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『=反魂香(はんごんこう)④=愚息行状観察日記外伝』



※上の画像は『妖ノ恋』さまの使用許可を頂いてます。


「ケホッ、ケホッ、ゴホッ、むむっ、煙い!」
 

室内に充満する煙に咽(むせ)て邪見は顔を顰(しか)めた。
涙まで盛大に出てきた。
大きな出目からポロポロと涙がこぼれ落ちる。
折りしも死者を甦らせるという反魂香を焚(た)き上げているまっ最中である。
そんなウルウルと涙ぐむ邪見をポカリと打ち据える者が!
 

「相変わらず煩(うる)さいね、この子は」
 

目の前に現われた者の姿を見て邪見は驚愕した。
 

「グゲェ~~~ッ! はっ、母者(ははじゃ)~~!?」
 

それは、三百年前に死に別れた邪見の母親だった。
見れば邪見と瓜二つの容姿である。
違いは邪見の水干に対し唐風(からふう)の女物の衣装を身に付けている処だろうか。
髪も邪見と違ってフサフサだが、どうも不自然な感じだ。
おそらく鬘(かつら)だろう。
先程、方斎は、反魂術が偽物ではないと証明する為に邪見の身内を甦らせると宣言した。
その為、邪見は、二脚しかない椅子の一脚に座らされ死者を甦らせるという反魂香を嗅がされているのだ。
方斎に亡くなった身内の姿を強く思い浮かべろと云われ邪見は咄嗟(とっさ)に亡き母のことを念じてしまった。
だが、まさか、本当に出て来るとは思わなかったのだ。
わざわざ殺生丸を此処まで連れて来ておいて何だが、邪見は、内心、反魂術なる物に対しては半信半疑だった。
唯、気休めでも紛(まが)い物でもいいから、殺生丸を、りんに逢わせ気力を取り戻させたかったのである。
そこへ本物の母親の出現である。
もう吃驚仰天(びっくりぎょうてん)、恐れ入谷(いりや)の鬼子母神(きしぼじん)である。
邪見は唖然・茫然とするばかりだった。
そんな邪見にお構いなしに母親はビシバシと遠慮なく邪見を殴る。
 

「ヒィ~~~~ッ、やめて下されぇ~~~~母者(ははじゃ)~~~~」
 

「お黙り、邪見。お前、ま~だ自分に都合が悪くなると嘘を吐いているね」
 

「ええっ、そっ、そんな事はありません、母者!ワッ、ワシは嘘など一度も吐いたことはございません!」
 

「嘘つけっ!そもそも、それが、もう嘘だろうが。お前ときたら一度(ひとたび)口から出した言葉を、何度、撤回した!?最初の内こそ数えておったが余りにも回数が多いので馬鹿らしくなって途中から止(や)めてしまったわ。それに主に対する不敬な物言いも聞き捨てならん。その最たるものが魍魎丸(もうりょうまる)と殺生丸さまが闘っていた時のアレだ。『熟した柿のようにグッチャグチャになってるかもしれん』だったか。全く失礼にも程があろう。まだまだ他にもあるぞ。ホレ、あれじゃ。爆砕牙が出現する際、化け犬に変化した殺生丸さまが曲霊(まがつひ)と闘っていた時のことじゃ。お前が心の中でコッソリ思った無礼極まりない台詞よ。『犬だし、あまり賢そうではないし。変化を解けば小さくなって、すり抜けられそうなものだが・・・。お気づきにならぬのか!?犬だから』」
 

「ヒョエ~~~ッ、なっ、何で、母者が、そんな事を知っておるんじゃ~~~っ!?」
 

「馬鹿たれ、あの世では何もかもお見通しなんじゃ。本当に情けない。おまえは子供の頃から嘘つきで、その癖、それを直ぐ皆に見破られておった。大人になって少しは懲りたかと思えば、セコイ性根はちっとも治っとらんじゃないか!」
 

そう云いながらも邪見の母は小気味よく折檻する手を休めない。
ビシッ! バシッ! ドカッ! ポカスカ!
立て続けに母親から殴られ、遂に邪見は「ウ~~ン」と一言(ひとこと)呻(うめ)いたかと思うと、そのままバッタリ気を失ってしまった。
山ほどのタン瘤(こぶ)が見る間に膨らんでいく。
気絶した邪見の傍(かたわ)らで母親がビシッと床に正座して居住まいを正(ただ)した。
そして床に手をつき殺生丸に向かって深々と頭を下げる。
殺生丸の眸(ひとみ)が、極々、微かに揺らいだ。
 

「たいそう見苦しい処をお見せして申し訳ございません、西国王、殺生丸さま。お初にお目にかかります。邪見の母、阿邪(あじゃ)と申します。愚息がお世話になっております。御存知のように小心翼々の我が息子、色々とお腹立ちの点は多々ございましょうが、主を思う忠義の心だけは誰にも負けませぬ。今後とも、どうぞ、よしなにお願い致しまする」
 

口上をキッチリ述べ終わると邪見の母、阿邪の姿は煙のように薄れ消えていった。
何時の間にか反魂香の煙も室内からスッカリ消え失せていた。
まるで夢を現実に見ていたかのような感覚だった。
方斎が殺生丸を見やって問いかけた。
 

「さて、納得して頂けましたかな、殺生丸さま」
 

「・・・確かに」
 

殺生丸は小さく頷いた。


※『=反魂香(はんごんこう)⑤=愚息行状観察日記外伝』に続く


 

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