ。そんな犬夜叉の波立つ気持ちを、宥(なだ)めるように、諭(さと)すように、かごめが、優しく話し掛ける。

 
「・・・犬夜叉、これは、あたしの勘でしかないんだけど、多分、殺生丸は、とっくに、そうした事に折り合いを付けてると思うの。それにね、あの殺生丸が、りんちゃんの寿命が尽きていくのを、唯、黙って見てると思う? 絶対、何か、手立てを講じる筈よ。第一、あの、鉄砕牙を探し出した執念深さを思い出してよ。生半可な執着じゃなかったわ。あんた達のお父さんが亡くなったのって、大体、二百年くらい前よね。その間、ズ~~ッと殺生丸は、諦めずに鉄砕牙を探し続けてたのよ。呆れるくらいの執念だわ。それと同じくらい、ウウン、もっと、もっと、必死に、りんちゃんの寿命を延ばす方法を探すと思う。あの性格だもん。必ず、そうするだろうし、そして、きっと、見つけ出すと思う。鉄砕牙を見つけ出したようにね。今は、まだ、りんちゃんが、幼いから、殺生丸も、其処まで考えてないだろうけど。でも、数年後、りんちゃんが成長したら、行動を起こすんじゃないかしら? 種族の差を越えて“一緒に生きていく”為にね。」

かごめの話に衝撃を受けたのだろうか、押し黙って、そっぽを向く犬夜叉だった。
  そんな犬夜叉の背に向かって、かごめが、少し、悪戯っぽく言葉を掛ける。

 
「だからね、そうなってもショックを受けないように、今から心の準備をしておいた方が良いわよ。数年後には、年下のお義姉さんが出来るかも知れないって。」

 
  犬夜叉が、言い返そうと思って、井戸の方に向き直った時には、かごめの姿は、もう、井戸の中に消えて見えなかった。かごめの心地よい残り香が、風に乗って、フワリと、鋭敏な犬夜叉の鼻腔に、忍び込む。微かな早春の息吹が、風と共に漂い始め、新しい季節の始まりを告げていた。
                                   了
 
 
《第四十四作目『四方山話=炉端談義=』についてのコメント》
この作品は、七万打の御祝い作品であると共に、八万打の御祝い作品でもあります。着手し始めたのが、一月の中旬だったのですが、今迄にない超大作(32,500字台)のせいで、矢鱈、時間が掛かりました。(まさか・・・こんなに長くなるなんて思いもしませんでした。でも、考えてみたら、そもそも、この題名自体、長くしようと思えば、ドンドン、膨らませる事が可能な代物でした。)

漸く完成したのが、ギリギリ二月の終わり。こんなに長い作品も初めてなら、執筆時間(40日弱)の長さも初めてでした。何もかも『初めて尽くし』の作品となりました。今回の作品で、長編の公開の仕方も固定しましたので、次回以降は、長編は、全て、この方式で公開していきます。短編に関しては、今まで通り、一回で公開していきます。

今回の作品は、(犬一行の『殺りん認定』は、如何にして為されたか?)を焦点に絞って展開させました。どうでしたでしょうか? 皆様、満足して頂けましたでしょうか? 管理人の持てる限りの妄想と【殺りん】への愛を大爆裂させて仕上げました。こんな長い作品を、十日間、最後まで飽きずに読み切って下さって有難うございました。心より御礼申し上げます。 

              2008.3/9.(日) ★★★猫目石

拍手[7回]

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『四方山話=炉端談義=⑨』

「ンモォ、止めなさいよ、犬夜叉。それで、毒消しの薬草は貰えたのね、りんちゃん。」

 
「ハイ、でも、あの、おっ母、その時、変な事を云ってました。」

 
「変な事?」

 
「あのね、『惚れる』とか『二股』とか、何だか、良く判らない言葉。」

 
「ハア???」

 
流石に、状況が、良く呑み込めず、かごめが、首を捻った。

 
「あの皺くちゃ婆(ばばあ)、見た目にそぐわず、結構、夢見がちな処があったからな。大方、勝手に何か、変な想像でもしたんだろうよ。」

 
犬夜叉が、案外、鋭い読みを見せた。

 
「その・地念児の・・母上・と云う方・・は・確か・妖怪で・ある・地念児の・・父と・熱烈な・恋を・したので・した・・な。では・・多分・りんが・・妖怪の・毒消しを・・貰いに・行ったので・・そう・思い込んだ・・のでしょう。」

 
弥勒が、以前、聞いた事から推測して的確な判断を下す。

 
「心は、未だに乙女って訳ね。」

 
かごめも、以前、地念児の母が、ウットリと恋の思い出を語る様子を思い出し、納得する。

 
「それで、毒消しの薬草で、琥珀クンも、邪見も、治ったのね。」

 
「ハイ、おっ母は、親切に、気絶してる琥珀に、どうやって薬草を飲ませたらいいのかも、教えてくれました。でも、結局、その方法は、使わなかったけど。」

 
「???・・・りんちゃん、それって、どんな方法なの?」

 
かごめが、不思議そうに、りんに訊ねる。

 
「エッ・・とね、薬草をすり潰して、薬草汁にして、お口移しで飲ませるようにって。」

 
「ゲッ! それって・・・」

 
かごめが、絶句する。

 
「「「「「「・・・」」」」」

 
  純情な珊瑚は、顔を真っ赤にして下を向いている。楓に七宝は、目を在らぬ方に向けて
素知らぬふりをする。

 
「何ちゅう破廉恥な事を・・教えやがるんだ、あの婆。」

 
犬夜叉が、呆れたように呟く。

 
「フウ~~流石に・・半妖の・母に・なるだけの・・御方では・有りますな。中々・・想像力の・豊かな・ご婦人の・よう・ですね。」

 
弥勒が、妙に感心したような感想を述べる。

 
「コホン、とっ、とにかく、その方法、口移しは使わなかったのね。じゃあ、どうやって琥珀クンに飲ませたの? りんちゃん。」

 
かごめの問いに、りんが、アッサリと答えた。

 
「お鼻を摘まんで、口を開けさせました。殺生丸さまが、そうするようにって教えてくれたの。」

 
「そっ・・そう、殺生丸が。」

 
(ウワ~~~さぞかし、カンカンに怒ってたんだろうな、殺生丸。地念児のお母さん、その場に居なくて良かったわね。もし、そんな事を教えた張本人だってバレたら・・・)

 
心の中で、独り言(ひとりごち)る、かごめであった。

 
「ウウッ・・・おっ・・思い・出させ・・るで・ないっ! りん・・あの・時・毒蛇に・・噛まれ・たの・は・・儂に・とって・・痛恨・の・出来事・・じゃった。ククッ・・瘴気・の・毒で・・気絶し・ただけ・なら・・まだし・も・全快・して・か・らの・殺生丸・様の・・ご機嫌・の・悪さ・・と来た・ら・空前・絶後・・で・ウルルッ・・グスッ・・グスッ・・きっ・聞く・も・・涙・・・語る・も・涙・・・涙・・の・お話・なの・・じゃ。」

 
   邪見が、当時の事を思い出したのか、泣きながら話し出した。どうやら、泣き上戸にスイッチが、入ったらしい。唯でさえ、酔っ払って真っ赤な顔に、洪水のような涙と鼻水が加わって、余計、グシャグシャになっている。ハッキリ云って、見れた物ではない。

 
「殺生丸の機嫌は、そんなに悪かったの? 邪見。」

 
かごめが、此処で、誘い水を向ける。

 
「ウルルッ・・よく・ぞ・聞い・・て・・くれた。まっ・まず・・手始め・は・・儂が・“快気・祝い”・・を・申し・上げた・・時・から・・じゃった。人間・の・琥珀・・と・違い・・妖・怪・・で・あ・る・・儂は・・瘴気・の・毒か・ら・・回復・・する・の・も・・早・かった。寝・込んで・・いた・間の・お詫び・も・兼ねて・・丁重に・殺生丸・様に・御礼を・・申し・上げ・た・の・・じゃ。御礼・を・云い・・終わった・途端・・儂は・空中に・・蹴り・飛ば・さ・・れて・・おった。今迄・に・も・・殺生・丸・様に・・蹴飛ば・され・た事は・・何度・も・あったが・・あっ・あんな・・飛距離・・が・出た・事は・・なかった・・ぞ。間違い・・なく・・これ・ま・で・の最高・・記録じゃ。ウウッ・・もっ・もう・・少し・で・・危う・・く・夜空の・・お星さ・ま・に・・なって・しまう・・処・・じゃった。」

 
(ハア~~~悲惨・・・。良く我慢してるわね、邪見。でも、それって話の流れから判断すると、どうも、琥珀クンに対する嫉妬みたい。つまり、完全に殺生丸の『八つ当たり』って事よね。
アレレッ? そう云えば、犬夜叉も、鋼牙クンが絡んで来ると、矢鱈、イライラして焼餅やいてたっけ。そうか! 犬夜叉と云い、殺生丸と云い、兄弟揃って、独占欲が強くって嫉妬深いんだ。こうして邪見の話を聞いてると、余裕のない処までソックリじゃない。)

 
邪見の愚痴を聞きながら、自分なりの考えに耽(ふけ)るかごめ。

 
「大変だったわね、邪見。それで、その蹴っ飛ばしで、殺生丸の機嫌は、少しは良くなったの?」

 
「何・を・・云うかっ! それ・から・が・・お仕・置・き・の・本番・・だった・のじゃっ!」

 
「フ~~ン、他には、どんなお仕置きされたの? 邪見」

 
「それ・か・ら・と・云う物・・蹴られ・る・のは・・勿論・・・石を・ぶつけ・・られる・・わ・踏ん付け・・られる・・わ・殴ら・・れ・るわ・・とっ・・とにか・・く・・今ま・で・の・・お仕置・きの・・総浚(そうざら)い・・が・何度・も・・繰り・返され・・る・ような・・状態・だった・・のじゃ。」

 
りんが、此処で、不思議そうに口を挟んで来た。

 
「アレ~~~? 邪見さま、そんなに殺生丸さまに、お仕置きされてたの? あたし、ちっとも気が付かなかったよ。」

 
「あっ・・当たり・・前・じゃっ! お前・は・・琥珀・の・看病・・に・掛かり・きり・・だった・じゃろう・・がっ! そっ・・その・・逬(とばっちり)・が・モロに・・儂に・・来た・ん・・じゃっ!」

 
「どうして、あたしが、琥珀の看病すると、邪見さまが、お仕置きされるの?」

 
「それ・は・・じゃな・殺生丸・様が・・やっ・焼き・・モゴッ・・モゴゴ・・」

 
  かごめが、慌てて、邪見の口を塞いだ。これ以上は、りんに聞かせない方が良いだろう。何より、あの大妖の高過ぎるプライドを徒(いたずら)に刺激しない為にも。もし、りんから、迂闊な従者が酒に酔って、内部事情を、洗い浚(ざら)い、犬夜叉達に洩らした事が、ばれでもしたら・・・。殺生丸の事である。軽はずみなな下僕に、どんな報復をするか判った物ではない。


★★★『四方山話=炉端談義=⑩』に続く★★★

拍手[4回]

『四方山話=炉端談義=⑧』

「巫女さまは、睡骨と知り合いだったみたい。首に矢を受けた睡骨は、元の優しかった睡骨に戻ったみたいで、巫女さまに、お願いしてたの。『もう、これ以上、人を殺したくない。四魂の欠片を取ってくれ』って。巫女さまは、迷ってたみたい。そしたら、蛇みたいな刀が、地を這うように近付いて来て、睡骨の首の欠片を弾き出したの。欠片を取った途端に、睡骨の体は、骨だけになって・・・。蛇骨は、欠片を持って、そのまま聖域の中に逃げてったんです。殺生丸さまが、直ぐに、その場を離れる積もりみたいだったから、あたし、巫女さまに、お礼だけ云って、お別れしたの。」

 
りんの話を聞き終えた、かごめが、ポツリと呟く。

 
「睡骨は・・・苦しんでいたのね。」

 
「自分の中の、もう一人の自分・・・か。」

 
  半妖である犬夜叉は、朔の日が来れば、否応なく人間になってしまう。謂わば、もう一人の自分が存在するような物である。睡骨の話は、犬夜叉には、全くの他人事とは思えなかった。

 
「それ・で・・良かった・・のですよ。やっと・・睡骨の・魂は・・救われた・のです。」

 
弥勒が、数珠を提げた方の手を挙げ、仏に仕える法師らしく睡骨の冥福を祈る。

 
「そうかもね、弥勒様の云う通りだわ。」

 
かごめが、弥勒の意見に同意する。

 
「かも・・な。」

 
  犬夜叉も、納得したかのように頷く。何処となくシンミリした空気の漂う中、それを台無しにするような濁声(だみごえ)が、一気に、その場の雰囲気を破った。邪見である。酔っ払って呂律が廻らない上に、大声で、がなり立てるので聞き苦しい事、この上ない。

