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『竜宮綺談』④終宴

殺生丸と邪見が、竜宮に来てから既に四日が経過していた。
ボワッ・・・本性の大亀に戻った劉亀が、口から大きな空気の玉を吐き出した。
殺生丸と邪見、それに阿吽が、その中にスッポリと納まっても、まだ余る大きさである。
この空気玉の内部は二重構造になっている。内側は、地上生物の生存に適した一気圧、外側は、非常に圧力の強い空気で覆われている。途轍もない深海の水圧にさえ充分に耐えられるよう強度が調節されているのだ。
往きは、超豪快に海を二つに割って竜宮にやって来たが、帰りは、この特大の空気玉に乗ってユルユルと上方へ浮上していくのだ。
邪見が、またまた興奮して大げさに騒ぐ。今回、初めて、竜宮にやって来た身では無理もないか。殺生丸と阿吽は、既に経験済みのせいか、ろくに驚きもしない。

「劉亀様、こっ、この空気玉に乗って水上まで浮き上がっていくのでございますかっ!?」

「左様、この空気玉は、ユックリと漂いながら、貴方達を水面ギリギリまで運んでくれます。空中に辿り着けば、自動的に割れて、そのまま大気に溶け込むようになっておるのです。」

「なっ、成る程、実に上手く出来ておりますな。」

「それでは、殺生丸様、邪見殿、ようこそ竜宮にお越し下さいました。本来なら我が主も御見送りすべき処でございますが、今回の身内の不祥事に甚(いた)く恥じ入られまして、到底、顔を出せないと申されておられます。どうぞ、ご容赦下さいませ。大したお持て成しも出来ませんでしたが、これに懲りず、又のお越しをお待ちしております。
阿吽よ、達者でな。」

「・・・・」

「ハッ、ハイ! 大変、お世話になりました。有難うございます、劉亀様。和修吉竜王様には、くれぐれも良しなにお伝え下さい。」

「・・・グル・・・グルル・・」

 型通りの劉亀の別れの挨拶にも、終始、無言の殺生丸。
一見、いつもの無表情である。しかし、よくよく見れば強烈な不機嫌オーラを白皙の美貌から発している。
元々、鋭い金色の眼差しは、一層、険を含み、斬り付けるような危うさを感じさせる。眉間にも皺が寄り、剣呑な事、この上ない。

 それに気付かないのは、初めての竜宮詣でに浮かれている能天気な下僕の邪見だけであった。
阿吽でさえ、先程から主の発する尋常でない妖気に怯えビクビクしていると云うのに。一体、何が有ったというのだろうか。
話は、殺生丸と邪見が、この竜宮に、やって来た時まで遡(さかのぼ)る。

 お目当ての人魚の肉を入手し損ねた殺生丸。すぐさま、西国に舞い戻ろうとする殺生丸を、この竜宮の主、和修吉竜王が、強引に引き止めた。
殺生丸が、何よりも切望する、人間を、イヤ、りんを不老長寿にする方法を餌に。
その後、三日三晩に渡って続いた竜王主催の宴。
殺生丸は、元々、酒は嫌いではないし滅法強い。大酒飲みで有名な母君“狗姫の御方”と張り合うほどの酒豪、云うならば蠎蛇(うわばみ)である。
だが、大人数の宴には、どうにもこうにも我慢がならぬ性質(たち)だった。
酒は静かに飲みたい殺生丸である。
極々、少数の気心の知れた者達と飲むのなら別に構わないのだが、大人数の宴は、酣(たけなわ)になればなるほど、浮かれ騒ぐ馬鹿者たちが決まってドンチャン騒ぎを起こす。それが、殺生丸を辟易(へきえき)させる。
まして、無礼講ともなれば、どれ程、鬱陶しい事か。
だが、和修吉竜王の宴は、最初から大人数の上に無礼講だった。

 多分に神経質な殺生丸と違い、豪放磊落な和修吉竜王は賑やかな宴が大好きなのである。それも、人数が多ければ多いほど楽しいと考える口だった。
寡黙にして気難しい殺生丸とは全く対極に位置する気性の持ち主、それが和修吉竜王である。
竜宮に仕える者達も、皆、主に似たのか大の宴好きばかりが揃っている。
久方ぶりの珍客中の珍客を迎えて、イヤハヤ盛り上がる事、盛り上がる事。

