「そっくり! あのね、殺生丸さまのおっ母は、殺生丸さまと“ソックリ”なの。」
大好きな殺生丸に関係する事を話せるのが嬉しいのだろう。
りんが、ニッコリ笑いながら答える。
「こっ・・こ・りゃ・・りん・・ゲフッ! 御・御母・・堂・様と・御呼・び・せ・・ん・か。」
邪見が、ゲップを吐きながらも、りんの言葉遣いを嗜める。
「フ~~ン、殺生丸と“ソックリ”か。それじゃあ、凄い美人よね、珊瑚ちゃん。」
「そうだね、かごめちゃん。あたし、最初、殺生丸を見た時、テッキリ女だと思ったくらいだよ。でも、すぐに考えを改めたけどね。あんな怖ろしい妖気を撒き散らす奴は初めてだよ。」
かごめと珊瑚が、女同士、意見を交換し合う。りんも話に加わって来た。
「殺生丸さまのおっ母、アッ、いけない、エッ・・と、ごっ、ご母堂さまはね、モコモコが付いた綺麗な蝶の模様の御着物を着てたの。それで、おでこに有る月の徴も殺生丸さまとソックリなんだけど、ほっぺにある線だけは、殺生丸さまと違って一本だったの。」
「それで、それで、りんちゃん、他には?」
かごめが、ワクワクして、りんに先を話すように促す。
「ウンとね、それから、ごっ・・御母・堂さまの髪型が・・あっ、そうだ、珊瑚さんが、戦いの時にする、あの髪形。あれに似てるんだけど、ごっ、御母堂さまは、二つに分けてるの。」
「ツ、ツインテール?!?」
かごめが、素っ頓狂な声を張り上げた。その髪型は、余りにも有名なアニメの主人公を、即座に、思い起こさせた。そう、かごめの実家が有る現代社会では、お馴染みの大人気テレビアニメの主人公、長い髪をツインテールにした美少女戦士。そして、これまた、当時のアニメを見た人なら、誰もが覚えている、有名過ぎる主人公の決まり文句「月に代わって、お仕置きよ」。その瞬間、かごめの頭の中に、トンデモナイ映像が出現した。それは、殺生丸が、そのアニメの主人公『セーラー★ーン』に扮した姿。長い白銀の髪をツインテールに、短いスカートのセーラー服を着用した、現実には、絶対に有り得る筈のない姿。それを想像しただけで、腹の底から、猛烈な笑いが込み上げてくる。可笑しい! 可笑し過ぎる~~~・・・かごめは、腹を抱えて笑い出した。もう大爆笑!
「アッハハハハッ、ハハハ、アハッ、アハハッ、ハッハ、ハッハハ、アハッ、ハハッ、ハハハ、
くっ、苦しい~~だっ、誰か、こっ、この笑いを止めて~~アハッ、ハハッ、アハハハハ・・」
「かごめちゃん、一体、どうしたんだい?」
「どうしたの、かごめさま?」
珊瑚とりん、それに、犬夜叉や楓達も、急に笑い出した、かごめを不思議そうに見遣る。
戦国時代に生きる珊瑚やりん達に、現代の事は説明し難(にく)い。
例え、話したとしても、まず理解不可能だろう。
ここは、当たり障りのない話題に摩り替えておいた方が無難という物。
そして、かごめが、咄嗟に考え付いたのが、次の台詞だった。必死に笑いを堪えて話す。
「ウ・・ウン、あのね、アッチの世界で・・よっ・良く・・似た人が・・居るから・そっ・それで思い出しちゃって・・プププッ・・ウプッ・・アハハハッ・・ごっ・ご免・・キャハハハ・・」
「そんなに似てるの? かごめちゃん。」
「うっ、うん、もっ、もう、クックッ・・ククッ・・ソッ・・ソックリなのよ、珊瑚ちゃん。」
笑うまいとしても、脳裏に浮かんでくるセーラー★ーンの扮装をした殺生丸の姿。
それを思い浮かべるだけで、これから、笑いのネタに困りそうもない、かごめであった。
