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※上の画像は『妖ノ恋』さまの使用許可を頂いてます。
熱い・・苦しい・・熱い・・苦し・・い・・・熱・・い・・・
熱にうかされ【りん】の意識は混濁しはじめた。
夢と現(うつつ)の区別がつかなくなっていく。
【りん】の意識は次第に過去をさまよい始めた。
殺生丸に出会う以前の【りん】の過去へと。
それは血と涙に彩られた悲しい思い出に満ちている。
心の底に深く押し込めてきた忌まわしい記憶がよみがえる。
ある夜、いきなり家に押しかけてきた夜盗が【りん】の家族を次々と斬り殺していく。
(逃げて!おっ父(とう)!おっ母(かあ)!おっきい兄ちゃん!中の兄ちゃん!ちっさい兄ちゃん!)
(いやあぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ・・・あっ・・あっ・・あぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ・・・・・)
【りん】だけが生き残った。
幼子は奇跡的に凶刃をまぬがれた。
いや、とっさに娘をかばった母親のおかげだろう。
夜盗は【りん】の母親を背中から一刀のもとに斬りたおした。
あたりに飛び散る真っ赤な鮮血、即死だった。
むせる鉄錆の匂い、血の海のなか、倒れふす家族、惨劇の跡。
【りん】は死んだ母親の腕の中で震えるしかなかった。
【りん】は言葉をうしなった。
その後は村の厄介者として生きるしかなかった。
家族を失った衝撃は【りん】から言葉と感情を奪った。
どんな目にあっても泣きも喚(わめ)きもしない【りん】を村人は気味悪がった。
あたり前だ、喋れないのだから。
心を凍りつかせなければ生きていけなかった。
【りん】は幼すぎて死ぬという選択すら思いつかなかったのだ。
【りん】にとって人間ほど怖ろしい存在はない。
何の罪もない【りん】の家族を殺したのは夜盗という名の人間だった。
村にいた頃は何かあるたびに【りん】のせいにされ殴られ打(ぶ)たれた。
そんな【りん】だからこそ手負いの殺生丸に近付けたのかもしれない。
殺生丸に出会って【りん】は言葉と感情を取りもどした。
狼に襲われて噛み殺された【りん】の命を天生牙で救ったのも殺生丸だった。
以後、殺生丸は【りん】の庇護者となった。
【りん】が初めて攫(さら)われたのは瓜畑でのことだった。
いきなり風とともに現われた奈落の分身、神楽に拉致されたのだ。
気がつけば【りん】は何処かの屋敷にいた。
屋敷のまわりは妖怪がウジャウジャと飛び交っていた。
そして、そばには琥珀という少年がいた。
琥珀は後に殺生丸にひろわれ共に旅をすることになる。
だが、その時は、まだ駒として奈落の支配下にあった。
奈落に操られ【りん】を殺そうとする琥珀。
【りん】が気が付いた時、側には殺生丸が立っていた。
そして【りん】が初めて犬夜叉とかごめに会ったのもこの時だった。
二度目の拉致は白霊山でのことだった。
奈落は四魂の欠片をつかって七人隊を甦らせた。
七人隊とは、かつて戦場を荒らしまわった七人の傭兵集団を意味する。
十数年前、七人隊は、その桁(けた)はずれの強さと残虐性を怖れた武将により大軍をもって討ち取られた。
七人隊の睡骨と蛇骨は殺生丸を誘(おび)きだすために【りん】を人質としてさらった。
白霊山の結界の中におもむく殺生丸。
明らかに不利な聖域での闘いが殺生丸の妖力を大幅に削ぐ。
そのうえ【りん】を人質に取られ戦う相手は蛇骨だ。
蛇骨の使う蛇骨刀は何枚もの刃がうねる仕込み刀で通常の刀よりも守備範囲が広い。
人間であれば一刀のもとに斬りふせられ命を落とすだろう。
二重・三重の悪条件が殺生丸に苦戦を強(し)いる。
そこで殺生丸は捨て身の戦法をとった。
【りん】を拘束する睡骨に闘鬼神を投げ自らは爪で蛇骨の胸をつらぬいた。
しかし、その戦法には誤算があった。
生身の人間ならば、間違いなく、その方法で死んでいただろう。
だが、睡骨も蛇骨も死人である。
既に死んでいるものに損傷を与えても効果は大してないのだ。
奴らを完全に仕留めるには四魂の欠片を抜き取る以外に方法はない。
結果的に【りん】は危ないところを桔梗の破魔の矢によって救われている。
三度目の拉致はここ、天空の城でおこった。
殺生丸は天生牙の冥道を拡げる方法を聞こうと母の城を訪れたのだ。
母、狗姫が所有する冥道石の首飾り。
そこから飛び出した冥界の犬が【りん】と琥珀をさらって冥道の中に逃げ込んだ。
冥道は冥界につながっている。
冥界の闇にふれて【りん】は息絶えた。
二度目の死である。
※『月の面影③』に続く
※上の画像は『妖ノ恋』さまの使用許可を頂いてます。
夜の静寂(しじま)の中、巨大な城が音もなく滑るように天空を移動する。
きらめく星空を背景に雲の中にそびえ立つ荘厳な城。