 
「そっ・・そ・んな事・・が有った・・のか? こりゃっ・・りん! 儂は・そん・な事・は・・ひとっ・言・・も・聞い・て・・お・らんぞっ!」

 
「だって、あの後、邪見さまは、直ぐに、殺生丸さまと一緒に何処かへ出かけちゃったじゃない。話す暇がなかったんだもん。」

 
「ム・・・あの・時・の・事か。白霊・山から・・出て・来・た・・新・生・奈落・・と殺生・丸様・が・遣り・・合った・時の・・・」

 
「エッ・・・殺生丸は、奈落と闘ったの?」

 
  邪見の話に、又も、驚かされる、かごめであった。聞けば、聞くほど、今迄、知らなかった驚愕の事実が、次から次へと、明らかになっていく。

 
「アア・・・奈落が、桔梗を瘴気の谷間に落とした後でな。」

 
  苦々し気に、犬夜叉が、かごめに教えてやる。当時の事を思い返すと、どうしても、あの時の兄の行動に、納得がいかない犬夜叉であった。そして、それは、同時に、奈落から桔梗を助ける事が出来なかった自分の不甲斐無さに対する“苛立ち”の裏返しでもあった。そんな犬夜叉の複雑な男心など、一切、斟酌せずに、邪見が、奈落と殺生丸との小競り合いについて熱弁を振るい始めた。

 
「奈落・め・・あ奴・白霊・山か・ら出て・来た・途端・・態度・が・でかく・なり・・おって。いきな・り・・殺生・丸様・を・呼び捨・てに・し始め・た・・のじゃ。見た・目も・・以前に比べ・て・大分・・変わって・おった・・がな。おまけ・に・奴は・・殺生・丸様・・を・挑発し・おって・から・・に。実に・許し・難い・・わ・い。あ奴・め・ワザ・・と・闘鬼・神の・攻撃・・を受け・おった・・のじゃ。今回・の・新・し・い・・自分が・・どんな・に・強・い・・の・かを・見せ・付ける・・ように・な。奈落・の奴・・殺生・丸様・に・・ズタズ・・タに・され・て・・も全く・意に・・介さん・よう・じゃった。それど・ころ・か・・不気味・な・笑いを・・浮かべ・なが・ら・・受け・た攻撃を・・そっく・り・そのま・ま・・返し・て・きおった・・の・じゃ。何せ・あの・・闘鬼・神の・破壊・・力じゃ。一旦・放った・・己の・剣・圧が・・まとも・に・・戻って・・来るんじゃ・ぞ。あの・時は・本に・吃驚・・し・た・のお~~。ヒック!尤も・・あれ・は・・新し・い・自分の・・力を・・試し・たよう・・な・・感じで・・の。謂・わ・ば・・小手調・べ・で・本気・・では・なかった・よう・・じゃが・な。」

 
「そうか、闘鬼神の剣圧も返されたのね。風の傷と同じ様に。」

 
「ンンッ・・では・犬夜・叉・も・・奈落・と・闘った・・の・か? かご・・め。」

 
「ウン、やっぱり同じように、そのまま、返されちゃったのよ。あの時は、本当に吃驚したわ。」

 
かごめの返事を聞いて、邪見が、一層、熱を込めて話し出す。

 
「フム・・・とっ・とにか・・くじゃ・・奈落・・の・手先に・・一度な・らず・・二度・まで・も・・りんを・攫わ・れ・た・・殺生丸・様は・・用心深・く・・なられ・たの・か・・それ・以・後・僅か・・で・も危険・・な場・所に・は・・決し・て・りん・・を・連れ・・て行こ・うと・は・なさら・・なく・なった・の・じゃ。元々・・過保護・気・味・じゃった・・が・・白霊・山・の事件・・の後・は・・より・一層・・その・傾向・・が・顕著・に・なって・の。お出掛・けに・・なる・際は・・絶対・に・・阿吽・を・りん・・の許・に・残・し・て行・か・・れるよ・う・になった・・のじゃ。いや・・それ・どころ・・か・儂さえ・・も・一緒に・・置いて・行かれ・・る・ように・・なった。二度・の・拉致・・に加え・・て・冥界・で・の事・も・有・・る。これ・ま・での・話・で・・如何・・に・・殺生丸・様・が・・りん・を・大事に・・して・おられ・・る・か・・お前・達に・も・・判った・・じゃろ・・う・て。よい・・か・・努々(ゆめゆめ)・・りん・を・粗末・・に扱う・で・ない・・ぞっ!」

 
  邪見の熱の籠もった話を、弥勒が、ハイハイ、お説、ご尤もと神妙に拝聴しつつ、巧みに、自分達が聞き出したい話題の方へと、邪見を誘導していく。

 
「フム・・そう・ですね。それに・・ついては・重々・・納得で・す。委細・・承知・しました。それで・・ですね・・邪見殿。先日・琥珀から・極々・簡単に・兄上に・拾われ・・た経過・・を・聞いた・のです・が・もっと・・詳しい・経緯(いきさつ)を・是非と・も・教えて・もらえ・・ません・か?」

 
「琥珀・を・・拾った・経過・か? あの・時は・な・・急に・殺生丸・様が・・奈落・の・臭いが・・する・と・仰って・・天生・牙を・抜き・・放って・冥道・残月・破を・・彼奴め・に・あの・夢幻・の・白夜に・・お見舞・い・したの・・じゃ。あ奴・も・奈落・・の・分身・だから・な・・同じ・臭い・が・するの・・は当然・だわ・・な。生憎・冥道・の・軌道・か・ら・ほん・の僅・・か・逸れ・ていた・・せい・で・あの・世に・送り・損ねた・・がな。儂・と・りん・が・・現場・に・駆け・・付け・て・みれば・・琥珀・が・蛇に・・噛まれ・て・倒れ・て・おった・・のよ。何・でも・・奈落・の・瘴気・が・・タップ・リ・・染み・こま・せ・てある・・毒・蛇・だった・・そう・な。」

 
邪見の話を聞いていた、りんが、此処で、又も、絶妙な合いの手を入れて来た。

 
「あの毒蛇に、邪見さまも、一緒に噛まれちゃったんだよね。」

 
「ばっ・・馬鹿・・もん!・りんっ・・・余計・な・・事・は・・云わんで・・良いっ!」

 
耳寄りな情報に、弥勒が、身体を乗り出して訊いて来た。

 
「ホホォ~~・・それ・は・・それ・は・・初耳・です・な。しかし・・どうして・邪見・が?」

 
りんが、無邪気に、その時の事を思い出しながら話す。

 
「あのね、殺生丸さまが、『触るな・・毒蛇だ』って仰ったのに、邪見さまったら、蛇に近付いて、それで、ガブッて、噛まれちゃったの。」

 
「ヘッ、間抜けなこった。どうせ、ボ~~ッとしてたんだろう。」

 
「なっ・・何お~~ヒック!・・ウイック!・・おっ・・覚え・て・おれ・・よ・犬・夜叉・・」

 
相変わらずの憎まれ口を叩く犬夜叉に、歯噛みして悔しがる邪見であった。

 
「あらあら、大変だったわね、邪見。それで、それで、りんちゃん、どうなったの?」

 
面白そうな話に、かごめも、ズイッと身を乗り出して来た。

 
「エッ・・とね、それで毒消しの薬草を貰いに行ったの。薬草畑を作ってる地念児さんの処へ。」

 
「エ~~~ッ、地念児って、あの地念児さんの事よねっ! 半妖のっ!」

 
「かごめさま、知ってるの?」

 
「知ってるも何も、以前、雲母が、奈落の瘴気でやられた時、同じ様に毒消しの薬草を貰いに行った事が有るのよ。そうか、地念児さんの処へね。地念児さん、元気だった? それから・・あの、凄く・・元気なお母さんも?」

 
「ハイ、山姥(やまんば)のおっ母も元気でした。アッ・・と、いけない。」

 
「山姥(やまんば)・・・」

 
りんの言葉に、内心、大いに頷きつつも、チョッピリ複雑な心境の、かごめであった。

 
(子供は、正直だなぁ。マア、確かに、あたしも、初めて、地念児さんのお母さんを見た時、そう思ったもんね。)

 
「ワッハッハ、りん、上手い事云うじゃねえか。俺も、最初、あの婆(ばばあ)を見た時、テッキリ、そう思ったぜ。」

 
犬夜叉が、りんの話に、ゲラゲラ笑いこける。


★★★『四方山話=炉端談義=⑨』に続く★★★

拍手[4回]

『四方山話=炉端談義=⑦』

「でも、りんちゃん、どうして、殺生丸は、蛇骨と闘う羽目になったの?」

 
「エッとね、最初の時は、あたしが、殺生丸さまや邪見さまと一緒に居た時に、襲ってきたんです。物陰から急に蛇みたいに刀が飛び出してきて。殺生丸さまが、闘鬼神で、あいつと闘ったの。殺生丸さまの邪魔にならないように、邪見さまと一緒に、その場から逃げようとして、吊り橋を渡ろうとしてたんだけど、そしたら、反対側から手に鉤爪を付けた怖い顔の男の人が現れて・・」

 
「エエッ、今度は、睡骨が、襲ってきたの!?」

 
「成る程、二段構えか。あいつらも悪知恵が良く廻るぜ。」

 
かごめと犬夜叉が、それぞれ感想を述べる。

 
「狭い橋の上で、邪見さまが、その鬼みたいな顔の人の攻撃を、必死に防いでくれてたの。でも、あっちは、大きな男の人だし、鋭い鉤爪を使ってくるから、邪見さまが、人頭杖を使って、一気に炎で焼き払おうとしたの。それなのに、あの人、死ななくて・・・。」

 
「そりゃ、そうだろ。あいつら、死人だからな。四魂の欠片を取らない限り、くたばらないぜ。」

 
犬夜叉が、りんの疑問に答えてやる。

 
「犬夜叉さま、あの人達って・・・やっぱり、もう死んでたの?」
 
 
「アア、奴ら、四魂の欠片を死体に入れて仮初(かりそ)めの命を保ってたんだ。」

 
「そうか、そうだったんだ。死人だから、邪見さまの人頭杖で焼き払っても、斬られても、死ななかったんだね。」

 
犬夜叉の言葉に納得したらしく、りんが、話を続ける。

 
「人頭杖で、橋げただけじゃなく橋の綱まで焼き払っちゃったから、そのまま、みんな、落っこちちゃったの。」

 
「それで、りんちゃん、無事だったの?」

 
かごめが、当時の状況を心配して、りんに訊く。

 
「はい、気が付いた時は、あたし、男の人に抱っこされてたんです。でも、さっきの怖い人とは、顔が、全然、違って、とっても優しそうな感じだったから、その人の村まで連いてったの。」

 
「あの村だわ、犬夜叉。睡骨が、善人の医者の時に、子供達の面倒を見ていた村に、りんちゃんを連れて行ったのよ。」

 
「そうみたいだな、かごめ。でも、睡骨の野郎、何だって、村に戻ったりしたんだ?」

 
「そうよね、何故かしら? それで、りんちゃん、村では、どうしてたの?」

 
「エッとね、村に着いたら、あたしと同じくらいの年頃の子達が居たの。でも、すぐに、村の人が、何人か来て、その睡骨って人に、村から出て行くように頼んでたみたい。そしたら、いきなり、鉤爪で村長みたいな人を殺して。あっという間に、村の人達は、みんな、殺されて。・・あたし、逃げなきゃって思ったんだけど、蛇みたいな刀を使う人に捕まっちゃったの。それでね、あの睡骨って人、子供達も一緒に殺そうとしたの。でも、出来なかったの。まるで、誰かに止められてるみたいだった。」

 
「きっと、睡骨の中の善人が、止めたのね。睡骨は、多重人格者だから。」

 
「かごめさま、多重・・人格・者って?」

 
りんが、耳慣れない言葉に、戸惑い、かごめに聞き返す。

 
「アッと、ご免なさい。この言葉は、戦国時代には無いもんね。そうねぇ、全く違う二つの性格を、一人の人間が持ってると云えば、判るかな? 睡骨は、善人と悪人という二つの顔を持っていたの。だから、善人の時は、優しい顔に、悪人の時は、鬼みたいな顔になったのよ。」

 
「でも、あの時は、顔が、変わらなかったんです、かごめさま。優しい時の顔のままだった。」

 
「ウ~~ン、多分、睡骨の中の善人が、悪人に、完全に乗っ取られたんじゃないかしら? 子供達を殺せなかったのは、きっと、睡骨の中に、僅かに残っていた良心が、止めたんだろうと思うわ。
それで、りんちゃん、蛇骨に捕まったって聞いたけど、それから、どうなったの?」

 
「毒虫が、飛んで来て、殺生丸さまが来るって蛇骨って人に教えたの。それで、お山の方に連れてかれて・・・。」

 
「そう・じゃ・・お前・を・連れ・戻す・・為に・殺生・丸・様は・・聖・域の・結界・・の・中に・向か・われた・・のじゃ。」

 
邪見が、りんの言葉に、おっ被(かぶ)せるように嘴(くちばし)を挟んできた。

 
「橋・から・・落ち・た・お前は・・川に・流され・・た・のじゃ。それ・で・殺生・丸・様も・匂い・・を・追え・な・かった。だか・ら・・亡霊ど・もの・臭い・・を嗅ぎ・当て・て・・そ奴ど・も・の場所・・へ・と・赴かれ・・た・のじゃ。そ・の・場所が・・選り・に・も選って白・霊山・・の・聖域・の中・と・・きてる。如何に・・殺生・丸・様と・云えど・・浄化・され・てしま・・うので・は・ない・か・・と・儂は・・必死・に・・お止・め・申し・・上げ・た・・のだ・が・聞き・届け・・ては・下さ・ら・なかった・・のじゃ。」

 
「エエッ! 殺生丸も、聖域の中に入ったの?」

 
「「「「!?」」」」

 
かごめが、吃驚して叫ぶ。犬夜叉も驚いている。

 
「何・・とっ!」

 
弥勒が、思わず言葉を漏らした。あの聖域は、妖気も邪気も、全て浄化してしまう程、強力な場だ。
事実、半妖の犬夜叉でさえ、あの結界の中では、妖力を失い、人間になってしまったと聞いている。
そんな危険な場所に自ら踏み込んで行くとは・・・やはり、この童女、りんに対する大妖の執着は、
並大抵の物ではない。

 
(フフ・・・感動してしまいますな、兄上。貴方の事でしょうから、その当時、気付いておられたかどうか、怪しい物ですが。犬夜叉と同じように、貴方達、犬兄弟は、揃いも揃って鈍いですからな。
そういう変な処は、実に良く似ている。愛しい者を救おうと、危険も顧みず、死地に乗り込んで行く。
これぞ、正しく“愛の為せる業”ですな。そう、丁度、私が、珊瑚を想うように、又は、犬夜叉が、かごめ様を守ろうとするように・・・)

 
「その蛇骨と睡骨って人達、お山の中に入り込んで、殺生丸さまを待つ積もりだったみたいなの。
 結界の中だと、キツイだろうって蛇の刀の人が云ってました。」

 
「それでも、来たのね、殺生丸は・・・。」

 
(あの意地っ張り! 犬夜叉の兄なだけは有るわ。兄弟して、本当に頑固なんだからっ!)

