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『四方山話(よもやまばなし)=炉端談義=①』


四方山(よもやま)=世間の、あれこれ様々な事。
従って、四方山話(よもやまばなし)は、そのまま世間話と云える。
楓、云わずと知れた巫女、桔梗の妹である。
犬夜叉一行は、奈落を追跡する旅に出ていない時は、楓の家を拠点としている。
その楓の家が、今日は、いつにも増して賑(にぎ)やかしい。
珍しい客人が滞在しているのだ。犬夜叉の兄、殺生丸の従者、邪見と、かの大妖が、どういう経過か、連れ歩いている人間の童女、りん、そして、珊瑚の弟である琥珀、以上、三名と一頭である。
殺生丸の騎乗用の竜、妖獣である双頭竜の阿吽が、その中に含まれている。
一行の主、殺生丸が、四魂の玉から出てきた悪霊、曲霊を討ち果たす為に出掛けている間、この村に置いて行かれたのであった。
詳しい経過は、この際、省くが、殺生丸は、今回の曲霊との戦いで、自身の中から出現した刀、爆砕牙と、失った筈の左腕を、新たに得た。
『爆砕牙』読んで字の如し、爆発させて粉々に砕く牙を意味する。これ程、怖ろしい威力を発揮する刀も、まず他に無いだろう。
一度、振るえば、千の妖怪を薙ぎ払い、破壊し尽す。
攻撃対象を破壊するだけではない。
爆砕牙に破壊された対象に触れた者は、例え、無傷であっても、そのまま破壊されるのだ。
正しく神の怒りを体現するような刀。
数々の技を有する犬夜叉の鉄砕牙でさえ、爆砕牙に比べれば、その破壊力は、遠く及ばない。究極の“破壊の刀”と言っても過言ではないだろう。
しかし、だからこそ、この爆砕牙は、容易に出現しなかった。
殺生丸が、大妖怪として“慈悲の心”を体得し、更に、父の形見、鉄砕牙への執着を完全に捨て去るまで。
殺生丸が、それを持つ資格を、真の“大妖怪”に相応しい心の在り様に到達するまで、爆砕牙は、殺生丸の体内深く秘かに封印されてきたのだ。
そして、恐らく、その封印を施したのは、殺生丸と犬夜叉の、今は亡き父、大妖怪、闘牙王であろう。嫡男の器量を見極めた闘牙王が、その気難しい気性を考慮して、敢えて仕組んだ過酷なまでの試練の数々。
斯くして、殺生丸は、幾多の試練を経た後、遂に、誰の物でもない、自分だけの刀“爆砕牙”を手に入れたのであった。
今宵の夕餉は、ボタン鍋である。近頃、イノシシが、村の作物を頻繁に荒らしに来るようになった。それに、困り果てた村人が、罠を仕掛けた処、割と呆気なく仕留める事が出来たのだ。
丸々と肥え太ったイノシシで、その肉は、村中の家に分配され、おかげで、今夜は、何処の家でも、久々のご馳走となった。グツグツと煮えた鍋から立ち上る湯気。
外は、まだ寒いが、囲炉裏端には大勢の人間達(+小妖怪一匹)が寄り集まり暖かい。
楓の家でも、客人を含め、誰もが、美味なボタン鍋に舌鼓を打っていた。
犬夜叉達にとっても久し振りの楓の村への帰還である。
積もる話が沢山ある。
それに、今宵は、各人が、是非とも話を聞きたい人物が、この家に逗留している。
特に、かごめは、先程からウズウズしている。
明日、自分の世界、現代社会に戻る予定のかごめ。
受験が、高校入試が、目の前に迫ってきているのだ。
少しでも勉強の遅れを取り戻す必要がある。
でも、そんな時だからこそ、是非とも、今夜中に聞いておきたい事が有る。
前々から、ズ――ッと、ズ――ッと、かごめが、知りたい、知りたいと思い続けて来た事を。
そうでなければ、実家に戻っても、きっと、その事が気になって、中々、受験勉強に身が入らないに違いない。
とにかく、自分の霊力が、曲霊に封印された事も、そのせいで琥珀の欠片を浄化出来なくなった事も、受験勉強の遅れも、此処は、ひとまず、お預けである。
一人、ウジウジ悩んでみても、それで問題が一挙に解決する訳ではない。
だったら、悩むよりも、前向きに行動あるのみ。
今、自分が、すべき事は、目の前にいる重要人物から、ズ~~ッと知りたくて堪らなかった質問に答えてもらう事。
何時の世も、乙女心は、好奇心旺盛な物。
況してや、かごめは、マスメディアの発達した現代社会で育った現代っ子。
戦国時代に生まれ育ち、退治屋家業に専念してきた、どちらかと云えば奥手の珊瑚とは、色恋全般に関する知識、情報量が、天と地ほどに違う。
もう、今から聞き出そうとする、アレやコレやを想像するだけで、ワクワクドキドキが、止まらない。遂に、かごめが、真っ先に、話の口火を切った。

