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山茶花



太陽暦の10月半ば過ぎは陰暦では九月に入ったばかりの頃にあたる。
夏の日差しはとおの昔に消え去り秋特有の青空に澄んだ大気が心地よい。
朝晩は少し肌寒いくらいの陽気になる。
りんが楓に引き取られてから初めての年の秋のことである。
朝餉(あさげ)を済ませたりんは楓と共に薬草摘みにきていた。
冬がきて雪がつもれば薬草が枯れてしまう。
そうなる前に摘めるだけ摘んで干しておかねばならない。
楓の指示のもと、りんはセッセと薬草を摘む。
そんなりんの目に鮮やかな花が映り込んだ。
ひと際、目をひく赤い花だった。
秋になるに従い、めっきり花を目にすることが少なくなっていた。
だからだろう、嬉しそうにりんが楓に話しかけた。

りん:「楓さま、あれ見て。椿の花が咲いているよ」

楓:「んっ、どれどれ」

りんの指さすままに老女が目を向ける。
刀の鍔を眼帯にした隻眼の巫女、りんの養い親の楓である。
一つきりの目が赤い花をとらえた。
濃い緑色の葉に紅が鮮やかに冴(さ)えて美しい。
中々に風情がある花である。

楓:「りん、あれはな、椿ではない。山茶花(さざんか)だ」

りん:「椿じゃないの?」

楓:「うむ、良く似ているが、椿は春の始めころに咲く。だから木に春と書いて『椿(つばき)』。今時分に咲くのは山に茶に花と書いてな、(さざんか)と読むのだ」

りん:「ふ~~ん、そうなの、知らなかった」

楓:「それとな椿は花ごとポックリ落ちて散る。それに比べ山茶花は花びらが一枚づつ散っていくという違いがある」

りん:「よく似た花なのに随分と違うんだね」

楓:「りん、籠の中の薬草は?」

巫女姿の老女がりんの籠をのぞきこむ。

楓:「おお、大分、いっぱいになったな。よしよし、では、そろそろ帰るとしよう。ああ、りん、山茶花を二・三本ほど手折ってきておくれ」

りん:「どこかに飾るの?」

楓:「墓に手向けようと思ってね」

りん:「墓って誰の?」

楓:「私のお姉さまにね」

りん:「楓さま、お姉さまがいたの?」

楓:「ああ、遠い昔に死んでしまったが、とても綺麗で強い巫女様だったのだよ」

りん:「楓さまよりも強いの?」

楓:「勿論、桔梗姉さまは、あの犬夜叉でも勝てなかった御人だからね」

りん:「ええっ、犬夜叉さまよりも強いの? 凄~~いっ! じゃあ、殺生丸さまと同じくらい強いの?」

楓:「はて、あの御仁(ごじん)は人外だからな。同列にはできんだろう。だが、当時、桔梗お姉さまほど霊力の強い巫女は他におらなんだことだけは確かじゃ」

りん:「そうなの、あれ? 昔、助けてくれた巫女さまも桔梗って呼ばれてたけど」

楓:「なっ、何とっ! りん、お前、桔梗お姉さまに逢ったことがあるのか?」

りん:「えっ、でも楓さまのお姉さまって、ずっと昔に亡くなったんでしょ?」

楓:「確かに桔梗お姉さまは昔に亡くなられた。だが、鬼女、裏陶(うらすえ)がお姉さまの墓を発(あば)いて霊骨を奪い無理矢理この世へ蘇らせたのだ。それ以来、お姉さまは『死人(」しびと)』として彷徨(さまよ)っておられた。宿敵である奈落を滅せんとしてな。恐らくりんはその頃のお姉さまに逢ったのだろう」

りん:「じゃあ、奈落は滅されたから、今はもう安らかに眠っておられるよね」

楓:「ああ・・・そうだな」

りん:「楓さま、早く帰ってお墓に参ろう。りん、あの時の御礼をいわなくっちゃ」

老女と幼女は連れ立って村へ帰る。
その手には赤い山茶花と薬草籠。
山茶花の赤い花弁は巫女の袴を思い起こさせる。
楓の脳裏に懐かしい面影が甦った。
美しく気高かった姉、桔梗の顔が。
以前は悲壮な決意に満ちていた姉の顔が今は穏やかさにつつまれている。
楓の中の姉の記憶も、ようやく浄化されたようだった。   了











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