 
かごめが、犬夜叉の兄の性格から予測して答えを出す。

 
「ハイ、殺生丸さまは、もう、お山の中で待ってました。殺生丸さまは、とっても強い御方だけど、今度は、二人も相手だし、結界の中だし・・・あたし、凄く心配で。あたしは、睡骨って人の左脇に抱え込まれていて、逃げようにも身動き出来なくて・・・。」

 
りんの話に、かごめが、憤慨して喋り出す。

 
「ンモォッ! あいつらのやりそうな事だわ。人質を取るなんて、如何にも、奈落の手先らしいじゃない。ネッ、犬夜叉。卑怯な方法が、すっごく得意なのよ。」

 
「そうだな、あの結界の中じゃ、殺生丸でも相当に苦戦しただろうぜ。大体、息苦しいわ、動きは、矢鱈、遅くなるわで、いつもの力の半分も出せやしないと来てる。睡骨が、りんを抱え込んでたとなると、殺生丸と闘ったのは、蛇骨だな。フン、確かにな、睡骨の鉤爪程度じゃ、普通の人間相手なら充分だろうが、殺生丸が相手じゃ分が悪すぎるだろうさ。」

 
「犬夜叉さまの云う通りです。殺生丸さまと闘ったのは、蛇の刀を使う人の方だったの。クネクネと蛇みたいな動きをする、あの刀。でも、殺生丸さまが、蛇の刀を巻き込んで、遠くの方に飛ばしたら、そしたら、あの、蛇骨って人、睡骨に、こう云ったんです。『山から離れるな』って。それを聞いた睡骨が、あたしの首元に、グッと鉤爪を突き付けて『言われなくても判ってる。サッサとそいつを片付けろ』って・・・。」

 
「怖かったでしょう、りんちゃん。」

 
「ハイ、怪我は、しなかったけど、鉤爪が喉に喰い込んで、暫く跡が残ってました。」

 
「こんな小さな子に、そんな酷い事をするなんて・・・。現代なら、即、刑務所行きよっ!」

 
かごめが、怒りに駆られて叫ぶ。

 
「かごめ、刑務所とは、何じゃ?」

 
七宝が、またまた、耳慣れぬ言葉に首を捻る。

 
「ウ~~~ン、エッ・・とね、そうそう、牢屋の事よ、又は、牢獄。」

 
「そうか、牢屋か。そうじゃな、そんな悪い奴は、捕まえて牢屋に押し込めておくに限るな。」

 
「そうよね、七宝ちゃん。で、りんちゃん、その後、どうなったの?」

 
「殺生丸さまが、自分は、蛇骨に向かって行きながら、闘鬼神を後ろ向きに投げたんです。それで、
 蛇の刀の攻撃をモコモコで躱(かわ)して、手刀で、蛇骨の胸を貫いたの。闘鬼神は、あたしを捕まえてる睡骨の胸に突き刺さって・・。あたし、動けるようになったから、殺生丸さまの所に行こうとしたのに、また、押さえ付けられちゃったんです。蛇骨って人も、殺生丸さまに、胸の辺りを貫かれてるのに、死ななくて。睡骨が、あたしを殺そうと鉤爪を振り上げて。今度こそ、『殺されるっ!』って、そう思ったんです。あたし、怖くて、思わず、目をつぶってしまって。そしたら、風を切る、ゴッて音が聞こえて、目を開けたら、睡骨が、首に矢を受けて倒れてたの。矢を射て、あたしを助けてくれたのは、綺麗な巫女さまでした。」

 
「桔梗だわっ!」

 
「そうか、りんを助けたのは、桔梗だったのか・・・」

 
「お姉さま・・・」

 
「桔梗・・・」

 
「そうじゃったのか・・」

 
「アア・・そう・だった・・のですね。」

 
かごめが、犬夜叉が、楓が、珊瑚が、七宝が、弥勒が、それぞれ、今は亡き美しい女(ひと)に思いを馳(は)せる。死して、尚、清冽な追憶の残り香を、香り高く鮮やかに漂わせる巫女の魂。


★★★『四方山話=炉端談義=⑧』に続く★★★

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『四方山話=炉端談義=⑥』

「そ・の時・・周囲・の死体・の山・・が・りん・を隻腕・に・・に抱・いた殺・生丸様・・に・イ・ヤ・・天生・牙にか・も・知れん・・な・雪崩・れ込ん・・で・きたん・じゃ。ま・る・・で・・・『救って・く・・れ』と縋・るかの・・ように・な。そ・れを・・見た・殺生丸・様・が・・取り落・とされ・・た天生・牙を・・拾・い上げ・・天に・向かっ・て翳(かざ)・さ・れたの・・じゃ。深い・・冥界・の闇の・・中・眩し・・い程・の光・が・・天生・牙か・ら・拡が・・り・冥界・・の死人・・達が・次々・・と浄・化・・され・ていった・・そう・じゃ。それと・同時・に・・冥道・が・中か・・ら開い・て・な。それ・も・・以前・の・細い・・三日・・月・のよう・・な形・では・・なく・かな・り・・円に・近い・・形で・な。こう・し・て・・殺生丸・様と・・り・ん・・琥珀・は・・現世・に・戻って・・来・たの・・じゃ。」

 
「冥界から戻って来られたのは良いけど、りんちゃんは、死んだままだったんでしょ。でも、今、りんちゃんは生きてる。一体、どうやって生き返らせたの?」

 
かごめが、疑問点を、邪見に問い質す。

 
「焦る・でな・・い。今か・ら・・それを・話・・す。冥道・を拡げ・・る事は・出来・た・ものの・りん・の心・・の蔵は・止・まった・・まま・・じゃ。殺生・丸様は・・そ・の原因・・を作った・御母・堂・様に・・今に・も・喰って・掛からん・・ばかり・じゃった。そ・んな・・殺・生丸様に・・御母堂・様は・・諭す・ように・・話され・た。天・生牙で・の蘇生・・は・一度・きり・じゃ・・と。そ・して・・天・生牙を・・持つ・者と・して・殺生・丸様は・・愛し・き・命・・を・救お・うと・する・・心と・同時・に・それ・・を・失う・悲し・みと・・恐・れ・・を知る・・必要が・有ったの・だ・と。天・生牙は・・癒し・の・刀。例・え・武器と・して・振るお・うと・・命の・重さ・・を知り・・“慈悲・の・・心”・を持って・・敵・を・葬らね・ば・ならな・いのだ・・とな。それ・・こそ・が・百の・・命を・救い・・敵を・冥道・・に送・る天・生牙を・・持つ・者の・資格・なのだ・・と・な。だか・・ら・り・ん・は・・死なね・ば・ならな・・かった。殺・生丸様・が・“慈悲・の心”・を知る・・為に・な。だが・頭で・・は・そう・か・・と・納・得・は出来・・ても・悲し・み・が・消え・・る訳では・ない・・じゃろ・う。殺生・丸・・様が・・一見・・無・表情・な・・御顔・の・下で・・ど・ん・なに・悲しん・・で・おられ・る・か・・が・・儂・に・は・手に・取るよ・・うに・判った。あ・の・・御気性・・どん・な時・で・・も・涙は・お見せ・・に・なる・・ま・い。じゃ・から・・代わり・に・・儂が・泣い・・て差し・上げた。御母・堂・・様が・・不思議・そ・う・に・・何故・儂が・・泣く・・の・か・を訊かれ・・て・な。そ・の理由・・を・お答え・したら・・今度・は・殺生・丸様に・訊ねら・・れた。『悲しい・・か・殺生丸?』・と。殺生丸・様は・一言・・も口を・利かれ・な・かっ・・た。・・じゃが・・どっ・・ど・ん・・なに・・隠そ・う・として・・も・隠し・き・れ・る・・物で・は・な・・い。悲愴・・な・想・い・・が滲・み・出・て・おら・れた・のじゃろ・・う・て。そ・れ・を見て・・取った・御・母・堂・・様が・・徐(おもむろ)・に・冥道・石・の・首・・飾り・・を首・・か・ら外さ・れ・・て・な。玉・座・に・・横た・え・・られ・た・り・んの・・首に・掛けら・れ・・た・のじゃ。す・ると・・冥・道石から・ボウ・・と微か・・な光・・が漏れ・出・した・・のじゃ。そ・・の光・・は・次第に・・強く・なり・・辺り・・を・・眩し・・く照らし・出す程に・・輝き・出し・・た。そ・れ・は・・そ・れ・は・・美し・い・輝き・・じゃっ・た。そして・・光・が・・収まった・・時・・小さ・な・・鼓動・・が・聞こ・え・て・・きた・・の・じゃ。り・んの・・心・の・・蔵が・脈打・つ・・音じゃ。ユッ・・ク・リと・・り・んが・・目を・開け・た。あ・・あ・の・・瞬間・・を・儂・・は・生涯・・忘れ・ま・・い。殺・生・丸・・様の・瞳に・・瞬・時・・映った・驚愕・・の想い。確か・に溢れ・てい・・た・喜び。停止・・し・てい・た・器・官・・が・急に・・動き出・した・・せいじゃ・・ろう。り・んが・・咳き・込・ん・で・・な。そ・んな・り・ん・に・・殺生丸・様・が・・ソッと・手・・を差し伸・べら・れ・た・・。そ・して・・優・し・く・頭を・・撫で・ら・れ・こう・仰った・の・・じゃ。『もう・・・大丈夫だ。』・と。 ま・るで・御・自分・に・も・・り・ん・にも・・言い・聞か・せ・て・おられ・る・ような・・そ・んな・・感・じ・・じゃった。」

 
「「「「「「 ――― 」」」」」」

 
沈黙が、炉辺に舞い降りた。言い知れぬ感動が、その場に居る一同を、静かに包み込んでいた。暫くしてから、かごめが、やっと口を開いた。

 
「・・・そうか、そうだったんだ。」

 
弥勒が、感慨深げに、りんを見て、呟いた。

 
「兄上は・・りんを・とても・・大事に・・思って・らっしゃる・・んですな。」

 
その言葉に邪見が、直様(すぐさま)、反応した。

 
「その・・通り・じゃ。だ・から・・決して・りん・・を粗末・に扱う・・でない・ぞ。もし・・りん・に何・か・・有り・で・も・したら・・儂・が・殺生丸・様に・・殺さ・れ・・るっ!」

 
「殺され・・ると・は・穏やか・・では・有りま・せん・・な。冗談・・でしょう? 邪見殿。」

 
半信半疑で、問い返す弥勒に、邪見が、つい、口を滑らせる。

 
「何・処が・・冗談・な物・・かっ! 白霊・山の・・時・だって・な・・・アワワッ・・イッ・イヤッ・・些・か・喋り・すぎ・・た。儂は・・もう・一言・・だって・喋ら・・ん・ぞっ!」

 
「かご・め・・様。」

 
弥勒が、素早く、かごめに目配せした。以心伝心、弥勒の云わんとする事が、即座に伝わってきた。合点承知! 炉辺に置いてあった超強力アルコールのウオッカ“スピリタス”を取り上げるかごめ。ここは、もう一度、邪見を酔い潰すに限る。警戒心を緩めさせて知りたい情報を引き出すのだ。

 
「さっ、邪見、飲んで、飲んで。」

 
かごめが、空になった邪見の盃に注ぎ足してやる。
(もっと酔わせて、色々聞き出さなくちゃ!)
盃から零れそうな『ウオッカ』を、ついつい、口に運んでしまった邪見。
例によって、ボワッと炎を口から吐く。酔いが、又、廻って来たらしい。