それは西国王の生母、王太后、狗姫(いぬき)の御方の居城である。
月の光を受け皓々と輝く白亜の城は幻想的なまでに美しい。
その光景を見れば誰もが天人の住まいかとおもうだろう。
だが、一歩、城の中に踏み込めば、そこでは生と死の戦いが繰りひろげられていた。
小さな人間の少女が苦しい息の中、迫り来る死と必死に戦っている。
少女は毒におかされていた。
予断を許さぬ少女の容態に周囲の誰もが憂慮している。
小さな人間の少女の名は【りん】。
今は西国王となった殺生丸が旅の途中でひろいいあげ、以後、手許に置きつづけた幼子だ。
殺生丸が極度の『人間嫌い』であることは妖界では広く知られている。
にもかかわらず大妖は少女を捨てるどころか手厚く庇護しつづけた。
それは、以前の冷酷非情な殺生丸を知る者からすれば驚天動地にもひとしい事実だった。
三年前、宿敵の奈落を滅した殺生丸は西国に帰還することになった。
その際、殺生丸は【りん】を半妖の異母弟、犬夜叉に縁(ゆかり)のある隻眼の巫女に託した。
当初、誰もが、これで大妖と少女の縁は切れるだろうと予測した。
だが、予想に反して殺生丸は西国に帰還してからも、寵愛する少女“りん”に逢う為、三日おきの人界への訪問を欠かさなかった。
その事実を鑑(かんが)みるだけで如何に大妖の少女に対する寵愛が深いかを窺(うかが)い知ることができるだろう。
それほどまでに西国王が愛する少女、【りん】が、なぜ、天空の城にいるのか。
【りん】は西国王の生母、王太后の狗姫(いぬき)に保護されたのだ。
人界で【りん】は妖怪に襲われた。
突然、人界で降りだした未曾有の大雨による洪水の発生。
それに乗じて【りん】は毒蛾妖怪に襲われた。
大雨で増水した川に落ちた【りん】を救出したのが権佐だった。
命じたのは狗姫である。
権佐は西国お庭番の頭領を務める妖忍である。
“遠見の鏡”で【りん襲撃】を知った狗姫は即座に【りん救出】を権佐に命じた。
普通に考えれば、まず実行不可能な用命だった。
そもそも天空の狗姫の城と【りん】が溺れている人界との間には遠大な距離が存在している。
どれほど権佐が速足であろうと物理的に間にあうはずがない。
だが、その難問を“遠見の鏡”と狗姫の術が解決した。
狗姫は滅多に使わぬ、いや、実際には使えない大技の中の大技、次元透過の術“神点(しんてん)”を“遠見の鏡”を介して発動させたのだ。
“神点”、それは次元を透過して遠く離れた場所へ瞬時に物体を移動させる術である。
発動させるだけで膨大な妖力を要する技である。。
大妖怪の狗姫といえども、ひとたび、“神点”の走波(移送)と終波(回収)を連続で行えば妖力の回復に少なくとも三日はかかる。
まして大した妖力もない者が使えば即死は間違いない。
それほどに危険な技なのである。
禁術といってもいい。
そんな途方もない大技“神点”を使えるのは、現在、狗姫のみである。
天空の城から人界へと送り込まれた権佐は即座に【りん】の捜索を開始した。
桜神老の加護もあいまって首尾よく【りん】を見つけ保護した権佐は天空の城に帰還した。
これでもう大丈夫と皆が安堵しかけたが、【りん】は毒に侵されていた。
遅効性の毒だったせいで発見が遅れたのである。
急遽(きゅうきょ)、当代きっての名医として名高い如庵が呼び出された。
如庵は西国の御典医である。
そして、今、全力で【りん】の治療に当たっている。
西国王、殺生丸は独身である。
美貌にして且(か)つ絶大なる妖力を誇る王は自国は勿論、他国からの縁談がひきもきらない。
しかし、その周囲には女性(にょしょう)の影がない。
恋人も愛人もいない。
もちろん、愛妾など影も形もない。
王の側近はすべて男性でかためられ、唯一の例外が殺生丸の乳母(めのと)だった女官長の相模である。
巷(ちまた)では『西国王は男色では?』という噂が真(まこと)しやかに囁(ささや)かれているほどである。
そんな浮いた噂ひとつない殺生丸が寵愛する存在の判明。
いや、【りん】の場合は寵愛というよりも溺愛に近い。
俄然、周囲は色めきたった。
まして少女は殺生丸の生母である王太后の狗姫が保護しているのだ。
いうならば、この時点で、少女、【りん】は西国王の寵姫として公認されたも同然なのである。
以前から事情を知り、そう思ってきた松尾と権佐は勿論のこと、今回、秘密を打ち明けられた御典医の如庵も、その事実を肝にめいじて少女の治療にあたっている。
松尾が【りん】の看病のため選び出した少数の女房衆も同じである。
少女は西国王が寵愛する唯ひとりの“寵姫”である。
何としても救わねばならない。
依然として【りん】の容態は安定しない。
高熱がつづき意識は朦朧(もうろう)としている。
夢とも現(うつつ)ともつかぬ意識の間(はざま)をさまよい続ける小さな人間の少女。
如庵を始めとして女房衆は、まんじりともせず熱にうかされる少女を見守りつづけた。
※『月の面影②』に続く