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『愚息行状観察日記(21)=御母堂さま=』



 ※上の画像は『妖ノ恋』さまの使用許可を頂いてます。


“遠見の鏡”の像がぶれている。
殺生丸の移動速度が速すぎて捉えきれないのである。

「フム、今の殺生丸は尻に火がついたように先を急いでおるからな。彼(か)の悪霊に一杯喰わされて、相当、鶏冠(とさか)に来ておるだろうし」

「・・・となると。御方さま、若さまは、あの人里に向かっておられるのでございますか?」

「いや、違うな、松尾。あの若衆侍は時間を稼ぐ為に殺生丸を騙してきた。わざわざ悪霊の肉片まで使ってな。つまり、我ら犬妖族の最大の特性、鋭敏なる嗅覚を逆手に取ったのだ。小僧の四魂の欠片を、あの悪霊めが手に入れられるようにな。それを止(や)めたという事は・・・多分、今、現在、彼の悪霊は何らかの方法で小僧を手中にしたと考えて良かろう」

狗姫(いぬき)は“遠見の鏡”に向かい命じた。

「“遠見の鏡”よ、小僧を映し出せ。以前、この城に殺生丸に伴われてやって来た、あの人間の小僧だ」

暫時(ざんじ)、鏡が曇ったが、直ぐさま元に戻った。
鏡の表面には狗姫が命じた通りに、人間の少年、琥珀が映っている。
それも尋常な状況とは、到底、思えない場面が。
少年は異様な太さの触手に片足を取られ宙吊りになっている。
周囲は切り立つ岩場、眼下には千尋の谷が広がっている。

「やはり、捕われておったか」

「御方さま、あの不気味な触手は奈落なる者の・・・」

「その通りだ、松尾。小僧の周囲には半妖達もおるようだぞ」

良く見れば鏡の縁に小さく犬夜叉や仲間が映っている。
邪悪な本性を剥(む)きだしにした巨大な顔面の曲霊(まがつひ)が空中に浮かんでいる。
悪霊が勝ち誇ったように嘲笑を浮かべている。
完全に小僧を捕らえたと悦に入っているのだろう。
万事休す!と思ったその時、悪霊の左眼が斬られた。
“遠見の鏡”の中に殺生丸が出現するや否や天生牙で曲霊を斬ったのだ。

「よし、間に合ったな、殺生丸」

「流石は若さま、実にお速い。もう、現場にご到着遊ばすとは」

狗姫と松尾が交互に言葉を掛ける。
すると、悪霊を援護するかのように極太の触手が何本も殺生丸に襲いかかってきた。
奈落の攻撃だ。
殺生丸は悠然と構えている。
徐(おもむろ)に天生牙を左手に持ち替えたかと思うと、右手に爆砕牙を握った。
殺生丸が爆砕牙を軽く一振りする。
それだけで、あっけなく奈落の触手は爆砕牙に破壊され粉々に砕け散っていく。
勿論、琥珀を捕らえていた触手も爆砕牙の破壊効果が波及して消滅した。
そのまま、空中に投げ出された琥珀を雲母(きらら)に乗った珊瑚が救出した。
爆砕牙を鞘に納め、改めて曲霊と対峙する殺生丸。

「何やら悪霊とゴチャゴチャと喋っておるようだな」

「出来れば側で聞いてみとうございますな、御方さま」

「フン、どうせ殺生丸のことだ。負け惜しみでも言っておるのであろう」

狗姫と松尾が、そうこう云っている内に、悪霊は、殺生丸が無造作に振るった天生牙に斬られアッサリ虚空に消え去った。
これで、ひとまず片がついたと思いきや、どうも様子が可笑しい。
女退治屋が殺生丸に近付き必死に何か訴えている。
すると、殺生丸が顔色を変えた。
すぐさま踵(きびす)を返し、再び最速で何処(いずこ)かへ飛び去っていく。

「何か起きたようだぞ、松尾」

「左様にございますな、御方さま。若様が、ああも急がれるとは」

「殺生丸が血相変えて急ぐようなこと・・・。ムッ、小娘に関することか!」

「りん様が!?」

狗姫は急ぎ“遠見の鏡”に向かい命じた。

「“遠見の鏡”よ、今一度、命じる。小妖怪を映せ。小僧と同じく殺生丸に伴われておった、あの緑色の矮小(わいしょう)な小者だ」

「御方さま、小妖怪とは、先日、聞かせて頂いた若さまの従者にございますな」

「その通りだ、松尾。お世辞にも見栄えが良いとは云えん奴だったがな、あ奴の主思いには見上げた物があった。殺生丸が小娘を人里に置いてくるに当たって、あの小妖怪が守役の任を命じられただろう事は必定。小娘は小妖怪と共におる筈だ。さもなければ・・・」

“遠見の鏡”が先程と同じように曇る。
曇りが消えると、小妖怪が映し出された。
見るからにワタワタと慌てている。
やはり様子が可笑しい。
随分、緑色の顔が蒼ざめておるな。
予想した通りに好くない事が起きてしまったようだ。
小妖怪が年老いた巫女と法師の形(なり)をした若い男に向かい何か喚(わめ)き立てている。
小娘は見当たらない。
という事は・・・考えられるのは拉致(らち)だな。
悪知恵に長(た)けた、あの悪霊のことだ。
殺生丸の最大の弱点となる、あの小娘を攫(さら)ったか。
ホッ、殺生丸が小妖怪の背後に現われおったわ。
だが、小娘が居ないことを確かめるなり、すぐさま飛び去っていった。

「やはり、小娘は攫(さら)われたようだぞ、松尾」

「何と!では、若さまは、りん様を取り戻しに行かれたのでございますか?」

「そうだろうな。あの悪霊と奈落とやらは結託しておるようだから。大方、殺生丸の刀、爆砕牙と天生牙を封じる為の措置であろう。小娘を人質に取られては、殺生丸は手も足も出せんだろうからな」


※『愚息行状観察日記(22)=御母堂さま=』に続く
 

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