 
「ウプッ・・・ウィ~~~ック!」

 
「ねえ、邪見、白霊山で、何が有ったの?」

 
かごめが、誘導尋問に乗り出した。

 
「あのね、あの、お山では、あたしは、何ともなかったけど、邪見さまも阿吽も、凄~く具合が悪かったの。グッタリしちゃって。」

 
りんが、白霊山での事を思い出したのか、説明を入れて来た。

 
「フ~~~ン、そうか。邪見も阿吽も妖怪だもんね。あの白霊山の聖域に近付けば、当然、そうなるわよね。七宝ちゃんや雲母、半妖の犬夜叉でも、そうだったし。鋼牙君達も、同じだった。でも、殺生丸は、どうだったの? りんちゃん。」

 
巧みに、尋問の矛先を、邪見からりんの方に変更する、かごめ。

 
「ウ~~ン、殺生丸さまは、全然、そんな風に見えなかったけど。」

 
りんの言葉に、邪見が、噛み付いた。

 
「あっ・・当・・たり・前・じゃっ! 殺生・丸・様・・は・大妖・・怪じゃ・・ぞっ! あっ・あの・程度・・で・・具合・が・悪く・・なら・れ・たりは・・せん。し・かし・・あ・の・・聖域・は・あら・ゆ・・る妖・気・・邪気・を・浄化・・して・しま・・う・場・所・・じゃ。並み・の・妖怪・・なら・・ば・・到底・耐えら・れ・・ま・いて。イヤ・耐え・る・・所か・そのま・ま・浄化・され・・て消滅・して・しまい・・かねん。殺生・丸・様・だから・こそ・あ・の・聖域で・も・・御・自分を・保って・・おられ・た・のじゃ。と・は・云え・相当・にキ・ツイ・事は・確か・・じゃった・ろ・うて。頑固・な・御方・じゃか・ら・・絶対・に・顔に・出さ・れ・たり・・はせん・かった・じゃ・ろう・・が。」

 
「そう云えば、あの蛇みたいな刀を使う男の人が、そう言ってたよ、邪見さま。」

 
りんの言葉に、かごめが、飛び付いた。

 
「りんちゃん、それって、目の下から模様が有って、男の癖に、女みたいに頭に簪を挿した奴の事じゃない? それで、女物の着物を着流しにして、おまけに片っぽの裾を捲り上げて帯に挟んでなかった?」

 
「はい、その通りです。かごめさま。」

 
「間違いない。あいつだわ。七人隊の蛇骨よ、犬夜叉。」

 
「ああ、そうだな。殺生丸も、あいつと闘った事が有るのか。蛇骨は、男好きだから、殺生丸も、さぞかし、迷惑したこったろうぜ。」

 
「同感・です・・な。」

 
犬夜叉と同じく蛇骨に気に入られた弥勒が、以前の事を思い出して辟易したように呟く。

 
「そう云えば、犬夜叉、お前は、特に、蛇骨に気に入られておったな。しかし、あいつも妙な奴じゃったな。男の癖に男が好きとは。のう、弥勒、ああいう奴は、割と世間に居るのか?」

 
好奇心の強い七宝が、物識りの弥勒に、早速、質問を開始する。

 
「七宝・・お前・も・子供・の癖に・・妙な・処が・・鋭い・・です・ね。そう・で・す・・な。多い・・とは・思いま・せん・が・・都あた・りなら・ああ・い・う輩・が・探せば・結構・・見つか・るで・しょう。この頃・では・戦国武・将で・も・色・小姓・を・抱えて・・いる・と噂に・聞き・ますか・・ら。」

 
「法師さまっ! 七宝は、まだ子供なんだよっ、それに、りんだって聞いてるんだ。そんな事、ワザワザ、此処で説明せんで良いっ。」

 
    珊瑚が、柳眉を逆立てて、弥勒を叱り飛ばす。真面目で潔癖症の傾向が強い珊瑚には、衆道(男色)の話は、些か、刺激が、強すぎたのだろう。顔を真っ赤にして怒っている。もし、膝に琥珀を載せていなければ、飛来骨を振り回して暴れていたかもしれない。りんは、先程の会話が、何を意味しているのか良く判らなかったのだろう、キョトンとしている。

 
「さ・珊瑚・・おっ・落ち・着いて・・落ち・着いて・・下さい。」

 
「ウワ~~ン、珊瑚、怒らんでくれぇぇ・・。子供のチョッとした好奇心の表れなんじゃあぁ。」

 
「本当に、もう、しょうもないっ!」

 
「ヤ~~~イ、ヤ~~~イ、叱られてるんでやんの。」

 
此処で、犬夜叉が、止せばいいのに、調子に乗って弥勒と七宝をからかう。

 
「ハア~~~・・とんだ・トバッチリ・・です。」

 
「うっ、五月蠅いわいっ! 大体、犬夜叉、お前が、蛇骨なんぞに気に入られるからイカンのじゃっ!」

 
「ケッ! そんな事、こっちの知った事かよ。」

 
「犬夜叉、そこら辺で止めときなさいよ。七宝ちゃんも、いちいち噛み付かないの。」

 
       珊瑚に怒られ、かごめに窘(たしな)められ、しょげる七宝と弥勒を尻目に、かごめが、当時の状況を更に詳しくりんから聞き出す。


★★★『四方山話=炉端談義=⑦』に続く★★★

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『四方山話=炉端談義=⑤』

「そっくり! あのね、殺生丸さまのおっ母は、殺生丸さまと“ソックリ”なの。」

 
 大好きな殺生丸に関係する事を話せるのが嬉しいのだろう。
りんが、ニッコリ笑いながら答える。

 
「こっ・・こ・りゃ・・りん・・ゲフッ! 御・御母・・堂・様と・御呼・び・せ・・ん・か。」

 
邪見が、ゲップを吐きながらも、りんの言葉遣いを嗜める。

 
「フ~~ン、殺生丸と“ソックリ”か。それじゃあ、凄い美人よね、珊瑚ちゃん。」

 
「そうだね、かごめちゃん。あたし、最初、殺生丸を見た時、テッキリ女だと思ったくらいだよ。でも、すぐに考えを改めたけどね。あんな怖ろしい妖気を撒き散らす奴は初めてだよ。」

 
かごめと珊瑚が、女同士、意見を交換し合う。りんも話に加わって来た。

 
「殺生丸さまのおっ母、アッ、いけない、エッ・・と、ごっ、ご母堂さまはね、モコモコが付いた綺麗な蝶の模様の御着物を着てたの。それで、おでこに有る月の徴も殺生丸さまとソックリなんだけど、ほっぺにある線だけは、殺生丸さまと違って一本だったの。」

 
「それで、それで、りんちゃん、他には?」

 
かごめが、ワクワクして、りんに先を話すように促す。

 
「ウンとね、それから、ごっ・・御母・堂さまの髪型が・・あっ、そうだ、珊瑚さんが、戦いの時にする、あの髪形。あれに似てるんだけど、ごっ、御母堂さまは、二つに分けてるの。」

 
「ツ、ツインテール?!?」

 
かごめが、素っ頓狂な声を張り上げた。その髪型は、余りにも有名なアニメの主人公を、即座に、思い起こさせた。そう、かごめの実家が有る現代社会では、お馴染みの大人気テレビアニメの主人公、長い髪をツインテールにした美少女戦士。そして、これまた、当時のアニメを見た人なら、誰もが覚えている、有名過ぎる主人公の決まり文句「月に代わって、お仕置きよ」。その瞬間、かごめの頭の中に、トンデモナイ映像が出現した。それは、殺生丸が、そのアニメの主人公『セーラー★ーン』に扮した姿。長い白銀の髪をツインテールに、短いスカートのセーラー服を着用した、現実には、絶対に有り得る筈のない姿。それを想像しただけで、腹の底から、猛烈な笑いが込み上げてくる。可笑しい! 可笑し過ぎる~~~・・・かごめは、腹を抱えて笑い出した。もう大爆笑!

 
「アッハハハハッ、ハハハ、アハッ、アハハッ、ハッハ、ハッハハ、アハッ、ハハッ、ハハハ、
くっ、苦しい~~だっ、誰か、こっ、この笑いを止めて~~アハッ、ハハッ、アハハハハ・・」

 
「かごめちゃん、一体、どうしたんだい?」

 
「どうしたの、かごめさま?」

 
  珊瑚とりん、それに、犬夜叉や楓達も、急に笑い出した、かごめを不思議そうに見遣る。
戦国時代に生きる珊瑚やりん達に、現代の事は説明し難(にく)い。
例え、話したとしても、まず理解不可能だろう。
ここは、当たり障りのない話題に摩り替えておいた方が無難という物。
そして、かごめが、咄嗟に考え付いたのが、次の台詞だった。必死に笑いを堪えて話す。

 
「ウ・・ウン、あのね、アッチの世界で・・よっ・良く・・似た人が・・居るから・そっ・それで思い出しちゃって・・プププッ・・ウプッ・・アハハハッ・・ごっ・ご免・・キャハハハ・・」

 
「そんなに似てるの? かごめちゃん。」

 
「うっ、うん、もっ、もう、クックッ・・ククッ・・ソッ・・ソックリなのよ、珊瑚ちゃん。」

 
  笑うまいとしても、脳裏に浮かんでくるセーラー★ーンの扮装をした殺生丸の姿。
それを思い浮かべるだけで、これから、笑いのネタに困りそうもない、かごめであった。
それは、ともかく、今は、りんに、もっと話を聞かせて貰わなくては。
笑い過ぎて出てきた涙を、スカートのポケットから出したハンカチで拭いながら、かごめが、話の先を促す。

 
「ククッ・・・クッ・・ク・そっ・それで、りんちゃん、殺生丸は、お母さんの城で、冥道を拡げる為に、どんな事をしたの?」

 
「凄~く大きな犬が、ごっ、御母堂さまの首飾りの石から出てきたの。」

 
「石?・・・それから犬って?」

 
    かごめが、りんに聞き返す。
すると、邪見が、相変わらず呂律の廻らない口調で説明してくれた。

 
「冥・・道・石と云う・・んじゃ。それ・・に・犬ど・・もは・・冥界か・ら来たん・・じゃ。」

 
「あたしと琥珀は、石から出てきた、その犬に呑み込まれて・・・その後は、覚えてないの。」

 
「エエッ!」「「「!」」」「何だって!」「ヒェッ!」

 
かごめを始めとして、誰もが、その信じ難いような出来事を聞いて驚く。

 
「お前と・・琥珀は・冥界・・の犬に・呑み込ま・・れて・そのまま・・冥道の・中に・・消えたの・・じゃ。そ・そ・れを・・殺生・丸様が・・追って・・いかれ・た。」

 
当時の事を思い返しながら、邪見が、呂律の廻らない口調で、つっかえ、つっかえ、話す。

 
「それで、どうなったの? 邪見。」

 
かごめが、事の全容を知っている筈の邪見に、先を話すように急かす。

 
「後・の事・・は・ホレ・其処に・・居る・琥珀と・・御母堂・様から・お聞き・し・た事・・ばかり・じゃが・・な。冥界の・・犬を・斬り・・倒して・殺生丸・・様が・二人を・救出し・たんじゃ・が・・琥珀・は目を・・覚まし・・た・もの・の・りんは・気を・・失ったま・ま・・で・な。更・に・・襲って・く・・る冥界・・の鳥・や竜ど・も・・を・や・り過ご・・して・殺・生・・丸様・・は・・そ・のまま・りんを・・琥珀に・背負わ・・せ・て冥界・への道・・を進まれ・たの・・じゃ。だ・が・・その・内・・琥珀が・・り・んの・・異変に・気付・い・て・・の。りん・は・・息を・し・て・お・・ら・なかった・・の・じゃ。」

 
「何ですって!」「それって・・」「何だとっ!」「「「!?」」」

 
   更なる驚愕が、一同を取り巻く。りんは、既に一度『死』を経験している筈。
その彼女が、又しても“鬼籍に入った”と云うのか?

