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『早蕨(さわらび)③』

りんが楓に預けられて、かれこれ三年になる。
殺生丸が村を訪れる度、当然、邪見も供をしてくる。
訪問の都度、持参される土産は多岐にわたり老女と童女の生活を彩ってきた。
庵の中に置かれている物は土産のほんの一部でしかない。
余りにも量が多い為、残りは庵の後ろに小屋を建て収蔵してあるのだ。
贅沢な着物や帯、飾り紐、櫛、見事な家具調度が、りんに対する殺生丸の愛情を物語る。

「ン~~~そうじゃな。殺生丸さまが、いきなり、りんを楓に預けると聞いた時、わしゃ吃驚仰天したぞ」

元々、口が軽い性分の邪見である。
一旦、話をふられれば聞かれずともペラペラ喋り出す。

「あの時は、もう、犬夜叉が骨喰いの井戸から戻ってきてましたね、楓さま」

「アア、そうだったな、法師殿。かごめを連れずにな」

「そうじゃ、何故、かごめは戻ってこなかったんじゃ? 冥道に呑み込まれてしまったんか?」

詳しい経緯(いきさつ)を知らない邪見が、ここぞとばかりに両人に訊ねてきた。
かごめの失踪、それは邪見ならずとも周囲の誰もが抱いていた疑問であった。
しかし、当の犬夜叉が、何が有ったのか話すのを頑として拒み続けてきた。
そうする内に“かごめの消息”を尋ねようとする者は誰もいなくなった。
結果、『謎』のまま放置されてきたのであった。
つい先日、犬夜叉が楓に重い口を開くまでは。
好奇心の強い邪見の疑問に弥勒が応じた。

「実は、邪見殿、その事について、先日、やっと、犬夜叉が冥道の中で何が有ったのか楓さまに話してくれたのですよ」

「本当かっ、それで、かごめは、どうなったんじゃ?」

性急に答えを求める邪見に対し楓が慎重に考えを纏めながら話し出した。

「それがな、かごめは自分の世界に戻ったらしいのだ。邪見、お主も聞いていよう。かごめが骨喰いの井戸を通って別の世界から来たことは」

「まっ、まあな、殺生丸さまのお供をして長い間アチコチ見て回ったが、あんな奇妙奇天烈な格好をした者は一人も居らんかったからな」

「奈落の最後の時、側に四魂の玉が有っただろう。かごめの破魔の矢に串刺しにされて。奈落が滅した直後に冥道が開き、かごめを呑み込んだ。そして四魂の玉も消えた。イヤ、それだけではなかったな。骨喰いの井戸まで同時に消えた。犬夜叉は黒い鉄砕牙を振るい冥道を出現させ、自ら、冥道の中に飛び込んでいった。かごめを追う為にな」

ズズ~ッ、楓の説明に白湯を啜(すす)りながら邪見が口を挟む。

「そこまでは知っておる。わしも、あの時、その場に居ったからな」

「そうだったな。先を続けよう。犬夜叉が追っていった冥道は四魂の玉に通じていた。かごめは四魂の玉の中に囚われていたのだ。奈落が最後に四魂の玉に掛けた願い、それは、かごめを四魂の玉の中に取り込む事だったのだ。すると玉の中で死んだ奈落も甦る。そして、それまで玉の中で戦い続けてきた翠子と妖怪どもと同じように、かごめと奈落も戦いを繰り返すという仕掛けだ。永遠にな」

