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『四方山話=炉端談義=④』

「こっ・・これは・・凄・・・い。こ・・んな強・い酒を飲ん・・だのは初め・て・・です。」

 
   弥勒が、少々、呂律(ろれつ)の廻らない口調で、『ウオッカ』なる酒の評価を下す。
流石に、不審に感じて、かごめが瓶に貼られたラベルの記載内容を確かめて見れば・・・・。
ギョギョッ! 信じられない数値にかごめが目を見開く。何と! 
其処に記載されていたアルコール度数は96度。
    サァ――――ッ、見る間に、かごめの顔色が青ざめた。
ほぼ、純粋なアルコールではないか!?
    そして、ラベルに記載されていた銘柄は『スピリタス』。
原産国は、ポーランド、原材料はライ麦を主体にした穀物、蒸留を繰り返す事、実に、七十と数回、極限にまでアルコール度数を引き上げた代物である。
勿論、かごめは、そんな事は、当然、知る由(よし)もなかっただろう。
だが、この酒こそは、数あるウオッカの中でも、イヤ、あらゆる酒の中でも最高のアルコール度数を誇る、知る人ぞ知る、世界最強の“酒の中の酒”。
どんなに屈強な体育会系の猛者であろうと、キャップの半分も飲ませれば“泣きが入る”という『伝説の酒』であった。

 
「なっ、何なの?! このお酒、滅茶苦茶、強いっ!!!」

 
とんでもないアルコール度数に仰天して、かごめが叫ぶ。

 
「邪見さま、大丈夫?」

 
ひっくり返った邪見を心配して、りんが訊ねる。

 
「ヒイッ・・ク! 勿・論・・大丈~~夫・じゃ・・とも。ウイッ・・ク!」

 
フラフラと起き上がった邪見は、すっかり典型的な酔っ払いの口調に変わっている。

 
「こいつ、完全に酔っ払ってやがるぜ。」

 
ヘベレケな邪見の様子を見て、犬夜叉が、呆れたように評する。

 
「なっ・・何ぃ~~。わっ・儂・・は、酔っ・払っ・・て・なん・・か・おらん・・ぞぉ~~。」

 
「馬~~鹿!、そういう喋り方が、もう、立派な酔っ払いなんだよ。」

 
「馬・鹿・・じゃとっ! ヒィッ・・ク! 貴・様の・・よう・な半・妖・に馬鹿・・にされ・る覚えは・・ない・わい。ヒィッ・ク・ウイィ・・ック!」

 
「何だとっ! この野郎!」

 
ポカッと犬夜叉が、邪見の烏帽子頭を殴る。

 
「止めなさいよ、犬夜叉。邪見は、酔っ払ってるんだから。」

 
かごめが、更に、もう一発、殴ろうとする犬夜叉を止めに入る。

 
「ヘンッ!こんな奴は、二、三発、殴って目を覚まさせてやった方が良いんだよ。」

 
「犬夜叉、おすわりっ!」

 
かごめの伝家の宝刀“言霊の念珠”が、発動した。

 
「ギャンッ!」

 
床に激しく叩きつけられる犬夜叉。りんが、目を丸くして、それを見ている。

 
「楓さま、かごめさまも、巫女さまなの? あの呪文は、誰にでも効くの?」

 
りんが、楓に、不思議そうに訊ねる。

 
「まあ、そうだな。尤も、あれは、犬夜叉にだけ効く特別な『言霊』なのだよ。」

 
言霊の念珠を施した張本人の楓が、シレッとして、りんの質問に答える。

 
「フ~~~ン、凄いね。」

 
りんが、感心したように、かごめを見遣る。そして、心の中で呟く。

 
(殺生丸さまが、戻ってきたら、この事を、お話ししてみよう。どんなお顔されるかな?)

 
「弥勒さまも、本当に大丈夫? ご免なさい。まさか、こんなに強いお酒だとは思わなくて。」

 
かごめが、もう一度、済まなそうに謝る。

 
「おっ・お気になさらず。ハハ・・ハ・こ・んな風に・・酔っ払った・・のは、初めて・で・す。フウ~~・・す・済み・ません・・が・チョッ・・ト・姿勢を・崩させ・て・・頂きます。」

 
   そう云って弥勒が、壁に寄り掛かるように凭(もた)れた。
珍しい事である。弥勒は、寺で厳しく行儀作法を叩きまれたせいもあって、どんな時でも、所作が、端然と整っている。そんな弥勒が、眠りに就く訳でもないのに姿勢を崩す。
酔いは、かなりの物らしい。

 
「吃驚したよ。法師さまが、そんなに酔った姿って初めて見るから。」

 
珊瑚も、酒に酔う弥勒を見て驚いている。

 
「ハハ・・ハ・・面目・・ない。これ・・ま・で『酒・は・・飲ん・で・も・・飲ま・れ・るな』が信条だっ・・たん・です・・が。こん・なに強・・い酒は・・初・・めてだっ・・たので。」

 
「アアッ! 止めなさいよ、邪見。そんなに酔っぱらってるのに、まだ飲む気なの?」

 
見るからにベロンベロンに酔っぱらった邪見が、又しても、盃に『ウオッカ』を注ごうとしている。
 
こんなになっても、まだ、二杯目を飲む積もりなのだろうか。かごめが、慌てて取り上げる。

 
「なっ・・何・を云う・・か。わっ・・儂は・よっ・・酔って・など・・おら・ん・・ぞ。」

 
「ンモウッ! その呂律(ろれつ)の廻らない喋り方が、酔っ払いその物なんじゃない。」 

 邪見から取り上げた『ウオッカ』を眺めている内に、かごめの心にムクムクと誘惑的な考えが浮かんで来た。時と場合に応じたかごめの“臨機応変”な物の考え方には、定評がある。実際、それで、これまで様々な難局を打開してきた。
そうした、悪く云えば『御都合主義』、良く云えば“柔軟”な考え方が、普段の良識を抑え込み、かごめの心を、ジワジワと占領し始めた。

(ンンッ? チョッと・・チョッと待ってよ。この状況を利用しない手はないわ。これだけ酔っぱらって前後不覚の邪見なら、上手く聞き出せば、これまで、知りたいと思ってきた事を、洗いざらい、気前良くペラペラ喋ってくれるんじゃないかしら? そうよ、あの、おっかない殺生丸が居ないのよっ! こんな機会って二度と無いかも知れないんだからっ!)