 
「殺生・丸様は・・天・生牙を・持って・・おら・れる。り・んを蘇・生・・さ・せようと・・なさったん・じゃ・・が・何故・か・・そ・の時は・・天生・牙を・振る・・われな・・かった。恐ら・く・・斬・るべ・き者が・・見えな・・かった・んじゃ・・ろうな。以前・刀々・・斎・か・ら・聞・いた話では・・天生・牙は・冥府の・使い・・餓鬼ど・もを・斬る・・事・によって・・死・者を・・蘇生さ・せる・・刀じゃ。如何に・殺・生丸様・・と云・えど・斬る・・べ・き・餓鬼・ど・もが・存・在・しなけれ・・ば・斬り・・ようが・ない。」

 
「じゃあ、殺生丸は、一体、どうやって、りんちゃんを生き返らせたのよっ? 邪見!」

 
  かごめが、もどかしい思いを我慢出来ずに、邪見の襟首を掴まえて叫ぶ。
りんと気絶している琥珀を除いて、その場に居た誰もが、固唾を飲んで話の先を聞こうとしている。

 
「あ・・焦るで・・ない。それ・は・・順を・追って・・話し・てや・・るわ・・い。今迄に・・な・い事態に・・殺生・丸様は・・戸惑って・・おられた。すると・い・きなり・・太鼓の・・ような・大音・・響が・・鳴・り・響い・たと・・同時に・黒・い・闇・の・風・・が忍び・・寄・り・・地面に・横た・えた・・りん・の・・身体を・・攫って・いった・・のじゃ。」

 
「邪見、それから、どうなったのっ?!」

 
「ウッ・・ウム・・済ま・んが・・水を・くれん・・か・の? 喉が・渇い・・た・・わ・い。」

 
「ウッ、ウン、判った。チョッと待ってて。」

 
  かごめが、急いで、水甕から、湯のみに水を汲んで、邪見に、手渡す。
それを受け取った邪見が、一気に飲み干す。

 
「プハ~~~~ッ! フウッ・・生き・返った・・わい。」

 
「それで! それで! どうなったのよ? 邪見!」

 
かごめが、待ち切れずに先を急かす。周囲の目も邪見に集中している。

 
「それで・・な・儂は・・御母堂・様と共・・に・殺生丸様・達が・・戻って・来ら・・れるのを只管・待って・・おったのじゃ。冥・道石は・・不思議な・石で・・な。冥界・・と・繋がっておって・・の。そっ・其処・で・の様子・・をその・まま・持ち主・・に伝え・て来るの・じゃ。御母・・堂様・は・ズッ・・と殺生・丸様・・達の様子を・窺って・・おられ・た。りん・・が闇に・・連れ去ら・・れた・時点で・冥道・石・・を使い・現世へ・・の道を・開き・・殺生・丸様に・・戻って・・来られ・る・ように・・申さ・れ・た。しか・し・・殺生・・丸様は・・御・母堂様・・の申し出・・を無視さ・れ・そのま・ま・・冥界へ・・の道・を辿ら・・れた。琥珀が・・教え・てくれた・・んじゃが・・死体が・腐った・よう・・な臭い・が漂って・・きたそ・う・じゃ。そ・んな異臭・・の中・見え・てき・たのは・・不気・味な・・冥界の・主・の・手に・・掴まれ・た・・りん・・の姿。・・周囲・は死体・・の山・じゃ。冥・界・・の主は・小山・のよ・うに・・巨大で・・な。り・んが・・まるで・・小人・のよう・に・・見・えた・・そう・じゃ。そ奴・の・・右腕・を・・殺・生丸様・が・・天生・牙で・・斬り・落とされ・・たんじゃ・・が・不思・議な・事・・に・・腕は・斬・り落と・し・た・途端・に・霞・の・・ように・消え・失せ・・ていった・・の・じゃ。殺生・・丸様・が・落ち・・てく・る・りん・・を天・生牙・を持った・・まま・右・腕で・・抱き止・められ・・た。冥・界の主・・を・斬った・・以上・・これ・で・・りん・が・・息を・・吹き・返すと・・信じ・て・・な。じゃ・・が・りん・・は・目・・を・開け・なん・・だ。殺生・丸・様・が・・あっ・あの・・誇り・高い・・御方・・が・天生・・牙を・・刀を・・取り・落とさ・れた・・んじゃ・・ぞ。どっ・ど・れ・・程・の・衝・・撃・・を感・じ・ておら・れ・・た事・か。そっ・そ・の時の・・殺・生丸様・・の・お気・持ち・を・・想・像す・る・・だ・けで・・儂・・は・・涙・が・出そう・・に・な・るわ・・い。」

 
「でも、邪見、殺生丸は、天生牙で、冥界の主、つまり“あの世の使い”の親玉を斬ったんでしょう。それなのに、どうして、りんちゃんが生き返らなかったの?」

 
かごめが、疑問に感じた事を、邪見に訊ねる。

 
「それ・は・な・・天生牙・で・命を・・呼び・戻せ・るの・・は・『一度・き・り』・・だから・・なの・・じゃ。」

 
「エエッ!」「そんなっ!」「そうなのかっ!」「「「!」」」

 
  邪見の明かした衝撃的な事実に、炉辺に集まっていた皆が、激しく動揺した。
邪見は、構わず、そのまま話を続けた


★★★『四方山話=炉端談義=⑥』に続く★★★

拍手[4回]

『四方山話=炉端談義=④』

「こっ・・これは・・凄・・・い。こ・・んな強・い酒を飲ん・・だのは初め・て・・です。」

 
   弥勒が、少々、呂律(ろれつ)の廻らない口調で、『ウオッカ』なる酒の評価を下す。
流石に、不審に感じて、かごめが瓶に貼られたラベルの記載内容を確かめて見れば・・・・。
ギョギョッ! 信じられない数値にかごめが目を見開く。何と! 
其処に記載されていたアルコール度数は96度。
    サァ――――ッ、見る間に、かごめの顔色が青ざめた。
ほぼ、純粋なアルコールではないか!?
    そして、ラベルに記載されていた銘柄は『スピリタス』。
原産国は、ポーランド、原材料はライ麦を主体にした穀物、蒸留を繰り返す事、実に、七十と数回、極限にまでアルコール度数を引き上げた代物である。
勿論、かごめは、そんな事は、当然、知る由(よし)もなかっただろう。
だが、この酒こそは、数あるウオッカの中でも、イヤ、あらゆる酒の中でも最高のアルコール度数を誇る、知る人ぞ知る、世界最強の“酒の中の酒”。
どんなに屈強な体育会系の猛者であろうと、キャップの半分も飲ませれば“泣きが入る”という『伝説の酒』であった。

 
「なっ、何なの?! このお酒、滅茶苦茶、強いっ!!!」

 
とんでもないアルコール度数に仰天して、かごめが叫ぶ。

 
「邪見さま、大丈夫?」

 
ひっくり返った邪見を心配して、りんが訊ねる。

 
「ヒイッ・・ク! 勿・論・・大丈~~夫・じゃ・・とも。ウイッ・・ク!」

 
フラフラと起き上がった邪見は、すっかり典型的な酔っ払いの口調に変わっている。

 
「こいつ、完全に酔っ払ってやがるぜ。」

 
ヘベレケな邪見の様子を見て、犬夜叉が、呆れたように評する。

 
「なっ・・何ぃ~~。わっ・儂・・は、酔っ・払っ・・て・なん・・か・おらん・・ぞぉ~~。」

 
「馬~~鹿!、そういう喋り方が、もう、立派な酔っ払いなんだよ。」

 
「馬・鹿・・じゃとっ! ヒィッ・・ク! 貴・様の・・よう・な半・妖・に馬鹿・・にされ・る覚えは・・ない・わい。ヒィッ・ク・ウイィ・・ック!」

 
「何だとっ! この野郎!」

 
ポカッと犬夜叉が、邪見の烏帽子頭を殴る。

 
「止めなさいよ、犬夜叉。邪見は、酔っ払ってるんだから。」

 
かごめが、更に、もう一発、殴ろうとする犬夜叉を止めに入る。

 
「ヘンッ!こんな奴は、二、三発、殴って目を覚まさせてやった方が良いんだよ。」

 
「犬夜叉、おすわりっ!」

 
かごめの伝家の宝刀“言霊の念珠”が、発動した。

 
「ギャンッ!」

 
床に激しく叩きつけられる犬夜叉。りんが、目を丸くして、それを見ている。

 
「楓さま、かごめさまも、巫女さまなの? あの呪文は、誰にでも効くの?」

 
りんが、楓に、不思議そうに訊ねる。

 
「まあ、そうだな。尤も、あれは、犬夜叉にだけ効く特別な『言霊』なのだよ。」

 
言霊の念珠を施した張本人の楓が、シレッとして、りんの質問に答える。

 
「フ~~~ン、凄いね。」

 
りんが、感心したように、かごめを見遣る。そして、心の中で呟く。

 
(殺生丸さまが、戻ってきたら、この事を、お話ししてみよう。どんなお顔されるかな?)

 
「弥勒さまも、本当に大丈夫? ご免なさい。まさか、こんなに強いお酒だとは思わなくて。」

 
かごめが、もう一度、済まなそうに謝る。

 
「おっ・お気になさらず。ハハ・・ハ・こ・んな風に・・酔っ払った・・のは、初めて・で・す。フウ~~・・す・済み・ません・・が・チョッ・・ト・姿勢を・崩させ・て・・頂きます。」

 
   そう云って弥勒が、壁に寄り掛かるように凭(もた)れた。
珍しい事である。弥勒は、寺で厳しく行儀作法を叩きまれたせいもあって、どんな時でも、所作が、端然と整っている。そんな弥勒が、眠りに就く訳でもないのに姿勢を崩す。
酔いは、かなりの物らしい。

 
「吃驚したよ。法師さまが、そんなに酔った姿って初めて見るから。」

 
珊瑚も、酒に酔う弥勒を見て驚いている。

 
「ハハ・・ハ・・面目・・ない。これ・・ま・で『酒・は・・飲ん・で・も・・飲ま・れ・るな』が信条だっ・・たん・です・・が。こん・なに強・・い酒は・・初・・めてだっ・・たので。」

 
「アアッ! 止めなさいよ、邪見。そんなに酔っぱらってるのに、まだ飲む気なの?」

 
見るからにベロンベロンに酔っぱらった邪見が、又しても、盃に『ウオッカ』を注ごうとしている。
 
こんなになっても、まだ、二杯目を飲む積もりなのだろうか。かごめが、慌てて取り上げる。

 
「なっ・・何・を云う・・か。わっ・・儂は・よっ・・酔って・など・・おら・ん・・ぞ。」

 
「ンモウッ! その呂律(ろれつ)の廻らない喋り方が、酔っ払いその物なんじゃない。」 

 邪見から取り上げた『ウオッカ』を眺めている内に、かごめの心にムクムクと誘惑的な考えが浮かんで来た。時と場合に応じたかごめの“臨機応変”な物の考え方には、定評がある。実際、それで、これまで様々な難局を打開してきた。
そうした、悪く云えば『御都合主義』、良く云えば“柔軟”な考え方が、普段の良識を抑え込み、かごめの心を、ジワジワと占領し始めた。

(ンンッ? チョッと・・チョッと待ってよ。この状況を利用しない手はないわ。これだけ酔っぱらって前後不覚の邪見なら、上手く聞き出せば、これまで、知りたいと思ってきた事を、洗いざらい、気前良くペラペラ喋ってくれるんじゃないかしら? そうよ、あの、おっかない殺生丸が居ないのよっ! こんな機会って二度と無いかも知れないんだからっ!)

 
腹は決まった。心の中で秘かにガッツポーズを取るかごめ。

 
「邪見、そんなに飲みたいの? じゃあ、あたしが、お酌してあげるわね。」

 
かごめが、愛想良く、一旦は取り上げた盃を、邪見に渡し『ウオッカ』を少しだけ注いでやる。

 
「オッ・・オオッ? そっ・そうか・・済まん・・な。」

 
  ほんの少しだけ『ウオッカ』が注がれた盃を、邪見が、またも、一気に呷る。
そして、今度も、ボワッと火を吐く。益々、赤くなる顔色。
もう地肌の緑色は、完全に隠れてしまっている。

 
「クハッ! こっ・この・・喉・を灼く・・感・じが・・堪・ら・・んわ・い。」

 
「ねえ、邪見、殺生丸の従者のあんたなら、当然、知ってるんでしょ? 闘鬼神が折れた後、殺生丸は、どうやって冥道残月破が使えるようになったの?」

 
「ウィ~~ック・・冥・道・・残・月破・・か。あれ・・は・・刀・々・斎が・・急に・現れ・・てな。何で・も天・生・・牙に・・呼ば・れた・・とか・で。武・器・とし・・て・天・・生牙を・鍛え直・・すと云って・ヒック! 持ち・帰ったん・・じゃ。そ・の・・結果・・使え・るよう・・に・・なった・のが・・あの冥・道・残月・・破じゃ。」

 
「フ~~ン、そうなの、刀々斎のお爺ちゃんが。でも、邪見、あの冥道、大きいけど、最初は、細い月みたいだったわよね。丁度、殺生丸の額にある徴みたいに。それが、次に会った時は、大分、円に近くなってたわ。どうやって、冥道を拡げたの?」

 
「そ・・れは・な・・御・御母・・堂様の・おか・・げ・・じゃ。」

 
「御母堂さまって・・ねえ、弥勒さま、それって、確か、母親の意味よね?」

 
「は・・い・・そう・・ですね。母・上・・母君・の敬称・・です。」

 
「・・・という事は。エエッ! 殺生丸のお母さんって生きてるの?!」

 
其処に居た者達は、りんと邪見、それから気絶している琥珀を除いて、皆、仰天した。

 
「犬夜叉、あんた、どんなに仲が悪くても、一応、殺生丸の弟なんでしょ。知らなかったの?」

 
かごめが、まだ床に伸びている犬夜叉に質問する。

 
「テテッ・・無理云うなよ、俺は、あいつと一緒に育った訳じゃねえんだ。」

 
「本当は、邪見さまだって、つい、此間(こないだ)まで知らなかったんだよ。」

 
りんが、サラッと合いの手を入れてきた。

 
「りんちゃん、殺生丸のお母さんを知ってるの?」

 
かごめが、りんの言葉を聞いて驚く。

 
「ウン、あたし、前に、邪見さまや琥珀と一緒に、阿吽に乗って、殺生丸さまの、おっ母の城に行ったんだよ。ネッ、邪見さま。」

 
「ウ・・ム・あれ・・は・実に・・立派な・城で・あった。雲・・の中・に・・聳え・る・・巨大な・城で・・な。流石・は・殺生・・丸・様の・御・母堂・・様で・あら・せ・ら・・れる。」

