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『愚息行状観察日記⑩=御母堂さま=』



 ※上の画像は『妖ノ恋』さまの使用許可を頂いてます。


年中、霧が立ちこめる薄暗い場所に存在する瘴気の沼。
ビッシリと藻が蔓延(はびこ)り沼の水は不気味な緑色に濁っている。
水辺には沼の毒気にやられたのだろうか。
骨と化した動物の死骸が転がっている。
ゴボゴボ・・ゴボッ・・・
澱(よど)んだ水の中から奇妙な物体が浮かび上がってきた。
ツルリと長大な禿(は)げ頭、白い髭、長い耳、手には杖。
一見、七福神の寿老人を思わせるような容貌。
だが、決定的に違うのは、その身に纏(まと)う清浄とは言い難い饐(す)えた瘴気。
光を通さぬ盲(めし)いた目、大きな耳。
そして、何よりも特徴的なのは老人の巨大な耳朶(じだ)。
身体の半分以上もの長さがある。
「久し振りだな、耳千里」
濁った水の中から現われた奇怪(きっかい)な老人に権佐は声をかけた。
「“斑(まだら)の権佐”か。さては奈落と夢幻の白夜のことだな」
「誰だ、それは」
「けへへ・・・権佐、お主の雇い主、西国の当代さまに絡んでおる輩よ」
「やはり知っておったか」
「ひょほほ・・・わしの耳はこの世のあらゆることを聞き取るからな」
「ならば話は早い。そ奴らについて詳しく聞かせてくれ。報酬はそちらの望むままに」
「要らぬよ。お主には借りがあるからな」
耳千里は旧知の仲である西国お庭番の頭領“斑(まだら)の権佐”に自分の知る限りのことを教えた。
四魂の玉の由来、奈落誕生の経緯(いきさつ)、それに奈落の分身、夢幻の白夜について。
知りたい情報を全て手に入れた権佐は耳千里に礼を云うが早いか、即、西国へと取って返した。
目にも留まらぬ速さで権佐は、走る、走る、ひた走る。
一日を待たずして権佐は天空の城に帰り着いた。
門番は前以(まえも)って言付かっていたのだろう。
すぐさま、権佐を城内に通した。
そのまま、奥にある主の部屋に案内される。
部屋の中では狗姫と筆頭女房の松尾が待ち構えていた。
「ご苦労であったな、権佐。して首尾は?」
「上々にございます、御方さま」
「そうか、では、早速、聞かせてもらおう」
「ハイ、その前に、まず若さま、イエ、殺生丸さまが、あの若衆侍と拘りを持つ切欠になった四魂の玉についてお話せねばなりません」
「四魂の玉? アア、五百年ばかり前に人界に現われたという奇妙な玉のことか」
「その通りにございます。御方さまは、あの玉が人間の巫女と数多の妖怪の魂が混じり合って生じたという事は御存知でしょうか?」
「イヤ、それは初耳だぞ、権佐」
「これは某(それがし)が、ある事情通より聞き出してきた話でございますが。四魂の玉は五百年前、人界が貴族によって支配されていた時代に忽然と出現しました。当時の人界は天変地異が相次ぎ人心(じんしん)著(いちじる)しく乱れ、所謂(いわゆる)乱世でございますな。丁度、戦国と呼ばれる今の時代と良く似ております。そして、乱世には多くの低級妖怪どもが人界に現われます。それは御存知のように人界と妖界を隔てる結界が緩(ゆる)むからにございます。結界の緩みに乗じて人界になだれ込んだ低級妖怪どもは人間を襲って喰らい肥え太り、益々、数を増やし人の世を脅(おびや)かします。されど、人間達とて我ら妖怪に対して全く対抗手段を持たぬ訳ではありません。霊力に優れた僧侶、巫女、武士(もののふ)が妖怪退治に当たりました。その中でも翠子と申す巫女は極めて高い霊力を誇り一度に十体もの妖怪を屠る能力(ちから)を有していたそうです。その霊力に怖れをなした妖怪どもは巫女を葬らんと画策し、巫女に懸想する人間の男に目を付けました。その男の邪心につけ込み男の身体を乗っ取り、男の魂を核に数多の妖怪が融合したのです。そして巫女と融合した妖怪との戦いが、七日七晩、続いたそうです。遂に力尽きた巫女が妖怪に喰われそうになった時、巫女は最後の力を振り絞って妖怪の魂を己が魂の中に取り込み、玉にして体外に排出して絶命。勿論、妖怪も巫女同様、死に絶えました。そして巫女が体外に排出したその玉こそが四魂の玉なのです」