 賑やかな歌舞音曲は勿論の事、惜しげもなく振舞われる竜宮秘蔵の名酒に山海の珍味。それにしても海の中でありながら、何故、山の珍味が? 海に接した土地からもたらされた産物だ。広大な極海は、妖界の全ての大陸に接している。内陸で産する物は川を通して運ばれ海に至る。その結果、海産物は勿論の事、ありとあらゆる珍しい食材を手に入れる事が可能なのである。
そうして始まっ
た大掛かりな西国王歓迎の宴。
それでも、宴が始まった当初は、まだ節度が保たれていたが、そんな物は直ぐに何処かへ消え失せ、アッと云う間に乱痴気騒ぎへと移行していった。
ドンドン機嫌が悪くなる一方の殺生丸とは対照的に邪見は得意の絶頂だった。
雲上人とも云うべき和修吉竜王から、直々に御声をかけて頂いたのである。
一介の従者としては身に余る光栄。完全に舞い上がっている。

 和修吉竜王の目論見としては、殺生丸を酔わせて、アレコレ聞き出そうと思っていたのだが、肝心の相手は、酔い潰れるどころか、顔色ひとつ変えずに黙々と盃を乾していくばかり。何を聞いてもダンマリを決め込み、一向に答えてくれない。
それでは、綺麗どころが相手ならば、多少、態度が
変わるかも知れないと思い、竜宮でも指折りの美女達を侍らせてみたが、これまた一瞥(いちべつ)も与えられず見事なまでの完全無視。
こんな調子では、何時まで経っても埒(らち)が明かん
と和修吉竜王が、好い加減、匙を投げ出しかけた処に、フト目に付いたのが、年若い西国王の側にチョコンと控える従者の小妖怪である。殺生丸にとっては不運、和修吉竜王にとっては思いがけない幸運であった。物は試しと、和修吉竜王が酒を注ぐ事を名目に邪見に話しかけてみた処、案の定、この従者は、ペラペラと口軽く喋り出したのである。斯くして、お喋りな従者は、和修吉竜王から聞かれるままに、人界での放浪の旅についてアレコレ答えたのであった。
殺生丸と半妖の異
母弟、犬夜叉との確執、りんとの出会い、蘇生、天生牙の覚醒、闘鬼神、半妖の奈落とのイザコザ、白霊山での死闘、あの世の境での奈落との戦い、冥道残月破、冥界での出来事、もう何もかも包み隠さず、これまでの経緯(いきさつ)について洗いざらい喋ってくれたから堪らない。
殺生丸の胸の内は荒れ狂う嵐も同然、反対に和修吉竜王の方はホクホクである。
尤も、此処までなら、殺生丸も、腹立たしくはあったが、まだ我慢できる範疇(はんちゅう)にあったのだ。
だが、和修吉竜王が、新たに西国での事を、邪見から詳しく聞きだそうとした肝心な時に邪魔が入った。
突然、闖入(ちんにゅう)してきた客によって宴が中断されたのである。
そして、その客こそが、殺生丸を腹の底から怒らせた張本人なのである。剛胆で知られる和修吉竜王を、殺生丸に顔向け出来ないまでに恥じ入らせたのは如何なる者か。その件については、後日、詳細にお話する事になるだろう。                       了


《第四十六作目『竜宮綺談』についてのコメント》
この作品は、結果的に十万打の御祝い作品となりました。
(本人は、全然、そんな積もりじゃなかったのに・・・)
とにかく有難うございます。
初めて、りんちゃんの寿命問題に触れた作品です。
(尤も、今回は空振りですが・・・。)
そうした微妙な難しい問題を扱ったせいでしょうか。
延々、一ヶ月も頭を捻った割には、字数が一万二千字台に止まってます。
本当は、③の和修吉竜王で終了する筈だったのですが、管理人が、もっと字数を増やしたいばかりに無理矢理、引き伸ばしました。
そうしたら、何と頭の中にムクムクとイメージが湧いてきて、この話の続編の題が決定しました。
続編の方は、構想が練りあがり次第、取り掛かる積もりです。
 
                  ★★★猫目石

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