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『愚息行状観察日記③=御母堂さま=』



※上の画像は『妖ノ恋』さまの使用許可を頂いてます。


無事、冥界から戻ってきた殺生丸。
必死に無表情を保とうとしているようだが、どうにも抑え切れないのだろう。
沸々(ふつふつ)と身の内から沸き立つ怒りの炎が見えるようだ。
小娘が息絶えたのが、余程、堪(こた)えているらしい。
今にもコチラに喰ってかかりそうな気配だな。
フッ・・・青いな、殺生丸。
二百年前の小童(こわっぱ)の頃に比べれば確かに形(なり)は成長したと云えよう。
だがな、妾(わらわ)の目から見れば、そなた如き、まだまだ経験も知識も足りぬ若輩者(じゃくはいもの)ぞ。
そなたには、まだ親として教え諭(さと)さねばならぬ事が多々ある。
まず、最初に教えてやろう。
天生牙で死人(しびと)を呼び戻せるのは一度きりなのだ。
そう告げた途端、殺生丸の無表情な面(おもて)に無念と落胆の色が生じた。
うすうす予期してはいたのだろう。
だが、改めて事実と知らされ、愕然たる思い消し難(がた)しといった処か。
殺生丸、そなた、天生牙さえ有れば死など恐るるに足りぬと心得違いをしていたようだな。
愚かな、我ら妖怪には人間が持ち得ぬ力があるが神ではない。
殺生丸、そなたは知らねばならん。
命の重さ、儚(はかな)さを。
限りある命だからこそ愛しいのだ。
愛しいからこそ失うのが悲しい、恐ろしい。
そこに慈悲が生じるのだ。
天生牙は癒しの刀。
その刀を持つ者は、たとえ武器として振るう時も慈悲の心をもって敵を葬らねばならん。
それが百の命を救い敵を冥道に送る天生牙を持つ者の資格なのだ。
亡き夫、闘牙の言葉を、一字一句、違(たが)えることなく殺生丸に伝える。
流石に父の言葉は身に沁みたのであろう。
あの頑固一徹な殺生丸が神妙に聞き入っておった。
ンッ!?脇を見やれば小妖怪が泣きじゃくっておるではないか。
妖怪が泣くとは珍しいのう。
我らは感情に左右される人間と違い、そうそう簡単には泣かぬもの。
そんなにも悲しいのかと問うてみれば、何と、小妖怪め、主(あるじ)である殺生丸の代わりに泣いておるとな。
目の前の息子は相変わらず無表情のままだが、よくよく見れば、そこに深い悲しみの色が透けて見える。
仕方あるまい、奥の手を使うか。

「・・・二度目はないと思え」

そう、次こそは最後だぞ、殺生丸、心せよ。
冥道石も天生牙と同じだ。
二度は・・・使えぬ。
首飾りを外し息絶えた小娘の首に掛けてやる。
小娘の胸に置いた冥道石から溢れ出す目が眩(くら)むような目映(まばゆ)い光。
この光こそ冥界に置き去られていた小娘の命その物なのだ。
フム・・・にしても、この光、尋常の輝きではないな。
やはり、この小娘、只の人間とは、到底、思えぬ。
その時、極々、微(かす)かに何かが、妾(わらわ)の意識に引っ掛かった。
深い深い潜在意識の底に横たわる小箱の中に封印されてきた真実。
数年後に気が付くことになるが、あの時は、さして気にもしなかった。
アァ、これは、いずれ、また別の機会にでも話すことになろう。
今は小娘蘇生の話に戻ろう。
光が消えるとともに小娘に命が宿る。
よし、戻ってきたな。
トクン・・・妾(わらわ)の聡(さと)い妖耳に聞こえてきた小娘の心の臓の鼓動。
無論、殺生丸の耳にも聞こえておろう。
小娘がつぶらな瞳をゆっくりと開けた。
その様子を瞬(まばた)きもせずジッと凝視する殺生丸。
冥界で息が止まった小娘。
まだ上手く呼吸しづらいのだろう。
ゴホゴホと小娘が咳き込み涙ぐめば・・・。
何と殺生丸の奴、冥界の中と同じように手を差し伸べておるではないか。
あれ程に矜持の高い奴が膝を折り小娘の頬をソッと優しく撫でておる。
「もう・・・大丈夫だ」などと声まで掛けて。
小娘を蘇生させた妾(わらわ)には目もくれん。
殊勝にも愚息の代わりに小妖怪が妾(わらわ)に礼を述べよった。
フム、この態度は従者の鑑(かがみ)ともいうべきだな。
小妖怪が云うところによると殺生丸は甚(いた)く喜んでおるらしい。
それにしても、人間の小娘一匹に、この騒ぎ・・・。
ハァ~~呆(あき)れたものよ。
変なところが父親に似てしまったな。
もう用は済んだとばかりにサッサと我が城から立ち去ろうとする愚息とその一行。
小娘は殺生丸のすぐ後を、小僧は、その数歩後に付き従う。
小妖怪が主(あるじ)の代わりに妾(わらわ)に頭を下げ退去の挨拶を述べる。
それにしても気になるな、あの人間の小僧。
普通の人間ならば冥界の中で生きていられるはずがない。
にも拘らず生きているということは・・・。
不思議に思い小僧に問うてみたところ、四魂の欠片で命を繋いでおるとな。
そうか、やはり、おまえも尋常な生の有りようではないのか。
ならば、小僧も小娘と同じ、天生牙では救われぬ命。
その事をしかと忘れぬよう小僧に告げおいた。
 

『愚息行状観察日記④』に続く

 

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