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『愚息行状観察日記⑰=御母堂さま=』

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 ※上の画像は『妖ノ恋』さまの使用許可を頂いてます。

宙に浮かぶ生首めがけて突っ込んでいく殺生丸。
有象無象の触手が愚息を搦(から)め捕(と)らんと一斉に蠢(うごめ)き出す。
それらを躱(かわ)し生首の近くに辿り着いた殺生丸が思いもかけない行動を取った。
天生牙を抜いたのだ。
冥道残月破を鉄砕牙に譲った今、天生牙に攻撃能力はない。
有るとすれば、それは、あの世の者を斬る能力(ちから)。
そうか、あの生首の男、この世の者ではないのだな。
殺生丸が天生牙で虚空を斬り裂いた。
オオッ、現われたのは憎悪に燃える巨大な顔。
天生牙に斬られて左目が傷付いている。
あれこそが生首の本体なのだろう。
すると、あ奴は生身((なまみ)を持たぬ悪霊なのだな。
だからなのか、操っている体が、どんなに破損しようと些(いささ)かも堪(こた)えなかったのは。
尚も悪霊を天生牙で攻撃しようとする殺生丸。
だが、敵は、それを阻(はば)もうと触手で即席の防御壁を作り出す。
分厚い防御に攻撃を弾(はじ)かれる殺生丸。
天生牙に現世のモノは斬れない。
悪霊は瞬時に天生牙の弱点を見破り手を打ってきた。
グゥッ、前と後から、極太の触手が、妖鎧を打(ぶ)ち破って殺生丸の胴体を串刺しに!
「ヒッ、若様!」
「殺生丸さまっ!」
松尾がこらえ切れずに小さな悲鳴を漏(も)らす。
権佐も信じられぬとばかりに声を上げる。
我ら化け犬一族は心の臓を傷つけられぬ限り、命に別状はない。
だが、如何に強靭な体力を有する化け犬といえど、あれほどの重傷を負って平気なはずがない。
殺生丸を串刺しにした二本の触手に加えて他の触手がグルグルと覆(おお)い被(かぶ)さるように巻きつき、完全に殺生丸の姿が見えなくなってしまった。
兄の惨状に堪(たま)らず半妖が飛び出し、猫又に跨(またが)って悪霊の生首を両断する。
半妖は飛べぬからな。
そのまま半妖は猫又から触手の塊(かたまり)の上に跳び下りた。
怒り狂って鉄砕牙で触手を斬りまくる半妖。
そうこうする内に切断された悪霊の生首が修復され元に戻った。
何とも憎々しい、その表情。
悪意に満ちた嘲(あざけ)りの言葉が鏡のこちら側にいる我々にまで聞こえてきそうだ。
触手が半妖を捉(とら)えた。
このまま兄弟揃って悪霊の餌食になってしまうのか。
そう思った次の瞬間、光が! 
殺生丸を覆いつくしていた触手の塊(かたまり)の中から強烈な光が溢れ出した。
稲妻のように眩しい光が触手を切り裂いて四方に八方に拡がっていく。
破壊された触手の中から現われたのは・・・殺生丸!
妖鎧には二ヶ所も穴が開き毛皮は焼け焦げ着物の両袖は肩の辺りまで千切れている。
当然、右腕はむき出しで天生牙を握り締め、残骸の中、仁王立ちしておるわ。
惨憺(さんたん)たる有り様だな、殺生丸。
だが、とにもかくにも生きておる。
ホゥッ・・・思わず知らず小さな安堵の溜め息が漏れたわ。
よもや、我が息子が、こんなことで死ぬとは思わなんだが、流石にヤキモキさせられた。
あれは何だ!? 
半妖に左腕を斬り落とされて殺生丸は隻腕だったはず。
その失われたはずの左腕部分から激しく放電しているではないか。
バチバチと空中に走る電光の凄まじさ。
本当に音が聞こえるような錯覚を起こしそうだ。
ムッ、悪霊の後方に見覚えのある黒雲が出現した。
三つ目の妖牛に跨(またが)る惚(とぼ)けた顔の刀鍛治。
そうか、刀々斎のお出ましか。
ならば、あれは・・・・。
「松尾、権佐、よく見ておけ。いよいよ現われるぞ、殺生丸の刀、爆砕牙が!」
“遠見の鏡”から目を離すことなく狗姫(いぬき)は声を張り上げた。
上方から触手が四本、殺生丸を狙って今にも振り下ろされようとしている。
刀々斎が駆け付けてきたことに殺生丸も気付いたらしい。
殺生丸が無かったはずの左腕を鋭く振るった。
闇を切り裂く雷光のような輝きと共に凄まじい衝撃が殺生丸を狙っていた触手に走る。
眩しい光の中、浮かび上がってきたのは細身の刀を握った殺生丸の左腕。
刀身と柄をビッシリと覆い尽くす雷紋が刀の性質を物語る。
“爆砕牙”その名の通り爆発的な破壊力を秘めた殺生丸の刀。
殺生丸本人さえ知らなかった殺生丸の中に隠されてきた刀。
その破壊力の余りの凄まじさに父である闘牙が封印した刀。
殺生丸自身に、爆砕牙を振るうに相応しい器量が、大妖怪としての度量が生じるまで、存在その物が秘匿(ひとく)されてきた究極の破壊力を有する刀、爆砕牙。
その秘刀が、遂に失われた左腕とともに現われたのだ。
「長かったな、殺生丸・・・もう現われないのかと思ったぞ」
「御方さま・・・おっ、おめでとうございます」
松尾が目を潤ませながら寿(ことほ)ぎを口にする。
「私からも・・・おめでとうございます」
権佐も感極まったのか上擦(うわず)る声で祝いの言葉を述べ頭を下げる。
「喜ぶのは、まだ早い。殺生丸は、まだ、あの悪霊を倒しておらんぞ」
そうだ、爆砕牙の出現を祝うには、まだ早い。
あの悪霊を倒さねばな。
爆砕牙の攻撃を受け浮力を失って地に叩きつけられる触手。
すると新たな妖怪どもが触手の残骸を取り込んで新たに合体しようとし始めた。
またしても融合して新たな触手が出現するのか?
何っ! 何が起きているのだ!?
信じがたい現象が繰り広げられていた。
残骸を取り込んだ妖怪どもが悉(ことごと)く破壊されていく。
文字通り完全に塵(ちり)となるまで。
そうか、爆砕牙は一度(ひとたぶ)振るえば攻撃対象を再生不能なまでに破壊する。
更に、爆砕牙の攻撃を受けた残骸を取り込めば無傷の敵までもが同様に破壊されるのだ。
何という怖るべき破壊属性を持った刀だ。
まるで神の怒りその物ではないか。
闘牙が厳重に封印するはずだな。
あんな刀を以前の非情な殺生丸が持ったら破壊王にしかなれなかっただろう。
悪霊の生首を殺生丸が爆砕牙で斬り捨てた。
だが、本体は逃げおおせたようだ。


『愚息行状観察日記⑱=御母堂さま=』に続く

 

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