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『=反魂香(はんごんこう)⑧=愚息行状観察日記外伝』



※上の画像は『妖ノ恋』さまの使用許可を頂いてます。


方斎は、狗姫(いぬき)の御方が、さり気なく口にした言葉に驚かされた。
漢の武帝とは、今(注:『犬夜叉』の時代はAD1500年代の後半と推定)を遡(さかのぼ)ること千六百年もの昔、人界の中国大陸に存在した古代帝国の皇帝である。
そんな遥か昔を御存知なのかと。
方斎とて、梟族の長として、かなりの物識りとの自負がある。
だが、目の前の貴婦人に比べれば、知識、経験、度量、どれもが遠く及ばない。
この御方から見ればワシなど洟垂(はなた)れ小僧にしか見えんのだろうな。
ホ~~~ッ、仕方ない、ここは仰(おお)せのままに従おう。
方斎は軽く溜め息を吐いて狗姫に答えた。
 

「ホッ、分かりました。御方さまの望みのままに、この方斎、振舞いましょう。ホ~~ッ、されど、反魂香は、我が父、先代の方斎が存命中に使い果たし欠片すら残っておりません。新たに手に入れようにも反魂樹の生える西海聚窟州の高山には結界が施され蟻一匹でさえ入り込む隙がございません」
 

すると、狗姫の御方は、ワシの言い分を待っていたとばかりに目を眇(すが)めて事もなげに仰(おっしゃ)ったのだ。
 

「確かに、そなたの言う通りだ。反魂樹の樹仙自身が山全体に結界を張っておる。反魂香を得ようと邪(よこしま)な心を持つ輩(やから)どもが次から次へとやって来ては山を荒らしおったからな。それ故、朴仙翁から反魂樹の樹仙に話を通してもらった。そなただけは自由に結界に入れるようにとな。この城を辞したらば、即、向かうがよい。そちの欲する分だけ反魂樹の根を持ち帰っても良いと許可が出ておる」
 

「ホッホッホ~、なっ、何と・・・反魂樹の樹仙が直々(じきじき)に御許可をっ!?」
 

驚いた、まさか、そのような事が可能とは・・・。
そもそも、あの朴仙翁と親交がある事自体、凄い。
二千年もの樹齢を誇る朴仙翁、成る程、あの御仁ならば同じ樹仙同士、反魂樹に話を聞いてもらうことも可能だろう。
 

「首尾よく反魂香を精製したら西国城下にて方士になりすませ。何、反魂香さえ有れば、誰も、そなたを疑いはせん。それに、そなた自身、稀代の方士、小翁(しょうおう)の息子、方士の振る舞い方くらいは教えずとも解っておろう。そうしている内に『反魂香』の噂を聞きつけ、必ずや我が愚息が、そちの許を訪れるであろう」
 

「ホ~~~ッ、殺生丸さまがっ!?」
 

驚いて思わず叫んでしまった。
まさか、西国の当代さまともあろう御方が、直接、胡散(うさん)臭い方士の許を訪れるなど有り得るのだろうか?
 

「必ず来る、間違いなく・・・な」
 

こちらの当惑などお構いなしに狗姫の御方はニヤリと笑い自信たっぷりに頷(うなず)かれた。
 

「ホ~ッ、仮に殺生丸さまが訪問されるとして、ワシは、一体、何をすれば宜しいので?」
 

「そう、それこそが、此度(こたび)、妾(わらわ)が、そちを、此処へ呼び寄せた肝心要の用件なのだ。殺生丸は、そなたに、ある人間の少女を冥府から呼び出すよう求めるだろう。方斎、お主は殺生丸の求めるままに反魂香を炊き上げて死者を呼び出す振りをしてくれ」
 

「ホッ、御方さま、何故に呼び出す振りなどを?」
 

「呼び出す相手が死者ではないからだ。その者は生きておる」
 

「ホッホホ~ホ~~ッ!?」


「ここから先は、極々、内密の話になる。方斎、源伍、そなた達、口は堅いだろうな。もし、一言でも洩らせば・・・。分かっておろうな。命はないぞ」
 

それまで笑っていた狗姫の御方の目がスッと細まりキラリと妖しく光りだした。
内心、ゾッとしたが、そこはワシも梟族の長、一族の特性から諜報活動はお手の物、躊躇(ちゅうちょ)せずに頷(うなず)いた。
勿論、白鷺のお爺(じじ)こと源伍殿は狗姫の御方とは旧知の仲、否やのあろう筈もない。
ワシの横で、すぐさま頷いておられた。
そうした我らの態度を見て納得されたのだろう。
再び相好を崩された狗姫の御方は、徐(おもむろ)に口を開き、またまた我らを吃驚仰天(びっくりぎょうてん)させるような秘密を明かされたのだった。
まさか、西国の当代国主、殺生丸さまが、あの人間嫌いで名高い御方が人間の少女を寵愛されているとはっ!?
実に、実に、驚かされたっ!
どうにも信じがたい事実。
だが、信じるしかあるまい。
狗姫の御方が、そのような大事、わざわざ嘘を吐(つ)かれる理由もない。
然も、ワシらが話している最中、当の人間の少女が部屋の中に飛び込んできた。
この目で確かにその少女を見たのだ、是非もない。
それにしても、如何なる理由で人間の少女が狗姫の御方さまを『母』と呼ぶのか?
詳しい事情までは教えて下さらなかったので要(い)らぬ詮索(せんさく)はせなんだが・・・。
何はともあれ、狗姫の御方が、“りん”という人間の少女を溺愛しておられることだけは良く分かった。
それに、少女の方も、狗姫の御方を、大層、慕っておるようだった。
愛らしい黒髪の少女と白銀の美女が仲睦(なかむつ)まじく語らう様子は中々に目の保養だった。
一年後、紅葉の宴で少女を殺害しようとした黒幕は誅(ちゅう)され実行犯は縛(ばく)についたらしい。
新年の儀で少女は正式に狗姫の御方の養女となり同時に殺生丸さまの許嫁(いいなづけ)として御披露目されたと風の噂で聞いた。 


【誅(ちゅう)する】::罪のある者を殺す。悪人を攻め滅ぼす。

 
                                             了

 

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