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『消失』

パリパリ・・・パリッ・・・パリパリッ・・・
破魔の矢に射抜かれた四魂の玉が放電する微かな音と光。
見事なまでの串刺し状態で四魂の玉は骨喰いの井戸の上に浮かんでいる。
同じように涸(か)れ井戸の上に浮かんでいるのは・・・奈落。
四魂の玉に完全に心を喰わせた時の怖ろしげな妖怪の顔ではない。
犬夜叉達が記憶している元々の顔。
そう、一国の城主の若殿、人見蔭刀(ひとみかげわき)の顔に戻っている。
眉目秀麗な白い顔。
だが、身体は無い。
頭部と僅かに繋がった脊椎のみ。
井戸の周囲は、犬夜叉とかごめ、弥勒に珊瑚、七宝、楓、そして、殺生丸、りん、邪見、琥珀といった顔触れが固めている。
ここまで追い詰められながら、奈落の表情は何処か自嘲気味で、寧(むし)ろ不気味な余裕さえ感じさせる。
どんなに追い込まれようと必ず逃げ道を確保してきた奈落である。
その驚くべき計算高さと用意周到な手口。
油断も隙もない相手である。
今でさえ、どんな策が残されているか判ったものではない。
警戒を緩める訳にはいかない。
徐(おもむろ)に奈落が口を開いた。

「フッ・・・儂(わし)は四魂の玉に願を掛けた。夢幻の白夜が、かごめを斬った時にな。その願いは儂(わし)の死と同時に叶うはずだ」

そう言い残すと奈落は跡形もなく消滅した。
バサッ・・・・・
直後、かごめの背後に真円の冥道が出現した。
ゴッ・・・・・
驚く間もなく、かごめは冥道に吸い込まれてしまった。
突然の事態に慌てて、犬夜叉が、かごめを追いかけようとしたが間に合わない。
現われた時と同じように冥道は忽然と消えてしまった。
茫然とする犬夜叉と周囲の面々。
それだけではない。
更に驚愕の事実が判明する。
骨喰いの井戸が消滅していたのだ。
そんな中、奈落が滅した事を確かめようと、弥勒が右手の封印を解いた。
手甲を取り払えば、そこに在ったのは極当たり前の右手。
中央に大きく穿(うが)たれていた空洞の穴が無い。
弥勒の風穴は消滅していた。
奈落は確かに滅したのだ。
だが、四魂の玉は何処に?
緊迫する空気の中、犬夜叉が鉄砕牙を抜き放ち刀身を黒く変化させた。
冥道残月破を撃つ積もりだ。

「冥道残月破!」

ビュッ!
剣圧が走る。
刃のような形の黒い冥道が出現する。
その中に犬夜叉が飛び込んだ。
かごめの行方を追うのだろう。
犬夜叉を呑み込んで刃型の冥道も虚空に消え失せた。
それまで事態を静観していた殺生丸が、不意に、りんを右手で抱き上げ邪見に命じた。

「・・・行くぞ、邪見」

見れば、主は、りんを抱き上げたまま空へ飛ぼうとしているではないか。

「ハッ、ハイッ!」

邪見は、慌てて殺生丸の毛皮にしがみ付いた。

「殺生丸っ!?」

「殺生丸!」

「殺生丸さまっ!」

呼びかける珊瑚と弥勒、琥珀を無視したまま、大妖は空に消えた。   了

※連作『静観』に続く

 

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