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『愚息行状観察日記⑤=御母堂さま=』



※上の画像は『妖ノ恋』さまの使用許可を頂いてます。


怪しげな童子に誘われるまま殺生丸一行が導かれたのは獣も見かけぬ深山幽谷。
切り立つ岩肌、生い茂る松。
まるで海の彼方の外国(とつくに)を思わせる水墨画のような風景が広がっておる。
そこで繰り広げられるは冥道残月破同士の応酬(おうしゅう)。
アア、だが、些(いささ)か愚息の分が悪いな。
殺生丸の冥道は死神鬼の冥道に吸収されてしまった。
マッ、仕方あるまい、冥道残月破は、元々、死神鬼の技だからな。
いうならば本家本元、さしずめ愚息は分家かな。
殺生丸の冥道は大きいが未だ不完全。
真円を描いてはおらぬ。
それに引き換え死神鬼の冥道は小型ではあるが完全な真円。
ムッ、新手が駆けつけてきたぞ。
ンンッ、炎のような真紅の童水干、あれは火鼠(ひねずみ)の衣ではないか。
成る程、あれが闘牙の・・・。
側に冥加もおることだし間違いないな。
そうか、あの半妖が殺生丸の腹違いの弟か。
名は確か・・・犬夜叉とか申したな。
他の者は人間か、イヤ、子狐妖怪が一匹、紛れ込んでおる。
それに猫又も一匹。
フム、あの様子では殺生丸の奴、満更、半妖の弟を知らぬ訳でもないようだな。
あれの性格と父親の死に到る経緯(いきさつ)を考え併(あわ)せると、どう転んでも兄弟仲良くとはいかぬだろうて。
半妖も腹違いの兄を立てるような性格とは思えん。
相当、利かん坊の顔をしておるしな。
死神鬼が半妖に向かって冥道残月破を放った。
ホォ、一旦、躱(かわ)して鉄砕牙で風の傷をお見舞いか。
半妖とはいえ、流石に闘牙の息子だな。
鉄砕牙を使いこなしておる。
オオッ、殺生丸の奴、又しても冥道を打ち消されたぞ。
こうなっては手の打ちようがないな。
どうする、殺生丸?
このままでは見す見す死神鬼の餌食(えじき)だぞ。
何やら、死神鬼と、こみいった話をしておるようだな。
殺生丸の表情が苦悶に満ちておる。
ムゥ、大方、天生牙が鉄砕牙から切り離された刀だとでも教えているのだろう。
チッ、不味いな、あれ程、矜持の高い殺生丸には、かなり酷な事実。
死神鬼め、要らぬ世話を焼きおって。
自棄(やけ)を起こしたか、殺生丸?
死神鬼の攻撃を避けようともせぬ。
ホッ、半妖の弟が兄を庇って風の傷で冥道の軌道を逸(そ)らしおったわ。
だが、今の殺生丸に取って半妖の異母弟に庇われることほど腹立たしいことは有るまい。
やはりな、半妖を殴り飛ばしおったわ。
完全な八つ当たりではあるが、あ奴の心情を思うと怒る気にはなれんな。
アア、殺生丸め、完全に堪忍袋の緒が切れたな。
一気に死神鬼の冥道を掻い潜り己が爪で決着をつける積りだ。
死神鬼め、事ここに及んで、遂に固め撃ちをしてきおった。
一発だけなら躱(かわ)すのも、そう難しくはないが、あれだけ同時に何発も撃たれては!
如何に殺生丸が駿足を誇ろうと摑まったら最後、冥道に呑み込まれてしまうぞ。
ンッ、あれは蚤(のみ)妖怪の冥加ではないか。
何やらゴチャゴチャと弁明しておるようだが、無駄なこと。
最早、殺生丸は聞く耳を持つまい。
あ奴は『退(ひ)く』という事を知らぬ。
所謂(いわゆる)、猪武者(いのししむしゃ)という奴だな。
フゥッ・・・困ったものよ。
いずれ西国を背負って立つ大将たる身でありながら駆け引きの『イロハ』も使えぬとは。
襲い掛かる冥道を避けつつ死神鬼に迫る殺生丸。
ムッ、左袖部分が冥道に呑み込まれたか。
しかし、不幸中の幸いだな。
どういう事情でああなったかは知らんが、殺生丸は隻腕、左腕は既に失われておる。
被害は着物の左袖のみに止(とど)まった。
勢いのまま死神鬼の懐に飛び込み仮面を被った奴の顔に一撃を叩き込む殺生丸。
死神鬼の仮面が吹っ飛んだ。
残った顔にも無残なひび割れが生じておる。
それにしても不気味な奴だな、死神鬼は。
血が一滴も出ないとは・・・。
あ奴、本当に生き物なのか!?
妙に作り物めいておる。
死神鬼が渾身の力を込めて冥道残月破を撃った。
下がれ、殺生丸!
このままでは冥道に呑み込まれるぞ。
流石に兄を見殺しには出来んようだな。
半妖が殺生丸の加勢に入りおった。
何っ、あの技、金剛槍破ではないか。
闘牙の盟友、宝仙鬼の技。
ということはだ、半妖は、あの技を宝仙鬼から譲り受けた訳だな。
でなければ、あの技を、金剛槍破を使えるはずがない。
だが、冥道残月破には効かぬ。
冥道は冥界に通じる技、現世の物は悉(ことごと)く呑み込んでしまう。
殺生丸と半妖の弟に迫る何発もの冥道。
イカン、数が多過ぎて逃げる隙間さえ見当たらぬ。
このままでは兄弟ともども冥道に呑み込まれてしまうぞ。
と思いきや、何、鉄砕牙と天生牙が共鳴しておるではないか。
殺生丸が何かを吹っ切ったらしい。
天生牙を抜き放ち死神鬼に向けて思いっ切り振り抜いたわ。
すると、オオッ、特大の冥道が死神鬼の頭上に出現した。
それも完全な真円を描く冥道が。
特大の冥道に死神鬼の小型冥道が呑み込まれていく。
それどころか死神鬼までもが周囲の岩石と一緒に吸い込まれ呑み込まれていった。
虚空に消え去った冥道。
後に残ったは巨大な鎌でスパッと刈り取られたかのような奇妙な岩山の風景。
アチコチに死神鬼によって穿たれた丸い穴が残っている。
殺生丸が立ち去っていく。
左の振袖が肩の下あたりまで冥道に呑み込まれ短くなっておる。
危なかったな、殺生丸。
死神鬼の冥道が、もう一尺(約30cm)ほどズレておったら、そなたの命は無かっただろう。
天生牙が鉄砕牙の一部と知った今、そなたは何を考えておる、殺生丸?
 

『愚息行状観察日記⑥=御母堂さま=』に続く
 

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