それは、ともかく、今は、りんに、もっと話を聞かせて貰わなくては。
笑い過ぎて出てきた涙を、スカートのポケットから出したハンカチで拭いながら、かごめが、話の先を促す。
「ククッ・・・クッ・・ク・そっ・それで、りんちゃん、殺生丸は、お母さんの城で、冥道を拡げる為に、どんな事をしたの?」
「凄~く大きな犬が、ごっ、御母堂さまの首飾りの石から出てきたの。」
「石?・・・それから犬って?」
かごめが、りんに聞き返す。
すると、邪見が、相変わらず呂律の廻らない口調で説明してくれた。
「冥・・道・石と云う・・んじゃ。それ・・に・犬ど・・もは・・冥界か・ら来たん・・じゃ。」
「あたしと琥珀は、石から出てきた、その犬に呑み込まれて・・・その後は、覚えてないの。」
「エエッ!」「「「!」」」「何だって!」「ヒェッ!」
かごめを始めとして、誰もが、その信じ難いような出来事を聞いて驚く。
「お前と・・琥珀は・冥界・・の犬に・呑み込ま・・れて・そのまま・・冥道の・中に・・消えたの・・じゃ。そ・そ・れを・・殺生・丸様が・・追って・・いかれ・た。」
当時の事を思い返しながら、邪見が、呂律の廻らない口調で、つっかえ、つっかえ、話す。
「それで、どうなったの? 邪見。」
かごめが、事の全容を知っている筈の邪見に、先を話すように急かす。
「後・の事・・は・ホレ・其処に・・居る・琥珀と・・御母堂・様から・お聞き・し・た事・・ばかり・じゃが・・な。冥界の・・犬を・斬り・・倒して・殺生丸・・様が・二人を・救出し・たんじゃ・が・・琥珀・は目を・・覚まし・・た・もの・の・りんは・気を・・失ったま・ま・・で・な。更・に・・襲って・く・・る冥界・・の鳥・や竜ど・も・・を・や・り過ご・・して・殺・生・・丸様・・は・・そ・のまま・りんを・・琥珀に・背負わ・・せ・て冥界・への道・・を進まれ・たの・・じゃ。だ・が・・その・内・・琥珀が・・り・んの・・異変に・気付・い・て・・の。りん・は・・息を・し・て・お・・ら・なかった・・の・じゃ。」
「何ですって!」「それって・・」「何だとっ!」「「「!?」」」
更なる驚愕が、一同を取り巻く。りんは、既に一度『死』を経験している筈。
その彼女が、又しても“鬼籍に入った”と云うのか?
「殺生・丸様は・・天・生牙を・持って・・おら・れる。り・んを蘇・生・・さ・せようと・・なさったん・じゃ・・が・何故・か・・そ・の時は・・天生・牙を・振る・・われな・・かった。恐ら・く・・斬・るべ・き者が・・見えな・・かった・んじゃ・・ろうな。以前・刀々・・斎・か・ら・聞・いた話では・・天生・牙は・冥府の・使い・・餓鬼ど・もを・斬る・・事・によって・・死・者を・・蘇生さ・せる・・刀じゃ。如何に・殺・生丸様・・と云・えど・斬る・・べ・き・餓鬼・ど・もが・存・在・しなけれ・・ば・斬り・・ようが・ない。」
「じゃあ、殺生丸は、一体、どうやって、りんちゃんを生き返らせたのよっ? 邪見!」
かごめが、もどかしい思いを我慢出来ずに、邪見の襟首を掴まえて叫ぶ。
りんと気絶している琥珀を除いて、その場に居た誰もが、固唾を飲んで話の先を聞こうとしている。
「あ・・焦るで・・ない。それ・は・・順を・追って・・話し・てや・・るわ・・い。今迄に・・な・い事態に・・殺生・丸様は・・戸惑って・・おられた。すると・い・きなり・・太鼓の・・ような・大音・・響が・・鳴・り・響い・たと・・同時に・黒・い・闇・の・風・・が忍び・・寄・り・・地面に・横た・えた・・りん・の・・身体を・・攫って・いった・・のじゃ。」