 
「ねえ、りんちゃん。りんちゃんは、どうして殺生丸と一緒に居るの?」

 
質問の相手は、勿論、りんである。
徹底した人間嫌いで知られる犬夜叉の兄、大妖怪の殺生丸が、何故か、連れ歩いている人間の童女。見るからに小さい。そして、幼い。七宝より僅かに大きい位だろう。
それにしても、可愛いらしい。
雪白の肌に、少し釣り目がちの大きな澄んだ瞳、長い睫毛。チョコンとした鼻。柔らかそうな髪は、少し癖があって所々、跳ねている。
紅白の市松格子の着物に緑色の帯が良く似合っている。
一見、何処にでも居そうな、それでいて、実際には、何処にも居ない、そんな感じの何とも愛らしい童女であった。鄙(ひな)には稀な美形である。

 
(ウ~~ン、前に見た時も思ったけど、凄く可愛い子だわ。まるで、お人形さんみたい。
どうして、こんな子が、殺生丸と一緒に居るのか、是が非でも聞き出さなくっちゃ! 
まさか・・・親許から誘拐してきたんじゃないわよね? 殺生丸!)

 
そもそも、かごめと殺生丸は、初めての出会いからして、最悪だった。
当時、父親の形見の宝刀、鉄砕牙を探し求めていた殺生丸は、弟である半妖の犬夜叉の左目の黒真珠に、それが封じられている事を突き止め、無理矢理、異界への道を開き、あの世の境にある父親の墓へと赴いたのだった。
成り行きで、かごめも、犬夜叉と共に、其処へ行く羽目になり、挙句、殺されそうになった経験が有る。殺生丸に骨をも溶かす猛毒の毒華爪を浴びせられたのだ。
もし、あの時、かごめが、鉄砕牙を持っていなかったら、跡形も無く毒で溶かされ、間違いなく命が無かっただろう。
その後も、鉄砕牙絡みで、弟である犬夜叉を、何度も殺そうとしたり、かごめの殺生丸に対する印象は、お世辞にも良いとは云えない。しかし、此処最近は、七人隊の霧骨に危なく殺されそうになった処を、殺生丸に助けられたりと、以前の血も涙もない、ひたすら『冷酷無慈悲』一辺倒の印象からは、大分、外れてきている。
それでも、だからと言って、殺されそうになった事を、そうそう簡単に、忘れる事は出来ない。
大体、以前の印象が印象である。
急に、掌(てのひら)を返したような目で見る訳にもいかないではないか。
それにしても、あんなに人間を嫌っていた筈の殺生丸が、どうして、人間を、それも幼い女の子、りんを連れているのだろう。
その事自体が、かごめには、どうにも信じ難い事実であった。
一体、何故、どんな経過で、殺生丸が、この童女を、りんを、連れ歩く事になったのか、是非とも知りたい。いや、知らずにはおれない。
殺生丸が不在の今でなければ、こんな事を、面と向かって聞ける物ではない。
謂わば、今回の、りん達の楓の村での逗留は、願ってもない絶好のチャンス! 
こんな千載一遇(アラ、四字熟語だわ、これ、入試に出るかも! 覚えておかなくっちゃ!)の機会をみすみす逃す訳にはいかない。
以前、奈落に操られた琥珀に、危うく殺されそうになった童女、りん。
現場に駆け付けた時、小さな女の子が、仰向けになって気絶していた。
女の子を抱き起こしたのは、かごめだった。
犬夜叉から、殺生丸が、人間の童女を連れている事を聞かされた時は、正直、かごめも、耳を疑った。実際に、目の前で、りんを見るまでは、半信半疑だった。
鉄砕牙を構えた犬夜叉の隙を衝き、りんを殺そうとした琥珀の首を、瞬時に掴み締め上げる殺生丸。大妖怪の彼の力を以ってすれば、少年の首を絞め、命を絶つ事など、赤子の手を捻るよりも容易かった筈。
それにも拘らず、殺生丸は、琥珀の命を絶とうとはしなかった。
そう、あの時からだった。殺生丸が、以前とは違うと感じ始めたのは。
それには、きっと、この目の前にいる小さな人間の童女“りんちゃん”が関係しているに違いない。あの後、随分、殺生丸が連れていた小さな女の子について考えてみたけど、結局、答えは出なかった。
弥勒様や、珊瑚ちゃんにも話してみたけれど、やはり、答えは出ないままで。
その後も、殺生丸に会う機会は、たまに有ったけど、りんちゃんは見掛けなかった。
犬夜叉に、その事を聞いてみても「殺生丸みたいな人間嫌いが、何時までも、あんな小さな子供を連れ歩いてる訳がないだろう。とっくの昔に何処ぞに捨てたに決まってらあ。」なんて云うし・・・・。でも、あたしには、そうは思えなかった。
だって、あの時、見た、りんちゃんは、身なりもコザッパリして、健康そうで、顔色も良かったし、何より、あの冷血漢の殺生丸を見て、とっても嬉しそうな顔をしたんだもの。
あたしなんか、以前、あいつに殺されそうになった事(一回じゃないのよ、二回も有るんだから!)を思い出すと、殺生丸の側にだって寄りたくないのに。
りんちゃんが、あの後、全然、躊躇いもせずに殺生丸に付いて行ったのを見ても、あの子が、どんなに、殺生丸を信頼しているのかが良く判ったわ。
それに、犬夜叉や、他のみんなは、気が付かなかったみたいだけど、あの時、殺生丸は、奈落を追いかける事よりも、りんちゃんの“命”を優先したのよ。
それって、以前の殺生丸からは、想像も出来ない事だわ。
あいつは、人間なんて虫けらぐらいにしか思ってなかったのよ! 
つまり、それだけ、殺生丸は、りんちゃんを大事にしてるって事よね。
『特別な存在』と云っても良いのかも知れないわ。
きっと、何か、特別な事情が、二人の間に有ったに違いないのよ。
それを、どうしても、今日中に、絶対、りんちゃんから教えて貰わなきゃ! 
そうした、かごめの意気込みに、内心、大いに賛同する者が居た。
法師の弥勒である。法師という職業柄、様々な土地を渡り歩いてきた弥勒は、同時に数多くの老若男女を見てきた。自然、人を見る眼力も養われている。

