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じゃあ、今度は母上について話すね。
大好きな俺の母上、綺麗で優しい母上。
母上はこの村を守る巫女さまだ。
すっごく霊力が高いんだって。
だから遠くの村や町から母上に祈祷を頼みにくる人も多い。
大巫女の楓婆ちゃんがいってた。
ここらの近郷近在で母上に敵(かな)う巫女はおらんだろうって。
へへっ、凄いだろう、俺の母上は。
母上からはいつも凄く良い匂いがする。
だから、つい抱きついてクンクンしちゃう。
そうするとね、父上がジロって睨(にら)むんだ。
こないだもね、母上に抱っこされて嬉しくて頬っぺスリスリしてたんだよ。
すると父上が焼きもち焼いてね、「あんまり引っつくな」って母上からベリッと引き剥がされそうになったんだ。
そしたらね、母上が「なんて大人げない!」って怒って、それから「犬夜叉、おすわりっ!」って呪文を。
あれ、『デンカノホウトウ(=伝家の宝刀)』っていうんだよね。
父上はベシャッと地べたに叩きつけられてた。
ひしゃげたカエルみたいだったな。
母上は強い!
あんなに強い父上でも母上には絶対に勝てないんだ。
母上は弓が凄くうまい。
百発百中だ。
でも、昔はちっとも当たらなかったんだって。
そんなの信じられない。
だから父上に訊いてみた。
そしたら母上のいう通りだって。
父上と逢ったばかりの頃の母上は矢を獲物に当てるどころかヒョロヒョロで弓を引いたことさえなかったんだって。
え~~と、なんて父上がいってたっけ?
そうだ、思い出したっ!
『じょし・・ちゅう・が・くせい?』だったからだって。
でも、その意味がわからない。
一度も聞いたことがない言葉だもん。
何なの、それ???
父上に聞いてみたんだけど、父上にもよく分からないみたいで上手く説明できないんだって。
そんなのチンプンカンプン(=珍粉漢粉)だよ。
父上がいうには母上は違う世界からきた人なんだって。
違う世界???
う~~ん、これもサッパリ分からない。
どういうことなんだろう。
どこか凄~~~く遠い国からきたってことかな。
楓婆ちゃんに聞いてみたら母上は、村の中の、あの『骨喰いの井戸』からきたんだって教えてくれた。
というか井戸の向こうにある世界からやってきたんだって。
井戸の向こうって?
水のない枯れ井戸なのに?
それとも土を掘ったら、あっちの世界とやらへ行けるんだろうか?
ますます分からないや。
でも、一昨日(おととい)だったかな、夜、目が覚めたんだ。
あの日は父上がお仕事で山向こうの町まで出かけていなかった。
俺は母上と二人で寝てた。
月明かりが眩しい晩で家の中にまで射しこんでた。
母上が行李(こうり)から何かをソっと取り出してた。
見たこともない変わった形の着物だった。
そしたら母上がそれを抱きしめて泣くんだ。
途切れ途切れの涙声で母上が何度もつぶやいてたのは「まま」「そうた」「じいちゃん」。
誰のことなんだろう。
後で母上に内緒で父上に聞いたら、それは母上の家族のことだって。
「まま」が母上の母上、俺のお婆ちゃん。
「そうた」は母上の弟、俺の叔父ちゃん。
「じいちゃん」は母上の爺ちゃんだから俺の曾(ひい)お爺ちゃん。
昔は『骨喰いの井戸』で自由にアッチとコッチの行き来ができたんだって。
でも、突然、それができなくなって、三年間、父上は母上に逢えなかったんだって。
それでね、三年後のある日、骨喰いの井戸がアッチの世界と通じて母上は父上と一緒になるためにコッチの世界にきたんだって。
それから骨喰いの井戸は閉じてしまって、もう母上はアッチの世界に戻れないんだって。
だから母上は泣いてたんだ。
もう家族に会えないから。
でも、ごめんね、母上、俺はそれを聞いて凄く安心したんだ。
だって、母上にはどこにも行ってほしくない!
これからもズッとズ~~~~~っと俺と父上の側にいて!
【行李(こうり)】:竹・柳などを編んで作った箱型の入れ物。衣類などの収納や運搬に用いる。
【珍粉漢粉(ちんぷんかんぷん)】:訳がわからないこと・言葉。またはそのさま。
◆『夜叉丸物語』の③に続く
俺の名前は夜叉丸。
年は二歳。
えっ、嘘つけって?
嘘じゃないよ。
俺は本当に二歳なの。
この村の者なら、みんな知ってるよ。
まあ、他所(よそ)からきた奴らは驚くけどね。
二歳にしちゃ大きすぎるって。
パッと見だと俺は五歳くらいにみえるらしいんだ。
身体も大きいし受けごたえだって二歳児とは思えないくらいシッカリしてるってさ。
だって、仕方ないだろ。
俺には父上の、妖怪の血が混じってんだもん。
母上の名はかごめ、父上は犬夜叉。
父上は半分が人間で半分が妖怪。
半妖っていうんだって。
大巫女の楓ばあちゃんが、そういってた。
父上の父上、俺のお爺ちゃんは犬の大妖怪なんだって。
お爺ちゃんの墓参りを二度もしたって母上がいってた。
だからかな、父上の耳は犬耳だし髪だってフサフサの銀髪だ。
アッ、気づいた?
