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『月の面影②』



※上の画像は『妖ノ恋』さまの使用許可を頂いてます。


熱い・・苦しい・・熱い・・苦し・・い・・・熱・・い・・・
熱にうかされ【りん】の意識は混濁しはじめた。
夢と現(うつつ)の区別がつかなくなっていく。
【りん】の意識は次第に過去をさまよい始めた。
殺生丸に出会う以前の【りん】の過去へと。
それは血と涙に彩られた悲しい思い出に満ちている。
心の底に深く押し込めてきた忌まわしい記憶がよみがえる。
ある夜、いきなり家に押しかけてきた夜盗が【りん】の家族を次々と斬り殺していく。


(逃げて!おっ父(とう)!おっ母(かあ)!おっきい兄ちゃん!中の兄ちゃん!ちっさい兄ちゃん!)

(いやあぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ・・・あっ・・あっ・・あぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ・・・・・)


【りん】だけが生き残った。
幼子は奇跡的に凶刃をまぬがれた。
いや、とっさに娘をかばった母親のおかげだろう。
夜盗は【りん】の母親を背中から一刀のもとに斬りたおした。
あたりに飛び散る真っ赤な鮮血、即死だった。
むせる鉄錆の匂い、血の海のなか、倒れふす家族、惨劇の跡。
【りん】は死んだ母親の腕の中で震えるしかなかった。


【りん】は言葉をうしなった。
その後は村の厄介者として生きるしかなかった。
家族を失った衝撃は【りん】から言葉と感情を奪った。
どんな目にあっても泣きも喚(わめ)きもしない【りん】を村人は気味悪がった。
あたり前だ、喋れないのだから。
心を凍りつかせなければ生きていけなかった。
【りん】は幼すぎて死ぬという選択すら思いつかなかったのだ。


【りん】にとって人間ほど怖ろしい存在はない。
何の罪もない【りん】の家族を殺したのは夜盗という名の人間だった。
村にいた頃は何かあるたびに【りん】のせいにされ殴られ打(ぶ)たれた。
そんな【りん】だからこそ手負いの殺生丸に近付けたのかもしれない。
殺生丸に出会って【りん】は言葉と感情を取りもどした。
狼に襲われて噛み殺された【りん】の命を天生牙で救ったのも殺生丸だった。
以後、殺生丸は【りん】の庇護者となった。


【りん】が初めて攫(さら)われたのは瓜畑でのことだった。
いきなり風とともに現われた奈落の分身、神楽に拉致されたのだ。
気がつけば【りん】は何処かの屋敷にいた。
屋敷のまわりは妖怪がウジャウジャと飛び交っていた。
そして、そばには琥珀という少年がいた。
琥珀は後に殺生丸にひろわれ共に旅をすることになる。
だが、その時は、まだ駒として奈落の支配下にあった。
奈落に操られ【りん】を殺そうとする琥珀。
【りん】が気が付いた時、側には殺生丸が立っていた。
そして【りん】が初めて犬夜叉とかごめに会ったのもこの時だった。


二度目の拉致は白霊山でのことだった。
奈落は四魂の欠片をつかって七人隊を甦らせた。
七人隊とは、かつて戦場を荒らしまわった七人の傭兵集団を意味する。
十数年前、七人隊は、その桁(けた)はずれの強さと残虐性を怖れた武将により大軍をもって討ち取られた。
七人隊の睡骨と蛇骨は殺生丸を誘(おび)きだすために【りん】を人質としてさらった。
白霊山の結界の中におもむく殺生丸。
明らかに不利な聖域での闘いが殺生丸の妖力を大幅に削ぐ。
そのうえ【りん】を人質に取られ戦う相手は蛇骨だ。
蛇骨の使う蛇骨刀は何枚もの刃がうねる仕込み刀で通常の刀よりも守備範囲が広い。
人間であれば一刀のもとに斬りふせられ命を落とすだろう。
二重・三重の悪条件が殺生丸に苦戦を強(し)いる。


そこで殺生丸は捨て身の戦法をとった。
【りん】を拘束する睡骨に闘鬼神を投げ自らは爪で蛇骨の胸をつらぬいた。
しかし、その戦法には誤算があった。
生身の人間ならば、間違いなく、その方法で死んでいただろう。
だが、睡骨も蛇骨も死人である。
既に死んでいるものに損傷を与えても効果は大してないのだ。
奴らを完全に仕留めるには四魂の欠片を抜き取る以外に方法はない。
結果的に【りん】は危ないところを桔梗の破魔の矢によって救われている。


三度目の拉致はここ、天空の城でおこった。
殺生丸は天生牙の冥道を拡げる方法を聞こうと母の城を訪れたのだ。
母、狗姫が所有する冥道石の首飾り。
そこから飛び出した冥界の犬が【りん】と琥珀をさらって冥道の中に逃げ込んだ。
冥道は冥界につながっている。
冥界の闇にふれて【りん】は息絶えた。
二度目の死である。


※『月の面影③』に続く

 

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