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『愚息行状観察日記⑲=御母堂さま=』

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 ※上の画像は『妖ノ恋』さまの使用許可を頂いてます。


ストッ・・・上空から一人の男が大地に降り立った。
とはいえ、その風体(ふうてい)は、到底、人間には見えない。
体型は人型なのだが、頭部は、茶や黄、黒が雑ざった斑(まだら)な毛色の犬。
西国お庭番の頭領を務める権佐(ごんざ)である。
通称“斑(まだら)の権佐”、妖界では三本の指に数えられる凄腕の妖忍である。
権佐は腰に差した小太刀を抜き取り、腰を屈めて片膝をつき、鞘ごと軽く大地を突いた。
トン・・・ボコッ・ボコッ・・ボコボコ・・・
ギシギシ、ギシッ、ギシギシ
奇怪な虫のようなモノが地面から湧いて出てきた。
岩を擦(こす)るような耳障りな鳴き声を上げる。
岩虫と呼ばれる地に潜む下等な妖怪である。

「岩虫よ、つい半日前に、この地で起きたことを教えてくれ」

「何者が現われ、何を語り、そして如何様(いかよう)に戦ったのか」

「ここで起こったこと全てを包み隠さずワシに語ってくれ」

権佐に求められるままに、岩虫は、先日、この地で起きた戦いの様相について語った。
岩虫自身には理解できなくとも、現われたモノ達の名前、会話、使われた武器について、残っている記憶に従い在るがままに詳細に語り尽くした。
岩虫の話を聞き終わった権佐は立ち上がって懐に手を入れ小さめの巾着を取り出した。
そして、徐(おもむろ)に巾着の口を開け、中身を岩虫達の前に振り撒(ま)いた。
パラパラ・・・と地面に零(こぼ)れ落ちたのは色取り取りの瑪瑙(めのう)の小粒。

「これは礼だ」

ギシギシ・・ギシッ・・ギシギシ・・
岩虫どもが目の前に落ちた瑪瑙にモゾモゾとにじり寄る。
そして我先にと瑪瑙を食べ始めた。
瑪瑙は岩虫の大好物なのだ。
権佐が知りたかった情報は岩虫のおかげでスンナリと手に入った。
ワザワザ人界にまで足を延(の)ばした甲斐があったなと権佐はひとりごちた。
もう用は済んだ、長居は無用。
早々に天空の城に戻らねば。
トン・・・権佐は軽く地を蹴って空中に浮かんだ。
と思う間もなく疾風のような速さで走り出した。
黄、茶、黒、の毛色が雑(ま)ざりあって一陣の風となる。
斑(まだら)の風が目にも止まらぬ速さで天空の城に向かう。
俊足(しゅんそく)の権佐なら天空の城から人界までの往復に一日もあれば事足りる。
事実、その日の夕刻には、もう天空の城に帰り着いていた。
門番は権佐を見るなり誰何(すいか)もせず城内に通した。
そのまま権佐は狗姫(いぬき)の御方の私室に通された。
案の定、女主は“遠見の鏡”を眺めつつ部屋の中で権佐を待ち構えていた。

「御方さま、只今、戻りましてございます」

「ご苦労だったな、権佐。して首尾は?」

「上々にございました。松尾殿は?」

「暫(しばら)く西国に逗留だ。此度(こたび)の訪問の名目は松尾が可愛がっている孫息子に会う為となっておるからな。少なくとも四・五日はアチラに留(とど)まらねば格好がつかん。そうでないと溝鼠(どぶねずみ)どもが不審に思うだろう」

「確かに。では、松尾殿には、後程、拙者から詳しく。それでは、まず、彼(か)の悪霊についての御報告を。あ奴の名は曲霊(まがつひ)。長年、四魂の玉に封じ込められてきた妖怪どもの邪念にございました」

「曲霊(まがつひ)・・・とな。又しても四魂の玉絡みか」

「はい、御方さまも既に御存知のように、四魂の玉は古(いにしえ)の巫女と妖怪どもの魂が凝(こ)って出来た物にございます。直霊(なおひ)である巫女の魂、妖怪どもの邪念が凝り固まった曲霊(まがつひ)。四魂の玉は、この相反する霊からなる矛盾の塊り。それ故、今も、あの玉の内部では巫女と妖怪どもの魂が戦い続けていると伝わっております」

「その曲霊が、何故(なにゆえ)、今回、ワザワザ、四魂の玉から出てきたのか?」

「恐らくは最後の欠片を取り込む為ではないか・・・と」

「最後の欠片というと・・・殺生丸が連れていた、あの人間の小僧の首に仕込まれておった物だな」

「御意」

「小僧は、先日の戦いで、その曲霊(まがつひ)なる悪霊に四魂の欠片を穢されて気を失った。その後は縁者(えんじゃ)らしき者に連れられ今は人里におるぞ。(あの女、小僧と似たような戦装束を着ておったからな。それに顔も似ておった。血の繫がりが近いのだろう)殺生丸も先程まで其処におった。刀々斎が爆砕牙の鞘を拵(こしら)えておったからな」

「何と、あの御仁が直々(じきじき)にですか?」

「ウム、どうやら朴仙翁に頼み込んで枝を分けて貰ったようだ。爆砕牙の鞘にする為にな。フフッ、刀々斎め、今回は中々に用意周到だな。まあ、考えてみれば無理もないか。爆砕牙は鉄砕牙や天生牙以上に扱いが難しい刀だ。あれほど爆発的な破壊力を抑え込むには、どうしても朴仙翁の枝でなくてはならん。さもなくば、到底、鞘の任に堪(た)えられまい」

「それは重畳(ちょうじょう)。では、これで名実ともに爆砕牙は殺生丸さまの愛刀にございますな」

「そうだな、まずは目出度い。それでな、権佐、殺生丸の奴、爆砕牙の鞘が出来上がったかと思いきや、即、あの悪霊を追って里を出たのだ」

「殺生丸さまの御気性から鑑(かんが)みて、当然、曲霊を追って討ち果たす所存でおられましょうな」

「だろうな。その後は、この“遠見の鏡”を使って殺生丸の動向を探っておるのだが、今のところ、これといった動きがないのだ。暫(しばら)く、あの悪霊との追いかけっこが続きそうだぞ」


【誰何(すいか)】:「誰か」と声をかけて名を聞くこと。

【縁者(えんじゃ)】:縁続きのもの。親戚。

【重畳(ちょうじょう)】:良いことが重なって、この上なく満足なこと。または、そのさま。

【鑑(かんが)みる】:手本や先例に照らして考える。


※『愚息行状観察日記⑳=御母堂さま=』に続く

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