『邪見の贈り物道中記②』二周年記念作品&最終回萌え作品④ りんが成長して、ドンドン綺麗になるに従い、殺生丸様は、益々、神経を尖らされるようになっておる。 この村の若い男だけではない、りんに近付く可能性のある近郷近在の男ども全てに敵愾心を燃やしておられるのだ。 相変わらずの無表情で他の者には全く判らんだろうがな。 しかし、この邪見には判る! 殺生丸様にお仕えする事、百五十年の長きに渡る、この邪見様にはな。 りんを村に預けた当初、殺生丸様は、村に来られても、夜か、人目に付かない場所でしか、りんに会おうとなさらなかったのだ。 気の合わない半妖の異母弟、犬夜叉にバッタリ出喰わす可能性が有ったからな。 それが、今では、あの麗しい御姿を、白昼堂々、衆目の前に曝しておられるのだ。 まるで、御自分の姿を殊更(ことさら)に誇示されるかのように。 イヤ、実際、そうなのじゃろう。 つまりだな、御自分の姿を、公然と村の者達に見せる事によって『牽制と威嚇』を同時になされておるのだ。 りんには、既に、自分という決まった相手が居るのだと。 従って一切の手出し無用と暗に男どもに知らしめておる訳じゃな。 マア、殺生丸様のトンデモナイ強さを知っている村の男どもじゃ。 りんに手を出そうなんて恐れ多い事を考える奴はおらんじゃろうが・・・・。 この示威行動は、別の厄介な要素を含んでおった。 殺生丸様の麗しさと強さに、村の女どもが軒並み骨抜きになりおったのじゃ。 わし自身、殺生丸様の強さと美しさに惚れ込んで、自ら下僕を志願した口じゃ。 その気持ちは、判らんでもないがのう。 大抵の女は、自分の器量と、りんを見比べ、その内、諦めるんじゃが。 中には、身の程を弁(わきま)えん奴も居ってのう。 図々しくも、殺生丸様とりんの間に割り込もうとしおったのじゃ。 何とも大それた事に、色仕掛けで、殺生丸様を誑(たぶら)かそうとした女が居ったのじゃ! それも、りんと巫女の楓の面前でじゃぞ! 最早、図々しいを通り越して、その女の余りの面の皮の厚さに、わしゃ、アングリと口が開いてしまった程じゃ。 その女が、どうなったかって? ハッ! 云うまでもなかろう。 烈火の如くお怒りになった殺生丸様の半ば変化された御姿を見て、馬鹿な女め、みっともなく腰を抜かしおったのじゃ。 フンッ、良い気味じゃ。愚か者めが! 妖界でも人界でも、選りすぐりの美女達から誘いを受けてきた殺生丸様が、貴様如き、泥臭い村娘に篭絡(ろうらく)などされる訳がないのじゃ。 後で巫女の楓に聞いた話では、あの“お定”とかいう馬鹿娘、村でも色っぽいと評判で、若い男どもにチヤホヤされ、好い気になっておったらしい。 何でも噂では、他人の亭主を寝取ったとかそうでないとか。 尤も、そうした椿事(ちんじ)のおかげで、以後、阿呆な真似をする女は居なくなったがな。 鬱金(うこん)色の平包みから新しい着物を取り出し、りんに見せてやる。 若草色の地に色取り取りの可愛らしい手毬が配され組み紐で繋がっておる。 まだ大人になりきらない少女に相応しい可愛らしい紋様。 流石に相模殿の見立てじゃ。 華美になり過ぎず、かと云って地味でもない。 「どうじゃ、りん、新しい着物じゃぞ。」 「ワアッ、嬉しい、殺生丸さま、邪見さま、有難う!」 「少し、又、背が伸びたようなのでな。 多少、余裕を持たせて縫い込んである。 大事に着るのじゃぞ。」 「はぁい、とっても綺麗な模様。邪見さま、これ、何て云う模様なの?」 