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『愚息行状観察日記⑦=御母堂さま=』



 ※上の画像は『妖ノ恋』さまの使用許可を頂いてます。

待たせな。
さてさて、傷心の殺生丸はどうしていようか。
早速、覗いてみるとしよう。
ンッ、これは海だな。
ホォ、我が息子殿は海を前に絶壁で黄昏(たそがれ)ておるか。
フッ、青春じゃのう。
悩め、悩め、悩み抜いた末に道が見えてくる。
ムッ、あ奴、何者ぞ。
巨大な折り鶴に乗って殺生丸の前に現われた若い男。
形(なり)から判断するに何処ぞの若衆侍(わかしゅうさむらい)か色小姓のような感じだな。
それにしても妙に胡散臭さを感じさせる奴だな。
如何なる目的で殺生丸に近付くのか。
あ奴の素性(すじょう)を知らぬ故、皆目、見当がつかん。
奴が現われるなり、殺生丸が冥道残月破をお見舞いしたということは、間違っても好意を抱いてはおらんな。
かといって完全な敵とも思えんし、さりとて味方でもないようだ。
会話を交わしておる様子から判断して、一応、顔見知りといった程度か。
何を話しておるのやら。
この“遠見の鏡”は見たいと念じた物を映す重宝(ちょうほう)な鏡だが、生憎、音声までは伝わらん。
その点が不便といえば不便よな。
いっそ遠鼓(えんこ)の精でも愚息の側に張り付けようか。
さすれば周囲の物音を残さず拾い上げられるのだが。
イヤ、それでは殺生丸に“遠見の鏡”を使用していると覚(さと)られてしまうな。
そんな危険は冒(おか)せん。
止(や)めておこう。
オオッ、殺生丸が右手で若衆侍を串刺しにした。
相当、癇に障(さわ)ったと見えるわ。
しかし、敵もさるもの引っ掻くもの、分身の術を使っておった。
若衆侍の姿は掻き消すように見えなくなり、後には蓮の花が一輪、燃えて消え落ちた。
蓮の花は、あの若衆侍の幻術の形代(かたしろ)か。
ンッ、殺生丸の手に残ったのは何だ。
ちと・・・見えにくい。
「鏡よ、もっと大きく見せよ」
狗姫(いぬき)が“遠見の鏡”に命じると映っていた部分がスッと拡大された。
フム、あれは欠片(かけら)だ、鏡の破片だな。
それを一頻(ひとしき)り眺めた後、殺生丸が歩き出した。
表情が先程とは変わっておる。
何かを決したらしいな。
はて、何処へ行く積りなのか。
辿り着いたのは、半妖の弟と、その仲間達が野営を張る場所。
陽は完全に落ち、周囲は暗くなっておるからな。
我ら妖(あやかし)に不自由はないが夜目の利かぬ人間どもは不用心に動かぬ方が良い時分。
ンッ、以前、この城に連れて参ったあの小娘と小妖怪、小僧も一緒に居るな。
すると、殺生丸の奴、いきなり抜刀して半妖に闘いを挑んだではないか。
どうしようというのだ。
半妖も戸惑っておるようだ。
業を煮やしたか、殺生丸め、冥道残月破を喰らわしおった。
完成したばかりの真円の冥道残月破。
大した威力だな。
兄の本気を見せられ流石に覚悟したか。
半妖も鉄砕牙を抜き放って応じてきた。
ムッ、半妖が鉄砕牙を振るったが技が出て来んではないか。
何っ!? 天生牙が鉄砕牙に変化した!
どういう事だ!?
そうか、あの若衆侍が鏡の欠片を殺生丸に渡したのは、これを狙っておったのか。
あの鏡の欠片は相手の妖力をソックリ奪い取る力を持っているのだな。
まるで鏡に映したかのように。
鉄砕牙に変化した天生牙は、無論、鉄砕牙の妖力を全て奪い取っておるのだろう。
ンッ、先程の若衆侍めが折鶴に乗って、又してもしゃしゃり出てきよった。
何をする気だ。
若衆侍が瓢箪(ひょうたん)を手にシャカシャカと振ったかと思うと中身をバッと大きく円形に撒き散らしおった。
オオッ、殺生丸と半妖が立っている周囲が地面ごと円形にザックリと抉(えぐ)り取られ、その場から消えた。
どうやら、抉り取った部分を何処ぞ異次元の世界に飛ばしたらしい。
あの若衆侍も用が済んだのかサッサと姿を消しおったわ。
幻術か、それも相当な使い手だな。
だが、この“遠見の鏡”は見る者が『見たい』と念じた物を映す不思議の鏡。
異次元だとて、それは変わらぬ。
暫時(ざんじ)、鏡は曇ったが・・・よし、映ったぞ。
これは、また、異様な場所だな。
周囲は奇妙な形をした妖怪だらけ。
空中には地面をすくい取ったような足場が幾つも浮かんでおる。
そして眼下はゴボゴボと泡を吹き出す瘴気の海。
そこで繰り広げられるは鉄砕牙同士の攻撃の応酬。
ホォ~半妖の顔が妖怪化しておるではないか。
赤い目、牙、頬には妖線が一筋。
成る程、確かに闘牙の息子だ。
風の傷、金剛槍破と刃(やいば)を交えるごとに半妖の鉄砕牙に妖力が戻っていく。
当然といえば当然だな。
元々、半妖の持つ鉄砕牙こそが本物。
さあ、どうする、殺生丸?
オオッ、遂に冥道残月破を撃ったぞ!
冥道に呑み込まれていく半妖。
この窮地を凌(しの)げぬようでは半妖に冥道残月破を受け継ぐ資格はあるまい。
それが判っているからこそ、敢(あ)えて殺生丸も冥道残月破を繰り出したのであろう。
 

『愚息行状観察日記⑧=御母堂さま=』に続く

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