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『愚息行状観察日記(23)=御母堂さま=』

 

※上の画像は『妖ノ恋』さまの使用許可を頂いてます。


「確か、あの巫女は半妖の連れだったな。という事はだ、殺生丸とは顔見知り程度の知己(ちき)と考えれば良いのか」
 

「そうでございますな、御方さま。拝見した処、あの様子では、それ程、若さまと親しいとは感じられません」
 

大蜘蛛の体内にボウッと童女の姿が映し出された。
 

「ムッ、見よ、松尾、あの小娘が!」
 

「御方さま、若さまが全く見向きもされません。という事は、あれは恐らく幻にございましょう」
 

「そうだな、人間である巫女は騙(だま)せても我ら犬妖は騙せまい。特に殺生丸の嗅覚の鋭さは一族の中でもずば抜けた精度を誇るからな」
 

そのまま巫女を連れ化け蜘蛛の体内を歩く殺生丸。
不意に殺生丸が歩みを止めたと思いきや、飛んだ!
それこそ矢のような速さで。
巫女はといえば離されまいと殺生丸の毛皮に必死にしがみ付いている。
それを見た狗姫(いぬき)が何気なく呟(つぶや)いた。
 

「小娘とは扱いが全く違うな」
 

「と申しますと?」
 

「殺生丸はな、松尾、以前、この城を訪れた時、冥界の邪気に触れて息絶えた小娘を、それは大切そうに隻腕に抱いておったのだ。あの時とは違い、今の殺生丸には両腕が揃っている。にも関わらず、あの巫女を腕(かいな)に抱いて移動しようとはせん。つまり、そうした考えが殺生丸の頭には露(つゆ)ほども思い浮かばん訳だ」
 

「若さまに取って、りん様だけが、真に愛おしい存在だからにございましょうな」
 

「あの時の殺生丸の様子が思い出されるわ。冥界から、この城に戻ってきたものの、小娘は息絶えたまま。更に妾(わらわ)から天生牙の効力は一度きりと知らされ、あ奴、内心、茫然としておったらしいぞ。どうすれば良いのか判らぬ程にな。だが、殺生丸は極めつけの強情っ張りだ。必死に無表情を装っておった。それでも、妾(わらわ)が冥道石を使って小娘が息を吹き返し目を開けた時は、流石に己(おの)が真情を堪(こら)えきれなかったのだろうな。隻腕を伸ばし小娘の頬を撫(な)でておったわ。それも、この上なく愛おしそうにな。フフッ、あんな殺生丸を見ては誰も奴の小娘に対する思いを否定できまい。それにしても、あれ程、他者に触れる事を厭(いと)うておった我が息子殿がな。変われば変わるものだ」
 

「私めも、その場にいて、この目で見とうございました、御方さま。本(ほん)に口惜しゅうございます」
 

「拗(す)ねるな、松尾。いずれ、そうした機会も巡ってこよう」
 

殺生丸が目標の場所に着いた。
小娘が、今しも肉塊に呑まれようとしている。
必死に殺生丸に向かい手を伸ばそうとする小娘。
だが、その前に半妖が立ちはだかる。
アアッ、完全に肉塊に呑み込まれ姿が見えなくなってしまった。
ムッ、半妖の様子がおかしい。
明らかに顔が変わっている。
目は赤く染まり頬には一筋の妖線。
爪も長く鋭くなっている。
妖怪化している。
 

「どうした事だ。半妖め、変化(へんげ)しておるぞ」
 

「恐らく奈落の強い毒気に呑まれたのでございましょう。若さまと違い弟御(おとうとご)は半妖。その分、邪気に影響されやすいかと」
 

睨み合う兄弟。
片親だけ同じ異母兄弟とはいえ、やはり血筋か。
良く似ている。
父譲りの見事な白銀の髪に金の瞳。
何だ、何かが、半妖の上に覆いかぶさるように透けて見える。
アレは・・・?
 

「松尾、半妖は何かに取り憑かれておるようだ」
 

「アレは・・・。御方さま、あ奴にございます! あの曲霊(まがつひ)なる悪霊!」
 

半妖が鉄砕牙を抜いた。
殺生丸は、爆砕牙を、イヤ、違う、天生牙を抜いた。
そうか、あの悪霊は天生牙でなければ斬れない。
そして、天生牙に生身の者は斬れない。
半妖が鉄砕牙を黒く変化させ冥道残月破を撃った。
だが、狙いは大きく的を外(はず)れた。
イヤ、それも違う。
あれはワザと的を外したのか。
いきなり触手が半妖を下から突き上げた。
鉄砕牙を触手が半妖から取り上げる。
半妖は触手に掴まれたまま肉塊に呑み込まれ姿を消した。
 


※『愚息行状観察日記(24)=御母堂さま=』に続く

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