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巡りくる春



※上の画像はアニメ「犬夜叉」からお借りしています。


ピーーーーーーチチチッ ピチュピチュッ

にぎやかな小鳥の囀(さえず)りが辺りに響く。

「楓さま、ほら見て! 桃の花が咲いてる、菜の花も」

りんが嬉しそうに楓に呼びかけた。
春そのものの景色が広がっている。
奈落が滅して一年、村にまた春が巡ってきた。
あれから弥勒と珊瑚は村に住みつき夫婦となった。
昨年の冬には双子の女の子が生まれている。
琥珀と犬夜叉は珊瑚達と同居している。
奈落の襲撃で壊された家々は建て直したり補修したりでほぼ元通りになった。
村はすっかり落ち着きを取り戻している。

「早いものだな、もう一年たつのか」

楓は春に彩られた村の景色を見つつつぶやいた。

「綺麗だね、楓さま」

「ああ、そうだな、りん」

りんが思い出したかのように疑問を楓にぶつけた。

「ねえ、楓さま、かごめさまはどうして戻ってこないの?」

「うむ、それはわしも気になっておる。が、何があったのか、犬夜叉が頑(がん)として口を開こうとせんのだ。あ奴が話す気にならなければ無理だろうな。何か余程のことがあったのだろう」

「ふ~~ん」

「まあ、ともかく犬夜叉が『かごめは無事だ』といっておる。だから無事なのは確かだろう。おそらく戻ろうにも戻れぬ事情があるのだろうな」

「そっか、でも早く戻ってこれるといいね」

「ああ、そうだな、犬夜叉と七宝のためにもな」

「犬夜叉さまは判るけど七宝?」

「ああ、りんは知らんのだったな。犬夜叉と七宝はな、暇されあれば骨喰いの井戸に潜りこんでおるらしい。あの井戸は前はかごめの国に通じておったからな。今は閉じておるようだが。二人とも何とかしてかごめに逢おうと必死なのだろう」

少し物憂い表情で楓は骨喰いの井戸がある方向に目を向けた。
骨喰いの井戸は今日も何ひとつ変わった様子もなく存在している。
井戸とはいっても水が出る訳ではない。
骨喰いの井戸は妖怪の亡骸(なきがら)を何処(いずこ)かへ消滅させる涸(か)れ井戸、怪しの井戸なのだ。
それがどうしたことか、ある時から異界へと通じるようになり、かごめを連れてきた。
そして、かごめが出現すると同時に犬夜叉は五十年にわたる封印から解放され四魂の玉がかごめの体内から出てきた。
あたかも運命に導かれるかのように、いや、事実、導かれていたのだろうと楓は思う。
でなければ、ああまで見事に物事が運びはしない。
犬夜叉の復活からほどなく姉の桔梗が甦ったこともそうだ。
まるで時期を計っていたかのような出来事だった。
四魂の玉に端を発する複雑に絡まりもつれにもつれた因果の糸。
それを正(ただ)そうとする大いなる力が働いたのだろう。
だからこそ奈落は滅ぼされ四魂の玉は消滅した。
全ては必然だったのだろう。
となると、どうしてかごめは戻ってこない?
戻れないのか?
何故?
この疑問は犬夜叉が戻って以来、ずっと楓の脳裏から消えない。
一体、冥道の中で何があったのだろう?
それを聞かない限り迂闊(うかつ)に判断はできんな。
楓は自分にそう言い聞かせ疑問を心の中にしまい込んだ。
今ではお馴染みとなった大妖と従者の姿が隻眼に映った。
りんが子犬のように大妖に向かって駆けていく。

「殺生丸さま~~~~♪」

春爛漫である。


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