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『月の面影⑤』



※上の画像は『妖ノ恋』さまの使用許可を頂いてます。


【りん】を城に引き取ってから、かれこれ三年の月日が過ぎようとしている。
毒蛾妖怪に襲われた【りん】を救出したはいいが彼奴の毒を受けた【りん】は高熱を出して倒れ三日三晩寝込んでしまった。
四日目の朝にして漸く【りん】は目を覚ましたが記憶を失ってしまっていた。
まだ九歳とはいえ、これまで生きてきた記憶の全てを。
勿論、殺生丸の記憶もな。
唯一、覚えていたのは【りん】という自分の名前のみ。
 


当初はどうなることかと真剣に危ぶんでおったが【りん】は驚くほど柔軟に環境の変化を受け入れ順応した。
自分が人間であり行き倒れていたこと、運良く妖怪の妾(わらわ)に助けられ、そのまま養女として引き取られたことなど。
元の記憶がないせいもあるだろう。
熱が下がり床上げをしてからも【りん】は妾(わらわ)の側から離れようとはしなかった。
まるで親鳥の後を追う雛のようにトテトテと一生懸命に妾の後を追う【りん】。
むう、その可愛ゆさといったら・・・堪らん!
少しでも離れると不安そうに周囲を見回し必死に妾の姿を捜し求めておった。
フフ、ああまで慕われると、実際、悪い気はせんな。



それに【りん】は大層、愛くるしい容姿の少女だった。
黒漆のように艶やかな髪、黒曜石のような煌きを宿す大きな瞳、白桃を思わせる肌の色、小鹿のような手足、見れば見るほど飾り甲斐のある少女だ。
殺生丸が子供の頃、あ奴を人形に見立てて着せ替え遊びに興じたものだが、ニコリともせん息子が相手では張り合いがないこと夥(おびただ)しかった。
それに引き換え【りん】の素直なこと。
アレやこれやと衣装や髪飾りを選んでやると嬉しそうに頬を赤らめて喜ぶ様といったら、もう、それはそれは愛らしい。
女房どもも可愛い養女を着飾る愉しみが増えて満足そうだ。
 


【りん】を城に引き取って以来、毎日が驚きの連続だ。
養女は好奇心が旺盛で様々な物に興味を示す。
そんな【りん】の様子を見ているだけで楽しい。
退屈などしている暇がない。
松尾を始めとして女房どもは若い【りん】の教育に余念がない。
【りん】は、近い将来、殺生丸と結婚し西国王の妃となる身だ。
周囲の者に侮られぬよう今から必要最低限の知識、教養を急いで身に付けさせねばならぬ。
幸い【りん】は利発で砂に水が滲み込むように教えられる知識を物にしている。
この調子ならば正式なお披露目の段になっても恥をかくことはあるまい。



それにしても、娘とはこんなにも可愛いものなのか。
いずれ、殺生丸が【りん】を娶る日が来ようが出来る限り先延ばしにしてくれよう。
結婚してからも何かと理由をつけて里帰りを強行させよう。
ホホホ、娘を持つ母の特権じゃ。
殺生丸に『否や』は云わせぬわ。
無愛想で親を親とも思わぬ息子なんぞより【りん】の方が遥かに可愛い。
孫でもできたら、更に楽しかろう。
もっとも、その前に古狸どもの退治という大掃除が待っておるがな。
 

                  了

 

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