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『母情(ぼじょう)』最終回萌え作品①

娘が、かごめが、骨喰いの井戸の向こうへ旅立った。
こんな日が、何時か、来るのではないかと思っていたわ。
あの日、一度は消滅した骨喰いの井戸から、三日後、犬耳の彼、犬夜叉君と一緒に戻って来た日から。
そう、あれは、もう三年も前の出来事。
不思議な運命に導かれて、私の娘、かごめは、戦国時代と現代を行き来するようになっていた。
丁度、十五歳の誕生日を迎えた日に、かごめは、骨喰いの井戸で行方不明になり、三日後に戻って来た。
かごめ失踪の際、一緒に居た弟の草太の話によると、気持ち悪いムカデ女の妖怪が、かごめを隠し井戸に引き込んで連れ去ってしまったのだと。
始めは、私もお爺ちゃんも作り話にしか思えなくて信じる事が出来なかったけど、三日後に戻って来たかごめの話を聞くと、やっぱり、それは本当の事だったのね。
かごめは、失踪当事のセーラー服ではなく、時代がかった巫女の着物を着ていたし、アチコチすり傷だらけで右頬には、何か鋭い刃物で切ったらしい跡まであったわ。
私の嫁いだ家、日暮神社は、それは古い由緒ある神社で、境内には樹齢五百年と云われる御神木や曰(いわ)くありげな隠し井戸が存在するの。
骨喰いの井戸と呼ばれる、如何にも気味の悪い、その隠し井戸の由来は、お爺ちゃんの説明によると物の怪の亡骸(なきがら)を何処(いずこ)かに消滅せしめる妖しの井戸なんですって。
夫が若くして亡くなった後、姑も早くに亡くなり、神主をしている舅のお爺ちゃんと二人の子供、姉娘のかごめに弟の草太、それに私の家族四人で仲良く平和に暮らしていた。
あの運命の日が来るまでは。
かごめが、三日ぶりに戻ってきてホッとしたのも束の間、家族揃ってオデンの夕食を取っていたら、いきなり現れたのが犬耳の彼、犬夜叉君だった。
今時の若者にしては珍しい真っ赤な着物を着て、髪は白銀、目の色は金色。
何より真っ先に目に付いたのが耳だった。
丸い人間の耳じゃなくて秋田犬のように真っ白な犬の耳をしてたから。
アレには、驚いた物だったわ。
ついつい、本物かどうか、確かめたくて触らせてもらったんだけど。
感触は、どうだったかって? 
フニフニして気持ち良かったわよ。
草太とも話したんだけど、あれは、チョッと癖になりそうな感じだったわ。
かごめも初めて犬夜叉君と出会った時、同じ事をしたんですって。
フフッ、やっぱり親子よねえ。
アラッ、いけない、何処まで話したんでしたっけ。
そうそう、思い出したわ。
犬夜叉君が来たら、かごめが、血相変えて、骨喰いの井戸のある祠(ほこら)へ入って行ったのよ。
そして、そのまま、二人で祠に籠もって、又、井戸の中に消えちゃったんだったわ。
今度は、三日も居なくなるなんて事はなくて、暫くしたら、かごめは戻ってきたんだけど。
改めて、かごめの話が、何もかも本当の事なんだって実感させられたわ。
それにしても不思議な話よね。
私の娘が、戦国時代と現代を行き来するなんて。
然も、骨喰いの井戸を通じてアチラの時代に行けるのが、かごめと犬夜叉君だけなんて。
一応、試してみたんだけど、爺ちゃんも草太も私も駄目だったの。
涸(か)れ井戸の中に入ってみても、全然、何も起きなかったわ。
それ以後、かごめは、頻繁にアチラとコチラを行き来するようになって、学業との両立が大変そうだった。
かごめは、頑張り屋さんだから一度も泣き言を云わなかったけど、本当、とっても大変だったろうと思うわ。
成績は、元々、かなり良い方だから、そんなに心配なかったんだけど(数学は例外)問題は出席日数よね。