 
腹は決まった。心の中で秘かにガッツポーズを取るかごめ。

 
「邪見、そんなに飲みたいの? じゃあ、あたしが、お酌してあげるわね。」

 
かごめが、愛想良く、一旦は取り上げた盃を、邪見に渡し『ウオッカ』を少しだけ注いでやる。

 
「オッ・・オオッ? そっ・そうか・・済まん・・な。」

 
  ほんの少しだけ『ウオッカ』が注がれた盃を、邪見が、またも、一気に呷る。
そして、今度も、ボワッと火を吐く。益々、赤くなる顔色。
もう地肌の緑色は、完全に隠れてしまっている。

 
「クハッ! こっ・この・・喉・を灼く・・感・じが・・堪・ら・・んわ・い。」

 
「ねえ、邪見、殺生丸の従者のあんたなら、当然、知ってるんでしょ? 闘鬼神が折れた後、殺生丸は、どうやって冥道残月破が使えるようになったの?」

 
「ウィ~~ック・・冥・道・・残・月破・・か。あれ・・は・・刀・々・斎が・・急に・現れ・・てな。何で・も天・生・・牙に・・呼ば・れた・・とか・で。武・器・とし・・て・天・・生牙を・鍛え直・・すと云って・ヒック! 持ち・帰ったん・・じゃ。そ・の・・結果・・使え・るよう・・に・・なった・のが・・あの冥・道・残月・・破じゃ。」

 
「フ~~ン、そうなの、刀々斎のお爺ちゃんが。でも、邪見、あの冥道、大きいけど、最初は、細い月みたいだったわよね。丁度、殺生丸の額にある徴みたいに。それが、次に会った時は、大分、円に近くなってたわ。どうやって、冥道を拡げたの?」

 
「そ・・れは・な・・御・御母・・堂様の・おか・・げ・・じゃ。」

 
「御母堂さまって・・ねえ、弥勒さま、それって、確か、母親の意味よね?」

 
「は・・い・・そう・・ですね。母・上・・母君・の敬称・・です。」

 
「・・・という事は。エエッ! 殺生丸のお母さんって生きてるの?!」

 
其処に居た者達は、りんと邪見、それから気絶している琥珀を除いて、皆、仰天した。

 
「犬夜叉、あんた、どんなに仲が悪くても、一応、殺生丸の弟なんでしょ。知らなかったの?」

 
かごめが、まだ床に伸びている犬夜叉に質問する。

 
「テテッ・・無理云うなよ、俺は、あいつと一緒に育った訳じゃねえんだ。」

 
「本当は、邪見さまだって、つい、此間(こないだ)まで知らなかったんだよ。」

 
りんが、サラッと合いの手を入れてきた。

 
「りんちゃん、殺生丸のお母さんを知ってるの?」

 
かごめが、りんの言葉を聞いて驚く。

 
「ウン、あたし、前に、邪見さまや琥珀と一緒に、阿吽に乗って、殺生丸さまの、おっ母の城に行ったんだよ。ネッ、邪見さま。」

 
「ウ・・ム・あれ・・は・実に・・立派な・城で・あった。雲・・の中・に・・聳え・る・・巨大な・城で・・な。流石・は・殺生・・丸・様の・御・母堂・・様で・あら・せ・ら・・れる。」

 
邪見が、もどかしい程、呂律の廻らない口調で、りんの言葉を裏付ける。

 
「フ~~~ン、そうか。殺生丸って、やっぱり良い所の“お坊ちゃん”なんだ。」

 
(あの物凄~~~く偉そうな態度、殿様みたいな喋り方。あいつ、正真正銘、本物の御曹司だったのね。ハア~~、道理で。父親が同じとは云っても、犬夜叉とは、丸っきり育ちが違うんだ。)

 
  少し酔いが醒めて落ち着いてきた弥勒も、りんと邪見の言葉を聞いて納得していた。
喋る分には、まだ呂律が廻らないが、頭の中の思考回路には、余り支障を来たしていない。忙しく考えを巡らす。

 
(確か・・・犬夜叉と殺生丸のお父上は、西国の妖怪どもを統べる国主だったそうですな。ならば、嫡男である兄上は、当然“お世継ぎ”として育てられた訳で。成る程、それでですか。あの人を人とも思わない尊大極まりない態度、見てるだけなら優美極まりない物腰、上つ方の口調。フム、兄弟とは云っても、犬夜叉とは、まるで違う訳ですな。)

 
「じゃあ、りんちゃん、殺生丸のお母さんに会った事があるんだ。ネッ、ネッ、どんな感じの人だったの?」

 
  かごめの好奇心が、俄然、風船のように、はちきれそうに膨らむ。
目をキラキラと輝かせて、りんに訊ねる。炉辺に屯(たむろ)している連中も、殺生丸の母親に、あながち興味が無い訳ではない。
  皆、何気ない風を装いつつも、シッカリ聞き耳を立てている。


★★★『四方山話=炉端談義=⑤』に続く★★★
 
 
 

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