「手鞠尽くしじゃ。この紋様にはな、女子(おなご)の健やかな成長を願う気持ちが込められておる。」 「・・・・邪見。」 「ハッ、ハイ!」 殺生丸様が、御声を掛けられた。 りんと二人きりになりたいのじゃろうな。 それでは、阿吽の許に戻って、暫(しば)し時間を潰すとするか。 馬に蹴られて、イヤ、殺生丸様に蹴られて死ぬのは御免じゃからのう。 それにしても良い陽気じゃ。 ウラウラと暖かい春の日差しに・・・ついつい・・・眠気を・・誘われ・・る。 ハッと気が付けば、陽が、大分、傾いておるではないか。 まだ、夕刻と云うほどでもないが。 元の場所に急ぎ戻ってみると、既に、りんの姿はない。 村に戻ったのだろう。殺生丸様だけじゃ。 「・・・・戻るぞ、邪見。」 「ハハッ!」 阿吽の許まで飛んで行かれる御積りじゃな。 殺生丸様のモコモコにシッカと摑まり、振り落とされないようにする。 これも何時もの事じゃが、りんに逢った後の殺生丸様は、大層、ご機嫌が宜しい。 何時見ても麗しい御尊顔じゃが、そこに微妙に優しさが漂ってのう。 麗(うらら)かな春の日差しを受けながら、ユルリと村の上空を飛行する殺生丸様。 モコモコに摑まりつつ、見るともなく景色を眺めていた『わし』。 のどかな村の風景を映していた視界に飛び込んできたのは! ンンッ! あっ、あれは・・・犬夜叉と一緒に居る人物は・・・・ 「あ”っ! 殺生丸さまっ、かごめが・・・」 奈落を滅して以来、姿を見なかったかごめが、犬夜叉と一緒に居るではないか! 「お義兄(にい)さ——ん!」 ドワッ! こっ、転げ落ちるかと思った! あっ、相変わらず怖いもの知らずの娘じゃ。 せっ、殺生丸様を「お義兄(にい)さん」呼ばわりするとは・・・・。 そりゃ、犬夜叉は、殺生丸様の弟なんだから、そうかも知れんが・・・。 ンッ? という事は、かごめの奴、犬夜叉と一緒になりおったのか。 そうか、だから「お義兄(にい)さん」と呼んだのじゃな。 マア、あいつらは、元々、何時も一緒だったからのう。 当然の結果と云えば当然なんじゃろうが。 三年も姿を見なかったから、一体、どうしたのじゃろうと内心、思ってはおったが。 そうか、戻ってきたのか。 これから、あの村は随分と喧(やかま)しくなりそうじゃ。 何しろ、あの、かごめが犬夜叉と引っ付いたんじゃからな。 想像しただけでも察しが付こうと云うものじゃ。 ンムッ、なっ、何やら寒気(さむけ)が・・・・。 ゾッ・・ゾワァ・・・ ククッ、かごめの奴め、戻って早々、早速、殺生丸様の御機嫌をブチ壊してくれおったわ! アァ~~~これでは、西国に戻っても殺生丸様の眉間に寄った皺は取れそうもないのう。 ・・・・次回、りんに逢う予定の三日後まで。 それにしても、殺生丸様を、かくも不快にしながら無事でおれるとは、りん以外には、かごめ位なものじゃ。 尤も、りんが、殺生丸様の不興を買う事など、まず有りはせんがな。 ンンッ、ちょっと待てよ! かごめの奴、さっき、巫女装束を着ていなかったか? ・・・・と云う事はだな、かごめは、楓の許で巫女修行を始めたのか? そうなると・・・必然的に・・・かごめが・・・日常的に・・・楓の家を・・・訪れ・・・る。 そして、りんに、アレコレ要らぬ事を、セッセと入れ知恵するに違いないのだ。 りんは、かごめと違って、それは素直じゃからのう。 疑いもせずに、あの出しゃばり女の云う事を聞くじゃろう。 タラッ・・・(冷や汗) その結果、殺生丸様の御機嫌は・・・・? わしの運命は・・・・? ダア~~~ッ、この先、前途多難じゃっ! 了 2008.8/9.(土).公開.◆◆ [7回]PR
