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『早蕨(さわらび)④』

「桔梗さまは奈落の蜘蛛の糸の姦計によって仮初めの体を壊されました。魂を今生に留めておけなかったのです。元々、死者の魂ですから、在るべき世界に戻られました。ですが、私は桔梗さまは甦るべくして甦ったと考えるのです。だって、そうじゃありませんか。もし、桔梗さまが甦らなかったら琥珀は生きていなかったでしょう。それに、桔梗さまが救った多くの人々も。何より、犬夜叉との決別も有り得なかったでしょう。どう考えても桔梗さまに対し天が特別の慈悲を示されたとしか思えないのです」

弥勒の考えに楓が賛同した。

「法師殿のいう通りかもしれんな。五十年前の桔梗お姉さまと犬夜叉は文字通りの殺し合いをした。言葉を交わすこともなく互いに憎み合って。子供心に刻み付いているのは血だらけのお姉さまと破魔の矢に射抜かれた犬夜叉の姿。余りにも傷ましい場景だった。思い合っていたはずの二人が、何故、あんなにも哀しい結末を迎えねばならなかったのか。その疑問は、わしの心にズッとわだかまり決して消えなかった。だが、わしも老いた。このまま、真相は闇の中に埋もれたまま消えていくのだろうと思っていた.。そんな矢先、かごめが現われたのだ。桔梗お姉さまの面差しを宿した娘、まさかと思ったが、すぐさま犬夜叉が覚醒した。そして、かごめの体内から出てきた四魂の玉。もう、間違いなかった。かごめは桔梗お姉さまの生まれ変わりだった。だからこそ犬夜叉を封印していた桔梗お姉さまの破魔の矢を消滅させることが出来たのだ」

「その時ですか、楓さまが言霊の念珠を犬夜叉の首に掛けたのは」

「アア、犬夜叉の馬鹿が、かごめを爪で引き裂こうとしておったのでな。全く、封印を解いてもらったというのに有り難がるどころか恩を仇で返そうとするなど漢(おとこ)の風上にも置けん。だが、封印から目覚めたばかりの犬夜叉は裏切られたという思いで一杯だったはず。かごめは桔梗お姉さまに瓜二つだ。怒りを抑え切れなかったのも無理はない。」

「それで、あの『お座り』は楓さまが考えられたので?」

「イヤ、あれは、かごめだ。とにかく犬夜叉を鎮める為の言葉なら何でも良かったのだ」

弥勒と楓、二人の会話に合点が行かない邪見が口を挟んできた。

「さっきからゴチャゴチャ話しておる『お座り』とは何の事じゃ?」

「アア、これは失礼。邪見殿は、この事についても御存知ありませんでしたね。犬夜叉が首に掛けている数珠が有りますでしょう。あれは言霊の念珠といって楓さまの霊力が込められているのです。犬夜叉は直ぐにカッとなりやすい性質(たち)なので、それを止める為の道具です。かごめさまが「お座り」というだけで、犬夜叉が、どんなに抵抗しても地面に引き摺り倒されてしまうのです。とはいえ、かごめさまが居ない現在、唯の数珠になってしまってますが」

「フン、つまり、犬を躾(しつ)ける為の道具だな」

「ハハハ・・・そう云ってしまっては身も蓋もありません。とはいえ、犬夜叉は化け犬と人間の間に生まれた半妖ですから邪見殿のいう事も強(あなが)ち間違ってはおりませんな」

「法師殿、わしは、かごめが居なくなって二年ほど過ぎた頃、犬夜叉に聞いたことが有るのだ。言霊の念珠を外してやろうかと」

「犬夜叉は外そうとはしなかったのですね、楓さま」

「アア、あの念珠には、かごめの思い出が一杯詰まっていると云ってな。もし外したら、かごめとの絆が切れてしまうと思っているのかも知れん。言霊の念珠をしている限り、かごめと繋がっていると信じておるのだろう」

「かごめさまの世界は、この時代から五百年後と伺っております。気が遠くなるような時間の先にあるのですね。四魂の玉が、かごめさまを無理矢理この世界に引き摺り込みました。そして、四魂の玉の消滅と共に犬夜叉とかごめさまは、それぞれ自分の属する世界に戻されました。奈落が滅され私の風穴は消えました。桔梗さまの光のお陰で琥珀も生きてます。でも、桔梗さまの願いは、どうなったのでしょう。あの方の真の望みは犬夜叉と共に生きることだった筈です。それなのに生まれ変わりのかごめさまは元の世界に戻されてしまいました」

「試されておるのかも知れんな、法師殿。犬夜叉とかごめが心から共に生きたいと願っているのか。お主と珊瑚が共に生きたいと命がけで願ったように」

「やはり天の意思にですか」

「アア、犬夜叉とかごめの場合はお主と珊瑚に比べ遥かに難しい。かごめは全く別の時代に生まれ育った娘だ。犬夜叉と共に生きるという事は、かごめが、これまで生きてきた自分の世界、家族を捨てる事を意味する。それほどの犠牲を払ってまでも犬夜叉と生きたいと、かごめは願わなければならんのだ。恐らく,、犬夜叉とかごめ、二人の願いが完璧に一つにならなければ望みは叶わんのだろう」

「・・・・辛い選択ですね、かごめさまに取って」

「そうだな、だが、かごめが自分の世界を選んだ場合も辛いだろう。二度と犬夜叉に逢うこともなく元の世界で生きていかねばならんのだからな。どちらを選んでも辛い。ならば己の心が真に欲する側を選ぶしかあるまい」

「選ぶといえば、楓さま、りんも、いずれ選ばねばなりませんね」

深刻になり過ぎた話題の方向を変えようとして弥勒が誘い水を向けた。

「なっ・・・りんが何を選ぶと云うんじゃ!」

案の定、邪見が喰いついて来た。

「だって、そうじゃありませんか。後数年もしたら、りんもお年頃。相手を決めなければなりません。今でさえ並々ならぬ器量良しです。その上、りんは気立ても良い。数年後には、きっと求婚者が鈴生(すずな)りでしょう」

「ばっ、馬鹿者!りんが、そこらの人間の男などとひっつく訳がなかろう。りんは殺生丸さまと一緒になるんじゃっ!」

「まあまあ、邪見殿。そう熱くならずに。選ぶのはりんですから」

弥勒は完全に邪見をおちょくって楽しんでいる。

「フン、そんじょそこらの人間なんぞに殺生丸さまが負ける筈がないわっ!」

「法師殿、邪見をからかうのは、それくらいにしておきなされ」

楓が、やんわりと弥勒を制止する。

「なっ、な・・・・法師、貴様、わしをおちょくっておったのか」

「ハハハ、すみません。邪見殿が余りにも狙った通りに反応して下さるので、ついつい。それに、この三年間の殺生丸のりんに対する態度を見ていれば誰の目にも一目瞭然でしょう。完全に幼い許嫁(いいなずけ)の成長を待つ男のそれではありませんか。あれ程のご執心を見せ付けられては、りんに言い寄ろうとする輩など出て来る訳がありません。それにしても凄い変わりようですな。以前は人間など虫けら同然にしか思っていなかった御方が、今や、頻繁に人里を訪れている。イヤハヤ、愛の力は実に偉大です」

※『早蕨(さわらび)⑤』に続く

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