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奈落の純愛

狒々の奈落

昨日は読書に夢中になって記事の更新を怠りました。
誠に申し訳ございません。



さて、コミック最終巻を読んで思うことは色々ありますが、本日は、その中の一つ、奈落の純愛について記事にしましょう。
かごめの破魔の矢に射抜かれる前に、奈落が吐露した真情。


『本当の・・・望みだと・・・?』
『そうだ・・・わしは・・・ただ・・・桔梗の心が欲しかった・・・』
『ふっ・・・あの世でも———桔梗———おまえと同じ所には・・・行けそうもないな———』


この独白を読む度に胸が締め付けられるような気持ちになります。
最初に鬼蜘蛛が願ったのは焦がれに焦がれた桔梗を手に入れることでした。
(四魂の玉を手中にしたかったのは、ついで
そんな鬼蜘蛛と数多の妖怪が合体して誕生した奈落。
だから、奈落は誕生した時点から相反する要求に引き裂かれる運命にありました。



(桔梗を欲する)鬼蜘蛛の意思と(桔梗を亡き者にしたい)妖怪どもの意思に綱引きのように引き摺られてきたのです。
誕生したばかりの時、奈落は、妖怪どもの意思のままに犬夜叉に化け桔梗を引き裂いてます。
その時、奈落の中の鬼蜘蛛は、きっと、許し難い怒りに襲われたことでしょうね。
鬼蜘蛛が自分の体を、魂を、妖怪どもに喰わせたのは、桔梗を手に入れたいが為だったのですから。
謂わば、鬼蜘蛛は、妖怪どもに一杯喰わされた訳です。



そうした怒れる鬼蜘蛛の心を奈落は心の中の深い闇に封じました。
鬼蜘蛛を排除する訳にはいかないので。
何しろ、鬼蜘蛛の桔梗に対する異様なまでの執着、妄執の強さこそが、数多の妖怪どもを繋ぎ止める核だったのですから。
そうして、五十年が経過しました。
封じられた鬼蜘蛛の心も沈黙したままでした。



しかし、鬼女、裏陶(うらすえ)の鬼術によって桔梗が甦りました。
仮初めの体に魂を納めた死人として。
自分の魂と引き換えにしてまで欲した女、桔梗を、目の当たりにした時、奈落の中の鬼蜘蛛の心は覚醒したのでしょう。
だからこそ、奈落は、桔梗を殺す気になれない。
背中に浮き出る蜘蛛の模様が、鬼蜘蛛の心が、それを許さないのです。
そして、同時に桔梗の恋人だった犬夜叉に対して激しく嫉妬します。
その嫉妬が、最終的に桔梗を二度目の死に追いやるのですが。



皮肉な事に、奈落が自分の体を解体して、より強くなろうとすればする程、桔梗に触れることは出来なくなります。
より強くなるって事は、瘴気が、邪気が、一層、強まるって事ですから。
それに対し桔梗は最高級の霊力を有する破魔の巫女です。
触れただけで妖怪を浄化する力を持っています。
だから、蜘蛛の糸の罠で桔梗を穢し弱らせなければ触れられなかった。



コミックス47巻を見てください。
桔梗を右腕で抱く奈落の表情を。
間違いなく嬉しそうです。
どんなに桔梗に憎まれていても、軽蔑されていても、恋焦がれた桔梗を腕に抱いているのですから。
そして、恋敵、犬夜叉に対する激しい嫉妬。
犬夜叉に桔梗を渡すくらいなら自らの手であの世に送ってしまいたい程に憎いのです。
『可愛さ余って憎さ百倍』と云われるように、愛が強ければ強いほど、憎悪も強くなります。



桔梗の魂を、あの世に送り返した後も、奈落は桔梗に執着しています。
四魂の玉に残った一点の光を見る毎に。
桔梗を憎みつつ愛さずにいられないのです。
奈落は犬夜叉と違って、かごめに興味が有りません。
終始一貫、桔梗を、桔梗だけを求めています。
その点、ごく僅かなブレもありません。
呆れるほど見事な純愛です。



奈落の行動は最初から最後まで桔梗が原因です。
だから、桔梗の光が四魂の玉から消え、四魂の玉が完成した時、奈落は、完全に目的を失います。
自分が、何の為に存在するのか、レーゾンデートル(raison d’etre=存在理由)を失ってしまったからです。
最早、死のうが生きようが、どうでも良い気分だったんでしょうね。
(※桔梗が居ないから)



兄上の爆砕牙出現を確認した時点で自分が殺される確率は高いと予測していたと思います。
でも、スンナリ、犬夜叉達に殺されてやる気は毛頭ない。
あわよくば犬夜叉達を冥土への道連れにしてやる積りだったんでしょう。
人の気持ちを弄(もてあそ)んで闇の領域に引き摺り込んで。
結局、奈落の思惑は全て外れ、死に到るのですが。
何だか、奈落は、それを望んでいたようさえに思えます。
四魂の玉の中で見た奈落の死に顔は、とても安らかでしたから。
きっと、愛しい桔梗の面影を抱いて眠りについたのでしょう。



奈落の所業は許される物ではありません。
それは良く判ってます。
でも、奈落の桔梗に対する思いの激しさを、切なさを思う度、奈落が哀れに思えてならないのです。



※何時の日か、奈落と桔梗のパラレルを書きたいと思ってます。



御礼
2月25日に拍手を贈って下さった方に感謝致します。
有難うございます。





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