 
(オヤ、かごめ様、痺れを切らして、とうとう、直接、訊ねられましたな。
マア、私にしても、大いに興味が、そそられる処です。
犬夜叉の兄君は、大の『人間嫌い』と聞いておりましたからな。
私自身、初めて兄上にお会いした時は、鉄砕牙を巡っての兄弟喧嘩に巻き込まれて、もう少しで殺されそうになった経験が有る位ですし。
イヤハヤ、本当に、当時の兄上は“冷酷非情”を絵に描いたような物騒極まりない御方でしたからな。尤も、その後、鉄砕牙を失った犬夜叉が、妖怪化した時など、わざわざ止めに来たり、白霊山では、私を含めて、かごめ様や珊瑚の危うい処を救って貰ったりして、そうした以前の印象とは、かなり違う物を感じるようになってはいたのですが。
それに琥珀の事が有ります。奈落に襲われた後、琥珀自身から、少しだけ事情を掻い摘んで聞いたのですが、琥珀は、桔梗様から離れた後、奈落の分身、夢幻の白夜に襲われたそうです。そして、その時、琥珀を助けてくれたのが、兄上だったとの事。そうした様々な事情を、色々と繋ぎ合わせ、考えていくと、兄上の変わり様には、目を瞠(みは)る物が有ります。
そして、それには、多分、目の前に居る、この小さな童女、りんが、大いに関係しているので御座いましょう。
それにしても、何とも云えず、愛らしい。フム、兄上も、実に、お目が高い。
犬夜叉と云い、兄上と云い、犬一族は、大変な美形好みのようですな。
後、もう、数年もすれば、りんは、飛びっ切りの美少女に育ちそうではありませんか。)

 
弥勒の、りんに対する見解も、かごめと、ほぼ同じである。そうした周囲の思惑には、一切、頓着せずに、りんが、屈託なく、かごめの質問に答える。

 
「殺生丸さまが、大好きだから!」

 
「でも、りんちゃん、家族は? お家の人は、居ないの?」

 
「・・・おっ父も、おっ母も、兄ちゃん達も、みんな、夜盗に殺されたの。」

 
「「「「!」」」」 「えっ・・」 「・・・」

 
その場に居合わせた者の殆どが、息を呑んだ。
強奪、略奪、殺人が、戦国の世の常とは云え、こんなに幼い身で、家族全員を夜盗に殺されるとは、余りにも酷(むご)い。

 
「・・・そうだったの。ご免なさい。思い出させちゃったね。」

 
かごめが、辛い過去を聞きだした事を、りんに謝る。

 
「ううん、いいの。前は、凄く辛かったけど、今は、殺生丸さまや邪見さま、それに、阿吽や琥珀が一緒だから。」

 
    ニッコリとりんが笑う。
まるで、其処だけ、お日様が顔を出したようなホワッとした暖かさが漂う。

 
「こりゃっ! りん、こんな奴らの云う事なんぞに、わざわざ答えてやらんでも良い。」

 
   邪見が、横から口を挟んできた。
こうして、りんの側にピッタリ張り付いている姿を見ると、お付きの爺やのようである。
いや、実際、そうなのかも知れない。

 
「何ですって! 邪見、もう一度、云ってごらんなさいよ。」

 
かごめが、邪見の口と云うべきか、嘴(くちばし)と云うべきなのか、とにかく、口許を掴んで、
ギュ――ッと捻り上げる。

 
「イダダッ、はっ、離せ!」

 
「邪見さま、暫く、此方に、ご厄介になるんだから、そんなに偉そうにしちゃ駄目だよ。」 


★★★『四方山話=炉端談義=②』に続く★★★

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