そう、俺の目は金色なの。
これは父上に似たんだ。
髪は母上と同じで黒いけどね。
父上は半妖だけど凄く強いんだ。
そんじょそこらの雑魚妖怪なんか目じゃないよ。
村の若い衆が五人がかり、十人がかり、ううん、束になったって敵(かな)わない。
それに凄く力持ちなんだ。
大きな米俵を三つくらいは軽々と運んじゃう。
五つ、いや、十だっていけるかも。
力の強い男衆だって米俵を二つも持てばバテバテなのに。
それから父上の長くて鋭い爪。
下手な刃物よりも凄いんだよ。
こないだ暴れ猪が畑を荒らしたうえに村まで襲ったんだ。
でも父上がアッという間に爪で片付けちゃった。
その後、村中の者に猪鍋が振舞われてたよ。
美味しかったな。
茸狩りで母上が熊に出くわした時もそうだった。
父上が駆けつけて爪でひと薙(な)ぎして終わり。
熊の肉は熊鍋に、なめした毛皮は冬の防寒具に、熊の胆(い)は楓婆ちゃんが天日に干してから大事そうに薬草箱にしまってた。
あれってお薬になるんだって。
父上は鉄砕牙っていう刀を腰に差してる。
大妖怪だったお爺ちゃんの牙を打ち出して作った凄い刀なんだって。
父上は親父の形見だっていってたな。
あれね、ふだんはボロボロの冴えない刀なんだ。
でもイザとなると凄く大きな刀に変化して悪い妖怪をバッサバッサと薙ぎ払っちゃう。
まだ見たことないけど風の傷や爆流波とか色々な技を使えるんだって。
そんな父上は法師の弥勒伯父ちゃんと組んで妖怪退治を請け負ってる。
わざわざ遠くの町から妖怪を退治してくれって頼みにくるくらいなんだよ。
どうだい、凄いだろう?
◆『夜叉丸物語』の②に続く
楓:「さて、こちらの近況はもうよかろう。そろそろ事の詳細を話してもらおうか。まず、どのような経緯で、りんは兄殿の母上の養女になったのだ。それから、りんと兄殿の再会についてもな」
邪見:「あぁっ?うっ、うん、そっ、そうじゃったな。では、まず、りんが大雨で行方不明になった件からいくぞ。あれはな、豺牙(さいが)なる者が放った刺客のせいなんじゃ」
楓:「豺牙?」
邪見:「殺生丸さまの遠縁に連(つら)なる一族の者じゃ。豺牙は殺生丸さまの今は亡き父君、闘牙王さまの母方の従弟にあたる」
楓:「その豺牙なる者は、何故(なにゆえ)りんを亡き者にしようと画策した?」
邪見:「豺牙には由羅という娘がおってな。これが見た目といい年頃といい殺生丸さまと頃合いの姫だったんじゃ。あ~~もうっ!ここまで云えば解かるじゃろう。聡(さと)いお主のことだ。ほぼ察しがつこうが」
楓:「・・・りんが邪魔だったか」
邪見:「その通りじゃ。そもそも殺生丸さまには血の繋がる者、親族が極端に少なくてな。伯父君や伯母君もおらんし、当然、従兄弟(いとこ)連中もおらん。兄弟といえば犬夜叉のみ。おまけに奴は半妖で人界で暮らしておる。豺牙は御母堂さまを除けば西国において最も近しい血縁だったんじゃ。それをいいことに、奴め、殺生丸さまが西国を留守にされていた間、専横の限りをつくしておったらしい。税の水増しや勝手な特権行使など、それはもう色々とな。じゃが正当な主である殺生丸さまが帰国された以上、もう以前のように好き勝手な振る舞いは許されん。それどころか昔の行状を調べられでもしたら、即、身の破滅じゃ。殺生丸さまは潔癖な御方じゃからな。そんな状況の中、彼奴(きゃつ)は妙案を思いついたのよ。手っ取り早く己(おの)が窮地を脱する方法をな。それが殺生丸さまと自分の娘を娶(めあわ)せるという昔ながらの手法じゃ。姻戚関係さえ結んでしまえば多少の昔の悪さは目こぼししてもらえるだろうと古狸らしく算段したのよ。おまけに西国王の舅(しゅうと)ともなれば、その威光は大したもんじゃ。単なる一族の血縁などとは比べ物にならん。そう考えた豺牙は、早速、殺生丸さまの身辺を嗅ぎ回りはじめたんじゃろうな。すると必然的にこの村に預けられたりんの存在を知ることになる。奴の計画においてりんが最大の障害となるは必定。ならば排除すればよいと密かに人界に刺客を放った。これが三年前の大水の日のりん失踪の原因じゃ」
楓:「成る程。では、あの日、珊瑚からりんは蝶に誘われて川の方へ向かったと聞いたが、それは豺牙とやらが放った刺客のせいだったのだな」
邪見:「そうじゃ。刺客は蛾々(がが)という名の幻術を操る妖怪でな。そ奴は幻の蝶を使ってりんを誘い込み川に落としたんじゃ。大雨で堰(せき)が決壊し荒れ狂う川にな。溺死に見せかける積もりだったんじゃろうな。あの記録的な大雨じゃ。遺体があがる確率は低い。蛾々とやらが川にりんを落とす際、豺牙から絶対にりんに傷をつけんよう指示されておったらしい。それは、もしもじゃ、万が一、りんの亡骸(なきがら)が見つかったとしても、誰ぞの手にかかって殺されたと決して疑われんようにとの思惑からじゃろう」
楓:「何とまあ・・・奸智に長(た)けたやり口だ。まるで奈落のようではないか」
邪見:「ん? そうか。むぅ~~云われてみると確かにそうかも知れん」
※『陣中見舞い⑦』に続く