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小説第51作目『降り積もる思い(31)=かごめと桔梗=』

獣郎丸と影郎丸を倒せたのは良い。
だがな、その後が悪かった。
かごめの奴、俺を『おすわり』で大人しくさせといて鋼牙を逃がしやがったんだ。
俺は、あん畜生と決着をつける気だったのに。
ペラペラ喋りかけて痩せ狼なんぞの機嫌を取ってたかごめ。
「そんな野郎に気安く話しかけんじゃねえ!」と喚きたかったぜ。
おまけに鋼牙を追いかけようとしたら、又も、かごめに『おすわり』をお見舞いされてよ。
いくら俺が怪我してようが、あんな野郎に負けるはずがねえのに。
・・・・面白くなかったぜ。
思いっきり、かごめに悪態(あくたい)ついてやったら、今度は臍(へそ)を曲げられちまってな。
かごめの奴、怪我人の俺を放っぽってサッサとアッチの世界に戻っちまったんだ。
あん時は、弥勒も七宝も珊瑚も揃って俺にグチグチと文句を垂(た)れやがって。
早く、かごめを迎えに行けってよ。
畜生、みんな、俺が悪いのかよ!?
骨喰いの井戸を覗きこんで、俺は、かごめが戻ってくるのをジッと待ってた。
ああやってると、ついつい、かごめのことばっかり考えちまうんだよな。
かごめ・・・今頃、アッチの世界で何してんだろう・・・とか。
そうしたら、不意に妖怪の臭いが漂ってきたんだ。
と同時に鳥の羽ばたきみてえな物音が!
ゴォ~~~~バサバサ・・・
木立を揺らして現われたのは馬鹿デカくて赤黒い死魂虫(しにだまちゅう)だった。
あんなん見たことねえぞ。
本来、死魂虫ってのは色が透き通るように白い。
第一、あんなにデッカクないしな。
巨大な死魂虫は低く地を這うように飛んでた。
その時、森の中から桔梗が数匹の死魂虫に守られて俺の前に現われたんだ。
あのデカブツの狙いは桔梗だったんだ。
フラフラと体をよろけさせ俺を見るなり倒れこんだ桔梗。
助け起した桔梗に問い質してみれば、あの巨大な死魂虫は奈落が差し向けたっていうじゃねえか。
邪魔な桔梗を始末しようってんだろうが、そうはいかねえ。
ひとまず、あの場から桔梗を連れて逃げようとしたんだが・・・。
桔梗が気を失っちまった。
そうなりゃ、もう後は立ち向かうしかねえ。
鉄砕牙を抜き放ってデカブツをたたっ切ってやったんだ。
貯め込んだ死魂(しにだま)が奴の体内から跳び出してきた。
その死魂は桔梗の死魂虫が集めてた。
そうこうする内に桔梗が気を取り戻した。
そして何を思ったのか、俺に、あの場所へ連れてってくれって頼んだんだ。
五十年前、桔梗が俺を封印した・・・あの因縁の場所へ。
そこで桔梗が俺に教えてくれた衝撃の事実。
五十年前、突然、俺達を襲った悲劇の真相。
俺は、それまで奈落が桔梗と俺を憎みあわせたのは四魂の玉を汚すためだと思ってた。
だが、桔梗は、俺が考えもしなかった事実を語ってくれたんだ。
全ては野盗、鬼蜘蛛のすさまじい嫉妬が引き起こしたことなのだと。
桔梗を自分の女にしたがっていた鬼蜘蛛。
その鬼蜘蛛の心を核に数多の妖怪が融合して生まれた奈落。
奈落の中に残っていた鬼蜘蛛の心が俺達を憎み合わせ引き裂いたのだと。
そして、今回、奈落が桔梗を巨大な死魂虫に襲わせた理由も。
奈落の中に今も残っている桔梗を恋い慕う鬼蜘蛛の想い。
それを打ち消すために奈落は桔梗を亡き者にしようとした。
ひとりで奈落を滅ぼそうとしていた桔梗。
あの野郎が桔梗に惚れてる、そう考えただけで虫唾(むしず)が走りそうだったぜ。
だから、思わず桔梗を抱きしめて言っちまったんだ。
「奈落からおまえを守れるのは俺しかいねえ!」って。
あの時は桔梗のことしか考えてなかった。
だから、知らなかったんだ。
かごめが、側で、俺と桔梗を見てたなんて。
言い訳はしなかった。
そのままアッチの世界に戻ってしまったかごめ。
桔梗を選んだ以上、もう、かごめに会っちゃいけねえって俺は思ってた。
でも・・・それでも会いたくて。
顔を見たくて。
そしたら、かごめが戻ってきてくれたんだ。
かごめは一言も俺を責めなかった。
一杯、言いたいことがあっただろうに。
そして、こう言ってくれたんだ。
「一緒にいていい?」って。
俺が言いたくても言えなかった言葉を先に言ってくれたんだ。
いつも、俺は、かごめに助けられてたんだな。
ア~~~思い出すと凹む一方だぜ。
戻ってこい、かごめ。
今度は、もう、あんな思いさせないから。

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