「邪見、それから、どうなったのっ?!」
「ウッ・・ウム・・済ま・んが・・水を・くれん・・か・の? 喉が・渇い・・た・・わ・い。」
「ウッ、ウン、判った。チョッと待ってて。」
かごめが、急いで、水甕から、湯のみに水を汲んで、邪見に、手渡す。
それを受け取った邪見が、一気に飲み干す。
「プハ~~~~ッ! フウッ・・生き・返った・・わい。」
「それで! それで! どうなったのよ? 邪見!」
かごめが、待ち切れずに先を急かす。周囲の目も邪見に集中している。
「それで・・な・儂は・・御母堂・様と共・・に・殺生丸様・達が・・戻って・来ら・・れるのを只管・待って・・おったのじゃ。冥・道石は・・不思議な・石で・・な。冥界・・と・繋がっておって・・の。そっ・其処・で・の様子・・をその・まま・持ち主・・に伝え・て来るの・じゃ。御母・・堂様・は・ズッ・・と殺生・丸様・・達の様子を・窺って・・おられ・た。りん・・が闇に・・連れ去ら・・れた・時点で・冥道・石・・を使い・現世へ・・の道を・開き・・殺生・丸様に・・戻って・・来られ・る・ように・・申さ・れ・た。しか・し・・殺生・・丸様は・・御・母堂様・・の申し出・・を無視さ・れ・そのま・ま・・冥界へ・・の道・を辿ら・・れた。琥珀が・・教え・てくれた・・んじゃが・・死体が・腐った・よう・・な臭い・が漂って・・きたそ・う・じゃ。そ・んな異臭・・の中・見え・てき・たのは・・不気・味な・・冥界の・主・の・手に・・掴まれ・た・・りん・・の姿。・・周囲・は死体・・の山・じゃ。冥・界・・の主は・小山・のよ・うに・・巨大で・・な。り・んが・・まるで・・小人・のよう・に・・見・えた・・そう・じゃ。そ奴・の・・右腕・を・・殺・生丸様・が・・天生・牙で・・斬り・落とされ・・たんじゃ・・が・不思・議な・事・・に・・腕は・斬・り落と・し・た・途端・に・霞・の・・ように・消え・失せ・・ていった・・の・じゃ。殺生・・丸様・が・落ち・・てく・る・りん・・を天・生牙・を持った・・まま・右・腕で・・抱き止・められ・・た。冥・界の主・・を・斬った・・以上・・これ・で・・りん・が・・息を・・吹き・返すと・・信じ・て・・な。じゃ・・が・りん・・は・目・・を・開け・なん・・だ。殺生・丸・様・が・・あっ・あの・・誇り・高い・・御方・・が・天生・・牙を・・刀を・・取り・落とさ・れた・・んじゃ・・ぞ。どっ・ど・れ・・程・の・衝・・撃・・を感・じ・ておら・れ・・た事・か。そっ・そ・の時の・・殺・生丸様・・の・お気・持ち・を・・想・像す・る・・だ・けで・・儂・・は・・涙・が・出そう・・に・な・るわ・・い。」
「でも、邪見、殺生丸は、天生牙で、冥界の主、つまり“あの世の使い”の親玉を斬ったんでしょう。それなのに、どうして、りんちゃんが生き返らなかったの?」
かごめが、疑問に感じた事を、邪見に訊ねる。
「それ・は・な・・天生牙・で・命を・・呼び・戻せ・るの・・は・『一度・き・り』・・だから・・なの・・じゃ。」
「エエッ!」「そんなっ!」「そうなのかっ!」「「「!」」」
邪見の明かした衝撃的な事実に、炉辺に集まっていた皆が、激しく動揺した。
邪見は、構わず、そのまま、話を続けた。
★★★『四方山話=炉端談義=⑥』に続く★★★
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