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『満月情話③』最終回萌え作品⑦

雨露をしのぐ為、大急ぎで拵えた仮の小屋の中。
殺生丸に逢う為、小屋から出て行くりんを見送った後、かごめが呟く。

「フ~~ン、そうなの。殺生丸、来てたんだ。相変わらずマメねえ」

弥勒が口を挟む。

「殺生丸だけではありませんよ、かごめ様。鋼牙も近くまで来てたんです」

「エッ、本当なの。鋼牙クンが?懐かしいわ。あれからどうしてたのかな?」

かごめの言葉に犬夜叉が噛み付くように答える。

「のん気な事云ってんじゃねえよ。鋼牙と殺生丸が顔なんか合わせてみろ。即、殺し合いが始まるぞ。それも一方的に鋼牙が殺される羽目になるだろうぜ」

「どうしてよ、犬夜叉?」

「忘れたのかよ、かごめ。りんを噛み殺したの、ありゃ、間違いなく鋼牙の手下の狼どもだぜ。あの殺生丸が、狼どもと親玉の鋼牙を放っとく訳ないだろうが」

「アッ、そっ、そっか! じゃあ・・・・」

かごめの云わんとする処を先に引き取って犬夜叉が応える。

「アア、そういうこった。だから、鋼牙が殺生丸にブッ殺されないように、さっき俺が大急ぎで走って知らせに行って来た。直ぐ逃げろってな。それなのに、あの馬鹿!こっちが必死になって説明してやってんのに、悠長に構えやがって。その癖、殺生丸の臭いを嗅ぎ取った途端、後も振り返らず、死に物狂いで逃げていきやがった。全く・・・。相変わらず良い性格してるぜ。」

「ハア~~~そうだったの。(ホッ)有難う、犬夜叉。元気だった、鋼牙クン?」

「アア、鋼牙の奴は、全然、変わってなかったぜ。腰巾着の銀太と一角もな。相変わらず鋼牙にベッタリくっ付いてたぜ」

七宝がヒョイと横から口を挟む。

「アイツら、まだ一緒につるんでおったのか。」

弥勒が、以前、鋼牙から聞いた事情を思い出し答える。

「それはそうでしょう。狼は群れるものです。彼らと鋼牙は同じ洞穴(あな)で育った仲間なんですしね。鋼牙の率いていた東の洞穴は神楽に皆殺しにされてますから、あの両名だけが鋼牙の本当の仲間なんですよ。」

「ンッ、そう云えば、おら、此間(こないだ)、妖術試験で噂を聞いたぞ。妖狼族がアチコチに散らばった一族を一つに纏めてるって話を。何でも奈落に滅ぼされた洞穴の残党を集めて一族の再興を図るらしいぞ。それで、唯一、無事だった西の洞穴の長老の孫娘と新しい頭目とを娶わせるとか。その新しい頭目って鋼牙の事じゃないのか?」

七宝の推測に弥勒が頷く。

「それは、充分、有りうる話ですね、七宝。奈落に、あれだけ痛め付けられた妖狼族です。一族の再興を考えるなら強い指導者が必要でしょう。その点、鋼牙ならピッタリです。少々、強引ではありますが、群れの事を第一に考えて行動しますし、それに何より強い。妖狼族代々の祖先の魂が籠もった妖爪、五雷指まで受け継いでますからね。鋼牙なら一族の誰からも文句は出ないでしょう。」

犬夜叉が話に加わった。

「てえ事は何か、弥勒、鋼牙の奴、嫁をもらうってのか?」

「そういう事になりますな。鋼牙は、かごめ様にベタ惚れでしたが、かごめ様には、既に、犬夜叉、お前が居ましたからな。諦めるしかないでしょう。今回、此処に近付いたのも、嫁取りをする前に、かごめ様に逢いたかったからでは有りませんか」

「そっか、鋼牙クンも、お嫁さん貰うんだ。みんな、少しづつ変わっていくんだね。」

自分がコチラの世界に居なかった三年。
その間、みんなの境遇も少しづつ変化していた。
かごめが、チョッピリ寂しそうに呟く。

「鋼牙の奴には、二度と俺達の側に近付かないように云っといたぜ。りんに逢う為に、殺生丸が、しょっちゅう村に来てるんだ。もし、見つかったら、即、ブッ殺されるだろうからな。」

「ウン、その方が良いよ。村の人達が狼を見たら驚くだろうし。」

珊瑚も犬夜叉の言葉に同意する。

「ねえ、犬夜叉、チョッと散歩しない?」

徐(おもむろ)に、かごめが犬夜叉に声を掛ける。

「ハアッ! 今からか?」

「ウン、月が、とっても綺麗だから。ネッ、行こう!」

「チッ、しょうがねえな」

かごめの誘いに面倒くさそうに犬夜叉が腰を上げる。

「オラも一緒に・・・」

二人の散歩に付いて行こうとする七宝。
しかし、弥勒にムギュッと尻尾を摑まれ、引き止められる。

「なっ、何をするんじゃっ! 弥勒!」

「夫婦の邪魔をする物ではありません。それに、あの二人には大事な話が有るのです。ネッ、珊瑚」

訳知り顔に弥勒が七宝を諭し、珊瑚に目配せする。

「さて、散歩と云っても何処へ行く?草地の方には殺生丸達が居るぜ。」

満月の空を眺めながら、犬夜叉が、かごめに話しかける。
兄とりんの居所を造作もなく掴んでいるのだろう。
兄の殺生丸には劣るものの、犬夜叉の嗅覚も並外れて鋭敏だ。
周囲の状況が居ながらにして判る。
懐手(ふところで)の犬夜叉に、かごめが寄り添い話す。