『邪見の贈り物道中記①』二周年記念作品&最終回萌え作品④ 「行くぞ、邪見。」 「ハハッ!」 今日も今日とて、殺生丸様のお供で出かける『わし』。 『わし』って誰?とな。 失敬な! お主、新参者だな。 恐れ多くも、この西国を治める国主、大妖怪、殺生丸様の忠実なる一の僕、邪見さまを知らんとは! フン、今は急いでおるから見逃してやるが、今後は、気をつけるのだぞ。 さてさて、阿吽の準備は出来ておろうか? 厩(うまや)番に頼んでおいた轡(くつわ)は?鐙(あぶみ)は? チャンと取り付けてあるのだろうな? アア、忙しいっ! 思い立ったら、即、行動される我が主、殺生丸様。 急がねばっ! 特に、今日は三日ぶりに、りんに逢いに『村』へ行かれる日じゃ。 絶対に手抜かりが有ってはならぬ。 今回、りんに手渡す土産は、前もって、阿吽に括りつけておいたよな。 よしっ、準備万端、整っておるな。 それでは、阿吽に乗って殺生丸様と共に結界を通り抜け人界へ赴くとするか。 人界と妖界の間に存在する結界。 本来ならば、この結界は、下等妖怪如きには触れる事すら出来ぬ程の強度を持つ。 (勿論、我が主、殺生丸様は、以前の強度の結界でさえ物ともされんがな。) しかし、人心が荒れ果てた戦国の世の今、その強度は、著しく弱まり、容易に人界と妖界を行き来できるようになっておる。 そのせいで、今も、人界に、下等妖怪どもが溢れているのだ。 しかし、戦国の世も、少し収まり出す気配が見えてきたのだろうか。 近頃、結界の強度が、以前に比べ、極々、僅かながら強まったような気がする。 ムウッ、見えてきたぞ。 りんが住まう人間の村じゃ。 阿吽は、村外れの森に繋いでおく。 双頭の竜など見た事もない村人が驚くからな。 楓なる老いた巫女に預けられて人里で暮らしているりん。 あの村には、殺生丸様の異母弟、半妖の犬夜叉に、法師と退治屋の夫婦も住んでいる。 それにしても早い物だ。 りんが人里に預けられて、かれこれ、三年が経とうとしている。 村に預けられた当時は、殺生丸様の膝くらいしか無かったりんの背。 それが、今では、殺生丸様の腰の辺りにまで届くほど伸びた。 とは云え、同年代の娘達に比べれば相変わらず小柄ではあるがな。 髪も、随分、伸びた。 以前は、肩を僅かに越す程度だったのに、今では、背中を半ば覆い隠す。 長くなった分、重みも増したのだろう。 アチコチに跳ねる髪の癖が抑えられた。 もう少し長くなれば殆ど癖が無くなり、夜の滝のように真っ直ぐに流れるようになるじゃろう。 フムッ、そうなったら、西国の女官長、相模殿にお願いして是非とも新しい櫛を調達せねば! りんに手渡す土産は、一応、殺生丸様が目を通されるのだが、女物だけに同性の相模殿に見立てて頂く事が多い。 西国の女官長、相模殿、以前は、殺生丸様の乳母をされていた御方である。 あの気難しい殺生丸様にさえ平気で御意見されるのだから、流石は乳母殿。 その上、殺生丸様が、最も苦手とされる実の母君、あの天空の城の女主、“狗姫(いぬき)の御方”とも親交が深い。 頻繁に手紙のやり取りをされているらしい。 今回、りんに手渡す土産は新しい着物じゃ。 これも、相模殿が見立てて下さった。 若草色の地に色取り取りの可愛らしい手毬を散らした紋様。 