 
邪見が、もどかしい程、呂律の廻らない口調で、りんの言葉を裏付ける。

 
「フ~~~ン、そうか。殺生丸って、やっぱり良い所の“お坊ちゃん”なんだ。」

 
(あの物凄~~~く偉そうな態度、殿様みたいな喋り方。あいつ、正真正銘、本物の御曹司だったのね。ハア~~、道理で。父親が同じとは云っても、犬夜叉とは、丸っきり育ちが違うんだ。)

 
  少し酔いが醒めて落ち着いてきた弥勒も、りんと邪見の言葉を聞いて納得していた。
喋る分には、まだ呂律が廻らないが、頭の中の思考回路には、余り支障を来たしていない。忙しく考えを巡らす。

 
(確か・・・犬夜叉と殺生丸のお父上は、西国の妖怪どもを統べる国主だったそうですな。ならば、嫡男である兄上は、当然“お世継ぎ”として育てられた訳で。成る程、それでですか。あの人を人とも思わない尊大極まりない態度、見てるだけなら優美極まりない物腰、上つ方の口調。フム、兄弟とは云っても、犬夜叉とは、まるで違う訳ですな。)

 
「じゃあ、りんちゃん、殺生丸のお母さんに会った事があるんだ。ネッ、ネッ、どんな感じの人だったの?」

 
  かごめの好奇心が、俄然、風船のように、はちきれそうに膨らむ。
目をキラキラと輝かせて、りんに訊ねる。炉辺に屯(たむろ)している連中も、殺生丸の母親に、あながち興味が無い訳ではない。
  皆、何気ない風を装いつつも、シッカリ聞き耳を立てている。


★★★『四方山話=炉端談義=⑤』に続く★★★
 
 
 

拍手[3回]

『四方山話(よもやまばなし)=炉端談義=③』

「そっ、そうじゃったか、道理で。殺生丸様は、あの石像どもと、始めの内は、闘鬼神で闘っておられたのじゃ。しかし、何度、倒されても、彼奴らは、起き上がってきおっての。そうしたら、殺生丸様が、何を思われたのか、天生牙を抜かれたのじゃ。その途端に、あ奴ら、その場に跪(ひざまず)きおったのだ。それと同時に扉が開いてな。光が、眩しいくらい射し込んで来たが、別段、石には、ならんかったぞ。」

 
「それは、不思議ですな。扉から溢れる光を浴びても石にならず、その上、あの牛頭、馬頭が、跪くとは。一体、何があったのですか?」

 
「フフン、法師よ。聞いて驚け。石像どもが云うには、『その刀は、この世ならぬ者を斬る刀。我らは、斬られたも同然。』とな。つまり、殺生丸様が、持っていらっしゃる天生牙のおかげなのじゃ。だからこそ、儂らは、あの扉の向こうへ、行けたのじゃ。」

 
「何とっ!」「エエッ!」「そうだったのか!」「・・・」「「!」」

 
各人が、それぞれに、驚きの言葉を発する。

 
「天生牙って・・・やっぱり凄い刀なのね。」

 
かごめが、感心したように呟く。

 
「そうだね、かごめちゃん。」

 
珊瑚も同意する。

 
「おら達は、あの道を通ろうとして、あんなに苦労したのに。」

 
七宝が、当時の事を思い出して愚痴る。

 
「それは、仕方がありませんよ、七宝。それにしても、邪見殿、その道を、一体、誰から聞かれたのですか?」

 
弥勒が、七宝を慰めつつも、疑問に感じた事を、聞き出す。

 
「あの風使いの女、奈落の分身の神楽じゃ。」

 
「成る程、そうでしたか。私達も、火の国の道は、神楽に教えられたんですよ。と云うか、それも、多分、白童子の差し金でしょうが。」

 
「白童子?」

 
「そうか、邪見殿は、白童子に会った事が無いのでしたね。奴は、奈落の分身、白霊山での落とし子なのです。奈落を裏切ろうとして、結局、最後は、私の風穴に吸い込まれて死にましたが。」

 
弥勒が、数珠で封印した自分の右手を見やりながら、言葉を繋ぐ。

 
「神楽・・・か。あいつも助けてやれなかったな。」

 
犬夜叉が、以前の事を思い出して、ポツリと呟く。

 
「ンンッ、助けてやれなかったって。犬夜叉、あの女は、死んだのか?」

 
「ああ・・・奈落に殺された。」

 
「エエッ! 神楽、死んじゃったの。」「何とっ!」

 
りんが、それを聞いて、酷く驚いた表情を見せた。邪見も、吃驚している。

 
「・・・ウウム、そうじゃったか。あの女は、殺生丸様が、闘鬼神を手に入れられた時から、何かと儂らに絡んできおってな。ある時など、四魂の欠片と引き換えに、殺生丸様に、奈落を倒してくれなどと、とんでもない事を持ちかけてきおったのじゃ。尤も、殺生丸様は、四魂の欠片になど、何の関心もない御方じゃから、素気無く断られたがな。その意趣返しもあったんじゃろうな。りんを最初に攫(さら)ったのは神楽じゃった。それもこれも、奈落めが、殺生丸様を自分の城におびき寄せる為だったのじゃ。」

 
神楽を、多少は、哀れに感じたのか、邪見が、少し、しんみりした口調で、説明する。

 
「ちょっと! それって、あの奈落の城での事よね? 邪見。」

 
かごめが、それを聞いて、自分の記憶を確かめるように邪見に訊ねる。

 
「ン? そう云えば、あの時は、犬夜叉が、駆け付けてきおったな。オオッ!思い出したぞ。殺生丸様は、りんを助ける為に飛んでいかれたから、詳しい事情を知ろうとして、犬夜叉が、儂を、タコ殴りにしおったんじゃった。コラッ、犬夜叉、あの時は痛かったぞ!」

 
邪見が、当時の事を思い出して、犬夜叉に、怨み言を並べる。

 
「ケッ、おめえが、サッサと話さないからだよ。」

 
「邪見さまは、殺生丸さまに、良く殴られるけど、やっぱり、犬夜叉さまにも殴られるんだね。」

 
りんが、すかさず、絶妙な突っ込みを入れてきた。

 
「なっ、何を云うんじゃ! りん、もう、それ以上、喋るなっ!」

 
  邪見が、慌てて、りんに口止めしようとするが、時、既に遅し。
すっかり、皆の関心の的になってしまった。特に、かごめや七宝は、こういう話題に目が無い。
ニヤニヤと目が笑っている。

 
「ププッ・・・りんちゃん、邪見は、何時も、そんなに殺生丸に、お仕置きされてるの?」

 
かごめが、笑いを堪えながら、りんに、邪見の、お仕置きの度合いを尋ねる。

 
「うん、三日に一遍は、お仕置きされてるの。殺生丸さまのご機嫌が悪い時は、毎日、連続で。」

 
りんの答えを聞いて、かごめが、嘆息しながら、邪見に話し掛ける。

 
「ハア~~、良く辛抱してるわね、邪見。それとも、あんたって、もしかしてマゾ?」

 
「何じゃ、その、マゾとやらは?」

 
  戦国時代の住人に、現代用語を説明するのは難しい。
かごめなりに、解釈して話してみる。

 
「ウ~~ン、説明しづらいわね。エット、とにかく、どんなに虐められても、その相手が大好きって事よ。」

 
「だったら、邪見さまは、凄~くマゾだと思う。どんなに殺生丸様に殴られても、石をぶつけられたり、蹴飛ばされたり、踏んづけられたりしても、やっぱり殺生丸さまの事が大好きだから!」

 
「「「「「「・・・」」」」」」

 
シ――――ン、りんの言葉に、沈黙が、炉辺に広がった。

 
「なっ、何じゃ! その哀れむような目は?」

 
「・・・邪見、おめえも苦労してるんだな。」

 
長年、兄の冷酷な仕打ちに耐えてきた犬夜叉が、共感を込めて、ボソッと呟いた。

 
「うっ、煩いわい!」

 
「マアマア、皆さん、邪見殿は、稀に見る忠臣という事にしておきましょう。そんな仕打ちを受けても兄上に忠実なのですから。」

 
弥勒が、憤慨する邪見を宥めるように話を纏める。

 
「それにしても、随分、夜も更けてまいりましたな。かごめ様は、明日、ご自分の実家に戻られるそうですが、今回は、何日ほど掛かりますか?」

 
「ウ~~ン、何しろ、今回は受験が、迫ってるから。暫く、あっちに居る事になると思うの。」

 
「かごめも、アッチとコッチの往復で大変じゃな。アッチから戻って来る時は、また、おらの好きなお菓子を持って来てくれるか?」

 
  七宝が、期待を込めて、かごめを見る。
かごめが、アッチの世界から帰って来る度に、持って来てくれるお菓子が大好きな七宝であった。
特に『きゃんでー』なる甘い飴には、目が無い。

 
「勿論よ、七宝ちゃん。今度は、りんちゃんも居るから、一杯、お菓子、持って来るわね。」

 
「ワ~~~イ、また、あの『きゃんでー』が、食べられる。」

 
「チョッと待っててね。まだ、何か、残ってるかも。」

 
ゴソゴソと、かごめが、リュックを探る。中から布に包んだガラスの中瓶が出てきた。

 
「アラッ!、これ、何かしら? アア、そう云えば、消毒薬が切れてたから、ママが、その代わりに持って行くようにって持たしてくれたんだっけ。」

 
「何ですかな、かごめ様、そのギヤマンの瓶は?」

 
弥勒が、興味を引かれたのか、かごめに訊ねる。

 
「これはね、『ウオッカ』って云う外国のお酒。日本酒に比べるとアルコール度数が、かなり高いから、消毒効果が高いんだって。」

 
「オオッ!、般若湯(はんにゃとう)で御座いますな。」

 
  弥勒の目が輝いた。法師や僧侶は、職業柄、大っぴらに酒を飲むとは公言できない。
従って、『般若湯』なる隠語で表現するのである。弥勒は、かなりの酒好きなので、かごめは、アチラから戻る際には、必ず土産として何か持って来るようにしていた。

 
「ケッ! 生臭坊主が。」

 
  犬夜叉が、憎まれ口を叩く。
鼻が利きすぎるのと、かなりアルコールに弱いので、犬夜叉は酒を飲まない。
一度、薬老毒仙の処で、強制的に飲まされた事が有ったが、その後、二日酔いで酷い目に遭っている。それ以来、二度と酒は飲まないと堅く心に誓った犬夜叉であった。

 
「チッ、チッ、チッ、何を仰います。般若湯も飲めないような、お子様に、大人の楽しみを、とやかく言われたくありませんな。」

 
  弥勒が、大人の風格を見せて言い返す。
確かに、半妖である犬夜叉の方が、年齢的には、弥勒より上なのだが、実際の処、精神的には、犬夜叉よりも弥勒の方が、遥かに大人なのは確かだった。

 
「クスクス、そうね。薬老毒仙に、無理矢理、飲まされた時は、犬夜叉、大変だったもんね。これ、持って帰っても荷物になるだけだから、弥勒さま、全部、飲んじゃって。」

 
「宜しいのですか。かごめ様。これは、有り難い。では、皆様も、ご一緒に頂戴しましょう。」

 
  そう云って弥勒が、見回してみても、酒を飲みそうな面子は見当たらない。
かごめや珊瑚、りんや七宝は勿論の事、楓も、飲まないし、犬夜叉も除外。
そうなると、残るは、邪見のみであった。

 
「楓様、すみませんが、盃を二つ、用意して頂けませんか?」

 
「ああ、良いとも。少し待っておいでなされ。」

 
楓が、神棚から、お神酒(みき)用の素焼きの土器(かわらけ)を二つ持って来た。

 
「邪見殿、一献、如何ですかな?」

 
「わっ、儂か。そりゃ、飲めん事もないが。」

 
「では、ささっ、おひとつ、どうぞ。」

 
  楓が出してくれたお供え用の盃。それにトクトクと注がれる酒は無色無臭の液体。
なみなみと注がれた『ウオッカ』なる外つ国(とつくに)の酒をクンクンと嗅ぐ邪見。

 
「何じゃ、この酒は? まるで水のようではないか。何の匂いもせんぞ。」

 
弥勒も、邪見と同じように鼻を盃に近づけてみるが、やはり、匂いは無い。

 
「オヤ、そうですな。かごめ様が、お国から持って来て下さる酒は、こちらの酒と違って無色の物が多いのですが、大抵、匂いが有ります。しかし、この酒は、全く匂いがしませんな。」

