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『四方山話(よもやまばなし)=炉端談義=②』

  普段、殺生丸から折檻される邪見を見慣れているのか、りんは、この程度では、驚きもしない。それに、小妖怪よりも、余程、物の道理が判っている。

 
「りんは、殺生丸が、おっかなくないのか? おら、どうしても、頼みたい事があって、殺生丸の側に行った事があるが、それだけで、震え上がったぞ。」

 
 七宝が、以前、川獺の甘太の父親を天生牙で助けて貰った事を引き合いに出して、りんに訊ねた。

 
「怖くないよ。殺生丸さまは、とっても優しいよ。」

 
それを聞いて、弟である犬夜叉は、勿論の事、楓の小屋の中に集まっていた、ほぼ全員が、目を丸くした。『殺生丸が、優しい???』あの空怖ろしい程、凄絶な妖力を身に纏う、触れなば切れんばかりの凛冽な妖気を発する大妖怪に、凡そ不似合いな言葉。
それとは反対に、殺生丸の従者である邪見は、殆ど諦めにも似たような表情で、深く溜め息を吐く。
それを見て、弥勒は、一人納得する。
どうやら、りんの言葉通りの状況らしい。
あの大妖怪は、りんに対してだけは、他の者に対する態度と、まるで違っているようだ。
その証拠に、りんの表情には、ほんの少しの翳りも見当たらない。
それどころか、殺生丸が、好きで好きで堪らない思いが、小さな体全体から満ち溢れている。

 
(フム、ここまで慕われるとは、男冥利に尽きますな。
成る程、やはり、あの大妖怪を変えたのは、りんの影響のようですな。
それにしても、驚きです。こんな小さな童女が、あんなに冷酷で、人を虫けら同然にしか扱わなかった殺生丸を、此処まで変えてしまうとは・・・。
女人【にょにん】の力とは、実に、偉大な物で御座いますな。
尤も、りんは、まだ、女人【にょにん】と云うには程遠い年頃ではありますが。
イヤ、逆に、純真無垢な幼子だからこそ、あの大妖の心に手が届いたのかも知れませんな。
なまじ、世俗に塗【まみ】れた大人では、到底、あの兄上に近付く事さえ出来なかった筈でしょうから。まるで、厳しく人を拒む真冬の霊峰を思わせるような御方ですからな。)

 
「りん、お前、殺生丸と何処で知り合ったんだ?」

 
りんが、かごめや七宝の問い掛けに答えるのを、黙って聞いていた犬夜叉が、ブスッとした顔で、訊ねてきた。
先程からのりんの受け答えを聞いて、兄の自分に対する態度との余りの違いに、内心、呆気に取られると同時に、ドンドンむかっ腹が立ってきた犬夜叉であった。

 
(あの野郎・・・俺には、一度だって優しくしてくれた事なんて無い癖に。
俺のお袋を、いつも、卑しい人間風情がって、あんなに貶【けな】してやがったのに。
それなのに、同じ人間の、りんに対する、この態度の差は、一体、何なんだよっ!)

 
「えっ・・・と、あたしが、殺生丸さまに初めて会ったのは、まだ、前の村に住んでた頃です。
犬夜叉さま。」

 
  それを聞いて、ブッ!とかごめや七宝、珊瑚に弥勒までが、吹き出した。
楓は、流石に年の功で、腹に力を入れて、ググッと笑いたいのを我慢する。

 
「ハハハッ、ハッ、ハッ、たっ、確かに、犬夜叉は、殺生丸の弟ですからな。りんにしてみれば、犬夜叉『さま』かも知れませんな。しっ、しかし、どうにも似合いませんな。ハハハッ・・・」

 
  弥勒が、腹を抱えて笑いながら指摘する。
珊瑚も弥勒の横で琥珀の頭を膝に乗せて、クックと忍び笑いを堪えている。

 
「アハハハッ、そっ、そうね、弥勒様の云う通りだわ。冥加爺ちゃんが、犬夜叉を、そう呼ぶのは、無理ないけど。でも、犬夜叉に『さま』って、やっぱり似合わな~~い!」

 
かごめも、ケラケラ笑いながら同意する。

 
「犬夜叉『さま』じゃとっ。ギャハハッ、いっ、犬夜叉が『さま』付けじゃとっ!」

 
七宝もゲラゲラと笑いこけている。笑い過ぎて涙まで滲んでいる。

 
「うるせえぞ、てめえら!」

 
笑われた当の本人である犬夜叉は、苦虫を噛み潰したような顔で周囲を威嚇する。ウ~~~

 
「りん、犬夜叉は、殺生丸様と違って半妖じゃ。『さま』なんぞ付ける必要は無いんじゃぞっ!」

 
    邪見が、此処ぞとばかりに口を出す。それに対し、りんが、キッパリと否定する。

 
「駄目だよ、邪見さま。犬夜叉さまは、殺生丸さまの弟『さま』なんだから、チャンと犬夜叉『さま』って呼ばなきゃ。」

 
それを聞いていた、かごめが、改めて、りんを見直す。

 
(本当に、何て素直で礼儀正しい子なの。感動しちゃうわ。殺生丸が、りんちゃんを気に入るのも無理ないかもね。)