手毬紋様は女子の健やかな成長を願う気持ちが込められているとか。 又、少し背が伸びたりんの為に、誂(あつら)えた上等な品物じゃ。 クフフッ、これを見て喜ぶりんの顔が、今から目に浮かぶようじゃ。 勿論、りんは、、殺生丸様から受け取る物なら何であろうと喜ぶがな。 何っ、高価な品物を見て、誰ぞが悪心を起こして盗みはせんか?とな。 フフン、心配御無用じゃ。 りんに手渡す品には、全て、呪(しゅ)が掛けられておる。 つまり、りん以外の者が、使おうとすれば、たちどころに怖ろしい幻覚に襲われる仕組みになっておるのじゃ。 オオッ、来た、来た。 りんが嬉しそうに駆けて来る。 「殺生丸さまぁ~~~、邪見さまぁ~~~」 相変わらず鈴を転がしたような可愛い声じゃのう。 白桃を思わせる肌に大きな澄んだ瞳。 長い睫毛が、これまた印象的で、チョコンとした可愛い鼻。 それに花の蕾のような薄紅色の唇。 ウンウン、『雛には稀な美形』とは、りんの為にあるような言葉じゃな。 フフン、そんじょそこらの村娘では逆立ちしたって、りんに敵うまい。 近頃、また、一段と綺麗になったような気がするのう。 そのせいか、最近、チラチラとこちらを遠目に見遣る村の若い男どもの視線を感じる事がチョクチョクある。 尤も、殺生丸様が怖くて近寄ってはこれまいがな。 以前、村を襲おうとした野武士どもの集団を、殺生丸様が、爆砕牙の一撃で防いだ事があった。 野武士どもの頭目を、皆が見守る中、塵も残さず消滅させたのだ。 以来、殺生丸様は、村人どもから『狗神さま』と呼ばれて崇められておる。 その殺生丸様が、大切にしているりんに至っては、『狗神さまの姫さま』などと呼ばれ、それは、丁重に扱われておるのだ。 そんなりんに手を出そうなんて不届き者は、まず、居らんだろうが、念には念を入れておかねばならん。 殺生丸様が、わざわざ、西国から出張ってきておられるのも、その為じゃ。 大事なりんに悪い虫が付かんようにとな。 思い返してみると、村に預けた当初は、わしも、殺生丸様も、りんの事が心配で心配で、どうにも落ち着かんかった。 だから、暫く、りんの周囲に身を潜めて様子を窺(うかが)っておったのじゃ。 そしたら、案の定、りんを虐める村の悪餓鬼どもが居っての。 橋を渡ろうとしたりんに無理難題を突き付けたのじゃ。 わしが、カンカンに怒って人頭杖を振り回そうとしたら、スッと殺生丸様が、前面に出ていかれてな。 餓鬼大将どもをギリッと睨み付けられたのじゃ。 百戦錬磨の武将どもでさえ殺生丸様に睨まれたら、怖気づくほどの迫力を持つ睨みじゃ。 当然、悪餓鬼どもは、蜘蛛の子を蹴散らしたようにワッと逃げていきおった。 フンッ、わしらの大事なりんを虐めようとは太い奴らじゃ。 後で気が付いたのじゃが、あの時は、上空から琥珀がキララに乗って事の一部始終を見ていたんだそうな。 何でも、琥珀が、虐めっ子どもを懲らしめようとしたら、殺生丸様が、乗り出してこられて、出鼻を挫(くじ)かれたらしい。 ンンッ、琥珀は、今は、どうしておるかだと? あ奴はな、強い退治屋になるとか申して諸国へ修行の旅に出ておるのじゃ。 あの時は、たまたま、姉の珊瑚に会う為に村にやって来た処、虐めの現場に出くわしたらしい。 琥珀よ、出しゃばらんで正解だったぞ。 もし、あの時、殺生丸様の邪魔をしていたら、どうなった事か。 ゾゾッ・・・(悪寒) 2008.8/8.(金).公開◆◆ [4回]