ある秋の日に ※この画像はアニメ『犬夜叉』よりお借りしてます。短小矮躯(たんしょうわいく)の妖怪が背に大荷物を背負いえっちらおっちらと歩いている。何故、妖怪かというと肌の色がカエルのような緑色なのだ。人間にあるまじき色である。おまけに目は出目金、鼻は低く鳥のような嘴(くちばし)という怪異な容貌である。その癖、水干を着込み頭にはチョコンと烏帽子をかぶるという畏(かしこ)まった容儀。恰好だけなら何処ぞの家中の家来のようにも見える。小妖怪はいわずと知れた殺生丸の従者、邪見である。主である殺生丸は従者の苦境など一切顧みずサッサと前を歩いていく。(くくぅ~~っ、おっ・・重い!)(阿吽に・・くくりり付けておった時は・・よかったんじゃが・・・)(村に・・行くまでは・・わっ・・儂が・・背負わねば・・ならん・・ことを・・考えて・・おらんかったっ!)(あれも・・これも・・と詰め・・込むんじゃ・・なかったっ!)(くぅ~~っ、ふっ・・不覚っ!)邪見は己(おのれ)の見通しの甘さを後悔していた。栗に山芋、柿に山葡萄などりんへの土産(みやげ)を詰め込んだはいいが、己の膂力(りょりょく)を忘れていたことを。双頭の龍、阿吽(あうん)は村人を驚かせないよう村外れの林に繋がれている。従って村までは邪見が運ばねばならぬのだ。殺生丸に運ばせろ?とんでもないっ!荷物は従者が運ぶものである。ヨタッ、ヨタッ、ヨチヨチッ、ヨタッ、フラッ、フラフラ~~見るからに覚束ない足元である。邪見の小さな躰(からだ)に荷物が重くのしかかる。(くぅ~~っ、むっ、村まで・・もう少しじゃっ!)(がっ、頑張れ・・儂っ!)(負けるな、儂っ!)(うぐぅ~~~っ!) 林を抜ければ急に目の前が開けた。見上げれば赤紫色の実が鈴なりに生っている。あけびの実だ。秋に実る山の幸である。種は多いが半透明の実の中にはまったりと甘い果肉がある。この時代には乏しい甘味を味わえる。柿と同じく貴重な果物である。村人にも馴染み深い果物である。勿論、りんの大好物でもある。それを見た殺生丸が何を思ったのか、フワリと軽く飛び上がりスッと繊手(せんしゅ)を一閃(いっせん)した。一瞬の後、大量のアケビが蔓(つる)ごと頭上から落下してきた。ドサドサーーーーーうぎゃあぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ邪見はアケビに埋め尽くされバタンと気絶した。・・キュウゥ~その後、邪見は妖怪退治の帰り道の犬夜叉と弥勒に発見された。犬夜叉は例のごとく片手に米俵を一俵(いっぴょう)かついでいる。 弥勒:「おや、これはこれは随分と大量のアケビですな」犬夜叉:「あん? おい、邪見、おめえ、なんでこんなとこに転がってるんだ?」弥勒:「どうやら気絶しているようです。犬夜叉、お前、村まで運んでやりなさい」犬夜叉:「チッ、しようがねえなぁ」邪見は荷物とアケビの蔓ごと犬夜叉にかつがれ楓の家まで運ばれた。当然のごとくアケビの実は村の衆、全員に振舞われたそうである。(了) [5回]PR