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『月の面影③』



※上の画像は『妖ノ恋』さまの使用許可を頂いてます。

【りん】の五度目の拉致は曲霊(まがつひ)の策謀による。
何故、五度目かというと四度目は息絶えた【りん】が冥界の主に攫われたからだ。
弥勒の風穴に吸い込まれたはずの曲霊の一部。
琥珀に乗り移った曲霊の本体は殺生丸の天生牙に斬られ絶命したかと思われた。
しかし、曲霊の一部は、しぶとく生きていた。
霊は彼岸のもの、すなわち、今生(こんじょう)のものに非(あら)ず。
したがって現世の生き物の道理は通用しない。
一部でも生き残っていれば本体ごと修復可能らしい。
弥勒の身体を通して曲霊は再び現世に舞い戻ってきた。
そして、今度は気絶していた【りん】に乗り移って逃亡した。
四魂の玉を完成させ大蜘蛛に変化した奈落のもとへと。


拉致された【りん】は異様な場所で目をさました。
周囲は薄暗く地面は妙にやわらかい。
何気なく見上げれば、そこには曲霊の不気味な顔が!
琥珀を操り珊瑚を殺させようとした怖ろしい悪霊。

(逃げなきゃ!)

【りん】は必死に走った。
すると目の前に大好きなひとの弟の姿が。
白銀の長い髪、真っ赤な着物、殺生丸さまの弟、犬夜叉だ。
助けてもらおうと側へ駆け寄った。
でも様子がおかしい。
真っ赤な目と頬に走る一筋の妖線。
以前、会った時と全くちがう怖ろしげな顔。

(違う、こんなの犬夜叉さまじゃない!)
 
(怖い!)

犬夜叉から逃げようとする【りん】。
すると反対側から曲霊の顔が迫ってきた。
驚いて足を滑らせ尻餅をつく【りん】。
怖ろしくてたまらない。
滅多に泣かない【りん】の目に涙がにじむ。
絶体絶命である。
『もう駄目だ』と思った次の瞬間、犬夜叉が狙ったのは【りん】ではなく曲霊の方だった。
犬夜叉は己を完全に失ってはいなかったのだ。
だが、そんな犬夜叉を嘲るように曲霊は犬夜叉の中に入り込み身体を乗っ取ってしまった。
そこへ殺生丸が毛皮にかごめを掴まらせ急行してきた。
しかし、紙一重(かみひとえ)の差で【りん】の救出はならず。
奈落の肉塊に呑み込まれてしまった【りん】。
これが【りん】にとって人界での六度目の拉致になる。


場面は現在に戻る。
【りん】は相変わらず高熱にうなされていた。
夢とも現実ともつかない意識不明の状態のまま生死の境をさまよっている。
朦朧とする意識の中、昔の記憶が甦(よみがえ)っては【りん】を苦しめる。
家族が夜盗に惨殺された夜の、村にいた頃に受けた虐待の、思い出すのさえ辛い記憶が【りん】の意識を苛(さいな)む。
それだけではない、冥界の闇そのものが【りん】を捕らえようとゾワリと蠢(うごめ)きだした。


普通の人間ならば、こんなことは起きない。
だが【りん】は普通の人間ではない。
二度も『死』を体験しながら生きている稀有な存在だ。
妖狼族の狼に噛み殺された一度目の『死』で【りん】は冥界と接触した。
二度目の死は、直接、冥界の闇そのものに触れたのが原因だった。
二度とも首尾よく死の顎(あぎと)から逃(のが)れ生還したものの、そのせいで【りん】の魂は冥界とつながってしまったのだ。
だから、このように生死をさまよう状況に陥ると、すかさず冥界の闇が【りん】の魂を手中にしようと手を伸ばしてくる。


闇の触手が【りん】を絡めとろうとソロソロと蠢(うごめ)く。
禍々(まがまが)しい闇の魔手は【りん】を冥界へと連れ去ろうとする。
抵抗しなければ直ぐさま『死』が待ち構えている。
これと良く似た感覚に【りん】は覚えがあった。
奈落の肉塊に呑み込まれた時と同じ感じだ。
あの時も肉塊にビッチリと覆われ息が出来なくて苦しかった。
苦しくて、苦しくて、もがいて、もがいて。
声が出せなくても【りん】は全身で殺生丸を呼んでいた。
いつも【りん】がどんな状況にあろうと助けにきてくれた殺生丸。
苦しい息の中、【りん】はうわ言で殺生丸の名を呼ぶ。
小さなか細い手を必死に差しのべて助けを求める。

(・・殺生・・丸さ・・ま・・・助け・・て・・)

すると【りん】の手を誰かがシッカリと握りしめた。
白い繊手(せんしゅ)から伝わる確かな生気が【りん】の中の闇を祓(はら)う。
熱にうかされた【りん】の目にボンヤリと映る人の姿は・・・。
月の光を集めたような白銀の髪、満月を嵌めこんだような金の眸、鮮やかな朱色の妖線が頬に走る白皙の美貌、そして額を飾る三日月の徴(しるし)、夜空に輝く月のように秀麗な容貌の人だった。
【りん】が大好きな人だった。

(ああ・・・来て・・くれた・・んだ・・殺生・・丸・・さま・・)

その人の出現と同時に【りん】の魂を取り込もうとする冥界の闇がフッと消えた。
冥界との通路が断ち切られたのだ。

(もう・・・大丈・・夫・・・怖く・・ない・・)

【りん】は安心して目を閉じた。
生と死の戦いは『生』に軍配があがった。
その後、【りん】の容態は安定しゆるやかに快復へと向かった。


【繊手(せんしゅ)】::細くしなやかな手のこと。


※『月の面影④』に続く


 

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