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『愚息行状観察日記⑱=御母堂さま=』

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 ※上の画像は『妖ノ恋』さまの使用許可を頂いてます。


殺生丸の新しい刀、“爆砕牙”に両断されて物騒な悪霊は消えた。
生憎、本体のほうは仕留められなんだがな
ホホォ~小娘と小妖怪が慌てて殺生丸に駆け寄りおるわ。
小僧と面妖な衣装の巫女は気を失ったままか。
そうだな、丁度よい、ここで両名に殺生丸の“姫”を教えておくとするか。
「松尾、権佐(ごんざ)、良く覚えておけ。この人間の小娘が殺生丸の“姫”だ」
両者が身を乗り出し妾(わらわ)の両脇から鏡を覗きこむ。
台座にドッシリと据えられた大きな楕円形の魔鏡、“遠見の鏡”。
鏡の中央に映し出されているのは、見るからに幼い人間の童女。
松尾が、その姿を見て納得したのか、感じたままを言葉にする。
「御方さまの仰(おっしゃ)った通り、本(ほん)に幼い姫でございますな」
「その通りだ、松尾。まるで雛鳥も同然であろう。だが、この小娘故に、殺生丸は冥府にまで赴(おもむ)き、冥界の主を斬ってまで取り戻そうとしたのだ」
「お名前は何と仰るのでしょうか?」
「名か、名は・・・・・ムッ、そうだ、殺生丸が『りん』とか申しておったぞ」
「りん様ですか、可愛らしい名でございますな」
権佐が小娘よりも更に小さな妖怪を指して尋ねた。
「して御方さま、この小妖怪は?」
「殺生丸の供の者だ。随分とチンチクリンな奴だろう。だが、殺生丸が人頭杖を与えたということは、それだけ、こ奴を信頼しておるという事であろうな。確かに主に対する心遣いは中々見上げたものがあったぞ」
「この者の名は?」
「覚えておらぬ」
名前を訊ねる権佐に対し、妙にキッパリと狗姫(いぬき)が断定した。
「・・・・左様でございますか」
昔から狗姫は興味がないモノは全く覚えようとしない。
その点、殺生丸も同様である。
実に良く似た母子である。
「若さまに取って掛け替えのない姫なのでございますね」
松尾がりんを見て感慨深げに呟(つぶや)く。
やっと、殺生丸に、そうした存在が出来たのが嬉しいのだろう。
「では、この先、何としてもお守りせねばなりますまい」
権佐が、陰の守りとして今後のことを想定して口に出す。
「そちのいう通りだ、権佐」
狗姫は“遠見の鏡”に布をかけ、少し後ろに控えた腹心の部下である両者に向き直った。
そして、まず自分の乳母(めのと)でもある松尾に第一の指示を与えた。
「松尾、そなたは、西国に出向き、留守居役の尾洲と万丈に伝えてくれ。殺生丸の刀、“爆砕牙”が出現したとな。そうさな、鼠どもに、この事が知れると厄介だ。いずれは判ることだが、彼奴(きゃつ)らが知るのは少しでも遅いほうが良い。余計な警戒をさせたくないからな。フム、表向きは孫息子の木賊(とくさ)に逢う為とでも称して婿の万丈を訪ねるのが良かろう。万丈に逢えば、当然、尾洲も同席する。なにせ西国の“二本柱(にほんばしら)”だからな。鼠どもは、この頃、スッカリ警戒心が弛(ゆる)んで忍びの者を張り付かせてはおらんようだが・・・。念の為だ、松尾、この扇を持ってまいれ」
狗姫が、そう云って懐から一本の扇を取り出した。
それは、通称、“聞かずの扇”と呼ばれる狗姫愛用の妖具であった。
表は蝶が華やかに舞い飛ぶ図柄ながら、裏には「見ザル、聞かザル、云わザル」の三猿が象徴的に描かれている。
微弱な妖気を発して周囲一間(いっけん=1.82m)の物音は全て聞こえないようにする妖扇(ようおうぎ)である。
それに因(ちな)んで付けられた銘が“密(ひそか)”、密談にはもってこいの扇である。
通常、妖道具は発する妖気が強ければ強いほど優れた道具と賞される。
しかし、この“聞かずの扇”は、それを逆手に取っている。
妖気が、極々、微(かす)かなので殆どの者に妖具と悟らせないのだ。
誰もが、何の変哲もない扇と思い警戒心を緩(ゆる)ませる。
それこそが、この妖具の最も優れた点なのであった。
“聞かずの扇”を受け取り松尾が頭を下げる。
「畏(かしこ)まりました」
今度は権佐に向かい第二の指示を下す狗姫(いぬき)。
「権佐、聞いた通りだ。西国への使いは松尾が引き受ける。そちは急ぎ人界に赴(おもむ)き、先程の悪霊の素性(すじょう)を洗ってくれ」
「ハッ、仰(おおせ)せのままに」
両者は与えられた使命を果たすべく速(すみ)やかに退出した。
そして、各々(おのおの)全く違う方角へ向けて出発した。
松尾は極秘の朗報を携え西国へ、権佐は奇怪な悪霊の素性を糺(ただ)すべく人界へと。


『愚息行状観察日記⑲=御母堂さま=』へと続く

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