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『=反魂香(はんごんこう)⑦=愚息行状観察日記外伝』



※上の画像は『妖ノ恋』さまの使用許可を頂いてます。


殺生丸と邪見が帰った後、方斎は机の上に置かれた算木(さんぎ)を丸い大きな目でジッと凝視した。
そして、ホウッと息を吐き感に堪(た)えぬかのように低く呟(つぶや)いた。
 

「ホ~ッ、御方さまの予想通りに物事が動いていくわ。神算鬼謀(しんさんきぼう)とは当(まさ)にこの事だな。流石は“白銀の狗姫(いぬき)”と呼ばれた御方じゃ。伝説の軍師と称(たたえ)えられるだけのことはある」
 

算木(さんぎ)が示す八卦は【地】×【雷】の卦、【地雷復(ちらいふく)】。
卦の意味は先程に説明した通りだ。
この卦は復卦(ふくけ)、つまり、(回復、復活、復元、元に戻す、帰ってくる)などを意味する。
だが、それは占断の七割であり全てではない。
残りの三割の内の二割は変爻(へんこう)、つまり◎印が付いた部分が担当している。
今回の場合は初爻(しょこう)、その意味は『遠からず帰ってくる』。
これも卦と同じく【復帰】を意味している。
心配は取り越し苦労と判る。
損失は回復、実りをもたらす、などなど、大吉。
そして、最後の一割は、変爻(へんこう)を引っくり返すことによって生じる卦、即(すなわ)ち、裏にして出てきた卦が暗示する。
方斎は【地雷復】の変爻(へんこう)を示す初爻(しょこう)の算木を引っくり返した。
 


     陰 ̄  ̄              陰 ̄  ̄             
     
     陰 ̄  ̄              陰 ̄  ̄

     陰 ̄  ̄              陰 ̄  ̄
               →

     陰 ̄  ̄              陰 ̄  ̄

     陰 ̄  ̄              陰 ̄  ̄

     陽 ̄ ̄◎              陰 ̄  ̄
 


陽が陰に変わる。
全ての爻(こう)が陰に変化した。
上卦・下卦ともに(陰・陰・陰)。
(陰・陰・陰)は【地】を意味する。
【地】×【地】の卦。
【地雷復(ちらいふく)】の卦は【坤為地(こんいち)】に変わった。
この変爻を引っくり返して得られた卦、これこそが次の段階、つまり未来を暗示しているのだ。
 

「ホホ~~ッ、やはり太極は全てを見通しておるわ。【坤為地(こんいち)】とは、これまた言い得て妙。地、即ち、大地を意味する。母なる大地はあらゆるものを受け入れ養い育てる。その言葉が示すように今回の場合はズバリ【母】を意味しておるわな。ホホッ、全ては【母】である狗姫の御方さま、貴女(あなた)さまの思惑のままに推移しておりますぞ」

    
算木を眺めつつ方斎は回想に耽(ふけ)る。
ひと月前、方斎は旧知の仲の白鷺のお爺こと源伍に連れられて天空の城を訪問した。
というか呼び付けられたのだ、狗姫に。
白雲に守り隠され、天空に浮かぶ巨大な城。
城の前庭の玉座に座していた白銀の美女が城主の“狗姫(いぬき)の御方”だった。
妖界で最大領土を有する西国の王太后にして、当代国主、殺生丸さまの御生母さま。
先代、闘牙王と並び立つほどの妖力の持ち主、且つ、軍略においては並ぶ者なき天才軍師。
噂に聞いたことはあったが実際に彼(か)の御方にお目に掛かるのは初めての方斎だった。
面識もないのに、一体、何用があって呼び出されたのかと、内心、訝(いぶか)しんでいた。
それが、まさか、西国城下で方士紛(まが)いのことをやらされる羽目になろうとは・・・。
如何なワシでも想像もせなんだわ。
第一、何故、反魂香のことを狗姫の御方が知っておられたのか!?
その疑問を率直にぶつければ返ってきたのは思いがけない言葉。
先代の方斎、ワシの父を知っているからだとはな。
そう、確かに、ワシの亡き父親、梟(ふくろう)族の先代の長(おさ)は方士だった。
あの時の会話が脳裏に甦(よみがえ)る。
狗姫の御方が徐(おもむろ)に口を開いてワシに頼み事をしたのだ。
 

「方斎よ、すまんが一つ頼まれて欲しい。そなた西国に行って方士の真似事をしてくれぬか?」
 

「ハッ!? 方士の・・・真似事にございますか」
 

「そうだ。そちの父親、先代の方斎は嘗(かつ)て小翁(しょうおう)と名乗り人界において方士として持て囃(はや)されておった。反魂香を用いて漢帝国の七代目の皇帝、武帝に、亡き愛妾、李夫人の姿を見せてやったであろう」
 

「なっ、何故、貴女さまが、それを御存知なのですか!?」
 

それはワシが幼い頃、父親が酒に酔うと決まって飛び出す若き日の武勇伝だった。
だが、それは、極々、親しい身内の者しか知らないはず。
何故、西国の王太后ともあろう御方が、そんな事を知っておられるのか。
ワシの疑問に狗姫の御方は呆気(あっけ)ないほどサラッと答えてくださった。
 

「ンッ? ああ、当時、妾(わらわ)は人界をうろついておってな。暫(しばら)く漢の宮廷で武将や官吏に化けて遊んでおったのよ。そうした関係で、そちの父親と知り合ったのだ。あ奴は随分と面白い男だったぞ。妖怪よりも人間に興味があった。というよりは人間が持つ際限のない“欲”にな。だから、人界で方士をしておったのよ。当時、漢の皇帝だった武帝なる人間は不老不死に取り憑(つ)かれておってな。その為、随分と怪しげな術を操る輩(やから)が宮廷に出入りしておった。中には宮女(きゅうじょ)に化けた狐や狸もおったぞ。フフッ、今にして思えば、何とも賑(にぎ(やかな顔触れだったわ」
 


※『=反魂香(はんごんこう)⑧=愚息行状観察日記外伝』に続く

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