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『=反魂香(はんごんこう)①=愚息行状観察日記外伝』



※上の画像は『妖ノ恋』さまの使用許可を頂いてます。


ちはやぶる 神代もきかず 龍田川 からくれないに 水くくるとは
 


神代の時代には不思議なことが数々あったという。
その頃でさえ、こんな絶景は前代未聞であろう。
目も眩まんばかりの韓紅(からくれない=鮮やかな真紅)に染められた秋の龍田川。
 


作:在原業平明臣(ありわらのなりひらあそん) 百人一首より出典
 


下界では紅葉が見事に色付き大地を鮮やかに彩(いろど)っていた。
燃えるような緋色の絨毯(じゅうたん)に雑(ま)じる濃淡の黄色と緑。
これぞ艶(あで)やかさの極み、錦繍(きんしゅう)とは正(まさ)に言い得て妙。
狗姫(いぬき)が、りんを引き取って、そろそろ二年になろうかという深まりゆく秋の頃、それは起こった。
権佐が、突然、天空の城にやってきた。
元々、権佐は、ほぼ、ひと月に一度の割合で西国から、この城を訪れる。
だが、前回の訪問から、まだ三日と経っていない。
ということは、西国で何事かが起きたに違いない。
狗姫は勝手知る者の気軽さで権佐を自室へと招き入れた。
いつものように側には筆頭女房の松尾が控えている。
ガバッ、権佐が、その場に跪(ひざまず)き深く深く頭を下げた。
土下座だ。
権佐は西国お庭番の頭領である。
役目柄から云っても、このような礼を取る必要はない。
 

「御方さま、此度(こたび)の突然の訪問の無礼、お許し下さい」
 

「どうしたのだ、権佐。そのように畏(かしこ)まって。何かあったのか」
 

「はい、実は・・・殺生丸さまのことにございます」
 

「アレが、どうかしたのか?」
 

「お願いでございます、御方さま。何卒(なにとぞ)、殺生丸さまをお助け下さい!」
 

狗姫は目を眇(すが)めて権佐に話の続きを促した。
 

「一体、何が有ったというのだ、権佐。詳しく事情を話せ」
 

狗姫に求められるままに権佐は昨今(さっこん)の殺生丸の状態を切々と語った。
りんの失踪後、次第に自暴自棄になっていった殺生丸が政務を蔑(ないがし)ろにして今では全く顧みようとしなくなったこと。
そして、重臣の尾洲と万丈が、何度、諌(いさ)めようと聞く耳を持たないと。
 

「某(それがし)は、これまで御方さまの御命令を守って、りんさまの事を誰にも洩らしておりません。しかし、二年経っても手がかり一つ掴めない絶望的な状況に、さしもの殺生丸さまも荒(すさ)んでしまわれました。まるで幽鬼のような形相(ぎょうそう)にございます。近頃では真っ昼間から遊郭に入り浸り放蕩(ほうとう)に耽(ふけ)られる有り様。重臣の尾洲さま、万丈さま、御二方(おふたかた)も、困り果て頭を抱(かか)えておられます」
 

権佐の申し様に狗姫が眉を顰(ひそ)めて口を開く。
 

「詰まる所、あ奴が自棄(やけ)になって国主としての義務を放棄しておる。そう言いたいのだな、権佐」
 

「然様(さよう)にございます」
 

「チッ、全く不甲斐ない。りんが、あのような事になったのも元を辿(たど)れば殺生丸の認識の甘さにあったものを。未だ、政敵の仕業(しわざ)とも気付かず虚(うつ)けておるとは。半妖を見よ。文句も云わず、三年間、巫女の不在に耐えたではないか」
 

狗姫の厳し過ぎる言葉に傍(かたわ)らの松尾が殺生丸の弁護に回った。
 

「御方さま、そうは仰(おっしゃ)いましても、犬夜叉殿と殺生丸さまとでは事情が違います。犬夜叉殿と巫女は生き別れ。それも巫女が元の世界に戻っただけのこと。命の危険があった訳ではございません。それに引き換え、殺生丸さまの場合は、大雨の最中(さなか)、増水した川の側で消息を絶つという非常に危険な状況でりんさまが失踪されています。二年も寵愛するりんさまの生死も分からず行方も知れずとあっては、如何に気丈な殺生丸さまといえど、最早(もはや)、限界にございましょう」
 

「ムゥッ、松尾よ、そなたも、そう考えるのか・・・」
 

筆頭女房の松尾は沈着冷静なことで定評がある。
乳母(めのと)の言い分に狗姫は暫(しば)し思案を廻(めぐ)らした。
 

「分かった、権佐。源伍を呼べ」
 

狗姫の言葉に権佐がパッと顔を上げ反応した。
無表情だが顔色が先程とは比べ物にならないほど明るい。
狗姫の意図を瞬時に察したのだろう。
微(かす)かに表情を緩めて権佐が礼の言葉を口にする。
 

「ハッ、白鷺(しらさぎ)のお爺殿にございますな。御方さま、有難うございます」
 

「殺生丸は我が息子。礼をいわれる筋はない。寧(むし)ろ、妾(わらわ)の方こそ、そちに礼を云わねばならん。権佐よ、よくぞ進言してくれた」
 

「勿体(もったい)ない御言葉にございます」
 

権佐は敬愛する王太后に深く頭を下げ額(ぬか)ずいた。
 

 

※『=半魂香(はんごんこう)②=愚息行状観察日記外伝』に続く

 

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