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※上の画像は『妖ノ恋』さまの使用許可を頂いてます。
「ホ~~ッ、では、占わせて頂きますぞ」
方斎がバッと筮竹(ぜいちく)を手に取った。
易は、本来、五十本の筮竹と六本の算木(さんぎ)を組み合わせて占う。
方斎が問筮(もんぜい)の辞(ことば)を唱えつつ筮竹を捌(さば)きはじめた。
「汝ノ態勢、常アルニヨル、大極に御伺い奉(たてまつ)る、西国王、殺生丸さまが、今後も、“りん”なる人間の少女の捜索を続行することは吉なりや凶なりや? 八卦にて疾(と)く知らしめ給え」
ジャッ、ジャッ、ジャッ、筮竹を捌(さば)くたびに小気味よい音が生じる。
出てきた卦の示すままに算木を置いていく方斎。
六本の算木の配置が全て終わった
得られた八卦は以下の通りであった。
陰 ̄  ̄
陰 ̄  ̄
陰 ̄  ̄
陰 ̄  ̄
陰 ̄  ̄
陽 ̄ ̄◎
上部の三つが三つとも全て陰、これは【地】を意味する。
下部の上二つが陰、最後が陽、こちらは【雷】を意味する。
易は、この上下の卦の組み合わせで六十四通りもの八卦が出来る。
「ホッ、出ましたぞ、殺生丸さま。この八卦は『地雷復』の初爻(しょこう)にございます」
「それで、りんは・・・生きているのか?」
「ホ~~ッ、お気持ちは解りますが、些(いささ)か、せっかち過ぎますぞ。まずは『地雷復』の卦の意味する処を読み取らねば・・・」
「勿体ぶらずに早く言えっ!」
結果が待ちきれないのだろう。
殺生丸が苛立つ気持ちを抑えきれずに方斎の言葉を遮(さえぎ)った。
「ホッホ~~、仕方がございませんなあ。それでは、まず結果から言うとしましょう。殺生丸さま、貴方さまが捜しておられる人間の“りん”なる少女。この卦から判断しますと遠からず戻ってくるでしょうな」
「生きて・・・いるのだなっ!?」
「ホォ~~ッ、この卦は復卦(ふくけ)、つまり、(回復、復活、復元、元に戻す、帰ってくる)などを意味します。だから、まあ、必然的に、そういう事になりますかな」
方斎の返答に無表情だった殺生丸がカッと瞠目(どうもく)した。
驚愕と喜色が青白かった頬にサッと赤味を走らせる。
それまで殺生丸が纏(まと)っていた荒(すさ)んだ厭世的(えんせいてき)な雰囲気が瞬時に払拭(ふっしょく)された。
見るがいい、あんなにも物憂げで無気力だった眸(ひとみ)が、今や鷹のように炯炯(けいけい)たる眼差しに変わってるではないか。
目を疑うような劇的な変化である。
そこには嘗(かつ)てのように気力を充溢させた若き西国の王がいた。
もう先程までの遊蕩に身を持ち崩しかけた道楽者の面影は欠片もない。
「・・・そうか」
方斎の占断を聞いて殺生丸は僅かながらクッと口角を上げた。
それは久々の本物の笑みだった。
殺生丸がスッと立ち上がった。
そのまま踵(きびす)を返して出て行くのかと思いきや、床に寝そべった邪見に近付き声を掛けた。
先程、反魂香で冥府から呼び出した母親に折檻されまくったせいだろう。
邪見は床に伸びたままピクリともしない。
「起きろ、邪見」
「・・・・・・」
返答がない。
すると、いきなり殺生丸が邪見を蹴り飛ばした。
軽く十尺(約3メートル)ばかり吹っ飛んだろうか。
ベチャッと床に叩きつけられた邪見。
「ふぎゃっ!」
「・・・いつまで寝たふりをしている。帰るぞ」
「ヒョエ~~~ッ、殺生丸さま、きっ、気付いておられたのですかっ!?」
まさか狸寝入りがバレているとは思わなかったのだろう。
しどろもどろな応答の邪見であった。
「当たり前だ。貴様の息遣いが途中から変わった。それに匂いもな」
「ハヒィ~~~ッ、流石は殺生丸さま。御見逸(おみそ)れしましたあっ!」
蹴り付けられながらも邪見は嬉しかった。
元通りの主が返ってきたのだ。
以前の何か気に入らないと、即、邪見に当り散らす殺生丸さまが!
りんの生存が絶望視され始めた頃から殺生丸はパタッと邪見に当たらなくなった。
殴らない、蹴らない、勿論、石もぶつけなければ水責めもしない。
というより邪見の存在自体、殆ど、気にもされなかった。
大体、以前の殺生丸は八つ当たりするだけの気力(=妖力)自体が半減してしまっていた。
それ程までに『“りん”の行方知れず』は殺生丸の心を深く蝕(むしば)んでいたのだった。
だが、今回の件で“りん”の生存が確認できた。
そうと知った途端、殺生丸は忽(たちま)ち気力を取り戻し以前のように邪見を蹴り飛ばしたのだ。
どうして従者として喜ばずにいられようか。
正直、蹴られるのは痛い。
だが、この痛みが嬉しくて堪(たま)らないのだ。
このジンジンとした痛みこそが、大切な主、殺生丸さまが完全に復活された証なのだから。
・・・・・・痛いけど嬉しい、痛くても嬉しい・・・・・・。
端(はた)からみれば矛盾しているとしか思われない喜びを邪見は噛みしめていた。
※『=反魂香(はんごんこう)⑦=愚息行状観察日記外伝』に続く