「何とも壮絶な由来を持つ玉だな」
「仰せの通りです。そうした経緯(いきさつ)から四魂の玉は、それを所有する者に強い力を与えます。その為、人間、妖怪を問わず多くの者が先を争って奪い合い所有者は転々と変わりました。最後に四魂の玉を所有していたのが桔梗という人間の巫女でございました。五十年前のことです。四魂の玉を浄化する為に退治屋の首領より預かっていたのです。この巫女に懸想した男がおりました。鬼蜘蛛という野盗にございます。尤も、こ奴が巫女と知り合った時、鬼蜘蛛は大火傷を負い足の骨が砕けて歩くことすら侭(まま)ならない状態でした。ですから巫女が情け心を起こして洞穴に匿(かくま)い世話してやったのでしょう。そこで更に事情をややこしくするのが巫女と当代さまの異母弟、犬夜叉殿が恋仲だったことです」
「あの半妖とか?」
「ハイ、そして、ここからが肝要でございます。一人の女に二人の男、世に言う三角関係という奴でございますな。しかし、鬼蜘蛛は、全身、醜く焼け爛(ただ)れ歩くことすら出来ない身。通常なら諦めるしかないでしょう。しかし、この男の巫女に対する妄執は凄まじかったようです。その執念に妖怪どもが引き寄せられる程に。鬼蜘蛛は身動きさえ出来ない己が身を妖怪どもに差し出すことによって巫女と自由な身体、それに四魂の玉を望んだのでございます」
「それで、そ奴の望みは叶ったのか?」
「叶ったとは申せませんな。鬼蜘蛛の魂を核に数多の妖怪が融合して奈落という半妖が誕生しました。この奈落が画策して、巫女と犬夜叉殿、双方に互いに相手が裏切ったと思わせ殺し合うように仕向けました。巫女は死に犬夜叉殿は神木に封印されました。そして、どうした仕業(しわざ)か、四魂の玉が巫女の死とともに消えています。これが五十年前の出来事にございます。驚くほど奸智に長(た)けた輩でございます。奈落という半妖は」
「したが、権佐、犬夜叉はピンピンしておるではないか」
「封印が解かれたのが、ごく最近なのでございます。不思議なことに犬夜叉殿の封印が解かれるのと同時に四魂の玉も五十年ぶりに出現致しました。しかし、その後、不測の事態により破魔の矢で打ち砕かれ何千何百と知れぬ欠片に分かれました。とはいえ、例え、ひと欠片でも、有する力は大きく妖怪も人も先を争って求める事態となっておりました。そんな中、先程も申し上げました半妖の奈落が散らばった数多の欠片を回収して、ほぼ完全な四魂の玉を所有しております。残る欠片は後ひとつ」
「その奈落とやらは四魂の玉を完成させて何がしたいのだ?」
「さあ、それは某(それがし)には判りかねます。唯、奈落は殺生丸さま、犬夜叉殿と浅からぬ因縁がございます。特に犬夜叉殿とは亡くなった桔梗という巫女を巡って恋敵だったせいで両者の間には激しい怨恨の情が存在すると思われます」
「殺生丸と奈落との関わりは?」
「当代さまの場合は鉄砕牙絡みにございます。殺生丸さまが二百年もの間、探し求めていた鉄砕牙の在処(ありか)、これは犬夜叉殿の右目に隠された黒真珠に入り口がございました。当代さまは、それを突き止め、今は亡き父君の形見を手にされようとしましたが、結界に阻(はば)まれました。あの刀は異母弟の犬夜叉殿に譲られた物にございますから。されど、それに納得されなかった殺生丸さまは、その場で変化され犬夜叉殿と闘われたのです。その際、犬夜叉殿に左腕を斬り落とされました。当代さまが隻腕なのは、そのせいです」
「殺生丸め、益体(やくたい)もない兄弟喧嘩で左腕を失ったか」

『愚息行状観察日記⑪=御母堂さま=』に続く
 

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