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※上の画像は『妖ノ恋』さまの使用許可を頂いてます。
突如、鮮やかな紅(くれない)の衣が翻(ひるがえ)った。
次の瞬間、懐かしい幅広の刃(やいば)が男の絡みつくような触手を断ち切っていた。
鉄砕牙、今は亡き夫、闘牙の牙から打ち出された刀。
それを軽々と振るう生意気そうな顔の小童(こわっぱ)。
殺生丸と同じ白銀の髪、金色の瞳が両者の血の繫がりをマザマザと見せつける。
「御方さま、あの火鼠(ひねずみ)の衣は・・・」
松尾が声を発する。
「そうだ、松尾。あの半妖の小童(こわっぱ)が殺生丸の弟、闘牙のもう一人の息子、『犬夜叉』だ」
兄を助けに来たのか、半妖。
半妖の仲間、人間どもも駈け付けてきたな。
相対する兄弟、だが、殺生丸は半妖の弟に助けられたのが不満のようだ。
フム、気合で腕の傷を塞(ふさ)ぐか。
ムッ、殺生丸の目が赤くなった。
変化する積りだな。
そこまで追い詰められているのか。
殺生丸が右腕で攻撃すると見せかけ、一気に巨大な化け犬の本性を顕(あらわ)にしおった。
そして、そのまま男の頭部を喰いちぎった。
当然、これで男は絶命すると誰もが思っただろう。
だが、男の体からは見るだに濃厚な瘴気が溢れだし周囲に充満する。
あの瘴気の濃度、到底、か弱い人間どもの身では耐えられまい。
やはりな、人間達が堪(たま)らず空中に逃げ出した。
法師は気絶した小僧を連れ小娘とともに双頭竜に騎乗。
女退治屋は同じく気絶した巫女を乗せ子狐妖怪と一緒に猫又に。
首を捥(も)がれた体から何本もの極太の触手が生えてきた。
通常ならば殺生丸に首を噛みちぎられた時点で男は死んでいる筈。
にも拘(かかわ)らず、三白眼の男は生首だけで生きて今も何か喋っているらしい。
化け犬に変化した殺生丸の口中に銜(くわ)えられたままの状態でな。
クッ、音声が拾えないのが悔やまれてならぬわ。
それにしても実に不気味な存在だな。
あ奴には痛覚が無いのか。
殺生丸の牙が顔に喰い込んでいるというのに。
薄気味の悪い笑みが貼りついたように消えない。
極太の触手が何本も大挙して半妖に襲いかかる。
宝仙鬼から譲り受けた金剛槍破で迎え撃つ半妖。
しかし、金剛石の槍は標的を貫くことなく虚空に飛び散った。
不気味な触手だらけの体は宙に浮かび半妖の攻撃をやり過ごしたのだ。
そのまま触手は覆いかぶさるように化け犬の殺生丸に巻きつきギリギリと締め上げている。
銜(くわえ)えられていた生首までもが変化し触手が生え出した。
今しも殺生丸の牙から逃れ口から這い出ようとしておる。
獲物を離すまいと殺生丸がグッと力を込めて噛みしめる。
だが、殺生丸の牙が、どれほど深く喰い込もうと、生首は一向に痛痒(つうよう)を感じておらぬようだ。
あの男、本当に生き物なのか?
触手に締め付けられる兄を助けようと半妖が鉄砕牙を振るおうとする。
しかし、あの生首が殺生丸に絡みついておっては手も足も出せぬ。
チッ、一難去って、また一難か。
奴め、このまま殺生丸を絞め殺す気だな。
殺生丸に巻きついた触手が更に数を増し完全に愚息を覆いつくしてしまった。
殺(や)られたか!?
イヤ、そうではない。
流石に形勢不利と見て取ったのだろう。
変化を解いた殺生丸が人型に戻り、辛(から)くも触手地獄から脱出した。
フゥッ、冷や冷やさせおるわ、頑固者め。
松尾も権佐もハラハラしながら状況を見守っておる。
だが、こうまで追い込まれながらも、殺生丸は、やはり殺生丸だった。
退(ひ)く気など一切皆無。
またしても触手だらけの化け物に向かっていきおる。
爪で触手を薙ぎ払えるだけ薙ぎ払うが、如何せん、数が多過ぎる。
それ見たことか、アッという間に触手に絡め取られかけた。
半妖が、それを見て急いで触手を斬り落とし兄に助太刀する。
ムッ、鉄砕牙の刃の色が黒く変わった。
遂に出すのか、半妖、殺生丸から譲り受けた冥道残月破を。
だが、『敵も然(さ)る者、ひっかくもの』ぞ、半妖の行動に即座に対応してきた。
瞬時に自(みずか)らの操る体を四方八方に分散させたのだ。
あれでは冥道残月破は撃てん。
仮に撃ったとしても殆ど効果がない。
不味いな、このままでは各個撃破するしか道がないではないか。
そんな状況下にあって殺生丸が動いた。
まず小娘が乗っている双頭竜を狙った触手を爪で薙ぎ払った。
フム、やはり、そなたの姫を庇(かば)うか、殺生丸。
その上で先陣を切って飛散した妖怪の体を突っ切り、人間どもを一箇所に寄り集めさせた。
成る程な、これならば同士討ちはない。
次はどう動くのかと思ったら、何と、殺生丸の奴、そのまま空中に浮かぶ生首に突っ込んでいくではないか。
無謀だ、殺生丸、あの男にはそなたの爪も毒も利かん。
見す見す死にに行くようなものだ! 戻れっ! 殺生丸!!
『愚息行状観察日記⑰=御母堂さま=』に続く