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『=反魂香(はんごんこう)③=愚息行状観察日記外伝』



※上の画像は『妖ノ恋』さまの使用許可を頂いてます。


ヒュルル~~~~カサッ・・
ヒュ~~~~カサカサ・・・
風に落ち葉が舞う。
冬が近いせいだろう。
吹き付ける風が冷たい。
日が落ちた今は尚更だ。
邪見は人頭杖を右手に前を行く主を追って足早に歩いていた。
今から向かう先は西国城下の下町。
賑(にぎ)やかな表通りとは違い殆ど誰も通らない寂れた場所。
そんな裏通りの一角にある家を主従は目指していた。
見つかったのは、こじんまりとした古い小さな家だった。
だが、キチンと掃除されているのだろう。
こざっぱりとして清潔そうな感じだ。
邪見は教えられた通りに小さな家の扉を叩いた。
 

「ご免下され、方斎殿、ご在宅か」
 

ギィ~~扉が開いた。
ギョロリとした丸い大きな目が覗(のぞ)く。
少し警戒気味に小柄な方士が尋ねる。
 

「どなたかな、ホッ、こんな夜更(よふ)けに」
 

ズイと殺生丸が前に乗り出し口を開いた。
 

「貴様が方士の方斎か」
 

殺生丸の形(なり)からして貴人と判断したのだろう。
 

「如何にも。ホ~~ッ、そういうお前さんは何者かね」
 

「名乗る必要はない。貴様、死者を甦らせる反魂術を操ると聞いたが真(まこと)か」
 

「ああ、それは本当だが、ホ~ッ」
 

「・・・ならば」
 

方斎の返答を聞くなり殺生丸は懐((ふところ)から袋を取り出し部屋の中に投げ入れた。
チャリン、チャリ------ン!
何枚もの金貨が袋から飛びだし床にこぼれ落ちた。
 

「それだけ有れば足りるだろう。幻を見せてもらおう」
 

高飛車な殺生丸の言動に些(いささ)かムッとしたのだろう。
方斎はピシャリと申し出を断った。
 

「断る。ホッ、わしの反魂術は奇術や手妻(てづま)の類(たぐい)ではない。金を拾ってトットと帰ってくれ」
 

今にも扉を閉め不意の来客を追い返そうとする小柄な方士を邪見が慌(あわ)てて宥(なだ)めた。
 

「あっ、あいや、おっ、お待ち下され、方斎殿、失礼は主に代わって、このワシが幾重(いくえ)にもお詫び致そう。じゃから、どうか、どうか、死者を甦らすという反魂術を!」
 

そう云うなり邪見はサッと部屋の中に入り込み、床に這(は)いつくばってセッセと金貨を拾いだした。
アッという間に金貨を拾い終えた邪見は、烏帽子(えぼし)頭をペコペコ下げながら方斎に恭(うやうや)しく袋を差し出した。
 

「ホホ~ッ、お前さんは?」
 

方斎は自分よりも更に小柄な緑色の小妖怪に訊ねた。
 

「アッ、これは御無礼いたした。ワシは邪見と申す。こちらにおわす殺生丸さまの従者を務めさせて頂いておる者じゃ」
 

ペラペラと自己紹介する邪見を他所(よそ)に殺生丸は能面のように無表情なまま物憂げに佇(たたず)んでいた。
元々、感情を殆ど見せない性質(たち)の殺生丸だが、りんが失踪して以来、益々、それに拍車がかかっている。
イヤ、もっと悪い。
無表情の中に癒(い)やされない病巣のような虚無が漂っている。
何処か投げやりな風情(ふぜい)の殺生丸を見やって方斎が酷評する。
 

「ホッ、主の方はえらく不躾(ぶしつけ)だが、お前さんはチャンと礼儀を心得てるようだな」
 

「申し訳ない。殺生丸さまも、前は、もう少しマシな対応をされておったのじゃが。二年前に寵愛していた人間の少女が行方知れずになってしもうて・・・。それ以来、あらゆる事に無気力になってしまわれたのだ」
 

邪見が、もう習慣になってしまった溜め息をハァ~~と吐いて簡単に事情を説明した。
 

「ホホ~~ッ、行方知れずのう。然(しか)も人間の少女とは、これまた酔狂な。ホッ、それで、その後、何らかの進展はあったのかな、邪見殿」
 

「それが・・・正直な話、サッパリなのじゃ。“りん”が失踪した状況から見て亡くなっている可能性は高い。何せ大水の出た日、川の側で姿を見たのが最後の目撃情報じゃからの。その後、二年経ったが、未だ手がかり一つ見つかっておらん。生きておるのか、死んでおるのか、それすらも分からんのだ。これでは諦めようにも諦められん。じゃから、藁(わら)にもすがる思いで、今日、ここへ来たのだ。もし、“りん”が死んでおるのなら死者を甦らせるという反魂術で冥府から呼び出せるのではないかと思ってな。頼む、方斎殿、殺生丸さまを“りん”に逢わせてくれ」
 

「“りん”と言うのかね、その人間の少女、ホ~~ッ」
 

邪見は方斎に問われるままにスラスラと答えた。
 

「ウム、失踪したのが数えで確か・・・九(ここの)つの年じゃった。生きていれば十一になる」
 

「ホッ、そうか。お前さんの必死さに免じて反魂術を使ってやろう。だが、あの御仁はワシの仙術を奇術か手品の一種と疑っておるようだな。ホ~~ッ、よしっ、それでは、まず、その“りん”なる人間の少女を呼び出す前に、邪見殿、お主の身内を呼び出してみせよう。ホホ~~ッ、我が方術が決して“まやかし”なんぞではないことを、その目でシカと確かめてもらうとしよう」
 

斯(か)くして方斎は殺生丸と邪見を室内に招きいれ反魂術を実践することとなった。


【方士(ほうし)】::神仙の術を行うひと。道士。


※『=反魂香(はんごんこう)④=愚息行状観察日記外伝』に続く
 

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