 
弥勒や珊瑚、楓や七宝も、りんの言葉を聞いて、皆、同様の思いを抱いた。

 
「まっ、まあ、それは置いといて。りん、前、村に住んでた頃に殺生丸に会ったって云ったな。じゃあ、どうして、その村から出る事になったんだ?」

 
犬夜叉が、少々、尻こそばゆいような思いを隠すように、りんに質問した。

 
「・・・村が、狼に襲われて・・・みんな、殺されたんです。」

 
かごめが、それを聞いて、以前の記憶を反芻(はんすう)しながら、りんに訊ねる。

 
「エッ!、それって、まさか、あの時の妖狼族に襲われた村の事?」

 
「狼を沢山、引き連れた若い男が、片目の男を追ってきて・・・その後、狼達が、村を襲って。」

 
当時の事を思い出したのか、りんが、ブルッと震えながら小さな声で答える。

 
「間違いないわ、犬夜叉。あの時、鋼牙君が、狼を使って襲わせた村よ。」

 
    りんの答えを聞いて、かごめは、確信した。犬夜叉も頷く。
他の者達も、皆、一様に驚いている。

 
「・・・そうだったの。でも、りんちゃん、よく無事だったわね。」

 
  かごめの言葉に、邪見が、即座に反応した。
吐き捨てるように言葉を繋ぐ。

 
「何処が無事な物かっ! あの時、りんは、狼どもに噛み殺されて命を落としたんじゃっ!」

 
「エッ?」「エッ!」「エエッ!」「「「!」」」

 
  誰もが、それを聞いて驚愕に息を呑んだ。
目の前の童女が、そんな悲惨な目に遭っていたとは。
  では・・・この童女は、既に一度、死んだ身なのか。
でも、童女は生きている。それは・・・。

 
「じゃ、じゃあ、今、りんちゃんが生きているのは・・・」

 
  かごめが、恐る恐る、訊ねる。
もう、答えは聞かなくても判るような気がした。

 
「殺生丸様のおかげじゃ。天生牙を振るって、冥府から、りんの命を呼び戻されたのじゃ。」

 
邪見の言葉に、弥勒が納得したかのように頷く。

 
「そうでしたか。それで、何故、殺生丸が、川獺の甘太の父親を天生牙で救えたのかが判りました。もう、既に一度、りんを救った事があったからなのですね。」

 
「何じゃ。その川獺の甘太とやらは。」

 
不思議そうな邪見に、弥勒が答える。

 
「ああ、邪見殿は、御存知なかったのでしたね。以前、私どもが、奈落の分身、白童子に首を斬られた川獺の妖怪を助けようとした事があったのです。その時、兄上が、たまたま、側においでになって、その川獺の妖怪を、天生牙で救って下さったのです。」

 
「それは、白霊山の前の事か、後の事か。」

 
「後です。やはり、邪見殿も、白霊山においでになっていたのですね。」

 
「当たり前じゃ。儂は、殺生丸様の従者じゃぞ。あの御方が、行かれるのであれば、何処だろうと、お供するわい。」

 
「確かに。あの世の境でも、お会いしましたな。」

 
弥勒が、ふと思い付いて、邪見に訊ねた。

 
「それにしても、あの時は、どうやって、あの場所へ来たのですか?」

 
かごめも、その事に思い至り、邪見に質問した。

 
「そうよっ! 今まで、気が付かなかったけど、殺生丸は、どうして、あそこに来れたの? 私達、鉄鶏(てっけい)の血の河を渡って、あそこに行ったのよ。でも、あの河は、直ぐに閉じてしまうって奈落が云ってたのに。」

 
「鉄鶏? そりゃ、何の事じゃ?」
 
 
「ほら、邪見さま。それって、もしかして、あの凄~く大きい、首の無い鳥の事じゃない?」

 
りんが、かごめの言葉に思い当たる事があるらしい。邪見に、問い返す。

 
「そうよ、りんちゃん。鉄鶏は、奈落に首を斬られたの。だから、首が無いの。其処から大量の血が溢れ出て、それが血の河になったの。其処を渡って、私達、あの世の境に行ったのよ。」

 
  かごめの言葉を聞いて、邪見が、納得したらしい。
少し、得意気に、別の道について説明し始めた。

 
「フン、確かに、あの鳥には首が無かったな。しかし、儂らは、その鉄鶏とやらとは、関係ない。全く別の道を通って、あそこに行ったんじゃ。」

 
「邪見殿、別の道とは?」

 
弥勒が、話の先を促す。邪見が、それについて、得々と話し出した。

 
「火の国にある道じゃ。儂らは、あそこから、あの世の境へ行ったんじゃ。」

 
「エエッ! でも、あの道は、牛頭(ごず)と馬頭(めず)っていう生きた石像の門番が、守っていて、生きてる者は、死者にならないと通れないんじゃなかったの?」

 
かごめが、驚いて、邪見に問い返す。

 
「そうですな。あの道は、我々も、通ろうとして、危うく石にされる処でした。」

 
弥勒も、かごめに同意する。

 
「石? そう云えば、あそこには、やたらと妖怪のような形をした石が落ちていたが。では、あれは、元々は、生きている妖怪どもだったのか。だが、何故、石などに?」

 
「牛頭、馬頭の守っている扉の向こうから射し込んでくる光に当たると、皆、ああなってしまうのですよ、邪見殿。」

 
弥勒が邪見に説明する。
その言葉に、邪見は合点がいったらしい。
頷きながら、話を続ける。

★★★『四方山話=炉端談義=③』に続く★★★

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