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『愚息行状観察日記⑳=御母堂さま=』



※上の画像は『妖ノ恋』さまの使用許可を頂いてます。


「・・・可笑(おか)しい」

玉座に頬杖をついた狗姫(いぬき)の御方が何気なく洩らした呟(つぶや)きに松尾が反応した。

「御方さま、どうなさいました?」

昨日、松尾は、西国から天空の城に戻ってきた。
表向きは孫息子の木賊(とくさ)に逢う為の西国訪問である。
名目上、そそくさと辞去する訳にもいかず、結果的に一週間も西国に留(とど)まることになった。
その間、西国に戻った権佐から彼の悪霊とその後の経過について詳しく報告されたので主との話に齟齬(そご)はない。
西国と天空の城との往復は、今回、別段、急ぐ必要がなかったので、ほぼ二日を要した。
往復に要した日数が二日、西国滞在が七日、締めて合計が九日。
つまり、今日で殺生丸が彼の悪霊、曲霊(まがつひ)の追跡を開始して十日目になるのだ。

「あの悪霊の動きだ。あ奴、アチラコチラと右往左往しおって。そうだな、この動きは、まるで・・・」

「まるで?」

松尾が合の手を入れてきた。

「恐らくは・・・陽動」

狗姫が答える。

「陽動。では、彼の悪霊は殺生丸さまを謀(たばか)っているのでございますか?」

松尾の言葉に呼応するように“遠見の鏡”に変化が生じた。

「ムッ、あ奴が出てきたぞ。あの若衆侍めが!」

狗姫の指摘通りに、鏡の中に折鶴に乗った夢幻の白夜が映し出された。
そして、殺生丸の前に立ちはだかる。
巨大な顔面の悪霊、曲霊を連れて。
すぐさま天生牙を抜き放ち曲霊を斬り付ける殺生丸。
だが、何故か、曲霊は、斬られた当初はボウッと霞(かす)むものの、すぐに元通りに復元するではないか。

「やはりな、あれは偽物だ」

“遠見の鏡”をジッと凝視しながら狗姫が自分の考えを口にする。

「御方さま、あれが偽物ならば、本物は、一体、何処に?」

「何処に? 松尾よ、悪霊が望むモノは何だ?」

「それは、勿論、四魂の欠片にございましょう。・・・となれば!」

「そうだ。あの小僧がいる人里だろうな」

「見ろ、松尾。どうやら、殺生丸も気付いたようだぞ」

“遠見の鏡”の中、殺生丸が折り鶴に乗った夢幻の白夜に迫る。
何時の間にか天生牙は鞘に収められている。
鋭い爪が夢幻の白夜を襲う。
慌てて殺生丸の攻撃を躱(かわ)す夢幻の白夜。
瓢箪(ひょうたん)が爪で破壊された。
その中から出てきたのは・・・肉片!
大気に触れると同時に雲散霧消(うんさんむしょう)していった。

「まんまと騙されたようだな、殺生丸。あの悪霊め、随分と悪知恵に長(た)けておるわ」

「御方さま、あの曲霊(まがつひ)なる悪霊が己(おの)が肉片を使って殺生丸さまを惑わしたのは判ります。ですが、何故(なにゆえ)、あ奴は殺生丸さまを十日間も引き回していたのでございましょう」

「単純に時間稼ぎだろうな。松尾よ、覚えておろう。あの悪霊は天生牙で左目を斬られた。如何に霊体とはいえ傷を癒やす時間が必要だったのだろう。正体を明かしたのは、その必要がなくなったからだろうな」

鏡の中に夥(おびただ)しい数の妖怪が映し出された。
ザッと軽く見積もっても千匹は下(くだ)らないだろう。
殺生丸の周りをビッシリと取り囲んでいる。
夢幻の白夜はここで殺生丸を足止めする積りなのだ。

「さて、どうする、殺生丸?」

すると殺生丸が爆砕牙を抜き放った。
ほんの一振り。
唯の一撃。
それだけで雷鳴が轟(とどろ)き千匹もの妖怪が瞬時に抹殺された。
正(まさ)しく“瞬殺”。

「本(ほん)に爆砕牙は凄まじい刀にございますなあ、御方さま」

「ウム、そちのいう通りだな、松尾。全く・・・呆(あき)れるばかりの破壊力だ」

自分の母親と側近が、“遠見の鏡”の前で、そんな会話を交(か)わしているとも知らず、殺生丸は神速ともいえる凄まじい速さでその場を後にした。
無論、夢幻の白夜になど、一切、目もくれない。


【齟齬(そご)】:(上下の歯がくいちがう意から)意味や物事が食い違って合わないこと。

【陽動】:陽動作戦の意味。(陽は偽りの意)。わざと目的とは違うことをして敵の注意をその方面に向けさせ、         相手の判断を誤らせること。


※『愚息行状観察日記(21)=御母堂さま=』に続く

 

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