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『=反魂香(はんごんこう)②=愚息行状観察日記外伝』



※上の画像は『妖ノ恋』さまの使用許可を頂いてます。


我が名は邪見。
妖界でも最大領土を誇る西国の王、殺生丸さまの一の従者じゃ。
ハア~~~~フゥ~~~~ハア~~~~
今の状況に思わず知らず溜め息が出る。
最近、こればっかりじゃ。
イヤ、そうではない。
二年前、人界で、りんが行方知らずになってからじゃな。
それ以来、こんな状態がズ~~~ッと続いておるのだ。
アァ~~~ッ、りん、今、何処におるんじゃ!?
生きておるのか? 死んでおるのか?
それすらも分からんとはっ!?
寵愛するりんが行方知れずになってからというもの、殺生丸さまは次第に物事に興味を失くされ無気力になってしまわれた。
今では政務を放り出し昼日中から遊郭に上がり込み放蕩三昧(ほうとうざんまい)の日々じゃ。
重臣の尾洲さまが、万丈さまが、必死に諭(さと)されても一向に聞こうとなさらん。
大国の国主ともあろう者が・・・嘆かわしい。
そうは言うものの、殺生丸さまの辛いお気持ちを想像するとなあ・・・。
わしゃ、何も云えん。
あんなに大事にしていたりんが失踪してしまったんじゃもんなあ。
それも死んでしまったというのなら、まだ無理矢理ではあるが諦めもつこう。
だが、実際には、生きているのか、死んでいるのか、皆目(かいもく)、見当(けんとう)もつかん状況にある。
こういうのが、一番、始末が悪い。
忘れることも諦めることも出来ん。
気持ちは宙ぶらりん。
進むことも退(ひ)くことも出来ん。
ハア~~~~どうしたら良いんじゃろうか。
又も溜め息をついたわしの耳に不意に飛び込んできた信じがたい言葉。
 

「聞きましたか、近頃、評判の方士の話」
 

「ええ、何でも亡くなった家族や恋人を呼び出す不思議な術が使えるとか」
 

(なっ、なっ、何じゃとおぉっ!)
 

邪見は心の中で叫んだ。
 

「それは本当の事ですか。眉唾(まゆつば)でありませんか」
 

「いやいや、本当です。実際、妻を亡くした私の友人が、その方士に頼み込んで八年ぶりに亡き妻と逢ったそうです。友人は甚(いた)く感激して涙を流してましたよ」
 

邪見は、矢も盾もたまらず、話をしていた者達に声を掛けた。
 

「そっ、その話を、是非とも詳しく聞かせて下されっ!」
 

そして、話を、逐一(ちくいち)聞き出した。
ここは西国でも指折りの遊郭、萬陳楼(まんちんろう)の一室。
遊びに来たお大尽達が御指名の遊女が来るまでユッタリと一服しつつ待てるよう設(しつら)えた小部屋である。
ユラリ・・・鬼火のような妖気がゆらめく。
遊郭特有の艶(つや)めいた室内の雰囲気が一瞬にして凍りついた。
ゾクリ・・・背筋が粟立(あわだ)つ。
壮絶な色香を漂わせる美貌の主が部屋に入ってきた。
男でありながら女以上に麗しい。
通常、やつれれば容貌に翳(かげ)りが生じそうなものだが、この男の場合は、それさえも美しい。
投げやりな心情が却(かえ)って絶世の美貌に磨きをかけ危うい雰囲気を醸(かも)し出している。
男も女も、漏れなく、その妖しい毒気に中(あ)てられてしまいそうである。
 

「殺生丸さまっ!」
 

邪見は、主の許へ駆け寄った。
殺生丸の身体からは酒の匂いがプンとした。
蟒(うわばみ)と呼ばれるほどの酒豪の殺生丸である。
その殺生丸の身体から、これほどの匂いがするということは、並々ならぬ量の酒を聞(き)こし召したに違いない。
酒に酔うことで心の痛みを消そうとするかのような主の行為に邪見は涙を禁じ得なかった。
水干の袖で邪見がソッと涙を拭いてると女の声が聞こえてきた。
ネットリと媚(こび)を含んだ甘ったるい拗(す)ねたような声。
 

「こんな処にいらしたの、殺生丸さま」
 

現われたのは、この遊郭、萬陳楼(まんちんろう)が抱(かか)える一番の売れっ妓(こ)、連雀(れんじゃく)。
極彩色の衣装が熟(う)れた女の身を飾っている。
猫のような目は琥珀色で眉尻を赤く染め切れ長の目を更に大きく見せている。
客から贈られたのだろう。
高価な装身具の数々が孔雀の羽のように灯りに煌(きら)めいて輝く。
婀娜(あだ)な仕草が、大層、艶(なまめ)かしい女だ。
だが、なにより特筆すべきは、女が、りんと同じ黒髪だということにある。
この処、殺生丸が、連日、通っている妓女(ぎじょ)である。
殺生丸が、すっかり自分の虜だとでも勘違いしているのであろう。
女は、しどけなく殺生丸に甘えるようにもたれかかった。
 

「うふふっ、殺生丸さま、今宵も私の処に来て下さいますわよね」
 

西国の王が、比類なき美貌の男が、もう半月も、欠かすことなく通ってきてくれているのだ。
女は栄華に彩られた己の未来を思い描くようになっていた。
もうすぐ落籍(ひか)され西国城に迎えられるだろうと。
きっと、どんな贅沢も我が儘も思いのままに違いない。
お世継ぎを産めば正室の座も夢ではない。
頭の中で、夢は、益々、膨(ふく)らむばかり。
だが、次の瞬間、女の夢は潰(つい)えた。
 

「・・・次はない」
 

殺生丸は女の腕を引き剥(は)がし踵(きびす)を返した。
女の悲鳴が辺りに響いたが、殺生丸が振り返ることはなかった。


【落籍(ひか)す】::遊女・芸者などの借金を肩代わりして身請けすること。


※『=反魂香(はんごんこう)③=愚息行状観察日記外伝』に続く


 

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