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夜叉丸物語=④弥勒おじさん



※この画像は『妖ノ恋』さまの了解をえて公開しています。

それじゃ今度は弥勒おじさんについて話すか。
弥勒おじさんは法師さまだ。
一家で俺んちの近くに住んでる。
珊瑚おばさん、茜(あかね)と紅(くれない)、正太の五人家族だ。
でも、もうすぐ一人ふえる予定。
珊瑚おばさんのお腹、大きいもんな。
まるで大きな瓜が入ってるみたいだ。


父上がいってた。
「アイツは助兵衛だからな。これからもドンドン子供が増えるだろ」って。
あっ、アイツって弥勒おじさんのことだからね。
それから父上ったら「弥勒のこった。下手したら他所で子供作ってるかもしんねえぞ」なんていうもんだからさ。
うん、もう分かるよね、お約束の展開だよ。
頭から角をはやした母上が『おすわり』を連発して父上を地面に叩きつけたんだ。

「おすわり!」「おすわり!」「おすわり!」「おすわり!」「おすわりったらおすわりいいいぃっ!」

ベシャッ!ドカッ!ドカドカッ!

あの時は凄い音がしたっけ。
母上はカンカンに怒ってた。
あの呪文って母上が怒れば怒るほど威力がますのかも?


「犬夜叉、子供の前でなんてことをっ! 口を慎みなさいっ!」

「もし珊瑚ちゃんが聞いたら、この程度じゃすまないわよっ。飛来骨をお見舞いされたいの!?」


あっ、飛来骨ってのはさ、妖怪の退治屋をしてた珊瑚おばさんの愛用の武器。
凄く大きな投げ道具なんだ。
今は滅多に使わないけど前に一度だけ珊瑚おばさんが投げるのをを見たことがある。
的(まと)は二十間(にじゅっけん=約36.4m)は離れた場所にある大きな岩だった。
珊瑚おばさんが狙いをつけて飛来骨を投げた。

ゴッ、ガガガガガガ・・・バシッ!

大人よりも大きな岩だった。
それが一発で粉々に砕けちゃったんだ。
大岩を砕いた飛来骨は回転しながら戻ってきた。
それを難なく珊瑚おばさんがつかむ。
凄い! 格好いい!
男顔負けだよ、珊瑚おばさん。
弥勒おじさんが勝てない訳だな。


あっ・・と話を戻すね。
グリグリと拳固を父上の蟀谷(こめかみ)に押しつける母上。
うわ~~あれって滅茶苦茶痛いんだよね。
完全にお仕置きだよ。
ドキドキするほど怖かった。
いつも優しい母上が鬼にみえた。
俺・・・母上には絶対に逆らわないようにしよう。


「痛い!痛いっ!」とギャンギャン喚いてた父上。
本当に父上ってばこりないなあ。
あんなこと云ったら母上が怒るに決まってるのにさ。
何で、もうちょっと考えて喋れないのかな。
んんっ? でも、折檻されてるのに父上の顔ってばちょっと嬉しそうだった。
どうしてかな?


楓婆ちゃんにそれをいったら「じゃれとるんじゃよ」だって。
???じゃれる???
父上が犬の半妖だから?
よく犬や猫が構ってほしくてじゃれるけど。
あれと同じことなのかな?
ってことは父上の主人は母上???


弥勒おじさんは父上と組んで妖怪退治を請け負ってる。
だから、時々、父上と一緒に遠くの町や村に出かける。
短ければ、その日の内に戻ってくるけど長いときは二日か三日、もっと長いときは七日くらいかかることもある。
帰ってくる時は、大抵、父上が報酬としてもらった米俵を担いでくる。
父上は人間離れした怪力だからね。
母上が『体力お化け』っていってたっけ。
少ない時は一俵だけど、普通は三俵か四俵、多い時は五表なんてこともある。


米一俵(約60キロ)で大人が一年食べられるんだって楓婆ちゃんが教えてくれた。
二俵なら二人養えるし三表なら三人、五俵なら五人。
弥勒おじさんちはもう直ぐ子供が生まれて食い扶持がふえるんだから。
たっぷり稼がなくっちゃね。
それでさ、妖怪退治の交渉はいつも弥勒おじさんがするんだって。
うん、それは納得。
弥勒おじさんは口八丁に手八丁のやり手だもん。
交渉にはうってつけだよね。
馬鹿正直な父上じゃ絶対に無理。
足許みられるのが落ちだな。


弥勒おじさんは法師だけあって説法がうまい。
あっ、説法ってのはさ、仏さまの教えを分かりやすく人に説(と)くこと。
弥勒おじさんは商売柄いつもにこやかに話しかける。
若くて綺麗な女の人には特にそうだ。
こないだも隣村の若い後家さんの手をにぎって楽しそうに話してた。
後家さんも頬をそめて嬉しそうに喋ってた。
弥勒おじさんは男前だしね。
そしたら珊瑚おばさんが血相かえて走ってきたんだ。
二人をみてニッコリ笑う珊瑚おばさん。
でも目は笑ってない。(怖っ)
その後、どうなったかって?
勿論、珊瑚おばさんが弥勒おじさんの耳をギュウギュウ引っ張って帰ってったよ。


お決まりの夫婦喧嘩の始まりだ。
あそこんちはさ、しょっちゅう喧嘩するから周りももう慣れっこだ。
でも、絶対にそばに寄っちゃいけない。
なんでかって???
家中の物がビュンビュン飛んでくるから危ないんだ。
鍋や釜は勿論、食事に使う器、もう投げれる物はみんな飛ぶ。
前には草刈りの鎌まで飛んできた。
おっかない!


さっきもいったけど珊瑚おばさんは元退治屋で飛び道具が得意なんだ。
だから専(もっぱ)ら珊瑚おばさんが物を投げて弥勒おじさんは防戦一方。
物が忙しく飛び交う中、弥勒おじさんが必死になって珊瑚おばさんに謝る(=言い訳する)んだ。
「わたしが好きなのはお前だけです!」とか「愛してます、珊瑚!」なんてね。
そうしたら、やっと喧嘩が収まった。


流石に口がうまいよな、弥勒おじさん。
法師やってるだけはある。
でもさ、よくもまあ、ああも恥ずかしい台詞を平気で吐けるよ。
俺、感心しちゃった。
うちの父上だったら絶対に無理だ。
それを父上に話したらさ。

「けっ、情けねえな、弥勒のやつ、女房の尻にしかれやがって」

「あいつは昔っから珊瑚に弱かったからな」

なんて笑ってたんだけど・・・。
でも、それ、父上も同じじゃないのかな???
父上だって母上には絶対に勝てないのに。
何で、父上ってばああも見栄を張るんだろう。
これも楓婆ちゃんに聞いたら「男の沽券(こけん)ってやつじゃろう」っていってた。
こけん?コケン?
『こけん』って何???
分かんない。
大人って難しいね。



※⑤に続く※





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