あんなに、しょっちゅう、アッチの世界へ行ってたんじゃ。
お爺ちゃんが捻り出す病気の口実も、あんまり頻繁だから、段々、ネタが尽きてきちゃって、その内、とんでもない欠席理由を届けるようになってたわね。
ギックリ腰だの神経痛だの、リュウーマチや通風だなんて、若い娘にあるまじき病気ばっかりよね。
挙句の果てに脚気(かっけ)まで飛び出してきて。
ハア~~そんな病気、現代の日本じゃ、まず有り得ないわ。
そんなムチャクチャな理由でも、一応、納得してもらえたって事は、日頃のかごめの素行の良さのおかげよね。
とまあ、そんな訳で、かごめは戦国時代と現代との二重生活を送るようになったの。
定期テストや模試がある時は、無理矢理にでもコッチに戻ってくるんだけど、そんな時でも、絶対、三日に一度は、犬夜叉君が、コッチに来てたのよ。
そんなに、かごめの顔が見たかったのかしら。
クスクスッ、本当にマメよね。
あの律儀(りちぎ)さには、正直、頭が下がったものだわ。
かごめによると、この日暮神社に、代々、伝わる四魂の玉の話。
その四魂の玉が、実際に、戦国時代に有ったんですって。
四魂の玉を守っていた桔梗という巫女さまが、玉を巡る争いで非業の死を遂げた際、四魂の玉も一緒に、あの世に持っていったそうなの。
それなのに、その四魂の玉が、選りにも選って、かごめの横腹にあったんですって。
それを、井戸から現れた妖怪が(百足上臈【むかでじょうろう】って云うらしいの)、かごめのお腹を喰い破って玉を出したと聞いた時は、思わず、ゾッとしてしまったわ。
後で見たら、そんなに酷い傷跡にはなってなかったから、ホッとしたんだけど。
女の子の身体に傷を付けるなんてトンデモナイ話よね。
そんな訳で色々と吃驚(びっくり)する事ばかり。
まさか、かごめのお腹の中に、そんな物が入ってたなんて。
かごめは、その桔梗って云う霊力の高い巫女さまの生まれ変わりなんですって。
だから、四魂の玉を体内に隠し持っていて、それを嗅ぎ付けた妖怪が、骨喰いの井戸から現れて、かごめを戦国時代に引き摺り込んだ、そういう訳らしいの。
おまけに、その四魂の玉を、かごめったら矢で砕いてしまったんですって。
それで、何十か、何百か、判らないけど、アチコチに散らばった四魂の玉の欠片を集めて、元の玉に戻さなきゃいけない事になってしまって。
何でも、四魂の玉には凄い妖力があって、玉を手に入れた者は、その力を使って、どんな野望でも叶えられると云われているらしいの。
妖怪だったら、途轍もない妖力を得る事が出来るし、仮に人間が持ったとしても、戦乱の世なら、どんな立身出世も栄達も思いのままだそうよ。
まるで『願い事、何でも叶えます』って云う万能の玉みたい。
そのせいで、昔から、人間、妖怪の区別なく四魂の玉を巡っての争いが絶えなかったらしいわ。
だから、ほんの一欠片でも、力の強い妖怪の手に渡ったらトンデモナイ災いの本(もと)になってしまうんですって。
そんな訳で、かごめは、四魂の玉の欠片を集める為に戦国時代と現代を行ったり来たりしてたの。
それから、犬夜叉君、ウ~~ン、彼は、何でも犬妖怪のお父さんと人間のお母さんの間に生れた“半妖”なんですって。
だから、半分が妖怪で、半分が人間。
あの白いフニフニの犬耳は、お父さん譲りなのね。
とっても綺麗な白銀の髪も金色の目も、きっとそう。
でも、何故か、朔の日、つまり新月の夜は、人間の姿に戻るそうよ。
犬耳が人間の耳になって髪も目も黒くなるんですって。
かごめは、もう、何度か見たらしいわ。
今のままでも、かなりの男前だから、きっと人間の姿になってもハンサムボーイなんでしょうね。
どれくらいハンサムかって? 
