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殺りん祭り応募作品「曝涼」★★

此処は西国。戦国最強の大妖、戦慄の貴公子と恐れられた化け犬、殺生丸の居城。
巨大な城の中庭に所狭しと並べられた書画骨董、貴重な道具類に豪奢な衣装の数々。
所謂、満艦飾(まんかんしょく)とはこの事だろうか。色という色全てが庭全体に広がっている。
赤に青、黄色に橙、緑、紫に金、銀、言い出したらキリが無い。
今も蔵から持ち出された高価な道具類が丁重に運ばれてきた。
年に一度、行われる曝涼(ばくりょう)つまり土用干しの事である。
古(いにしえ)の中国に七月七日、七夕に本や衣服、道具などを日に曝(さら)し風に通す曝涼(ばくりょう)という風習があり、これが日本に伝わり、土用の頃に行う土用干しに変化したと言われている。梅雨明けの晴天が続く日々を利用して虫やカビを予防する土用干し今でも寺社では、この時期を曝涼祭として貴重な宝物を公開する事が多々あると言う。
朝から奥付きの御殿女中衆が忙しく立ち働き、何度も庭に道具や色取り取りの衣装類を運び込んでは虫干しにしている。
邪見は蔵の道具類の点検に駆り出されアチラコチラと走り回っている。
そんな中、りんは、ソッと自分の長持から小さな着物を取り出した。紅白の格子縞に緑の大小の輪が踊る麻の着物。
昔、殺生丸や邪見、阿吽と共に旅をしていた頃の幼い自分が着ていた思い出の着物。


あれから、もう何年経ったのだろう。あの頃、やっと肩に届くぐらいだった髪は腰に達する程に伸び、以前は、チョコンと右側で一房結わえていた髪型も今では、両脇で結わえ、残りは流している。華奢ながら背も伸びた。昔は、殺生丸の足許程だった、りんの背丈は、今では腰の辺りまで来ている。
御殿暮らしで日に焼ける事の無くなったりんの肌は抜けるように色が白くなった。元々、肌理の細かい肌である。白磁のように透き通るような透明感が初々しい。頬にうっすらと浮かぶ薄紅色が一層あどけなさを際立たせている。大きな澄んだ瞳は長い睫に縁取られ光を受ければ黒曜石のように輝く。いつも微笑んでいる口元は小さな花の蕾のようで、とても可愛いらしい。
西国王、殺生丸が大切に育てている小さな人間の姫は、とても健やかに愛らしくお育ちである。
「りん、もう虫干しする物は無いか!?」
邪見がバタバタと走りながら部屋に入ってきた。
「あっ邪見さま!これもお願いして良いかな?」
りんは懐かしい思い出の篭る着物を邪見に見せた。
「ンンッ、これは、昔、お前が着ていた着物ではないか」

「お前・・・まだ持っていたのか。」
「うん、だって初めて貰った大事な着物だもん!」
りんは、大切そうに昔の着物を抱きしめ頬ずりした。
「この着物を見ると、昔、旅をしていた頃の事を思い出して凄く懐かしい気持ちになるの。」
「そうじゃな、いつも畑泥棒の見張りをさせられたもんな。何度も攫われて、その度に殺生丸様が取り戻しに行かれたもんじゃ。」
ついつい憎まれ口を叩く邪見。
「ひどいっ!邪見さま!りんだって攫われたくて攫われたんじゃないよっ!!」
りんがふくれっ面をして言い返す。
「攫われる度に殺生丸様に云い付けられて温泉や川にお前を連れて行かされたもんじゃ。」
「ねえ、邪見さま。何で、いつも攫われた後に温泉や川に連れていかれたの? りん、そんなに汗臭かったのかな???」
「そりゃあ、殺生丸様がお前に付いた・・・フギャッ!」
見れば殺生丸が余計な事を口走ろうとした邪見を踏みつけている。 ゲシッ!ゲシゲシッ!!
「あっ、殺生丸さま! お仕事済んだの?」
「・・・こう城内が慌しいと仕事をする気にもならん。」
「・・・阿吽に乗って遠乗りにでも行くか?」
「うん!」「あっ、待っててね。これを干してくる。」
阿吽に乗って眼下の城内を見下ろすりんと殺生丸の目に華やかな色彩が映る。 その中に小さな紅白の着物が混じっている。
りんにとっては、何よりも色鮮やかな思い出の残る小さな着物が、風に揺られてはためいていた。

《殺りん祭り投稿作品「曝涼」についてのコメント》

本当は◆「送り火」を投稿するつもりだったのですが・・・・・何しろ字数が完全にオーバー
 

出来る限り削って何とかしようとしたのですが、如何せん、それでも多過ぎる。

仕方無く、諦め、この「曝涼」を必死になって捻り出しました。

ごくごく短時間で急ごしらえの作品だったので此処に掲載するにあたって少々手直しを入れました。

その点においては懐かしい作品です。今年の夏は殺りんに萌えに萌えました。

2006.8/15.作成◆◆猫目石

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