 
「何だか、全然、酒らしくない酒じゃな。これでは、飲んでも、大して酔いもせんじゃろうて。」

 
  そう云って、一気に『ウオッカ』を呷(あお)った邪見。
飲み終わった次の瞬間、ボウッと火を吐いて、床に、ひっくり返った。

 
「キャッ!」「ウワッ!」「なっ、何?」「邪見さまっ!」「ヒエッ!」「!?」

 
  小さな盃に、ほんの一杯、飲んだだけなのに、邪見は、見るからにグデングデンに酔っ払っている。緑の顔色に赤味が注して、何ともかんとも形容し難い。
赤いのか緑なのか、もう判別不可能。弥勒の方は飲み終わったと同時に、ゲホゲホと激しく咽込んだ。酒には、相当、強い筈の弥勒だが、かなりの酔いが来ているらしい。フラフラと身体が揺れているではないか。

 
「だっ、大丈夫? 邪見、弥勒さま。」

 
「法師さま、大丈夫かい?」

 
かごめと珊瑚が、心配して訊ねる。
かごめ自身、『ウオッカ』が、かなり強い酒だと知ってはいたものの、どうも、この酔っ払い方は、尋常ではない。通常の『ウオッカ』のアルコール度数は、精々、40度くらい。日本酒やワインの15度程度に比べれば、確かに強いが、普通は、こんな風になる筈が無い。


★★★『四方山話=炉端談義=④』に続く★★★

拍手[4回]

『四方山話(よもやまばなし)=炉端談義=②』

  普段、殺生丸から折檻される邪見を見慣れているのか、りんは、この程度では、驚きもしない。それに、小妖怪よりも、余程、物の道理が判っている。

 
「りんは、殺生丸が、おっかなくないのか? おら、どうしても、頼みたい事があって、殺生丸の側に行った事があるが、それだけで、震え上がったぞ。」

 
 七宝が、以前、川獺の甘太の父親を天生牙で助けて貰った事を引き合いに出して、りんに訊ねた。

 
「怖くないよ。殺生丸さまは、とっても優しいよ。」

 
それを聞いて、弟である犬夜叉は、勿論の事、楓の小屋の中に集まっていた、ほぼ全員が、目を丸くした。『殺生丸が、優しい???』あの空怖ろしい程、凄絶な妖力を身に纏う、触れなば切れんばかりの凛冽な妖気を発する大妖怪に、凡そ不似合いな言葉。
それとは反対に、殺生丸の従者である邪見は、殆ど諦めにも似たような表情で、深く溜め息を吐く。
それを見て、弥勒は、一人納得する。
どうやら、りんの言葉通りの状況らしい。
あの大妖怪は、りんに対してだけは、他の者に対する態度と、まるで違っているようだ。
その証拠に、りんの表情には、ほんの少しの翳りも見当たらない。
それどころか、殺生丸が、好きで好きで堪らない思いが、小さな体全体から満ち溢れている。

 
(フム、ここまで慕われるとは、男冥利に尽きますな。
成る程、やはり、あの大妖怪を変えたのは、りんの影響のようですな。
それにしても、驚きです。こんな小さな童女が、あんなに冷酷で、人を虫けら同然にしか扱わなかった殺生丸を、此処まで変えてしまうとは・・・。
女人【にょにん】の力とは、実に、偉大な物で御座いますな。
尤も、りんは、まだ、女人【にょにん】と云うには程遠い年頃ではありますが。
イヤ、逆に、純真無垢な幼子だからこそ、あの大妖の心に手が届いたのかも知れませんな。
なまじ、世俗に塗【まみ】れた大人では、到底、あの兄上に近付く事さえ出来なかった筈でしょうから。まるで、厳しく人を拒む真冬の霊峰を思わせるような御方ですからな。)

 
「りん、お前、殺生丸と何処で知り合ったんだ?」

 
りんが、かごめや七宝の問い掛けに答えるのを、黙って聞いていた犬夜叉が、ブスッとした顔で、訊ねてきた。
先程からのりんの受け答えを聞いて、兄の自分に対する態度との余りの違いに、内心、呆気に取られると同時に、ドンドンむかっ腹が立ってきた犬夜叉であった。

 
(あの野郎・・・俺には、一度だって優しくしてくれた事なんて無い癖に。
俺のお袋を、いつも、卑しい人間風情がって、あんなに貶【けな】してやがったのに。
それなのに、同じ人間の、りんに対する、この態度の差は、一体、何なんだよっ!)

 
「えっ・・・と、あたしが、殺生丸さまに初めて会ったのは、まだ、前の村に住んでた頃です。
犬夜叉さま。」

 
  それを聞いて、ブッ!とかごめや七宝、珊瑚に弥勒までが、吹き出した。
楓は、流石に年の功で、腹に力を入れて、ググッと笑いたいのを我慢する。

 
「ハハハッ、ハッ、ハッ、たっ、確かに、犬夜叉は、殺生丸の弟ですからな。りんにしてみれば、犬夜叉『さま』かも知れませんな。しっ、しかし、どうにも似合いませんな。ハハハッ・・・」

 
  弥勒が、腹を抱えて笑いながら指摘する。
珊瑚も弥勒の横で琥珀の頭を膝に乗せて、クックと忍び笑いを堪えている。

 
「アハハハッ、そっ、そうね、弥勒様の云う通りだわ。冥加爺ちゃんが、犬夜叉を、そう呼ぶのは、無理ないけど。でも、犬夜叉に『さま』って、やっぱり似合わな~~い!」

 
かごめも、ケラケラ笑いながら同意する。

 
「犬夜叉『さま』じゃとっ。ギャハハッ、いっ、犬夜叉が『さま』付けじゃとっ!」

 
七宝もゲラゲラと笑いこけている。笑い過ぎて涙まで滲んでいる。

 
「うるせえぞ、てめえら!」

 
笑われた当の本人である犬夜叉は、苦虫を噛み潰したような顔で周囲を威嚇する。ウ~~~

 
「りん、犬夜叉は、殺生丸様と違って半妖じゃ。『さま』なんぞ付ける必要は無いんじゃぞっ!」

 
    邪見が、此処ぞとばかりに口を出す。それに対し、りんが、キッパリと否定する。

 
「駄目だよ、邪見さま。犬夜叉さまは、殺生丸さまの弟『さま』なんだから、チャンと犬夜叉『さま』って呼ばなきゃ。」

 
それを聞いていた、かごめが、改めて、りんを見直す。

 
(本当に、何て素直で礼儀正しい子なの。感動しちゃうわ。殺生丸が、りんちゃんを気に入るのも無理ないかもね。)

 
弥勒や珊瑚、楓や七宝も、りんの言葉を聞いて、皆、同様の思いを抱いた。

 
「まっ、まあ、それは置いといて。りん、前、村に住んでた頃に殺生丸に会ったって云ったな。じゃあ、どうして、その村から出る事になったんだ?」

 
犬夜叉が、少々、尻こそばゆいような思いを隠すように、りんに質問した。

 
「・・・村が、狼に襲われて・・・みんな、殺されたんです。」

 
かごめが、それを聞いて、以前の記憶を反芻(はんすう)しながら、りんに訊ねる。

 
「エッ!、それって、まさか、あの時の妖狼族に襲われた村の事?」

 
「狼を沢山、引き連れた若い男が、片目の男を追ってきて・・・その後、狼達が、村を襲って。」

 
当時の事を思い出したのか、りんが、ブルッと震えながら小さな声で答える。

 
「間違いないわ、犬夜叉。あの時、鋼牙君が、狼を使って襲わせた村よ。」

 
    りんの答えを聞いて、かごめは、確信した。犬夜叉も頷く。
他の者達も、皆、一様に驚いている。

 
「・・・そうだったの。でも、りんちゃん、よく無事だったわね。」

 
  かごめの言葉に、邪見が、即座に反応した。
吐き捨てるように言葉を繋ぐ。

 
「何処が無事な物かっ! あの時、りんは、狼どもに噛み殺されて命を落としたんじゃっ!」

 
「エッ?」「エッ!」「エエッ!」「「「!」」」

 
  誰もが、それを聞いて驚愕に息を呑んだ。
目の前の童女が、そんな悲惨な目に遭っていたとは。
  では・・・この童女は、既に一度、死んだ身なのか。
でも、童女は生きている。それは・・・。

 
「じゃ、じゃあ、今、りんちゃんが生きているのは・・・」

 
  かごめが、恐る恐る、訊ねる。
もう、答えは聞かなくても判るような気がした。

 
「殺生丸様のおかげじゃ。天生牙を振るって、冥府から、りんの命を呼び戻されたのじゃ。」

 
邪見の言葉に、弥勒が納得したかのように頷く。

 
「そうでしたか。それで、何故、殺生丸が、川獺の甘太の父親を天生牙で救えたのかが判りました。もう、既に一度、りんを救った事があったからなのですね。」

 
「何じゃ。その川獺の甘太とやらは。」

 
不思議そうな邪見に、弥勒が答える。

 
「ああ、邪見殿は、御存知なかったのでしたね。以前、私どもが、奈落の分身、白童子に首を斬られた川獺の妖怪を助けようとした事があったのです。その時、兄上が、たまたま、側においでになって、その川獺の妖怪を、天生牙で救って下さったのです。」

 
「それは、白霊山の前の事か、後の事か。」

 
「後です。やはり、邪見殿も、白霊山においでになっていたのですね。」

 
「当たり前じゃ。儂は、殺生丸様の従者じゃぞ。あの御方が、行かれるのであれば、何処だろうと、お供するわい。」

 
「確かに。あの世の境でも、お会いしましたな。」

 
弥勒が、ふと思い付いて、邪見に訊ねた。

 
「それにしても、あの時は、どうやって、あの場所へ来たのですか?」

 
かごめも、その事に思い至り、邪見に質問した。

 
「そうよっ! 今まで、気が付かなかったけど、殺生丸は、どうして、あそこに来れたの? 私達、鉄鶏(てっけい)の血の河を渡って、あそこに行ったのよ。でも、あの河は、直ぐに閉じてしまうって奈落が云ってたのに。」

 
「鉄鶏? そりゃ、何の事じゃ?」
 
 
「ほら、邪見さま。それって、もしかして、あの凄~く大きい、首の無い鳥の事じゃない?」

 
りんが、かごめの言葉に思い当たる事があるらしい。邪見に、問い返す。

 
「そうよ、りんちゃん。鉄鶏は、奈落に首を斬られたの。だから、首が無いの。其処から大量の血が溢れ出て、それが血の河になったの。其処を渡って、私達、あの世の境に行ったのよ。」