そうねえ、ジャニーズ事務所に軽く入れる程度じゃないかしら。
かごめも、我が娘ながら、中々の器量良しさんだから、二人並ぶと、とてもお似合いだったわ。
初々しい恋人達って表現がピッタリ。
アッチの世界では、犬夜叉君が、かごめをボディーガードしてくれてたんですって。
彼、半妖なだけあって、とっても強いらしいの。
お父さんが大妖怪で、そのお父さんから譲られた鉄砕牙って刀が、これまた凄いんですって。
普段はボロボロの錆び刀にしか見えないけど、変化すると、とっても大きくてゴツイ刃の刀に変わるそうなの。
『風の傷』という技で一度に百匹もの妖怪を薙ぎ倒せるらしいの。
『風の傷』以外にも修行して色々な技を使えるようになってるって、以前、かごめが教えてくれたわよね。
エライわ、犬夜叉君、とっても努力家なのね。
草太も見習わなくっちゃ! 
男の子なら好きな女の子の一人や二人、守れなくっちゃ。
かごめも、アッチの世界で、何度も、危ない処を犬夜叉君に守ってもらったそうよ。
アッ、そう云えば、コッチの世界でも、四魂の欠片を持った能面のお化けから助けてもらったって草太が話してたわね。
そんな経緯もあって、彼、かごめの弟の草太とも結構、仲が良かったの。
男兄弟が、居ないから、何だかお兄さんが出来たみたいで嬉しかったんじゃないかしら。
かごめや草太の話から判断すると、犬夜叉君って、一見、ぶっきらぼうだけど、その実、とっても優しい人みたい。
ウフフッ、強くて優しい彼氏か。
かごめ、人を見る目があるわね。良い選択よね。
かごめと犬夜叉君を見ていると、まるで昔から、何時も二人でいたような、何の違和感も感じさせない、そんな自然さが有ったわ。
母親の勘とでも云えば良いのかしら。
かごめが犬夜叉君と一緒に居る場面を何度も見る内に、それは、ドンドン予感から確信に変わっていって・・。
何時の日か、かごめは、犬夜叉君と一緒に行ってしまうのではないかって思うようになってたの。
そして、その日は、きっと、そんなに遠くないだろうって。
そう覚悟してたんだけど、イザ、そうなってみると・・・。
駄目ね・・笑って送り出してあげたかったのに・・実際には・・涙を堪える事しか出来ない・・・なんて。
この井戸を通り抜けて・・かごめは・・・行ってしまう。
多分・・もう・・二度と・・戻っては・・来れない・・アッチの世界へ。
この三年間は・・神さまが・・私達家族に与えて下さった・・別れ・の・・時・だった・のね。
かごめ・・かごめ・・私の赤ちゃん。
私が・・お腹を痛めて産んだ・・可愛い・・私の・初めての・・赤ちゃん。
大事な大事な・・私・の・・愛娘。
出来る事なら・・戦国時代になんて・・行かせたく・・ない。
近頃は・・随分と物騒になったけど・・それでも・・危険な戦国時代に比べれば・・遥かに・・安全な現代に居て欲しい。
でも・それは・・母親としての我がままね。
あなたは・・・見つけたのよね。
自分の運命を・・何よりも・・誰よりも・・大切な・・唯一人の運命の男(ひと)を。
だから・・行きなさい・・あなたの・・・心の望むままに。
私は・・・ここで・・・ズッと・・祈っているわ。
かごめ・・あなたの・・・ウウン・・かごめと犬夜叉君の・・・これからの人生が・・幸せであります・・ようにって。   了 
        

《第四十七作目『母情』についてのコメント》
最後の部分を書いてたら、涙が、涙が、溢れて止まりませんでした。
ボロボロ涙を零しながら書いた二度目の作品です。
管理人、決して涙もろいタイプではありません。
寧ろ、中々、泣かない部類の人間です。
そんな管理人を、これほど泣かせた作品は初めてです。
かごめの母の、ママの心情を思うと、万感、胸に迫る物があります。
大切な愛娘を二度と戻れない戦国時代へと送り出す母親。
どんなにか切ない思いだった事でしょう。
管理人自身、二人の子供の母ですから、痛いほど、その気持ちが想像できます。
途中、脱線したりして完成が遅くなりましたが、何とか、十日ほどで完成に漕ぎ着けました。
多少、遅くなりました事を此処にお詫び致します。    ★★★猫目石


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