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『愚息行状観察日記(33)=御母堂さま=』



※上の画像は『妖ノ恋』さまの使用許可を頂いてます。


「おやっ、小娘と巫女は何処へ行くのか?と思っていたら・・・。あれは法師の家ではないか」
 

「御方さま、そう云えば法師の妻である女退治屋が臨月でございました。多分、産気づいたのでございましょう」

「そうか、だから、使いの者が来たのだな」
 

真新しい茅葺(かやぶ)きの屋根、木の香がしそうな新築の家の中、女退治屋が大きな腹を抱えて蹲(うずくま)っている。
必死に痛みに耐える女の顔が見える。
間違いなく陣痛が来ている。
瓜二つの童女、双子が母の横に心配そうに張り付いていた。
家の中に入った小娘と巫女は、すぐさまテキパキとお産の準備を始めた。
巫女は女退治屋を床に寝かせ、小娘は双子を落ち着かせてから竈(かまど)で湯を沸かし始めた。
その後、一時(いっとき=約二時間)ほどして女退治屋は子供を産み落とした。
赤子は元気な男の子だった。
巫女が慎重に生まれたばかりの赤子を抱え産湯(うぶゆ)に浸(つ)ける。
すると、まるで、その時を計っていたかのように法師が帰ってきた。
法師の横には半妖の姿も見える。
半妖は大の大人でさえ往生する米俵を軽々と三俵も抱えていた。
相変わらずの馬鹿力だ。
また法師と組んで何処ぞで荒稼ぎをしてきたようだ。
あの法師は口八丁手八丁で相当な甲斐性がある。
この近在で妖怪退治を請け負って家族を養っているらしい。
今回の報酬は米俵三俵か、あれだけ有れば、親子五人、当分、喰うには困らないだろう。
小娘と巫女が後産の始末をして帰っていく。
行きも帰りも因縁の、あの“骨喰いの井戸”の横を通って。
狗姫(いぬき)が井戸を見て何か思いついたのだろう。
松尾に話しかけてきた。
 

「それにしても、松尾よ、あの奇妙な衣装の巫女は、どうなったのであろうな」
 

「奇妙な衣装の巫女? ああ、犬夜叉殿のお連れにございますな。そうでございますね、一体、何処へ行方(ゆくえ)を晦(くら)ましたのやら。この三年、全く、姿を見かけません」
 

「奈落の死とともに出現した冥道に、あの巫女は呑み込まれ姿を消した。すぐさま半妖が後を追ったが、結局、戻ってきたのは半妖だけだった。あの時、妾(わらわ)はズッと冥道石を覗いておったからな。首尾よく巫女が四魂の玉を消滅させたまでは知っておる。だが、その直後、半妖と巫女は、何処(いずこ)へともなく姿を消した。両名の間に何が起こり、何故、半妖だけが戻ってきたのか、妾(わらわ)には、その理由が、どうしても判らなんだ」
 

「確かに御方さまの仰る通り、戻ってきたのは犬夜叉殿のみ、巫女は戻ってきませんでした。当事者ではないので、どのような事情があって、そうなったのかは、皆目、見当もつきませんが。それにしても、今、思い返してみても、あの巫女の衣装の奇天烈(きてれつ)なこと。私も、結構、長く生きておりますが、あんな奇妙な装束を目にしたのは初めてでございました。そもそも男ならイザ知らず、女子(おなご)が、あのように脚を諸(もろ)だしにするなど許されることではございません。実に破廉恥(はれんち)極まりない格好にございます。尤(もっと)も、巫女が、異界から来たことと、あまりに堂々とした態度だったので、そういうものなのだろうと自分に言い聞かせておりましたが。あの井戸は異界を繋ぐ通路の役割を果たしていたと聞いております。巫女が、異界から、この世界に来たのは四魂の玉を滅するのが目的、それを消滅させた以上、もう役目を終えた訳でございます。ですから、元の世界に帰り、コチラに戻ってこなかったのでは?」
 

「フム、やはり、そなたも、そう考えるか、松尾」
 

「はい」
 

「ならば、巫女は、もう戻ってこないと考えるべきだろうか?」
 

「巫女の役目が、それだけでしたら・・・。ですが、四魂の玉を滅する事だけが巫女殿の役割だったのでしょうか。まだ、何か、他の役割が残っているのではないかと思えてなりません。というよりも、そう信じたいのでございます」
 

「信じたい?」
 

「はい、若さまが、りん様と運命の出逢いをしたように。犬夜叉殿と巫女の邂逅(かいこう)も目に見えぬ因果の糸に導かれていたと思えてならないのでございます。正しく出逢うべくして出逢った宿命の恋人。それに両名の間には四魂の玉との因縁も加味しております。悲運の中で散った前世の巫女の悲願が今生(こんじょう)でこそ叶えられるのではないかと」
 

「だが、巫女は戻ってこなかったぞ」
 

「試されているのではないでしょうか、天に。両者の覚悟が、どれほどのものか」

「では、二人の意思が天に通じた時、巫女は帰ってくると」
 

「そうであって欲しいと私は願っております」

「そうだな、そうなるといいな」
 

どうやら、半妖と巫女の願いは天に聞き届けられたらしい。
ひと月後、よく晴れた麗(うら)らかな春の日に巫女はヒョッコリ戻ってきた。
小娘が、巫女の帰還を、大層、喜んでいた。
勿論、老巫女も、法師と女退治屋も、それから子狐妖怪も。
だが、とりわけ誰よりも半妖が喜んでいただろう。
己が魂の半身を取り戻したのだから。



※『愚息行状観察日記(34)=御母堂さま=』に続く



 

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