 
  かごめの言葉を聞いて、邪見が、納得したらしい。
少し、得意気に、別の道について説明し始めた。

 
「フン、確かに、あの鳥には首が無かったな。しかし、儂らは、その鉄鶏とやらとは、関係ない。全く別の道を通って、あそこに行ったんじゃ。」

 
「邪見殿、別の道とは?」

 
弥勒が、話の先を促す。邪見が、それについて、得々と話し出した。

 
「火の国にある道じゃ。儂らは、あそこから、あの世の境へ行ったんじゃ。」

 
「エエッ! でも、あの道は、牛頭(ごず)と馬頭(めず)っていう生きた石像の門番が、守っていて、生きてる者は、死者にならないと通れないんじゃなかったの?」

 
かごめが、驚いて、邪見に問い返す。

 
「そうですな。あの道は、我々も、通ろうとして、危うく石にされる処でした。」

 
弥勒も、かごめに同意する。

 
「石? そう云えば、あそこには、やたらと妖怪のような形をした石が落ちていたが。では、あれは、元々は、生きている妖怪どもだったのか。だが、何故、石などに?」

 
「牛頭、馬頭の守っている扉の向こうから射し込んでくる光に当たると、皆、ああなってしまうのですよ、邪見殿。」

 
弥勒が邪見に説明する。
その言葉に、邪見は合点がいったらしい。
頷きながら、話を続ける。

★★★『四方山話=炉端談義=③』に続く★★★

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『四方山話(よもやまばなし)=炉端談義=①』


四方山(よもやま)=世間の、あれこれ様々な事。
従って、四方山話(よもやまばなし)は、そのまま世間話と云える。
楓、云わずと知れた巫女、桔梗の妹である。
犬夜叉一行は、奈落を追跡する旅に出ていない時は、楓の家を拠点としている。
その楓の家が、今日は、いつにも増して賑(にぎ)やかしい。
珍しい客人が滞在しているのだ。犬夜叉の兄、殺生丸の従者、邪見と、かの大妖が、どういう経過か、連れ歩いている人間の童女、りん、そして、珊瑚の弟である琥珀、以上、三名と一頭である。
殺生丸の騎乗用の竜、妖獣である双頭竜の阿吽が、その中に含まれている。
一行の主、殺生丸が、四魂の玉から出てきた悪霊、曲霊を討ち果たす為に出掛けている間、この村に置いて行かれたのであった。
詳しい経過は、この際、省くが、殺生丸は、今回の曲霊との戦いで、自身の中から出現した刀、爆砕牙と、失った筈の左腕を、新たに得た。
『爆砕牙』読んで字の如し、爆発させて粉々に砕く牙を意味する。これ程、怖ろしい威力を発揮する刀も、まず他に無いだろう。
一度、振るえば、千の妖怪を薙ぎ払い、破壊し尽す。
攻撃対象を破壊するだけではない。
爆砕牙に破壊された対象に触れた者は、例え、無傷であっても、そのまま破壊されるのだ。
正しく神の怒りを体現するような刀。
数々の技を有する犬夜叉の鉄砕牙でさえ、爆砕牙に比べれば、その破壊力は、遠く及ばない。究極の“破壊の刀”と言っても過言ではないだろう。
しかし、だからこそ、この爆砕牙は、容易に出現しなかった。
殺生丸が、大妖怪として“慈悲の心”を体得し、更に、父の形見、鉄砕牙への執着を完全に捨て去るまで。
殺生丸が、それを持つ資格を、真の“大妖怪”に相応しい心の在り様に到達するまで、爆砕牙は、殺生丸の体内深く秘かに封印されてきたのだ。
そして、恐らく、その封印を施したのは、殺生丸と犬夜叉の、今は亡き父、大妖怪、闘牙王であろう。嫡男の器量を見極めた闘牙王が、その気難しい気性を考慮して、敢えて仕組んだ過酷なまでの試練の数々。
斯くして、殺生丸は、幾多の試練を経た後、遂に、誰の物でもない、自分だけの刀“爆砕牙”を手に入れたのであった。
今宵の夕餉は、ボタン鍋である。近頃、イノシシが、村の作物を頻繁に荒らしに来るようになった。それに、困り果てた村人が、罠を仕掛けた処、割と呆気なく仕留める事が出来たのだ。
丸々と肥え太ったイノシシで、その肉は、村中の家に分配され、おかげで、今夜は、何処の家でも、久々のご馳走となった。グツグツと煮えた鍋から立ち上る湯気。
外は、まだ寒いが、囲炉裏端には大勢の人間達(+小妖怪一匹)が寄り集まり暖かい。
楓の家でも、客人を含め、誰もが、美味なボタン鍋に舌鼓を打っていた。
犬夜叉達にとっても久し振りの楓の村への帰還である。
積もる話が沢山ある。
それに、今宵は、各人が、是非とも話を聞きたい人物が、この家に逗留している。
特に、かごめは、先程からウズウズしている。
明日、自分の世界、現代社会に戻る予定のかごめ。
受験が、高校入試が、目の前に迫ってきているのだ。
少しでも勉強の遅れを取り戻す必要がある。
でも、そんな時だからこそ、是非とも、今夜中に聞いておきたい事が有る。
前々から、ズ――ッと、ズ――ッと、かごめが、知りたい、知りたいと思い続けて来た事を。
そうでなければ、実家に戻っても、きっと、その事が気になって、中々、受験勉強に身が入らないに違いない。
とにかく、自分の霊力が、曲霊に封印された事も、そのせいで琥珀の欠片を浄化出来なくなった事も、受験勉強の遅れも、此処は、ひとまず、お預けである。
一人、ウジウジ悩んでみても、それで問題が一挙に解決する訳ではない。
だったら、悩むよりも、前向きに行動あるのみ。
今、自分が、すべき事は、目の前にいる重要人物から、ズ~~ッと知りたくて堪らなかった質問に答えてもらう事。
何時の世も、乙女心は、好奇心旺盛な物。
況してや、かごめは、マスメディアの発達した現代社会で育った現代っ子。
戦国時代に生まれ育ち、退治屋家業に専念してきた、どちらかと云えば奥手の珊瑚とは、色恋全般に関する知識、情報量が、天と地ほどに違う。
もう、今から聞き出そうとする、アレやコレやを想像するだけで、ワクワクドキドキが、止まらない。遂に、かごめが、真っ先に、話の口火を切った。

 
「ねえ、りんちゃん。りんちゃんは、どうして殺生丸と一緒に居るの?」

 
質問の相手は、勿論、りんである。
徹底した人間嫌いで知られる犬夜叉の兄、大妖怪の殺生丸が、何故か、連れ歩いている人間の童女。見るからに小さい。そして、幼い。七宝より僅かに大きい位だろう。
それにしても、可愛いらしい。
雪白の肌に、少し釣り目がちの大きな澄んだ瞳、長い睫毛。チョコンとした鼻。柔らかそうな髪は、少し癖があって所々、跳ねている。
紅白の市松格子の着物に緑色の帯が良く似合っている。
一見、何処にでも居そうな、それでいて、実際には、何処にも居ない、そんな感じの何とも愛らしい童女であった。鄙(ひな)には稀な美形である。

 
(ウ~~ン、前に見た時も思ったけど、凄く可愛い子だわ。まるで、お人形さんみたい。
どうして、こんな子が、殺生丸と一緒に居るのか、是が非でも聞き出さなくっちゃ! 
まさか・・・親許から誘拐してきたんじゃないわよね? 殺生丸!)

 
そもそも、かごめと殺生丸は、初めての出会いからして、最悪だった。
当時、父親の形見の宝刀、鉄砕牙を探し求めていた殺生丸は、弟である半妖の犬夜叉の左目の黒真珠に、それが封じられている事を突き止め、無理矢理、異界への道を開き、あの世の境にある父親の墓へと赴いたのだった。
成り行きで、かごめも、犬夜叉と共に、其処へ行く羽目になり、挙句、殺されそうになった経験が有る。殺生丸に骨をも溶かす猛毒の毒華爪を浴びせられたのだ。
もし、あの時、かごめが、鉄砕牙を持っていなかったら、跡形も無く毒で溶かされ、間違いなく命が無かっただろう。
その後も、鉄砕牙絡みで、弟である犬夜叉を、何度も殺そうとしたり、かごめの殺生丸に対する印象は、お世辞にも良いとは云えない。しかし、此処最近は、七人隊の霧骨に危なく殺されそうになった処を、殺生丸に助けられたりと、以前の血も涙もない、ひたすら『冷酷無慈悲』一辺倒の印象からは、大分、外れてきている。
それでも、だからと言って、殺されそうになった事を、そうそう簡単に、忘れる事は出来ない。
大体、以前の印象が印象である。
急に、掌(てのひら)を返したような目で見る訳にもいかないではないか。
それにしても、あんなに人間を嫌っていた筈の殺生丸が、どうして、人間を、それも幼い女の子、りんを連れているのだろう。
その事自体が、かごめには、どうにも信じ難い事実であった。
一体、何故、どんな経過で、殺生丸が、この童女を、りんを、連れ歩く事になったのか、是非とも知りたい。いや、知らずにはおれない。
殺生丸が不在の今でなければ、こんな事を、面と向かって聞ける物ではない。
謂わば、今回の、りん達の楓の村での逗留は、願ってもない絶好のチャンス! 
こんな千載一遇(アラ、四字熟語だわ、これ、入試に出るかも! 覚えておかなくっちゃ!)の機会をみすみす逃す訳にはいかない。
以前、奈落に操られた琥珀に、危うく殺されそうになった童女、りん。
現場に駆け付けた時、小さな女の子が、仰向けになって気絶していた。
女の子を抱き起こしたのは、かごめだった。
犬夜叉から、殺生丸が、人間の童女を連れている事を聞かされた時は、正直、かごめも、耳を疑った。実際に、目の前で、りんを見るまでは、半信半疑だった。
鉄砕牙を構えた犬夜叉の隙を衝き、りんを殺そうとした琥珀の首を、瞬時に掴み締め上げる殺生丸。大妖怪の彼の力を以ってすれば、少年の首を絞め、命を絶つ事など、赤子の手を捻るよりも容易かった筈。
それにも拘らず、殺生丸は、琥珀の命を絶とうとはしなかった。
そう、あの時からだった。殺生丸が、以前とは違うと感じ始めたのは。
それには、きっと、この目の前にいる小さな人間の童女“りんちゃん”が関係しているに違いない。あの後、随分、殺生丸が連れていた小さな女の子について考えてみたけど、結局、答えは出なかった。
弥勒様や、珊瑚ちゃんにも話してみたけれど、やはり、答えは出ないままで。
その後も、殺生丸に会う機会は、たまに有ったけど、りんちゃんは見掛けなかった。
犬夜叉に、その事を聞いてみても「殺生丸みたいな人間嫌いが、何時までも、あんな小さな子供を連れ歩いてる訳がないだろう。とっくの昔に何処ぞに捨てたに決まってらあ。」なんて云うし・・・・。でも、あたしには、そうは思えなかった。
だって、あの時、見た、りんちゃんは、身なりもコザッパリして、健康そうで、顔色も良かったし、何より、あの冷血漢の殺生丸を見て、とっても嬉しそうな顔をしたんだもの。
あたしなんか、以前、あいつに殺されそうになった事(一回じゃないのよ、二回も有るんだから!)を思い出すと、殺生丸の側にだって寄りたくないのに。
りんちゃんが、あの後、全然、躊躇いもせずに殺生丸に付いて行ったのを見ても、あの子が、どんなに、殺生丸を信頼しているのかが良く判ったわ。
それに、犬夜叉や、他のみんなは、気が付かなかったみたいだけど、あの時、殺生丸は、奈落を追いかける事よりも、りんちゃんの“命”を優先したのよ。
それって、以前の殺生丸からは、想像も出来ない事だわ。
あいつは、人間なんて虫けらぐらいにしか思ってなかったのよ! 
つまり、それだけ、殺生丸は、りんちゃんを大事にしてるって事よね。
『特別な存在』と云っても良いのかも知れないわ。
きっと、何か、特別な事情が、二人の間に有ったに違いないのよ。
それを、どうしても、今日中に、絶対、りんちゃんから教えて貰わなきゃ! 
そうした、かごめの意気込みに、内心、大いに賛同する者が居た。
法師の弥勒である。法師という職業柄、様々な土地を渡り歩いてきた弥勒は、同時に数多くの老若男女を見てきた。自然、人を見る眼力も養われている。

 
(オヤ、かごめ様、痺れを切らして、とうとう、直接、訊ねられましたな。
マア、私にしても、大いに興味が、そそられる処です。
犬夜叉の兄君は、大の『人間嫌い』と聞いておりましたからな。
私自身、初めて兄上にお会いした時は、鉄砕牙を巡っての兄弟喧嘩に巻き込まれて、もう少しで殺されそうになった経験が有る位ですし。
イヤハヤ、本当に、当時の兄上は“冷酷非情”を絵に描いたような物騒極まりない御方でしたからな。尤も、その後、鉄砕牙を失った犬夜叉が、妖怪化した時など、わざわざ止めに来たり、白霊山では、私を含めて、かごめ様や珊瑚の危うい処を救って貰ったりして、そうした以前の印象とは、かなり違う物を感じるようになってはいたのですが。
それに琥珀の事が有ります。奈落に襲われた後、琥珀自身から、少しだけ事情を掻い摘んで聞いたのですが、琥珀は、桔梗様から離れた後、奈落の分身、夢幻の白夜に襲われたそうです。そして、その時、琥珀を助けてくれたのが、兄上だったとの事。そうした様々な事情を、色々と繋ぎ合わせ、考えていくと、兄上の変わり様には、目を瞠(みは)る物が有ります。
そして、それには、多分、目の前に居る、この小さな童女、りんが、大いに関係しているので御座いましょう。
それにしても、何とも云えず、愛らしい。フム、兄上も、実に、お目が高い。
犬夜叉と云い、兄上と云い、犬一族は、大変な美形好みのようですな。
後、もう、数年もすれば、りんは、飛びっ切りの美少女に育ちそうではありませんか。)

 
弥勒の、りんに対する見解も、かごめと、ほぼ同じである。そうした周囲の思惑には、一切、頓着せずに、りんが、屈託なく、かごめの質問に答える。

 
「殺生丸さまが、大好きだから!」

 
「でも、りんちゃん、家族は? お家の人は、居ないの?」

 
「・・・おっ父も、おっ母も、兄ちゃん達も、みんな、夜盗に殺されたの。」

 
「「「「!」」」」 「えっ・・」 「・・・」

 
その場に居合わせた者の殆どが、息を呑んだ。
強奪、略奪、殺人が、戦国の世の常とは云え、こんなに幼い身で、家族全員を夜盗に殺されるとは、余りにも酷(むご)い。

 
「・・・そうだったの。ご免なさい。思い出させちゃったね。」

 
かごめが、辛い過去を聞きだした事を、りんに謝る。

 
「ううん、いいの。前は、凄く辛かったけど、今は、殺生丸さまや邪見さま、それに、阿吽や琥珀が一緒だから。」

 
    ニッコリとりんが笑う。
まるで、其処だけ、お日様が顔を出したようなホワッとした暖かさが漂う。

 
「こりゃっ! りん、こんな奴らの云う事なんぞに、わざわざ答えてやらんでも良い。」

 
   邪見が、横から口を挟んできた。
こうして、りんの側にピッタリ張り付いている姿を見ると、お付きの爺やのようである。
いや、実際、そうなのかも知れない。

 
「何ですって! 邪見、もう一度、云ってごらんなさいよ。」

 
かごめが、邪見の口と云うべきか、嘴(くちばし)と云うべきなのか、とにかく、口許を掴んで、
ギュ――ッと捻り上げる。

 
「イダダッ、はっ、離せ!」

 
「邪見さま、暫く、此方に、ご厄介になるんだから、そんなに偉そうにしちゃ駄目だよ。」 


★★★『四方山話=炉端談義=②』に続く★★★

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