「なっ、何とっ!それにチョッと待て、楓。今の話に出て来た翠子とやらは何者なのだ。わしは聞いたことが無いぞ」

驚愕し同時に質問する邪見に、今度は弥勒が説明を始めた。

「そうでした、邪見殿は御存知なかったのですね。では、私からご説明しましょう。翠子については私の方が詳しいですから。それには、まず四魂の玉が、どのようにして、この世に現われたのかをお話しなくては。今を溯(さはのぼ)る事、数百年前、貴族が、この国を支配していた時代です。当時は天変地異が頻発し世は乱れていました。所謂(いわゆる)、乱世です。戦や飢饉のせいで大勢の人が死にました。そして、そういう世の中には妖怪が出現しやすい。当然、そうした妖怪を退治しようとする者が出てきます。胆力の優った武将や法力のある僧侶など。中でも巫女の翠子の能力はずば抜けていました。何しろ一度に十匹もの妖怪を滅する霊力を持っていたのですから。その霊力を怖れる妖怪どもは翠子を亡き者にせんと狙い始めたのです。しかし、単に襲っても浄化されてしまう。ですから妖怪どもは翠子の霊力に対抗する為の手段を模索しました。その結果、見つけ出したのが邪心を持った人間を“繋ぎ”に使い多くの妖怪どもが一つに固まる方法です。当時、翠子を秘(ひそ)かに慕っていた男がいました。その男の心の隙につけ込んで妖怪どもは取り憑いたのです。そして融合し巨大化した妖怪どもと翠子との戦いは七日七晩も続きました。遂に力尽きた翠子は身体を喰われ魂を吸い取られそうになりました。その時、翠子は最後の力を振り絞って妖怪の魂を奪い取って自分の魂に取り込み体の外に弾き出したのです。妖怪も翠子も死にました。しかし弾き出された魂の塊りは残りました。それが四魂の玉なのです」

「フ~~ムッ、翠子とやらが四魂の玉の生みの親だという事は判った。じゃが、何故、かごめと奈落が四魂の玉の中で闘い続けねばならんのだ?」

邪見の疑問に今度は楓が答える。

「かごめが、五十年前に亡くなったわしの姉、桔梗お姉さまの生まれ変わりだからだよ、邪見。お姉さまも翠子のように並外れた霊力の持ち主だったのだ。それが故に四魂の玉の浄化を託されていた。当然、翠子の時と同じように四魂の玉を狙う妖怪どもは、お姉さまを殺したがっていた。あの頃、桔梗お姉さまが秘かに洞穴に匿(かくま)っていた野盗がおった。本来ならば、そんな危険な男を匿うはずもなかったが、奴は全身に火傷を負い手足の骨が砕け歩くことすら出来なかったのだ。その男に妖怪どもは目を付けた。何故なら、そ奴、鬼蜘蛛は桔梗お姉さまに、おぞましい程、激しい妄執を抱いていたからな。そして、鬼蜘蛛の邪心を繋ぎに妖怪どもが一つとなって生まれたのが“奈落”なのだ」

「ゲエッ!まるで四魂の玉が出現した時とソックリ同じではないか」

奈落誕生の経緯(いきさつ)を知り驚く邪見に、弥勒は、更に、もう一つの事実を付け加える。

「そして、桔梗さまと犬夜叉は恋仲だったのですよ、邪見殿」

「さっ、三角関係か?!」

「とは云っても桔梗さまと犬夜叉は両思いでしたから、この場合、鬼蜘蛛は邪魔者以外の何者でもありませんでした。しかし、結果的に嫉妬の念が奈落をして桔梗さまと犬夜叉を引き裂く姦計を謀(はか)らせたのです。実(げ)に怖ろしきは男の嫉妬というべきですな」

何かが邪見の脳裏に引っかかった。
五十年前、風の噂に聞いた犬夜叉の封印、それは、もしかして・・・・

「チョッ、チョッと待て、法師。では、五十年前、犬夜叉が封印されたのは桔梗とやらの仕業なのか。そして、そうなるように仕組んだのが奈落だと」

「ハイ、ご明察です、邪見殿」

「ムムゥ~~ッ、だからなのか、奈落と犬夜叉が、ああも激しく啀(いが)み合っていたのは。恋敵だったのだな。そして、かごめは桔梗とやらの生まれ変わり。フム、成る程、奈落が桔梗に、それ程、激しく執着していたのなら、かごめを、犬夜叉から奪おうと考えるのも当然じゃろうな」


※『早蕨(さわらび)④』に続く

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