「あのね、温泉に入ってたら微かに水の音が聞こえたの。もしかすると滝が有るんじゃない?」

クンクンと犬夜叉が鼻を蠢(うごめ)かして周囲の匂いを嗅ぐ。

「お前の云う通りだ、かごめ。温泉の匂いの中に水の匂いが混じってるぜ。それに滝の音も聞こえるな。」

「じゃ、其処に行ってみようよ。」

「アア」

二人が暫く河原を歩いていくと、切り立った崖から滝が流れているのが見えてきた。
ドド————ッドドド————ッドド————ッ
豊富な水量が間断なく流れ落ち清涼な飛沫(しぶき)を上げる。
月明かりを反射して神秘的な輝きを発する銀色の滝。
幻想的なまでに美しい真円の月が闇を照らす。

「・・・・素敵。まるで夢みたい」

かごめが感に堪えぬように言葉を漏らす。

「弥勒が云うには今夜は中秋の名月らしいぜ。」

「ウン、知ってる。さっき楓ばあちゃんが教えてくれた。」

心地よい風が吹いてきた。
月の光を浴びて犬夜叉の長い白銀の髪が輝く。
銀色に輝きながら風に靡(なび)く様はウットリと見とれる程に美しい。
鮮やかな真紅の童水干が髪の色を、一層、惹き立てている。
瞳の色は満月と同じ煌めく黄金。
少年の面影を色濃く残す容貌は綺麗という言葉に相応しく。
傍らを歩く夫の姿に、かごめは思わず目を奪われた。

「犬夜叉、あんたって、ヤッパリ殺生丸の弟なだけあるわね。」

「ハアッ!? 何云ってんだよ、かごめ」

「殺生丸ほどじゃないけど、あんたも綺麗な顔してるんだもん。」

「おっ、男に『綺麗』なんて云うな!」

「アラ、どうしてよ。綺麗なものは綺麗じゃない。」

「気色悪いんだよ。そんな事云われんのは・・・・」

「ねえ、犬夜叉、もし、私達に子供が出来たら、どっちに似てると思う?」

「どっちって、俺は・・・・かごめの方に似て欲しい」

「どうして?」

「俺に似たら一目で妖怪の血が混じってると判るじゃねえか」

「そうね。でも、あたしは、アンタの髪も目の色も好きだけどな。だって凄く綺麗なんだもん」

「そっ、そうか。おっ、おめえが気に入ってんなら、それで良い」

「最初の子は、どっちが良い? 男の子? 女の子?」

「どっ、どっちでも良い」

「ウ~~ン、あたしは男の子が欲しいな。犬夜叉に良く似た可愛い男の子。」

「おっ、俺に似てるのか?」

「ウン、きっと凄く可愛いと思う。それでね、滅茶苦茶、可愛がるの。」

「・・・・・・」

「犬夜叉が小さな頃も、きっと凄く可愛かったんだろうな。ウ~~ン、残念。コッチの世界に写真が有れば良いのに」

「お袋は・・・・俺が半妖のせいで、凄く苦労したんだ。親父は、とっくに死んで居なかったし」

「じゃ、犬夜叉は、お父さんの顔を覚えてないの?」

「アア、物心付いた頃には、もう居なかった。だから、俺は、親父の事を何も知らない。冥加が、親父の事をアレコレ話してくれても、全然、ピンと来ないんだ。」

「・・・・そうだったの」

「お袋も俺が小さい頃に亡くなって、それからズッと一人で生きてきた。だから、もし子供が出来たら俺みたいな寂しい思いはさせたくない。絶対、側に居て守ってやりたいんだ」

「・・・・・犬夜叉、アッ!」

草に足を取られ、よろけそうになったかごめを、犬夜叉が、すかさず力強い腕で抱きとめる。

「気を付けろよ。大事な身体なんだから」

「ウン、有難う。ンッ?大事な身体って・・・・エエッ!犬夜叉、知ってたの?!」

「アア?子供が出来たって事か。当然だろ。おめえの匂いが変わったからな」

「なあ~~んだ。じゃあ、何時、打ち明けようかってドキドキしてたあたしが馬鹿みたいじゃない。」

「そんな事ねえよ。これでも、何時、お前が教えてくれるんだろうって待ってたんだぜ。それで、何時頃、産まれるんだ?」

「多分、来年の春頃。」

「そうか。かごめ、お前が居なかった間、ズッと考え続けてた。元々、アッチが、お前の世界だ。家族だって友達だって居る。不安だった。コッチに本当に戻って来てくれるだろうかって。この三年間、お前の事を考えない日は一日だって無かった。有難うな、戻って来てくれて。その上、子供まで産んでくれるなんて」

「犬夜叉、あたしも逢いたかった。逢いたくて逢いたくて堪らなかった。その願いを骨喰いの井戸が叶えてくれたの。だから良いの。もう何も云わないで」

「かごめ・・・・」

ソッと静かに寄り添い抱きあう若い夫婦に絶え間なく降り注ぐ月の光。
音もなく静かに金色の光の波は地上に届く。
まるで新たな命の誕生に声なき祝福を贈るかのように。    
                                     了


 

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